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「妻じゃないから不倫じゃない」モヤッとした理由で職場復帰

源氏が京を去る直接の原因となった朧月夜は、厳しい監視のもと、自宅謹慎をしていました。自宅で密会中の現場を実の父に見られるという出来事は、世間を賑わす大スキャンダル。今だったらスポーツ紙の一面を飾り、マスコミも殺到するような大騒ぎでしょう。当然、尚侍(女官長)の仕事も自粛しています。

「全部私のせいよ……」朧月夜は自分を責め、暗く泣き沈んで暮らします。現場を押さえて激怒したわりに、この娘が可愛い右大臣は見ていられません。かわいそうになって、太后や朱雀帝に許しを請いました。

その結果、「彼女はそもそも尚侍だ。尚侍は公務員であり、女御や更衣といった妃の立場で起こしたスキャンダルではない。よって、反省したのであれば復帰させてもよい」という結論に。正式な妻じゃないから不倫じゃない、と言われているようでなんかモヤッとしますが、ともあれ朧月夜の復帰が決まりました。

「来世でも愛すると誓う」気弱な男の意外な告白

復帰後、帝は以前にもまして彼女を寵愛し、誹謗中傷もものともせず、側から離しません。もともと源氏との関係は黙認していたものの、いざはっきりと裏切られるとさすがに…と思っていた帝ですが、なんだかんだでやっぱり朧月夜にゾッコンラブ。裏切られようが、弟のことを好きだろうが、やっぱり好きだ!!

お母さんの太后や、おじいちゃんの右大臣の顔色ばかり伺って、なに一つ自分の思い通りにできない帝。彼からすると、朧月夜の自由奔放さ、やりたい放題ぶりは一種のあこがれなのかもしれません。婚前交渉に浮気、その場で考え、その場で動く。朧月夜の行き当たりばったりな行動はどれも、帝が逆立ちしたってできないことばかりです。

一方、赦されてありがたいとは思いつつ、朧月夜は復帰に気が進みませんでした。当たり前ですが、他にいる帝の妃たちはじめ、あちこちからバッシングされて針のむしろ。事あるごとに叩かれます。何より、いつも考えているのは帝のことではなく、源氏のことばかりです。内緒でこっそり手紙のやり取りもしています。

帝も、彼女の胸の内を占めているのが源氏だと知っています。ある日、宮中での音楽会があった時、「彼がいなくて寂しいね。まるで光を失ったようだ。父上(桐壺院)が「源氏と仲良く助け合うように」とおっしゃったのに、結局守れなかった。きっと罰を受けるだろうな」。困ったことに、帝は帝で源氏が大好き。遺言を守れず、弟を助けられなかった罪悪感に苦しみます。

「最近は世の無常が身にしみて、長く生きようとも思わない。もし私が死んでも、須磨に行った人との別れほどは悲しんでくれないんだろうね。残念だよ。よく、恋人たちは「生きている限り」と誓うが、私はそんなものじゃない。来世でも、あなたを愛すると誓うよ」。

帝は「恋ひ死なむ後は何せむ生ける日のためこそ人の見まくほしけれ」恋に死んで何になる、生きてるからこそ、好きな人に逢えるんだろ!という万葉集の歌を引用しています。帝は今生だけでなく、生まれ変わった来世でもこの愛は変わらないと誓います。口説き文句とは言え、ただ気弱なだけかと思いきや、意外に押してくる朱雀帝。なかなか萌えます。

朧月夜はずっと耐えていましたが、このひと言で涙腺崩壊。「ほら、その涙は誰を思って流すんだ。私か、源氏か?」帝はこんな風にちょっと責めたりしながら、朧月夜をいじります。彼女としては、帝が心からそう仰って下さるのがありがたく、申し訳なく、もったいない。まあ、このセリフを聞いて泣かない女がいたらお会いしてみたいですね。

「嫉妬するにはバイタリティがいる」穏やかな三角関係の裏側

「源氏のことは恋しい、でも帝は私を愛して下さる…」。不実だけど魅力的な源氏か、誠実で穏やかな朱雀帝か。モテモテの朧月夜が大いに悩む中、三角関係がいよいよ本格化、といったところです。

一夫多妻の世界では、1人の男性に対して複数の女性が当たり前なので、1:2の構図がなかなか生まれにくいです。そのため、三角関係の話はだいたい”男と女と男”パターン。逆に”女と男と女”パターンは、六条と葵の上のように、力のある女性が突出した時に初めて起こります。

源氏と頭の中将も、源内典や末摘花などを争いましたが、それはあくまでゲーム的なもの。比べて、”朱雀帝→朧月夜→源氏”の三角関係は本気モードです。でも本気とは言え、取っ組み合いのケンカもなければ、痴情のもつれの殺人も起こらない。その背景には「他の誰かを好きになることくらい、あるよね…」という諦めが感じられます。

浮気されたら嫉妬する?しない?嫉妬されると嬉しい?嬉しくない?など、この手の論争は尽きませんが、一つ言えるのは「嫉妬するにはバイタリティがいる」ということ。

自分の愛する人がどこかで他の誰かと…という想像をたくましくし、あれこれ考えて怨恨を募らせるのは、相当疲れることだと思います。生霊になるほど源氏を愛する六条は、ある意味ものすごくパワフルな人なのです。

「誰かと争うよりは穏やかに過ごしたい、そのためには多少不本意でも、長いものに巻かれ、強い人たちに振り回されることもやむを得ない」というのが、朱雀帝のスタンスです。だからといって朧月夜を諦めたりはしません。激しさよりも忍耐こそが彼の武器。3人の間は穏やかですが、妥協のない恋愛模様が描かれています。

千年も変わらない、解決しづらい身内問題の呪縛

帝は続けます。「跡取りになる男の子がないのが残念だ。父上のご遺言通り、皇太子を実の子のように思ってはいるのだが、思い通りにならない事が多くてね…」。

帝は源氏とも、皇太子とも仲良くしたい派ですが、太后や右大臣がそんなことは許しません。「遺言に背いてしまった」とか「源氏がいなくて寂しい」とか、彼のクヨクヨはストレスになり、どんどん溜まっていく一方です。

強情な右大臣ファミリーの血を引いているとは思えない、気弱な帝。祖父や母とはまったく正反対ですが、こんなファミリーも結構いそう。さらに、帝と朧月夜は年上の甥と年下の叔母という関係なので、どっちを向いても血がつながっています。気の毒なほどがんじがらめです。

太后と朧月夜は姉妹ですが、自信家なところ、派手好きなところは似ているものの、性格は異なります。一方はお父さんの望む通り、エリートコースを歩み続けた”優等生のお姉さん”。一方は”言うことを聞かない気まぐれな妹”。帝はこの姉妹の間で振り回されているとも言えます。

祖父と母と叔母、そして亡父と異母弟。帝を悩ます問題はいつも身内のことばかりです。家族の問題がとても難しく、解決しづらいのは、千年後の今の時代も同じですね。

帝の家族の呪縛は解けることなく、後年は娘のことで非常に悩みます。この娘が源氏の老後を真っ黒に塗りつぶす、とんでもない存在になるのですが…。

簡単なあらすじや相関図はこちらのサイトが参考になります。

3分で読む源氏物語 http://genji.choice8989.info/index.html
源氏物語の世界 再編集版 http://www.genji-monogatari.net/

(画像は筆者作成)

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