主演は妻夫木聡さんと北川景子さん。偽の夫婦役を演じ、広告の祭典「サンタモニカ国際港国際」で“ちくわ”のCMに大賞をとらせようと奮闘します。海外の広告祭の雰囲気はとっても華やかで「CM業界ってこんな感じなんだ〜」とちょっと感心します(かなりデフォルメはされてますが)。
監督を務めたのは、サントリー「グリーンDAKARA」のテレビCMで知られる永井聡さん。東京ガス「ガス・パッ・チョ!」、トヨタ自動車「ドラえもん」シリーズといったテレビCMで、妻夫木とタッグを組んできたCMプランナー・澤本嘉光さんが脚本を執筆。CM畑で活躍しているクリエイターならではのリアルさが作品の魅力です。
今回は永井聡監督にインタビュー。映画作りのきっかけや、知られざるCM業界の裏話など色々とお話を聞いてきました。
――『ジャッジ!』楽しく拝見させていただきました。海外の広告祭という特別なシチュエーションのお話ですが、作品作りのきっかけはどんな事だったのでしょうか?
永井:脚本の澤本さんが以前実際に海外の広告祭の審査員をしたことがあるのですが、本当にアニメのキャラクターがプリントされたTシャツを着て人気者になったそうなんです(注:劇中で英語の話せない主人公が、外国の方とコミュニケーションをとる為にアニメキャラのTシャツを着る)。その体験談を配給の松竹さんに話したら、面白いから脚本にしてみたら? という流れになってスタートしました。
広告業界って一般の方からすると分かりづらい部分が多いと思うんです。だからその世界をよく知っているCMディレクター経験者が監督をしたほうがいいなという話になり、僕が呼ばれました。僕もアジアの広告祭の審査員をしたことがあったので、題材も身近でしたし。
――広告の賞を決めるってイメージでは会議室などでマジメにやるのかと思っていたのですが、パーティみたいで華やかですよね。また、不正や駆け引きが多いのも驚きました。実際の広告祭もああいった雰囲気なのでしょうか?
永井:そうですね、かなり近いと思います。言っていいのか分からないんですが(笑)、「俺はお前の作品に投票するから、お前も俺のに投票しろ」といった駆け引きは実際にあります。アメリカとかだと、広告祭での受賞を実績に、条件の良い会社に転職していくのが当たり前なので。
劇中でTOYOTAのCM が取り上げられますが、ほとんど日本では流れていなかったんですが、実在した作品です。何年か前にカンヌ広告祭でシルバーを受賞しているんですね。本当に予選落ちしてしまったんだけど、脚本家の沢本さんがプレゼンしてシルバーまで持っていったという。そんな話も映画のストーリーに活かされているんですよ。
――劇中で、妻夫木さん演じる太田は“ちくわ”のCMに大賞を獲らせる為に、ちくわの食べ方や素晴らしさを必死にアピールしていて可笑しかったです。外国の方からするとちくわの存在って謎でしょうね。
永井:そうですよね、海外に無い商品のCMはかなり不利ですね。映画の中ではちくわフィーバーが起こりますが、現実には難しいでしょうね(笑)。海外の方に馴染みの無い商品のCMが流れると会場中にブーイングが流れたり。良い物には立ち上がって拍手しますし、そのブーイングとかも含めてお祭りなんです。
――そんなちくわのCMと、エースコックの「きつねうどん」のCM、劇中には2つのCMが登場しますが、あれは監督が作られたんですか?
永井:そうです。評判の悪いCMを作ったつもりが、結構良いのが出来ちゃったなとは思いました(笑)。本当にありそうですよね、エースコックのCM。
――「きつねうどん」だからキツネの着ぐるみが踊ってるのに、「宣伝部長が猫が好きだからキツネを猫にしろ」なんて無茶ぶりもありました。実際のCM業界にもあり得ることなんですか?
永井:あれは極端な例ではありますが、無茶ぶりは多いですね。「役者の衣装が気に入らないから全部CGで変えろ」とか。その場で言ってくれよ!っていうのが。
――まさに劇中のセリフ「無茶と書いてチャンスと読む」みたいな……。そういった苦労を乗り越えて、自分の信じた道を進んでいく。この映画を観て広告業界に興味を持つ若者や学生が増えそうだなと思いました。
永井:まさにそれを目指しています。今広告業界ってあまり元気が無いんですね。昔は憧れの職業だったのに、今は「CM作りたい!」みたいな熱を持っている人がほとんどいなくて。何かイベントやりたいとか、流行を作りたいとかざっくりしたイメージを持っている人ばかりなんです。でも広告業界って広告を作る職人の集まりなんだよって事を分かって欲しいし、チャラチャラ見えるかもしれないけど、実際は泥臭くて苦労も多いんだよって。「
秋元康さんみたいになりたいです」って言ってくる子がいたりして「それうちの業界じゃないぞ」っていう(笑)。昔は糸井重里さんとかがよくテレビに出ていましたけど、今は広告クリエイターが世に出なくなってきたということでしょうね。
――そんな永井監督ご自身がCMクリエイターになったきっかけとはどんな事だったのでしょう。
永井:最初は全然興味無くて。僕は美術大学出身なのですが、在学中に自主制作映画を撮っていて、だんだんプロが使う35mmフィルムで撮影してみたいなと思い始めて。それが手っ取り早く叶うのがCM業界だったんです。映画監督は何年も修行があると思いますが、CM業界は結構早く作品を任されるんですね。僕も1年目で監督デビューしたし。
――この作品は『ジャッジ!』はもちろんピッタリなのですが、その他にも色々なタイトルがつけられそうな面白さがあると思いました。
永井:タイトルすごく悩みました。最初は『審査員を審査する』というタイトルだったのですが、分かりづらいなと。未だに『ジャッジ!』が正解かも分からないんですが、もう一個の候補が『CM大戦争』だったのでそれよりはいいかなと(笑)。でも、内容はCM大戦争なんですよ。何も考えないで気楽に観て欲しいですね。観終わったあとお茶でも飲みながら「バカだったね〜」って話してほしいです。
――どうもありがとうございました!
『ジャッジ!』ストーリー
落ちこぼれ広告マンの太田喜一郎は、クセ者上司に押し付けられ、世界一のテレビCMを決める広告の祭典・サンタモニカ国際港国際で審査員を務めるはめに。現地では毎夜開かれるパーティに同伴者が必要ということから、ギャンブル好きな同僚の大田ひかりが偽の妻として同行することになる。やがて華やかな審査会が開幕するが、太田はちくわのCMが賞をとらなければ、自分がクビになってしまうということを知り、駆け引きや小芝居に四苦八苦。ひかりの手助けを借りるうちに、2人の距離も次第に縮まっていき……。
(C)2014「ジャッジ!」製作委員会
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