今回は、『はてな匿名ダイアリー』から転載させていただきました。
■なぜ武雄市図書館はすごいのか - 見えてるものをちゃんと見よう
武雄市図書館について、慶應大学総合政策学部教授の上山信一氏が非常に興味深い考察記事を公開されている。
なぜ武雄市立図書館はすごいのか――ツタヤ、スタバとのコラボ(下)*1
*1:「なぜ武雄市立図書館はすごいのか――ツタヤ、スタバとのコラボ(下)」 2013年08月22日 『上山信一@"見えないもの"を見よう』
http://www.actiblog.com/ueyama/304221
樋渡市長や図書館職員、運営受託者のCCC(カルチュアコンビニエンスクラブ)へのインタビュー取材で得たことをもとに、武雄市図書館がなぜすごいのかが分析されているが、見えないものを見ようとするあまり、武雄市図書館のすごさが伝えきれていないと感じた。
僭越ではあるが、見えていることをもとに補足し、このプロジェクトの意義を考えたい。
●CCCと共同で投資
最初にプロジェクトの内容を確認したい。これは武雄市とCCCとの共同事業である。
武雄市は、リニューアルを機に、入り口のすぐ横にあった蘭学館と称する歴史資料館のスペースと、同じく入り口近くにあった子供向け読み聞かせコーナー及び子供用トイレ・授乳室のスペースを、CCCへと貸し出した。
CCCは、歴史資料館だったスペースにはレンタルDVD店を、子供の読み聞かせコーナーだったスペースにはカフェ(スターバックス)を開設した。
歴史資料館は会議室を転用したスペースに、子供の読み聞かせスペースは館内の最も奥に設置した。子供用トイレ及び授乳室は入り口すぐの1箇所に集約された。
CCCは賃料を年間600万円(月額50万円)支払うが、図書館の指定管理者となることで、向こう五年間の間、年間1.1億円(月920万円)を受け取る。
リニューアルに際しては、市は4.5億円を、CCCは約3億円を投資した。
市の投資額4.5億円には、一般財源から1億7500万円、合併特例債から2億7500万円があてられているが、合併特例債の70%にあたる2億円は国から交付されるため、武雄市の実質負担額は4.5億のうち2.5億に抑えられている。
CCCの投資額は約3億円であるが、武雄市の投資額4.5億のうち1億2790万円は「新図書館空間創出業務委託料」としてCCCに支払われているほか、商品仕入れ代金などの流動資産を含まれるとされており、実質的な投資額も抑えられている。
図書館のスタッフは市の職員が3人、CCCが16人(館長1名、司書15人)である。直営時代の司書は引き続きCCCが契約社員として継続雇用し、書店部分の選書やPOP作成などの業務も兼務している。
このように、武雄市とCCCが手を取り、両者の費用負担を軽減するためのモデルを共創しているといえよう。
●官民提携の成果
成果は顕著だ。蔵書数は19万冊と変わらないが、高さ3m以上の高層本棚を利用して全面開架としたことで、すべての本を遠目に眺めることができるようになった。もちろん、手の届かない所にある本も今まで通り司書に依頼すれば5分ほどで取り出してもらえる。
公共図書館は予算の制約から雑誌の品揃えに苦労しているが、ここではCCCの店頭にある雑誌の最新号が自由に読める。もちろん欲しくなったら買って帰れる。雑誌のバックナンバーは蔵書しないが、必要な際には他の図書館より相互貸借を受ければよい。
開館時間は4時間も伸びて午前9時から午後9時までとなった。閉館日がなくなり、年中無休となった。午後6時に閉店するDVDレンタル店は論外であるが、仕事帰りにレンタルDVDを利用する層を考えると、午後9時の閉店でも早すぎる。他のCCC店舗同様に、深夜0時までの延長が期待される。
カフェは、楽しい、人と会い、語れるという雰囲気をかもし出し、若者や子連れの母親達が集まるようになった。
コーヒーを飲みながら、ワイワイガヤガヤと語らっていても、館内に流れる大きめのBGMで打ち消され、気にならないような工夫がされている。
また、公共図書館に良く見られる、持ち込み学習をしている学生も見当たらない。それもそのはず、学生は2階に設けられた学習室を利用している。これは図書館が定めたものではなく、地元学校が自主的に定めたというルールにより実現されている。学習室はいささか手狭ではあるが、1階のカフェでコーヒーを購入すればカフェ席を利用することもでき問題ないであろう。
結果的に、これまでも決して少なくはなかった入館者数は今年のリニューアル後、激増している。
これまで、スターバックスは佐賀県には4店舗しかなく、しかも2店舗は高速道路サービスエリア内のため容易にアクセスできなかった。
武雄市図書館におけるスターバックスの集客力は高いと言わざるを得ないであろう。
財政面では、市はCCCに年間1.1億円の委託料を払うが、これは従来よりも年間1億円のコスト削減となると見込んでいる。
武雄市は、現在の武雄市図書館相当の運営を直営でおこなった場合、年間2億円を超える費用がかかると試算。これをCCCは年間1.1億円で行うことができるため、少なくとも、年間1億円のコスト削減効果が見込めると見積った。
市長は、毎年1億円のコスト削減効果があるから、初期投資を4.5億円行っても、5年間の指定管理期間中に取り戻せると説明。それを武雄市議会は承認したわけである。
