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こんにちは、マガジンハウスです。いま‟最もチケットが取りづらい舞台”と言われる「マームとジプシー」を旗揚げし、全脚本と演出も務める藤田貴大さん。岸田國士戯曲賞を受賞したのが26歳という若き天才・藤田さんの、初めてのエッセイ集が発売されると聞き、いそいそと原宿まで参りました。本書の女の子にまつわるあれやこれやを…と思いきや、話はいつしか男の子のことに及び…。

舞台を観たananの編集者から、女の子をテーマにしたエッセイの依頼が。

―――本の帯に、又吉直樹さんの推薦コメントがありますね。「最高です」の理由が、「透き通った変態性」…。そうなんです、毛や体液、におい…女性にまつわることすべてにおいて、藤田さんの興味が尽きない! すごいんです。でも、この本の「透き通った変態性」は、なかなか手強くて…PR担当として、どう伝えればいいか、戸惑っています。

藤田 「えー、そこはどうにかして(笑)」

―――フェティッシュってことでいいですか。最初からそういうテーマで、というオーダーがあったんですか?

藤田 「いや、ないです。そもそもの始まりは、anan編集部のMさんから話がきて…」

M 「では説明しましょうか」

―――えっ、いつの間に。ぜひお聞かせください。

M 「2013年の4月に初めてマームの公演を観たんですが、それまでに体験したことがない面白さだったんですね。言葉の選び方、リズムとテンポが特に心に残ったんです。さらにその後『cocoon』って舞台も観て、‟なんで自分と同じ男性なのに、こんなに女子のことがわかるんだろう?書けるんだろう?”と思って。ちょうど編集部内で新連載の企画を募集していたタイミングだったので、藤田さんがananで女の子について書いたら面白いのではなかろうか、ってことでダメ元で稽古場を訪ねたんです」

―――なるほど。

M 「で、無事、ご快諾いただき。妄想と現実の間で女の子のことを体のパーツに寄って書いていくといいのでは、って」

藤田 「で、こう…たらたら自由に書いて」

―――「一回目はこういうテーマで」とか、そういう下打ち合わせもなく?」

藤田 「ないですね」

M 「お任せしました」

―――だからのっけから毛の話ばっかりなんですか。腕の毛とか生え際とか前髪とかで、やっと毛から離れたと思ったら、やっぱりまだ毛の話が続くんですよね(笑)。あの、‟もりのなか”っていうのは、やっぱり毛のことなんですか?

藤田 「毛の話、多いかも…。確かに最初はそうイメージしてたのかもしれない、毛と森を(笑)。いや、そんなことないです(笑)」

―――タイトルもご自身で?

藤田 「そうですね」

―――女子のいろんなところの毛を、かきわけて入っていくような…。

藤田 「(笑) 毛の頻度高いかなあ。…うん、高いかも」

腕毛そのものに惹かれるというよりも、それを剃るに至ったメンタリティを妄想したい。

―――ところで、藤田さんてどんな年齢の女性も、女子とかおんなのこって言うんですね。

藤田 「言ってますね」

―――素晴らしいことですが、その愛すべき女の子の中で、一番好きなパーツは?

藤田 「うーん、なんだろうなあ」

―――一冊書き終えて、結論は出ましたか?

藤田 「結論はねえ、出てないんですけど…でもやっぱり毛は、好きかもしれない。まあ毛に限らず、すごく細かい部分ですね。それは男性が、男性性として女性性に惹かれる部分じゃなくて、もう女子しか知らないこと、自分が男性性だから知ろうとしても知れない部分に、たぶん興味がある。だから結局‟どこ”っていうことではないのかも」

―――では、それこそanan的な雑誌で、「こういうところ磨くと、彼はちゃんと見てるゾ」みたいな、一般的に言われてるのとは違う部分のほうが?

藤田 「そう…だと思います。確かにね、ananも雑誌でいうとそうですよね。女性のための、スキンケアの話とかも色々してますよね」

―――本書を鵜呑みにして、例えば藤田さんのことを好きな女の子が、敢えて身なりをケアしないで腕毛ボーボーでいよう! なんて、そういう誤解も…。

藤田 「極端な話ですね(笑)。でも、ただ身なりを整える整えないとかではないんです。例えば、いつからか、女子なら腕毛は剃るみたいな決断をするんだろうけど、初めて剃るに至ったその時のメンタリティみたいなものって、自分がめっちゃ想像してみても、やっぱりわかんないじゃないですか。そういうところに、すごく興味があります」

―――…あの、子供のころからそういう感じだったんですか。

藤田 「たぶんそうだったと思います」

―――思い出話がいずれも、子供の頃にこういうおんなのこがいたってところからで、すごく細かい部分まで覚えていますよね。

藤田 「子供の頃から、観察はずっとしてる…のかもしれない。うちの母親が自宅で塾をやってたんですけど、僕もその塾に行って、勉強するでもなくいたりして、女子のことずっと観察してましたね」

―――通ってる生徒たちを?

