「柳井正は人として終わってる」を読んで

今回は、『はてな匿名ダイアリー』から転載させていただきました。

■「柳井正は人として終わってる」を読んで
「「柳井正は人として終わってる」 鬱→休職→退職の新卒社員が語るユニクロの人材使い捨てぶり」 2012年12月18日 『My News Japan』
http://www.mynewsjapan.com/reports/1734

あー、俺です。

なんか最近UNIQLOって超ブラックなんだぜ?っていう記事を読んだので、元UNIQLO社員の俺がしゃべります。

長いエントリーになりそうなので先に謝ります。

まず俺のことなんですけど、UNIQLO辞めたのは2年以内のどっかです。在職期間は5年以上10年以内で、中途採用でした。

在籍部署はあんま言いたくないんですけど、商品系のどっかです。

生産部とか、R&D部(デザイナー、パタンナー等)とか、MD部とか、そういうモノ作り系です。

そいでまぁ、一言で言うと確かにUNIQLOはすっげーブラックだとは思います。

ネットで読んだ記事はIDが無いので最後まで読めなかったんですけど、だいたい書いてあることはわかります。

ただ本部と店舗だとまた違うとこもあると思うので、その辺のことを書けたらと思います。

できるだけグチっぽくならないように書くつもりですけど、どうしても主観的になっちゃうのは許してください。

まず俺が入社した当時はUNIQLOはこんなじゃなかったってのを先に。

けっこう和気藹々な雰囲気で、社内のムードも良くて、厳しい決まりごとなんてのもそんなに無かった。

9時出社だったし、一定階級以下は残業代も出るし、一定階級以上は逆に「裁量労働制」つって、一日一時間でも働けば出社扱いになった。

風邪ひいて欠勤しようが別に給料に影響することはない素敵システム。

休みが少ない!ってのも特に感じなかったし、総合的に考えて、給料は悪くなかった。

課題なんてなかったし、残業は確かにあったけど、いわゆるアパレルらしいルーズさというか、いい加減さみたいな空気が社内にもあった。

ただ柳井はそういうのがもともと嫌だったんだろうね。あの人は経営に関しては完璧主義で潔癖症だから、そういう「大企業病みたいなものを排除しないと」っていうパラノイアみたいなもんにとりつかれていった。会議でも度々そういうことを口にするようになっていたし、社内にもピリピリした空気が漂うようになってきてた。

社屋が六本木に移った頃から目に見えてちょっとずつ厳しくなっていった。

それでまぁ1年経ち、2年経ち、だんだんお風呂の温度があがっていって、俺はもう熱くて我慢できなくなったので先にあがった感じ。

だから今、新卒や中途採用で新しくきた人は、急に高温のお風呂にぶち込まれるわけで、「あちゃちゃちゃちゃちゃ!むりむりむりむり!!!」ってなるのもわかる。

じゃぁ具体的に、ブラックだと思うことから。

●(1)就業時間
前述にもあるけど「裁量労働制」。
おれは法律には明るくないからわからんのですけど、これってありなんですか?
うまい汁吸わせてもらってる時はいいんですけど、風呂の温度が高すぎて人がいないんで、1人あたりの業務負担がすげー多くなっちゃった今、正直この制度のせいで、ほとんどの社員が残業代出ないまま毎日何時間も残業することになってる。くどいようだけど残業代無しで。社員からしたらまずもうこの時点でアウトだろ!って思うけど、どうなんですか?
そのくせ、半期に一度の業務評価で、残業無しとか、有給全消化とかを目標にさせられて、クリアできないと評価が下がってボーナスが目減りする。だけどこの目標は強制項目だから回避できない。これは詰んでる。

それと朝7時出社。これはけっこう精神にくる。思ってるよりずっとキツい。

そもそもなんでそんなことを始めたかというと、「早く帰って、プライベートな時間を勉学やリサーチ等の情報収集に使うのが良い人生だよね!」みたいな柳井の妄想からスタートしてるんですけど、そんなんほっといてくれよっていう。

