じん(自然の敵P)1万4千字ロングインタビュー・音楽を使って物語を伝えたい(2)

今回は『NETOKARU』からご寄稿いただきました。

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●エンタメへの飢餓感が想像力を育てた

じん(自然の敵P)1万4千字ロングインタビュー・音楽を使って物語を伝えたい(2)

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―結局のところ、どうしてそういうエンタテインメントの形で音楽をやろうと思ったのでしょうか?

じん: とにかく優先してたのは、自分の面白いと思うことをやろうっていうことです。ニコニコ動画を見て「中途半端にやったらどうせ勝てないんだろう、ここの人たち」と思ったので(笑)、少なくともビックリするような面白いものをやりたいと思いました。だから4分半の中にショートショートのストーリーを詰め込むっていうのは、やりようによってはたぶん面白くできると思ったんですよね。だけど曲の中にストーリーを入れるのは可能だとして、それを面白いって思ってもらえるかは段違いに難しい。普通に小咄をして面白いって言わせるだけでも大変なのに、4分半っていう制限があって、しかも譜割りとか歌い回しとかを意識して、無理なく格好良く歌えるっていう決まり事のある中で面白い話をやんなくちゃいけないんです。だから自分にとってもすごい難題なんですけど、三作目の「カゲロウデイズ」でそれに挑戦しようと思ったんですよ。そこから始めて、もう一つ面白いと思ったのが時系列通りじゃなく曲をアップしていくということなんですよね。バラバラのストーリーが徐々につながっていくみたいなことをやりたかった。

―キャラクターとか物語内容についてはどうでしょうか。影響されたものはありますか?

じん: 結構あります。たとえば「カゲロウデイズ」とかはもうめちゃくちゃ多いですね。というか、「夏にタイムリープが起こる」みたいな話ってめちゃめちゃいっぱいあるじゃないですか。だからこそやってみようと思ったんですよね。『時をかける少女』とか『シュタインズ・ゲート』とか『ひぐらしのなく頃に』とか。

―言われてみれば、夏を舞台にしたループものって多いですね(笑)。

じん: だから動画を投稿した時に「よくある話」っていう説明文を付けて投稿したんです。こんな話ってよくあるよねっていう意味で。だけどそれはあくまでストーリー全体からすると一部なんですよね。そういうのは珍しいというか、面白いかもしれないと思いました。だから次は森に住んでるメデューサの女の子が出てくるようなファンタジーの世界へ急に飛んだり、4作目ではパニック映画みたいなのをやりたいと思ったんですよね。音楽でパニック映画をやった人いないだろと思って(笑)、「世界から逃げろ」みたいな、宇宙戦争みたいなものを想像しながら作りました。あとは『トゥルーマン・ショー』みたいな話。世界が崩壊していくんだけど、実はそれは世界じゃなかったみたいなのもすごく好きなんですよ。本当に上限なし、制約なしで、自分が面白いと思ったことを全部やろうと思ったんです。

―そういう物語の知識は、たとえば学生時代にテレビとかDVDとかで知ったものだったんですか?

じん: まあ普通に好きでずっと見てたんですよね。

―じんさんは北海道の離島で育ったんですよね。そういう環境の中で、どうして今のような音楽性に目覚めていったのでしょうか。

じん: たしか中学か高校くらいの時に、離島から離れて北海道の本島の方に行ったんです。だけどテレビも3チャンネルしか映んないし、漫画を買おうというほどお小遣いもないし、インターネットも通ってないし、何にもなかったんですよね。でもそういう中にいるからこそ、エンタテインメントに対する飢餓感が尋常じゃなくて(笑)。

「コロコロコミック」とか、ごくわずかに手に入る本を読んで、ものすごく想像するんです。たとえばポケモンのテレビアニメが放送開始って書いてあったら「うおぉー! テレビでポケモンが見れる!」って思うんだけど、実際のテレビアニメは見ることができないんですよ。だからポケモンたちがテレビでどう動くんだろうとか、自分でめちゃくちゃ考えたんですよね。「俺だったら、こういうアニメにする」って。常にエンタテインメントに対する自分の飢餓感を満たすために、「あのアニメはきっとこういう話なんだろう」とか、いろいろ想像してしました。だけど、少なくとも音楽はあったんですよ。父と母が音楽を聴く人だったので、シュガー・ベイブとかモーニング娘。とかが家にあったんですよ。まあちょっとあんまり新しくない感じではありましたけど、情報量は他のジャンルに比べれば多かったとは思いますね。

―フィクションはどうですか? アニメはともかく、漫画や小説は読んでいましたか?

じん: 本とかもある程度は家にあったんですけど、マンガとかはあんまり読んでなかったですね。漫画が読みたいとか言っても買ってくれないけど、小説ならわりと買ってもらえますし(笑)。だから小説は少しは読んでました。最初の頃に読んだのは星新一さんとかですかね。すごくわかりやすくて面白そうだったので。

―乙一さんもお好きだったんですよね?

