ジャッキー・チェンといえば吹き替えはこの人、石丸博也さんだ。
『酔拳』(1978年制作・吹き替えであるフジテレビ版は1981年)で初めてのジャッキー映画吹き替えを担当した石丸さん。以降33年間で、ずっと日本のジャッキー・チェンを演じることとなる。
インタビュー時点で石丸さんは『ポリス・ストーリー/レジェンド』の吹き替え収録直前。ジャッキーを演じるにあたり、いくつか質問をしてみた。
また、筆者が実際に『ポリス・ストーリー/レジェンド』のアフレコにも参加してみたので、その様子もお伝えしたい。
●石丸博也インタビュー
― 今日は『ポリス・ストーリー レジェンド』、そして石丸さんの事を楽しみにしている読者のためにいくつか聞かせてください。
石丸: 別に楽しみにしているかどうかわかんないよ?(笑)
― いえ、僕自身、今日は本当に楽しみにしていて。
石丸: またまた(笑)。
― 本当なんです(笑)。僕自身が、兜甲児(マジンガーZ)やジャッキー・チェンに育てられた世代というのもありまして。ほかにも『スタージンガー』とか『グレンダイザー』とか。
石丸: 『スタージンガー』!(笑) 恥ずかしい!
― もう、石丸さんに育てられたといっても過言ではなくて(笑)。勝手に思っているだけですが!
石丸: そうだよ、勝手だよ(笑)。 俺は育てた覚えはないよ!(笑)
― はい(笑)。さて『ポリス・ストーリー/レジェンド』のお話をさせてください! 今回のジャッキーに関しては、割合シリアスで、コミカルさは少ないかな、とも思います。
石丸: ないね、重たいよね。 (今回のジャッキーの役は)歳は結構俺に近づいているような役だから、その辺は演(や)りやすいんだけどね。
明るさとかが(今までのシリーズと)違うんで、声は“落とし目”で演ると思う。あんまり落とすと怒られると思うけどね。
アクションもそうだけど、高めで「ィアー!」とか「ヤー!」とかじゃなくて「フゥオォン!ンァアアォオオー!」とかさ、やられる時の「ゥオオオオ!」とか、本当自分で力入れていかないとね、「映画に負けちゃう」んだよね。
軽い感じじゃさ、ダメなんだ。本当、顔真っ赤にしてやらないとね、ダメだと思うよ。
― 「映画に負けちゃう」ですか。
石丸: お客さんもその辺、見抜いちゃうんじゃないの?
「なんだよ、ちょっと手、抜いてんなあ」とかさ(笑)。「なんだよ、元の方がいいじゃねえか」なんてさ言われないように演んないと。
そういうところだよね、気を付けるのはね。
― いろんな役を演じるにあたり、石丸さんが日常的に気を付けていることとかってありますか?
石丸: アテレコ演るうえで? 気を付けているって、別にないよね。もう、声出なかったら辞めればいいんだからさ。 (笑)いや、本当に。だから別にノドを鍛えるとか、そういうこともやってないし。……タバコだけは吸ってないんだよね。タバコは5年くらい前にやめたのかな。吸ってたんだけど、やっぱ声の出が悪くてね、やめたんですよ。えらいでしょ?
― (笑)はい。タバコやめられてから、声の出など、違います?
石丸: 違うね。人間っていうのはだんだん衰えてくるんだよ。俺なんかずいぶん衰えてきてるんだけど、それでももし吸ってたらダメだったかもしれないね。ま、ジャッキーの映画やってなかったら吸ってたかもしれないけどさ。(笑)
― ジャッキーを少しでも続けられるように。
石丸: そう。それもあったよね。
― そんなジャッキーも「もうアクションやめる」と引退宣言ぽいことを言っていて。
石丸: そうだよね。(笑)
―あれ聞かれた時、石丸さんどう思われました?
