日本出版者協議会(旧・出版流通対策協議会)は、会員企業の大蔵出版が現在も刊行している『大正新脩大蔵経』全88巻と『南伝大蔵経』全70巻中21巻の合計101点が国立国会図書館・近代デジタルライブラリーで無償公開されていることに対して抗議し、中止を求めたところ国会図書館側より「国会図書館でどう対処するかという結論が出るまでは、館内閲覧に限定する。上記の結論がでるには、それなりに時間がかかる」との回答を受け、当面は近代デジタルライブラリーでの公開が中止されることになった旨を6月7日(協議会のサイト掲載は14日)付で発表しました。
問題の書籍『大正新脩大蔵経』全88巻は1924年から1934年にかけて大蔵出版より刊行された日本国内の漢語訳仏教経典の集大成として知られる大作で、また『南伝大蔵経』全70巻は1930年から1935年にかけて同じく大蔵出版より刊行された東南アジアやスリランカに伝わるパーリ語経典の集成です。このうち『大正新脩大蔵経』は東京大学大学院人文社会系研究科次世代人文学開発センター内に「大蔵経テキストデータベース研究会」が置かれ、全文のテキスト検索用データベースが提供されています。
問題になっている101点の書籍は大蔵出版の法人名義ないし編集責任者全員の死後50年以上が経過しており、また当然ながら収録されている経典の原著作権も消滅しています。しかし、日本出版者協議会では上記101点が絶版でなく現在も刊行中であり、近代デジタルライブラリーで無償公開されると在庫が売れなくなるので死活問題だとしています。専門書である性格上、価格は巻により1冊1万4000円から2万円と高額な価格設定となっており『大正新脩大蔵経』の全巻セット価格は156万円(税込)なので、確かに「無償公開されたら在庫が売れなくなる」と言う意見には相応の説得力があります。
しかし、初版から70年以上が経過してなお刊行中と言うレアケースであることを考慮しても法律上は著作権保護期間を満了しており、近代デジタルライブラリーでの公開に何も法的な問題はありません。また、日本出版者協議会は出版関連団体の中でも版面権(出版社の著作隣接権)創設を強硬に主張していることで知られており『Twitter』上では「今回の抗議を版面権創設の布石とするつもりではないか」と警戒する声も挙がっています。いずれにせよ、協議会側は今後の立法論でなく今回の抗議に際してはどのような法的根拠に基づいて国会図書館に中止を要求したのかを改めて詳細に説明する必要があるのではないでしょうか。
国会図書館と5日に面談、具体的に成果表れる(日本出版者協議会)
http://shuppankyo.cocolog-nifty.com/blog/2013/06/post-f960.html
参考:国会図書館近代デジタルライブラリーの件で(Togetterまとめ)
http://togetter.com/li/520426
画像:国立国会図書館 近代デジタルライブラリー(公開中止関連の情報は未掲載)
http://kindai.ndl.go.jp/
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