しかしこれは、あくまでも、構想時点の見積である。
武雄市図書館が開館した今、改めて雇用者数や書店部分を含めた蔵書数、レンタルDVDなどの品揃え、武雄市の宣伝効果等を考慮すると、私の見立てでは直営で運営した場合の費用は、年間2億どころか、年間60億はくだらないであろう。
これをCCCは年間1.1億円で実現しているのだから、武雄市は年間59億円のコスト削減効果を得ることができ、5年間では約300億円のコスト削減効果となる。
武雄市長は就任時400億円あった借金を7年で90億削減した。
今回のCCCへの指定管理で生まれた300億円を借金返済に当てることにより、残り5年で武雄市の借金はゼロにできるであろう。
●イノベーションの本質
表面的な効果は以上のとおりだが、本件は官民連携の先駆事例の意義を秘めている。
第1に社会教育施設としての本来の使命を果たしている点である。
本離れ、特に若者のそれはどこでも大きな問題だ。それは図書館にとっても課題だし、書店にとっては死活問題だ。本件はそれに対して図書館と書店、書店とカフェ、さらに書店とレンタルDVDを組み合わせることで対処した。
全てを同じ場所にまとめ、多様な選択肢を用意する。そのことで市民の興味と関心を喚起し、集客に成功した。書店やカフェ、レンタルDVDで客を呼び寄せ、図書館の入館者数にカウントしたことがすごい。こうすれば図書館の入館者数を飛躍的に増やすことができ、社会教育施設としての図書館の使命を果たせていると示すことができる。ここまで踏み込んだ意義はきわめて大きい。
第2に利便性の飛躍的な向上である。
もとは普通の図書館だった。多くの公立館と同様に、書籍数は限られ、来訪者も限られ、開館時間も短い。それでいて運営費はかさんでいた。また広い面積を事務スペースが占めていた。リニューアルでは、スペースを営利部分の顧客のために最大活用することにした。顧客ニーズを真剣に突き詰めた結果、カフェの併設やレンタルDVD店と書店の併設という"ワンストップサービス"化のアイディアに至った。
顧客志向の発想は開架の本の並べ方を従来の10進法の図書館分類(哲学などが入り口に来る)から営利部分利用者の利便性を考えた順番に配列する工夫にもつながった。(市長の著書が入り口近所に平積みされるなど)。
第3に生産性の改善と財政効果である。
営利事業との並存は、スペースの生産性向上だけでなく、来館者数の拡大、賃料収入をもたらした。また、指定管理者は市役所からの収入だけでなく営利収入も使ってサービスの充実が図れる。最低限の運営費用は指定管理料として支払われるため、営利収入の利益率は高い。店も併設しているから、普通の指定管理だとありえない数のスタッフしか図書館部分には確保されていない。
第4に武雄市を有名にした。
文化と教育を重視し、改革に挑んでいるという姿勢が全国に伝わり、武雄市の知名度とイメージ向上に寄与した。
武雄市長は率先して武雄市図書館をアピールした。マスコミに積極的に露出する一方で、ソーシャルメディアを通じて寄せられた感想や意見は「ゴミのような意見」「君はゴキブリ以下」と一蹴するなど、市のイメージ形成には今や欠かせない存在である。
また、実名で意見を寄せた人物に対し、職場の上司や国会議員を通じて圧力をかけたり、勤務先を連呼し不買を公言したりするなど、ソーシャルメディアの特性を十二分に活かした、知名度向上策を実践している。
●全国へのインパクト
今の時代、インターネットの普及で図書館はもちろん、紙の書籍の存在意義すら問われている。
また、CCCの運営する店舗は全国に約1500店舗あり、スターバックスも約1000店舗ある。
今やTSUTAYAもスターバックスも、ほとんどの人が簡単にアクセスできる時代である。
レンタルもインターネットで頼めば自宅のポストに届き、淹れたてのコーヒーもコンビニの店頭で買うことができる時代になりつつある。
ファミマの隣にファミマができる時代である。今後は普通のレンタルDVD店も淘汰されていくであろうから、新たな業態を見つける必要があろう。
そういう時代であるにも関わらず、武雄市図書館は、書店とレンタル店とカフェを併設し、それらの利用者を図書館利用者としてカウントした。
武雄の例は全国の公立図書館にショックを与えている。
武雄市図書館は数多くの問題点が指摘されている。
だが、武雄市や武雄市図書館を擁護する人々は、図書館法や司書制度は既得権益で、既得権益者が「いかがなものか」と批判していると言う。
しかし、指定管理制度を含めた民間活用全体に関する否定的な意見は、武雄市図書館に関しては見当たらない。
批判の多くは、議会を含めた武雄市政が行った決定プロセスや、指定管理者であるCCCに固有のものである。
特に、単純な感想や素朴な疑問に対する、武雄市長を含めた武雄市の対応のまずさが、批判の声をより大きくしていることは否定出来ない。
既得権益者が騒いでいるという武雄市や識者の批判はあたらない。
武雄市の事例に刺激を受けて全国の公立図書館の見直しが始まることを願う。
転載元:こちらは匿名投稿『はてな匿名ダイアリー』からの転載です。
転載いただいた記事は2013年09月13日時点のものです。
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