藤田 「そうです」

―――保護者の間で噂になったりしなかったんですか?(笑)「先生の息子が…」って。

藤田 「今思うと、ヤバいですよね(笑)」

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付き合いたいから付き合う、そんな感じで女子とは付き合えない。

―――実際に女の子を好きになるときも、男性性としてというよりは、ふとしたところから惹かれちゃうことが多いんですよね?

藤田 「それはね、また別問題で。ふとしたところというよりも…いろんな角度で見ちゃうから。なんか、すごい大変だなって思ったり」

―――「俺と付き合うと」?

藤田 「いや、僕と付き合う人が大変とかじゃなくて、僕が人を好きになること自体が大変だなって。本にも書きましたけど、鼻水を吸えるかどうか、だから」

―――…そういう話、たまに聞きますよね。こうして書き残される人はあまりいませんが(笑)。

藤田 「だから、僕の中のハードルを自分でどんどん上げていってるんですよ」

―――今、どこまで上がってるんですか。

藤田 「どこまでって(笑)。どのへんまで行けるかわからない。でもそれをちゃんと自分の中でクリアできる相手じゃないと無理なんだと思う。細かいとこですごく考えちゃって、付き合いたいから付き合うとかそういう話じゃ全然なくなっちゃう。そこが過敏なんですよ」

―――付き合いたいから付き合う、じゃない…。

藤田 「そう。付き合いたいから付き合える、そんな大学生的な感じでは付き合えない。もっと妄想の中で、どう自分がクリアしていくかみたいなことをすごく詰めていく感じ」

―――実際に女の子と付き合ってる最中も、そういうことを考えているんですか?

藤田 「…考えていると思う」

―――嫌がられたりはしませんか。そもそも口に出して言わない?

藤田 「言わない。そうだ、だから、言わないことをこのエッセイでは書いてるんです。言えないことも」

―――うーん、でも実際に、自分が付き合ってる男がこんなこと考えてたらちょっと…。

藤田 「考えてると思う。でも女子も考えてると思うし、それで成り立ってるんじゃないですかね」

女子に比べて男子に厳しすぎるのは、男子のほうが好きだからなのかもしれない。

―――でも藤田さんって、結局どんな女の子もあり、になっている…。

藤田 「確かにね」

―――ご自身でも書いてるように、直前で否定してたこと…カラコンとかも、結局「かわいい」って。「むしろいい!」って(笑)

藤田 「そうなんです、自分でも変だなと思うところで。だけどそれは、特定の女性と付き合うこと以前に、やっぱり女優と一緒に仕事してるっていう意識がすごく強くて。女優たちを、どの部分で許容していくかってことをずっと考えてないとできない職業なんですよ。女優を、容姿がいいってことだけじゃなくて、じゃあこの女優のこの部分はどうなの?っていう、その精度を上げていく作業。一方で男優は、どうでもいいと思ってる」

―――どうでもいいって(笑)。本書でも、割とひたすら、男はどうでもいいって書かれてますけど、男優からクレームついたりしないんですか。

藤田 「陰口は言われてると思う(笑)。『人間扱いされてない』って」

―――お芝居の中でもやっぱり人間扱いされてないんですか?

藤田 「そうですね、なんか物を運んでますね。でも力はなきゃダメだし、美しく動くことは求められる。自分の作品にいることを許されている男子がそもそも本当に少ないので、今のメンバーは貴重な存在です。」

―――男の人にはこういう見方は全然しないんですよね。毛とかパーツにフィーチャーしたりとかは。

藤田 「うん、ない。でも、この本にも書いたように、最近、自分が女子よりも男子にこんなに厳しいってことは、男子のほうが気になることが多いのかもしれないと思って」

―――好き過ぎちゃってるとか。

藤田 「好きなのかもしれない、男子のほうが」

―――新たな門が開きましたね。次は『おとこのこは』…

藤田 「もりのなか(笑)」

―――あんまり読んでもらえなそうな気も(笑)。

M 「担当編集も替わると思います」

女の子をちゃんと見ないといけないというのは、母親から受けた女性性の影響。

―――この本、読み始めはちょっとドギマギするんですけど、すべての女の子に対して愛があって、結局オールOKってなってるのが、女の子は救われると思うんです。割と、お母さまが話に出てきますよね。