そもそも、就業時間、拘束時間が変わらない限り、早く帰ろうが遅く帰ろうが、睡眠時間をキープしようとするとプライベートな時間は変わらないはずなんですけどねぇ。

柳井クラスになると生きてる次元が違う。

そんで柳井曰く、じゃぁそのプライベートな時間にやる勉強をこっちで用意しといてやったから! おまえら早く帰れるようになってうれしいだろ? これやっとけよ!? っていうのが「英語」。

●(2)英語
まず、TOEIC750点以上。これ無理。
俺みたいな超絶バイリンガルな天才はさておき、デザイナーとかパタンナーとかアホですもん。デザイナーとか200点とかがゴロゴロしてる。え?TOEICて4択ですよwwwwwwみたいな。
専門学校卒ですよ。学生時代にハマったのはボディピとスケボーですよ。レゲーが世界を変えると思ってるんですよ。無理でしょ。
あとMDとか生産部とかも基本アホですもん。そもそも店舗から引っ張ってきて本社勤務してるやつなんて、基本三流大学出てれば良い方。高卒レベルの脳みそ引っさげてアルバイトのUNIQLOの店員からはじめたような奴らですよ。そいつらが、それでも現場で類まれな能力を発揮して、店長になって、エリアマネージャーに昇格して、そんで、じゃぁ君いいね、来月から本社で一緒にモノ作りしようよっつって本社勤務してるんですよ、そんな叩き上げのおっさん捕まえて、「半年でTOEIC750点出してもらうから。できなきゃ給料から授業料天引きね★」って、いや無理ですって。詰んでるって。

当然、点数だけでは給料から天引きされないんですけど、条件がある。

まず勉強時間。これはBerlitzのEラーニングシステムを導入してるので、誰がどれくらい勉強してるかが全てわかるようになってる。いろいろやったけど基本ズルは難しい。

週に10時間以上勉強しないと、上司から指導が入る。それでも改善できなければ給料から授業料の半額が天引きされる。

それと、半年ごとのテストで50点アップ。これをクリアできないとさらに半額が天引きされる。コンボだと全額。

だけど(1)でも述べたように、ものすっごい残業して、家帰ったら寝るだけみたいな生活(しかも5時起き)の中で毎日1.5時間以上の勉強時間を捻出するのは本当に辛い。体力をどんどん疲弊する。ライフはゼロよ!ってまじで思う。

当然その勉強時間に給料は出ないので、UNIQLO社員はもれなく月30時間以上は家でサビ残してることになるとおもうのだけど。

これも始まったのはここ2年くらい前かな。

そもそも社員の時間を勝手に使って、勝手に給料から天引きするシステム、これがブラックじゃなくて何がブラックなん?

●(3)課題
おまえら英語だけが課題だと思うなし。
今週の課題は柳井正の「一生九敗」を読んだ読書感想文だし。まぁこの本の代金は柳井のポケットマネーでいいわそこまでせこくないし。売上部数1万は上乗せできるし。でも来月の課題図書ドラッカーの「経営の哲学」な。本の代金は給料から天引きしといたから。あと感想文提出できないと面談な。
ほんとUNIQLOの社員は気が長い。

