今回は鳥塚亮さんのブログ『いすみ鉄道 社長ブログ』からご寄稿いただきました。
■商品を売ってはいけません。 その2
「商品を売ってはいけません。」 2014年03月02日 『ガジェット通信』
http://getnews.jp/archives/524098
町にはいろいろなお店がありますが、流行っているお店は商品を売るのではなく、商品以外のもの、例えば情報を売っているところが多いというお話をしました。
商売人というのは、先代、先々代からそういう心得を受け継いできて、自分の代になってさらに磨きをかけている。
そういう人たちが経営しているお店は、だいたいどこも流行っていますが、ただ単に商品を並べて売っているお店は、価格やお店の立地や営業時間という利便性で勝負しなければならなくなりますから、大量仕入れができて便利なところにある大型店やコンビニに軍配が上がるようになるのです。
さて、鉄道会社を見てみるとどうでしょうか。
鉄道会社は、特に国鉄時代は、「国民を輸送する義務」を職務としていましたから、国鉄職員は大きな赤字を抱えているにもかかわらず、「国民から儲けてはいけないんだ。」と口をそろえて言っていました。
もう30年以上前になりますが、国鉄改革が進んだある日、駅の改札口で切符を切ってもらうと、駅員さんが、「ありがとうございます。」と言った時には、学生だった私は本当に驚きました。
それまでは「乗せてやってる。」という態度で、「ふん」と言って切符に鋏を入れていましたし、お客様から切符を受け取らずに、お客様に持たせたまま鋏を入れるなんてことも当たり前でしたから、駅の改札口で「ありがとうございます。」と言われた時には自分の耳を疑ったのです。
当時の私は客を客とも思わないような国鉄の駅員に腹を立てていましたから、切符をお客様に持たせたまま鋏を入れるような駅員には、こちらも切符を渡さず、その駅員が入っている改札のボックスの中にポイと投げ入れます。
そうすると駅員もムカっと来るのでしょう。
「おい」と私を呼び止めますから、「しっかり受け取れ」とこちらも負けじと応戦します。そうなるともうほとんど喧嘩で、国鉄の駅の改札口では毎日のようにこういうことが繰り返されていたんです。
「お客様から儲けてははいけない。」
そう口癖のように言っていた国鉄職員ですが、結果として天文学的な赤字を作って、その負債をすべて国民に押し付けたわけですから、どう考えても正当化される理論ではありません。
国鉄からJRになって、30年近くの歳月が流れていますが、今、JRの幹部にいる人たちはもちろん国鉄入社組で、社会人教育の大切な時期に「国民から儲けてはいけない。」という組織に入ったわけですから、今のリーダーたちは、自分たちの弱点をしっかりと自覚して、人材教育をやらないと、30代の社員がお客様に向かって平気で「私たちは民間会社です。」などということを口にするようになってしまうのです。
「私たちは民間会社です。」って言うことがなぜいけないかですか?
西武も東武も阪急も京阪も南海も近鉄も、私鉄の皆さんは自分たちが民間会社だなんてことは当たり前のことですから、そんなことは会話の端にも出しません。
「私たちは民間会社です。」ということ自体、民間会社としての意識が欠如しているということで、自分たちが民間意識から相当にズレているということにも気づかないのは困ったものです。
さてさて、余談はさておき、鉄道会社の商品が輸送であるということは疑いのないことなのですが、その輸送ということを前面に出して、「これを買ってください。」という商売はそろそろ限界に来ているということは、少し商売の知識がある人だったらお気づきだと思います。
例えば、東京から大阪へ行く場合、大阪という目的地に着くという目的だけだったら新幹線でも飛行機でもバスでも、商品としてはいろいろあるわけで、そういう目的地までの輸送という商品をダイレクトに販売しようと思ったら、価格か、所要時間か、利便性かという点で競争を強いられることになります。
日本の鉄道会社はずるいところがあって、昭和39年に新幹線が開業した当初から、新幹線という商品ができたんだから、在来線の特急や急行列車という商品をやめにしてしまって、新幹線しか買えないようにして、その新幹線を高く販売するということをずっと当たり前のようにやってきました。
ところが、最初のうちはそれでよかったんだけど、並行する高速道路が整備されたり、格安の航空会社が登場したりすると、利用者である国民は目的地へ到着する商品を幾つも選択できるようになって、そうなると価格や利便性での競争が始まりますから、ただ単に目的地へ到着するという商品を販売しているだけではジリ貧になってくるのです。
東京ー大阪のような日本の輸送の中でも特異な部分では、まだまだ、黙っていても新幹線にはたくさんのお客様が乗ってくれていますが、それ以外の地域では、そろそろきちんと考えて商売をしなければ、誰も自社の商品を買ってくれない時代になってきているのです。
そんな中で、目的地までの輸送という本来の商品にたくさんの付加価値を付けて販売しているのがJR九州です。
実は、私は今JR九州の列車に乗って来て鹿児島のホテルでこのブログを書いていますが、九州では高速バスが発達し、九州内を飛ぶ航空路線もありますから、ただ単に目的地へ到着するだけの列車では、当然、価格の競争になります。
簡単に言えば、時間では飛行機にかないませんし、運賃では高速バスにかないません。そういう厳しい土俵で鉄道がどうやって商売をしていくかという時に、皆様よくご存じの「ゆふいんの森」に代表される観光列車を走らせて、目的地までの移動中の時間にも楽しい体験ができるような仕組みをあちらこちらで作っているのです。
そして、JR九州の観光列車のすごいところは、ほとんどすべての観光列車用の車両が使い古したオンボロの車両を改造していること。
観光需要というのは基本的には波動的であって、土日や休日などの観光シーズンに需要が集中し、その他の時期は車両が車庫で眠っていることが多いですから、そういう波動的需要には新車を投入することなく、中古で対応し、毎日の通勤通学輸送などに新車を投入するという経営姿勢を、いすみ鉄道も見習っています。
でも、私の目で見ると、JR九州の観光特急には弱点があり、その点ではいすみ鉄道が勝てるということ。
それは、「特急料金」をいただいているからでしょうが、列車の速度が速いんです。
観光列車ですから、速く走る必要はないと思うのですが、とにかく特急なので走るのが速い。
これは、輸送を商品としている会社では当たり前かもしれませんが、「特急」だからと言って、速く走るだけでは、「商品を売っていること」であって、商品にどうやって付加価値をつけるかという点では、今ひとつ考慮の余地があるような気がするのです。
(つづく)
執筆:この記事は鳥塚亮さんのブログ『いすみ鉄道 社長ブログ』からご寄稿いただきました。
寄稿いただいた記事は2014年02月28日時点のものです。
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