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丸山健二氏特別寄稿(2)『俗物にまみれた出版界』
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丸山健二氏特別寄稿(2)『俗物にまみれた出版界』

2013-01-02 07:31
    丸山健二氏特別寄稿(2)『俗物にまみれた出版界』

    ■丸山健二氏特別寄稿(2)『俗物にまみれた出版界』
    近代日本文学の土壌が時の経過と共に痩せ衰えていった最大の原因は、大量生産大量販売による大儲けに芯まで毒されてしまったからで、さらには、そのことによって質の低い読者と、その読者に調子を合わせた小説もどきを書きまくることしかできない程度の書き手と、欲に目が眩んだ出版社とが、本格的な文学の境地の何たるかをまったく模索しないという怠惰によるものだ。

    もっと世俗的な言い方をすれば、書けば何でも売れるという異様な時代の波に乗って、編集者は作家をダシにして会社の金を遣い、夜毎呑めや歌えのどんちゃん騒ぎを繰り返し、遊び呆けることしか頭になく、その言い訳としてそうした自堕落な生活こそが文学的であり芸術の核になるという言い訳を思いつき、売れる作家の腰巾着に徹することが勤め人としての出世に影響することを悟り、作家は作家で、出版社や新聞社や国家が設えた文学賞を我がものにすることに熱中し、文化勲章をもらい、芸術院会員に選ばれ、園遊会に招かれることを最大の名誉とする俗物根性を隠そうともしないで、ますます反芸術の生き方に励み、文学者としての精神の在り方、芸術家としての魂の拠り所を考えてもみない俗人に成り果てた。というより、もともとその程度の輩がペンを握って、大家や大御所と呼ばれる大道を恥ずかしげもなく闊歩していたのだ。このことは、ほかの芸術においてもまったく同じで、どのジャンルも芸術もどきで終わっているのは、その呆れ果てた姿勢のせいであり、ほかの理由ではない。

    生い立ちと性格の弱さと風貌の惨めさとをひっくり返しただけの、憧れいっぱい夢いっぱいのひと昔前の少女趣味まるだしのナルシシズムと、生まれてきてごめんね式のマゾヒズムの前に立ちすくんでしまった作品は、文学どころか小説にもなり得ないまま、日記に毛が生えた程度の代物として減してゆく。

    丸山健二氏特別寄稿2013

    丸山健二氏プロフィール
    1943 年 12 月 23 日生まれ。小説家。長野県飯山市出身。1966 年「夏の流れ」で第 56 回芥川賞受賞。このときの芥川賞受賞の最年少記録は2004年の綿矢りさ氏受賞まで破られなかった。受賞後長野県へ移住。以降数々の作品が賞の候補作となるが辞退。「孤高の作家」とも呼ばれる。作品執筆の傍ら、350坪の庭の作庭に一人で励む。
    Twitter:@maruyamakenji

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