●(4)責任
えーと、俺がUNIQLOを辞めようって思ったのはこれです。個人的にはこれが一番堪えられなかった。
会社の経営方針として「全員経営」ってのがあって、これは柳井の口癖でもあるんですけど、要するに全員が経営者の自覚をもって、もっと利益や売上にコミットしましょうってことなんだけど、それがどう転じてか、「責任は個人がとる。」ってことになって、それがさらにこじれて、「担当者(末端社員)が責任をとる。」ってのがUNIQLOのやり方。
おれはアパレルしかわからんので、アパレルの話をしますけど、モノ作りってのは基本トップダウンで行われる。
ディレクターって呼ばれる人達が(UNIQLOの場合大勢)いて、その人達がじゃぁ今季のコンセプトはこれこれですよってのを決める。
それを元にカラーを組む人や、柄を組む人や、デザインを考えるデザイナーがいて、サンプルを作って、会議をするわけです。
でもすぐにサンプルを作れるわけじゃなくて、何度もそのエライ人達と打ち合わせして、パタンナーと打ち合わせして、じゃぁこれでいこうってなったら、生産部と協力してサンプルを作って、会議に挑むわけです。UNIQLOの商品は全て社長が目を通すので、商品系の会議と言えば社長会議なんですけど、そこまでに「会議のための会議」を何度も重ねて、会議に挑むわけです。
そんで会議でたまたま柳井の意にそぐわなくて、「誰ですか!こんな下らないもん作ったのは!」ってなったとするでしょ?
首根っこ掴まれて、社長の前に放り出されるのは、一番下っ端のデザイナーだったりパタンナーだったりMDだったり生産なんです。
んで、ボーナスの査定が目減りする。上司はうまくそれを処理して昇給する。
おれはこれがどうしても納得できなかった。
責任の取れない上司なんて必要ないし、そもそもみんなで話して決めたじゃん!っていう。

1つ例を出します。

今飛ぶように売れてるウルトラライトダウン。あれ、初年度とサイズ感が違うんです。

当初のコンセプトだと、あれは「ミドルレイヤーとしてのダウン」だったんです。mont-bellさんやPatagoniaさんがやってるようなシャツダウン。アウターの中に着るダウン。

そういうコンセプトですから当然サイズ感は、「シャツのよう」にミドルレイヤーとしてのフィット感を重視したサイズ感だった。

ところが、これが販売を開始してみると、店舗から「従来のものよりサイズが小さいのではないか」いう問い合わせが頻出したんです。

これ自体はよくある話です。誰が悪いというわけでもない。

きちんと商品説明が店舗まで行き渡っていなかったのも悪い。お客様に説明できていなかったのも悪い。そもそもそういうコンセプトが受け入れられる土壌がUNIQLOの客層にはできていなかった。いろいろ悪かったんです。

でも、これは責任をだれかがとらなくてはならない。何故なら!それが!UNIQLOの!やり方!ヒャッハー!魔女狩りだゼェ!

パタンナー1人が全責任を被ってボーナスゼロ。2階級降格。

でも当然商品化されるまでには、何十人もの人間が携わり、会議で議論し、社長自身が「それで行きましょう!」と判を押してる。

そういうの全部無視して、企画立案者に罪をなすりつけるような会社で、良いアイデアや、良い商品が産まれるわけがない。

みんな萎縮して、実績のあるものをこねくり回すだけの仕事になっちゃう。

おれは絶対間違ってると思う。ねぇお兄ちゃん、これが全員経営ってやつなん?これがドラッカーがめざした理想の経営学なん?

こういうことが日常的に起こる会社にいると社員はどうなると思いますか?社員は常に怯えて仕事するようになるんです。

自分が責任をとらないでいいようなやり方。共有のメール、共有のための会議。会議、会議、会議、メール、メール、メール、メール。。。

●(5)鬱病
そして作り出されるのが鬱病。
これはほんとに多い。多分%に直したら日本の企業で一番多いと思います。いや世界一。
もうみんな感覚が麻痺してて、誰々が明日から暫く休みますなんて報告を聞いても、あーまたかー、仕事が増えるなぁ、くらいにしか思ってない。
感覚でしゃべりますけど、10%~20%くらいの確率で鬱病経験者です。
リスポーンする社員も多いけど、辞めてく社員も大勢。
原因は、逃げ道の無いプレッシャーです。