じん: 乙一さんが好きになったのはその後ですね。もう、どハマリしました。そもそもBACK HORNと出会ったのも、乙一さん原作の「ZOO」っていう映画で「奇跡」という曲が主題歌だったからというくらいで。

―そういう作品群を、かなり大量に見ていたわけですか?

じん: どうなんでしょう。他人がどのくらい見ているのか分からないので何とも言えないですけどね。まあでも自分の人生の中ではそれなりのレベルで小説とか映画とか漫画を見てたんじゃないかなあとは思います。もちろん、自宅の近所で普通に漫画が買えるような場所に引っ越してからの話ですけど。それ以前は車で30分ぐらい走らせないと、本屋さんにも行けないようなところだったので(笑)。だから引っ越してからは狂ったようにマンガを買ってる時期もありましたね。父母もハマッて、ずっと「ジャンプ」とか「サンデー」とかを買ってきてくれるようになって。だからその時期はもう「ジャンプ」「サンデー」「マガジン」「ガンガン」とか、あとは「ちゃお」とか、ああいうのが家に毎号あって読んでいました。

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●昔の自分に楽しんでもらいたくて作っている

―物語の背景についてはわかりました。では、物語の時系列をバラバラにするような、リスナーの興味をそそる演出はどういうところから発想したんですか?

じん: とにかく自分が面白いと思ったことをやろうと思っただけなんですけどね。ただ、曲をネット公開するという形になったので、どんなタイミングで公開するとみんな驚いてくれるかとか、Twitterで予告することでみんなに楽しみにしてもらうようなことも含めたエンタテインメント性を心がけるようにはなりました。あるいは、そうやって期待が高まったところで、あえて予想を裏切るとか。

―なるほど。じゃあリスナーにとっては、曲が発表されるのを待つのも楽しみの一部なわけですよね。ティザー的に予告とか情報が流されたりして、それを見るのも楽しみになっている。

じん: 僕も昔からそういうのがすごく好きなので、楽しみにしてもらえればいいなと思っています。たとえばアルバム曲のクロスフェードを作ったのも同じ理由なんですよ。

―アルバムの全曲をクロスフェードでつないだ予告編的な動画をアップされていましたね。

じん: はい。あれも映画の予告編みたいなものなんです。一体誰の曲かわからない、どんなストーリーかわからない曲もあれば、既に発表されている「カゲロウデイズ」とか「想像フォレスト」も入っている。一体これは全体としてどんな話なんだろうって想像して楽しんでもらいたいなって思いながら作りました。

―なるほど。そもそも他人を「ビックリさせる」ことが好きなんですか?

じん: そうですね。僕自身、自分がビックリするものって好きになるんですよ。そういう意味で言うと、カゲロウプロジェクトというのは、かつて田舎でこもってた僕宛に送ってるような感覚があるんですよね。

―離島で娯楽がほとんどなかった、昔の自分に楽しんでもらいたくて作っているというわけですね。

じん: 当時の僕に「これ面白くない?」って見せたら「面白い!」って言うものを作りたいというのは、すごくイメージしてるんです。だから、ちびっ子だった僕と似た童心を持ってくれているファンの方々に届くものになっているかなというのは感じますね。だからもしワクワクするために必要であれば、たとえば音楽をやらないとかも1つの手段だと思います。もちろん自分として音楽は絶対辞めないですけど、一つの作品を考える立場で見ていらないのであれば音楽はやらないだろうと思います。無理に音楽をくっつけるのもおかしいので(笑)。

―最初は音楽とストーリーの融合したところがじんさんの新しさだったんですけど、表現がこれだけ広がってくると、音楽を軸足にしなくてもいいし、その融合性も、なくてもいいんですね。

じん: ええ、なくていいものだったらなくてもいい。今でも、小説が出たりアニメ化したりすると「音楽からメディアミックスされた」と言われるんですけど、いちいちそんな言い方しなくてもいいんじゃないかって思うんですよね。

―たしかにそうですね。そもそも「曲に動画が付きました」という体でやっているものですらなかったわけですから、今さら「音楽がアニメになりました」という言い方をしなくてもいいかもしれません。それもエンターテイメントの一貫というふうに捉えれば。

じん: そうですね。自分でもだんだんそういう信念になってきて、「カゲロウプロジェクトって音楽じゃないじゃん」とか言われても、「そうだよ、音楽じゃないよ。これはエンターテイメントなんだよ」って言えるようになってきましたね。

<取材・構成:さやわか>

執筆: この記事は『NETOKARU』からご寄稿いただきました。

寄稿いただいた記事は2013年03月21日時点のものです。

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