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同性愛とか異性愛とかはどうでもよくなる『アデル、ブルーは熱い色』【菅野いちはの映画レビュー】
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同性愛とか異性愛とかはどうでもよくなる『アデル、ブルーは熱い色』【菅野いちはの映画レビュー】

2014-04-27 08:00
    アデル

    連載第二回の題材に選んだのは『アデル、ブルーは熱い色』。同性愛を扱った作品ということで、公開前からかなり気になっていた。カンヌ国際映画祭の最高賞であるパルムドールを、監督だけでなくアデル・エグザルコプロスとレア・セドゥの二人の女優と共に受賞している異例の作品であるということは少し遅れて知った情報だった。この映画を端的に説明するならば、アデルとエマというふたりの女性のあいだの愛と生き方をめぐる物語とでも言おうか。そしてその背景に、美しい色彩感覚と社会に対するメッセージが秘められている。

    第1回:この部屋では人間臭いドロドロとした感情が露わに……『愛の渦』【菅野いちはの映画レビュー】
    http://getnews.jp/archives/555387

    ●私の守備範囲外からのアデルによる奇襲

    観るまでには、やや抵抗があった。それはこの映画が同性愛を扱ったものであるということに対してではなく、フランス映画であるということに対してだ。私は、映画の歴史だとか歴代の有名監督だとかについて、正直無知だ。映画をよく観るようになったのも、大学進学と同時に上京し、東京に無数にある小さな映画館とそこでかかる映画に惹かれたからであって、映画通なんて言われるには程遠い。Twitterやチラシで面白そうな映画を見つけては、暇を見計らって一人でふらっと観に出かける程度だ。そんな私が見てきた多いとは言えない映画の中でも、邦画以外、特にフランス映画は苦手な印象が強かった。言語が違えば文化も違う。細かな言葉選びが帯びるニュアンスや、背景で表現しているものや、動作の含みなどが汲み取れない。それに、しょっちゅう哲学や宗教などの馴染みのない言葉が出てきて、頭の中がハテナマークだらけになってしまう。そして、いつの間にかストーリーはジ・エンドで消化不良に終わる。そんなイメージだった。

    でも、アデル・エグザルコプロス演じるアデルにやられた。自分が何者かわからない戸惑いに漂いながらも心を動かし、様々な表情を見せ、時には見栄を張り、時には「離れたくないの!」と愛するエマに取り付き泣き叫び、少しずつ成長していくアデルに、引き込まれてしまった。アデルが傷つくと、胸が痛んだ。アデルが笑うと、ホッとした。なんだろうこの感覚は。約3時間の長編なのに、アデルのせいで一瞬で時が過ぎていった。アデルのせいで!

    観終わった私のなかで、『アデル、ブルーは熱い色』は、まさにアデル・エグザルコプロスの映画だった。そして、外国の映画はよくわからないという思い込みを反省させられた。なんにしても、先入観を捨てて、蓋を開けてみなけりゃわからないものなのだ。

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    ●“同性愛”の映画か?

    私がこの映画に興味を抱いたきっかけが、同性愛が前面に描かれているということだった。過去にも話したが、私は自分の性的指向(どんな性の人を好きになるか)をパンセクシャルだと思っている。パンセクシャルとは全性愛者、つまり男も女も、女の体をもつ男もその逆も、または自分はどんな性でもないと思っている人も、どんな人でも好きになる性的指向を持つ人を指す。それゆえ、LGBT(この単語については様々な定義が議論されるが、私の解釈では、レズビアン・ゲイ・バイセクシャル・トランスジェンダーの頭文字を取った、性的少数者を包括的に表現するキーワード)については、人一倍本を読んだり悩んだり仲間と語ったりした経験がある。

    フランスは、LGBTの本を1冊読めば必ずどこかに書いてあるくらい、同性愛者の権利保障の進んだ国である。同性婚も法的に認められている。そんな国でもLGBT当事者はアデルのように、周囲から“レズビアン疑惑”をかけられることを恐れ、その差別と闘っている。アブデラティフ・ケシシュ監督は、パンフレットのインタビューで「なぜ同性愛について特別に語らなければならないのか理解できません」と述べている。しかし映画の中には、LGBTであることを認め合いその権利を主張する“プライドパレード”にエマとアデルが参加する様子が描かれているし、アデルがレズビアンバーでエマと再会する場面では、客の会話の中にレズビアンバーならではの特異性が表れている。

    私自身のアイデンティティや経験のフィルターを通してこの映画を観ているという事実を差し置いても、やはりこの映画は同性愛の映画であり、LGBTの映画であると言えよう。だがそれは、LGBTに親しみのある人たちに向けてつくられた映画という訳ではない。最初は違和感や先入観に邪魔されるかもしれない。でも観ているうちに、同性愛とか異性愛とかいうことはどうでもよくなる。というよりも、きっと忘れてしまう。愛の前には、そんなことは二の次なのだ。カテゴライズすることに本質的な意味はない。愛は愛。そう教えられた

    先ほど、アデルが“自分が何者かわからない戸惑いに漂っている”と書いた。人は誰しも、特に思春期に、自分のアイデンティティを強く探し求める。自分が一体誰なのか分からずに、試行錯誤する。自らの経験と記憶がアデルの成長に重なり、その一喜一憂に振り回されてしまうというわけだ。ここまでアデルのことばかりを書いているが、レア・セドゥ演じるもう一人の主人公・エマの魅力に触れたい。エマは、クールで大人で余裕をまとっていて不思議。その目に吸い込まれたかと思えば、随所で名台詞をつぶやく。エマの言葉一つひとつに、アデルと観衆が同時にハッとさせられる。

    さあ頭を空っぽにして、アデルとエマの愛と成長にどっぷりと浸ってみてはいかがだろうか。

    ●プロフィール
    菅野いちは(かんの・いちは) AV女優。ピンク映画、舞台でも活躍中。NAXプロモーション所属。

    Twitterアカウント @kanno_ichiha

    公式ブログ「徒然いちは」http://blog.livedoor.jp/kanno_ichiha/

    (C)2013- WILD BUNCH - QUAT'S SOUS FILMS - FRANCE 2 CINEMA - SCOPE PICTURES - RTBF (Television belge) - VERTIGO FILMS

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