藤田 「まあ、母ですね。影響…ありますね、かなり。まず、女の子に対しての言動とかにすごく厳しい人でした。あと、母親というよりは母親の“女性性”の影響があると思います。かなり怒ったりする人だったのですが、機嫌が悪い時期は『たぶん、ああ、これは生理前なんだろうな』みたいなことを考えたりしてました。」

―――そんな頃から(笑)。

藤田 「母が常に家族に対して、今の自分の状況や精神状態が分かって欲しいというムードだったから、すごくそこは気を遣ってたと思う、弟とかも。たぶん母は、女性に対しての嫌な言動や、女性が虐げられるような事が、世の中で一番、悪だと思ってて。だから、小さい頃から、その教育が徹底されていました」

―――いうなればその時の教育が、いま女優さんをたくさん仕事で起用することにつながってるんですね。

藤田 「そう。だから、恋人とか付き合うだろう人とかに対してではなく、僕の周りで僕にまつわること…つまり作品に出てくれている女子たちの、どの部分が許せてどこが許せないのかっていうチューニングは、常にしている感じです。でもそれって、今こういう取材だから特別なように語ってますけど、性別関係なく、誰しもがある気がする、嗅覚として。こういう男性はアリかナシかとか、それは結婚してるからとかそういう話じゃなくて、セックスができるかどうかとかそういう話でもなくて、この部分のこれはいいなとか嫌だなみたいなことって嗅ぎ分けてるじゃないですか。その嗅ぎ分けているのを毎週、日記みたいに書いてたのが、このエッセイだと思う」

―――いま毎週っておっしゃいましたが、毎週書いてたんですか? 書き溜めではなく。

藤田 「毎週、でしたよね?」

M 「毎週…校了日に書いてくださいましたね(笑)」

―――あ、割と手のかかる著者だったんですね。

藤田 「ヤバかった(笑)」

―――絞り出して書いてたんですか。

藤田 「そういうわけでもないんだけど。でも、絞り出してたときもあります」

―――書き始めるまでが遅い?

藤田 「そうだと思います」

M 「純粋に時間がないですよね、お忙しいから」

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男は、男って時点で既に気持ち悪いんだから、もっと女性に優しくするべき。

―――ところで藤田さん、本書で手がきれいな男が嫌い(「手がキレイな男子、撲滅運動。」)と書かれてますが、ご自身はそんなに汚い手じゃないですね。

藤田 「汚いですよ…」

―――そんなにコンプレックスを持つほどでも。

藤田 「だってさ、手の綺麗な男性ってずるくないですか?」

―――いや、そんな風には思わないですけど。

藤田 「それもね、そうやってずるいなって思ってるんだけど、たぶん僕もすごく好きなの、手のキレイな男性が。穂村さんとか」

―――書いてましたね。藤田さんが思う手がキレイな男子ランキング1位、歌人の穂村弘さん。

藤田 「3位にランクインしてる、うちの男優の石井くんなんて、ほんとに、手の触り心地も超いいから」

―――触ってるんだ(笑)。

藤田 「石井くんは、もう肌感が全体的にもうなんか『皮膚薄くない?』ってぐらいプルップルなの。あとドラマーの(山本)達久さんの手も、なんか、女性っぽい。女性っぽい肌感の男性っているんだってことが最近わかったんですよ」

―――やっぱり男性の研究のほうが上手そうな(笑)。では、このエッセイは元々は女性誌に連載されていたものですが、書籍化にあたり、男性読者に向けて読みどころを教えていただけますか?

藤田 「この本はむしろ、男性に読んでほしいですね。というのは、みんな自分のことどう思っているかわからないけど、まず男性ってだけで既に気持ち悪いから(笑)。もっと意識的に女子に優しくしたほうがいいと思うし、男性性というだけで、圧力がそもそも備わっているから、そのことを自覚したほうがいい」

―――薦めてるのに手厳しいですね。

藤田 「おんなのこって言いつつ、自分が男性性であるというコンプレックスから、書いてる部分もあるので」

―――男である、という時点でコンプレックスなんですね。

藤田 「そうですね。女子にならなきゃわからないレベルのコンプレックス。なんで自分は男性性なんだろうって思いながら書いている。だから、女子のことを書いてはいるんだけど、男性である切なさも同時に書いてるんですよ」

rere__DSC2675-A_re-1024x1238.jpg(写真・中島慶子)

今週の推し本

おんなのこはもりのなか
藤田貴大 著
ページ数:192頁
ISBN:9784838728350
定価:1,404円 (税込)
発売:2017.04.13
ジャンル:エッセイ

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