けっこうわりと、仕事がクソでも、メンツが良ければ楽しくやってける、みたいなのあると思うんですけど、今のUNIQLOにそんなお花畑はない。

毎週朝礼で「プレッシャーを感じて仕事しろ」「もっと追い詰められろ」「緊張感をもて」って言われて仕事する。

社員はプライベートな時間も、仕事の時も、どんどんどんどん自分を追い詰めて仕事をしてる。そして死ぬ。

最後にこんだけクソミソに言っておいてなんすけど良いことも書きます。

まず、お客様にとっては、UNIQLOは最高だと思います。

UNIQLOのブラックさは、経営コストを削るために無理させてるってよりは、あいつら本気でそれが客のためになると思ってやがんですよ。

「プレッシャーを感じて仕事しろ」ってのは、売れてる時は、客が店に来てる時。客が店に来てる時は、何か期待して来てる時。その時につまんないもの、粗悪なものしか見せられなかったら、そのブランドは終わり。っていう理論。だから売れてる時ほど緊張感をもってなきゃダメだってこと。

英語にせよ、なんにせよ、まるで宗教みたいにすげー崇高な理念の為にやってる。

英語をしゃべれるようになれば、もっと世界のいろんな企業と「直接」取引できて、もっと安い原材料を仕入れられて、もっと工場とコミュニケーションがとれて、もっと良い商品がつくれるんじゃないかって、そんなことを考えてる。マジキチ。

7時出社にせよ、裁量労働制にせよ、元々は社員のため!みたいなお節介企画が始まりですし、なにも搾取してやろうって始めたわけではない。

その辺は某居酒屋とかコンビニとは違うかなーとは思いますけど、おれもまだUNIQLO脳に侵されてるので他人からみたら一緒かもですね。

あと商品につては、まじで今でもUNIQLOの商品はすげーと思います。中にいても、外に出ても思います。

あのシステムから生み出されるもんは、まじで世界一。

縫製とか生地のクオリティが最近悪いとか言われてるけど、全然そんなことなくて、むしろどんどん良くなってると思います。値段は高くなってるかもですけど、それは原材料の高騰がどうしても響いてる。デザインはクソですけど。

あそこまで単品の完成度が高い服は無いと思う。

むかしTVで見たけどチョコボールは毎年アップデートしてるらしい。あの小さな一個の粒を、チョコの味をちょっと変えたり、ちょこの厚みを変えたり、硬さや大きさを少しずついじって、今でもベストを探り続けてる。

UNIQLOはまさに同じ事をやってて、靴下一足、ポロシャツ1枚が去年とは全部違う。シルエット、素材、縫製、必ず何かアップデートしてて、そんなことを毎年毎年やってる。

社員がみんな萎縮してるから良いアイデアが生まれなくなって、デザインはどんどんクソになっていくけど、反比例して、既存の商品がどんどん良くなっていく。

お客様が喜んでくれる為って本気で思ってて、良い物を適正な価格で出せば絶対売れるっていう理念は創業当時から変わってない。モノ作りで妥協は絶対しない。

下っ端の社員なんて基本バカで単純。柳井教をうぜぇうぜぇと言いながら、信じてる。

だけど、他の会社で、そんなところは絶対ない。妥協しないって、できることじゃない。

おれはそういうモチベーションの高い人間じゃないので無理でしたけど、本気で服で世界を変えてやる!くらいに思ってるような熱いやつならまぁ向いてるんじゃないですかね。給料はいいと思います。平均よりは。

ただ、おれは服ってのはそういう切り口もあるけど、やっぱ基本楽しいもんじゃなきゃヤダって思う人なんで、あーUNIQLOむりかもーって思い始めてた。

そんでまぁ風呂の温度も一向に下がる気配ないし、むしろどんどん熱くなってるし、のぼせる前にイチ抜けした。

今は楽しくやってます。

「楽しい」から生まれる「楽しい」の力も、おれは信じてます。

転載元:こちらは匿名投稿『はてな匿名ダイアリー』からの転載です。

画像:ユニクロ * UNIQLO『flickr from YAHOO!』

http://www.flickr.com/photos/winnie_quan/3475185552/

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