来年度に向けた税制見直しの具体像が固まった。言うまでもなく、4月から消費税が3%増税されるのに対応して、如何に景気を刺激し、あるいは減速させない税制措置が講じられるのかが一番の論点である。
その一つに自動車取得税の引き下げが盛り込まれた。消費税増税による駆け込み需要の反動減に対応するためには、自動車業界の悲願を達成するのはこのタイミングでしかなかったのであろう。しかし一方で軽自動車税については新車を購入した場合に1.5倍に増税されることとなった。軽自動車は、地方において子供の学校への送り迎えやお年寄りの病院への送り迎えに使うセカンドカーとして、あるいは零細企業や農家の営業用車として使われる場合が多いから、このような地域にとっては大きなダメージともなろう。あるいは、大企業の交際費の半額を非課税とする法人税減税が盛り込まれたが、この検討の過程では1万円以上の飲食に対する新税の導入が議論された。
このように新たな減税措置を行おうとする場合に、必ずそれに相当する増税措置がセットされることになる。「ペイ・アズ・ユー・ゴー(pay as you go)原則」というものだ。果たしてこのような原則の下での税制改正は、期待するような経済効果を上げることができるのであろうか。自動車課税の見直しは、確かに消費税増税の反動減を抑える効果があるかもしれないが、一方で軽自動車の新車への買い替えや奥さんのためにもう一台軽自動車を買うといったインセンティブはしぼんでしまうであろうから、マクロの経済効果でみた場合にその影響はプラスかマイナスかはわからない。少なくともこの税制見直しで消費税増税に伴う消費減をカバーするような効果は期待できないと明言はできるだろう。飲食課税にしたって、これまでポケットマネーを出して宴会に参加していたのが、会社の経費による参加に移転するだけであろうから、全体の消費支出でみれば中立的になってしまうかもしれない。
財務省が主導する税制改革は、常にこの「ペイ・アズ・ユー・ゴー原則」に従ってなされるから、毎年大変な政治的エネルギーを使って税制改革の作業をする割には、マクロの経済に対する効果はほとんど得られない。そもそも、ケインジアン的減税によるマクロ経済政策も、かつてのレーガン政権で実行したサプライサイダー的政策によるマクロ経済政策も、財務官僚の頭には全くないのだ。ほとんどの財務省の官僚たちは東大法学部出身。理論的な経済学を知らなければ、複式簿記の知識すらない者たちがほとんどだ。税制を変えることで実体経済が変化し、それに応じて税収が変わるという動学は彼らの感覚では全く理解できない。微分や積分の世界ではなく四則演算だけの世界だから、税制を変えても、生産者や消費者などの行動は変化せず、税率の変化をかけ算した分だけの税収の変化があると固く信じているのだ。
消費税10%時に導入する軽減税率の議論が、公明党による声高な主張でクローズアップされたが、これも結局軽減相当分の「必要な財源を確保」することが要件となっているから、結局新たな増税とセットに実現することとなり、その増税の内容によってはマクロ経済にマイナスの影響を与えることになるであろう。このまま財務官僚主導の税制見直しをしている限り、税制をいじればいじるほど実体経済が冷え込むということにもなりかねない。消費税を10%に引き上げる決断をする前に、まともな経済学的知識を踏まえた議論を行う場と、正しい政治的意志がはたらく調整機能を作り上げることが必要なのではないか。経済理論上は何の意味もない「ペイ・アズ・ユー・ゴー原則」などは、ただちに放擲すべきである。
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