今回はメカAGさんのブログからご寄稿いただきました。

■続々・美味しんぼと放射線(メカAG)
福島鼻血問題に対する「科学的アプローチ」を述べる。

まず調査すべき問題を明確にする。今回の場合なら、「福島で鼻血を出す人が増えている」という問題提起について、事実の調査と可能なら原因を研究・究明すること。

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実際に増えているかの確認。これが実は一番難しかったりする。一番ダメなのは美味しんぼの作者が採用しているような、また聞きを鵜呑みにする方法。情報のでどころがいい加減だったり、1人が何回もカウントされたりする。

「3人市虎をなす」というように、人は別々な人間から同じことをいうと、つい「本当かも」と信じてしまう。でも情報元を辿って行くと、案外でどころは1人だったりする。なので、情報源をトレースできる形でなければならない。

なので少なくとも「鼻血が出た」というなら、その人の氏名や日時が記録されなければならない。

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しかしそれをしたとしても全然十分ではない。単に声の大きな少数の人が騒いでいるだけかもしれない。なので鼻血を出した人数ではなく、鼻血を出した人の割合を調べなければ意味がない。実際には福島を幾つかの区画に区切って、その中で鼻血を出した人の比率を求める。それが他の地域よりも高ければ、なにかが起きていることが疑われよう。

比率を求めると言っても簡単ではない。理想的には住民全員に聞き取り調査をするべきだが、住民をランダムにサンプリングして調査することになるだろう。

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ただ聞き取り調査というのも簡単ではない。「放射線の影響がある」という住民の思い込みから、普段では気に留めないような鼻血も記憶しているかもしれない。地震の予言があたるのと同じ理屈。たまたま当たった予言だけを人々は覚えていて、その影でもっと多くの予言が外れていることを無視している。

病院の診察記録を調べるのもひとつの方法ではある。ただこれも住民が過敏になり、普段はわざわざ医者にかからないようなケースでも診療をうける人が増えるかもしれない。

甲状腺癌なんかそのケース。検査に掛かる人が多いと、普通は発見されないような甲状腺癌まで発見され、結果的に甲状腺癌と診断される人が他県よりも増えたりする。

なのでこうしたバイアスを何らかの方法で見積もり、その分を補正してやらなければならない。これは非常に難しい。

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原因に推測。上記の調査でやはり福島では鼻血を出す人の割合が他県よりも多いという結果になったとする。その場合でも、関係ない原因かもしれない。

たとえば年齢などで鼻血が出る確率が変わるとする。そしてもし福島の人口構成が全国平均からずれていて、たまたま鼻血を出しやすい年齢の比率が多かったとすれば、原因は原発事故とはなんの関係もなく、単に年齢のためだけということになる。

このパターンはいろいろ考えられる。もともと福島の人たちは全国平均よりも鼻血を出す人が多いかもしれない。遺伝や食生活、風土などなど。できれば原発事故前の福島の同様の調査と比較したいところだが、そんなものはないだろうから、いろいろ可能性を考え、しらみつぶしに検証しなければならない。

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考えられる要因をすべて取り除くなり補正するなりしても、やはり福島で鼻血を出す人の割合が高いという結果になったとする。つまり原発事故の前後で鼻血を出す人の割合が変わった、と。

その場合でも原因はいろいろ考えられる。もちろん放射線のせいかもしれないが、仮設住宅生活が原因かもしれない。案外、仮設住宅の建材に含まれた化学物質のせいなんてこともあるかもしれない。よく言われるようにストレスかもしれない。

これらを一つ一つ検証していかなければならない。放射線の何らかの影響とするなら、鼻血を出す人の割合と放射線濃度に相関が見られる可能性がある。仮設住宅やストレスなど他の条件が同じなのに、放射線濃度の違いだけで鼻血を出す人の割合が変化しているなら、放射線を疑うべきだろう。

ただそれとて「自分たちがいる場所は放射線濃度が高い」というバイアスが影響しているかもしれない。放射線を防ぐために他の地域の人より室内にいる時間が長いとか。

また放射線濃度都の相関がないからといって、放射線と無関係とも言い切れない。ただ疑う優先度は低くなるだろう。他に優先度の高い要因があれば、そちらを先に検証することになる。

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こうして、やはり鼻血を出す人の割合と放射線が関係ありそうという結果になった場合、そのメカニズムの解明となる。今の福島程度の放射線で鼻血が出ることは考えにくいというのが、現状の研究結果なのだから、それを覆すなんらかの条件があるはず。たとえば放射線治療でもっと高い放射線を浴びても鼻血がでないこととの矛盾をどう解消するか。

この点、美味しんぼの作者が示している内部被曝というのは、放射線治療との矛盾を解消するための一つの仮説ではある。しかし内部被曝についても、それなりの研究はされているわけで、そうした研究と一つ一つ違いを調べていかなければならない。そうすれば従来知られていないような新たな研究成果も得られるだろう。

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ここまでの説明でわかるように、道のりは長い。美味しんぼの作者の主張は、これから歩む長い長い研究の道程を、まだ入り口のドアをノックした程度というのがわかるであろう。

逆に言えばこれまでの放射線に関する研究成果は、こうした過程を経てそれなりに確立されてきたものなのだから、現段階でドアをノックした程度の主張で、従来説を覆すのが難しいことは分かるであろう。これは従来説が永遠に覆らないということではなく、覆すには相当に手間と時間と金をかけた研究が必要ということ。

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美味しんぼの作者が、住民の安全を保証するには、政府はその手間を掛けるべきだと主張することは否定しないが。ただその発端が「鼻血を出している人がたくさんいる」という伝聞だけでは、主張の根拠としてかなり弱いかなとは思う。

最低でも鼻血を出したという人の氏名や日時のデータは必要だろう(べつに一般の公開する必要はない)。しかしそれとて全然不十分で、人口に対して鼻血を出した人数を比較できるような調査をしなければならない。ただこれは個人で無理だろうから、しかるべき調査機関を動かすために、最低限、氏名と日時のデータは必要ということ。

美味しんぼの作者は2年の取材をしたという。しかし少なくとも鼻血に関しては、検証可能な、ある程度信頼の置ける調査の水準に全然到達していない。

関連記事:

「美味しんぼと放射線」 2014年05月11日 『ガジェット通信』

http://getnews.jp/archives/574159

「続・美味しんぼと放射線」 2014年05月12日 『ガジェット通信』

http://getnews.jp/archives/574852

執筆: この記事はメカAGさんのブログからご寄稿いただきました。

寄稿いただいた記事は2014年05月12日時点のものです。

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