石丸: いやあ、やっぱり歳だから、ってのはあったよね。ジャッキーも歳だから。そりゃそうだろうなって。もう60にもなって、主役でさ、アクション演るのって大変だろうなあ、って。
― でも今回もやってますね、結構なアクション。しかも本当に殴らせてましたからねえ。
石丸: そう。あれ、本当に撮ってるんだよ、アレね。
― 最後のNGシーン見たら「痛そう~!!!」って思いました。
石丸: 痛いよあれは。(笑) もうちょっと考えて撮ればいいのにね、あそこまでやることないでしょ(笑)。
― でも、石丸さんも「映画に負けたくない」っておっしゃったじゃないですか。ジャッキーも多分「本気でやらなきゃいけない」っていう気持ちがあったのかもしれません。
石丸: そうだろうね。それはそうだろうね。
― あの“針金のシーン”見たとき本当、そう思いました。
石丸: あれは驚いちゃうよね!
― 過去で演じてて、嫌だったシーンとかって、ありますか?
石丸: 『新宿インシデント』かな。あれ指詰めるシーンがあって、嫌だったー。ああいうの苦手なんだ。
ジャッキー映画って、ぶん殴ったりはするけど、そんな人を殺したりってのは無かったと思うんだけどね。笑ってすんじゃうんだからね、フフフ(笑)
― 時計塔から落ちたりしてますけどね。
石丸: 自分が痛がってる(笑)。
― なんだか見ていて痛いことは痛いんだけど、笑えちゃうという。
さて、僕みたいな石丸さんに育てられた世代の読者も、ガジェット通信には結構多いんです。「ジャッキー大好き!」「石丸さん大好き!」って人たちに対して、まだまだこれから頑張って働いていく人たちに何か一言おねがいします。
石丸: 俺なんかもう頑張って仕事やる世代じゃないんだからさ(笑)。
― いえいえ、なにか、メッセージじゃないけどハッパかけてもらえませんか?
石丸: どんな社会で生きてても自分の考え、「俺はこうやって生きるんだ!」ってのを一つ持ってほしいね。
たとえば家庭を持ったとしても、子供を育てるときに「俺はこうやってお前らを育てたんだ」っていうのを言えるような。
一般人としても会社に入っても、自分の考えを言えるようにね。ただただ上に使われてとかじゃなくて、「俺はこうやりたいんだ」、「こうしたいんだ」、「俺はこの会社大きくしたいんだ」とかさ、いろいろあるじゃん。そういうのを持って、生きてほしいよね。……死ぬ前の一言。(笑)
― やめてくださいよ(笑)。石丸さんの背中見て、僕らも頑張っていきます。
石丸: 俺ね、こういうの、息子なんかにも言うの。「お前、会社入って、ただただ金もらってやってんじゃないよ」って。自分でもって気にいらないことあったら上司に言うとか、お前が「こうしたい」だったら「こうしたいんですけれども!」ってちゃんとコミュニケーション取ってやんなきゃダメだ、っつってさ。
― すごく説得力があります。ありがとうございます。最後に写真をお願いします!
石丸: また写真撮らなきゃなんねえのか(笑)。
もう何もやんないからね!(笑)わはははは。
― ありがとうございます!(笑)
非常にハキハキと歯に衣着せぬ口調の石丸さん。冗談を交えながら楽しそうに話してくれるそのさまにつられて、こちらのテンションもついつい上がってしまう。そんな石丸さんの“声の強さ”を感じるインタビューだった。
●声優さんの現場に直接潜入!『ポリス・ストーリー/レジェンド』に声で参加しちゃったよ
この日、石丸さんのインタビューと並行して『ポリス・ストーリー/レジェンド』のアフレコ収録も行われていた。
めったに見られないはずの映画のアフレコ収録現場、今回特別に見せていただけるということになった。
ガラスで仕切られた編集ルームからは、台本を手にした多くの声優さんが待機している。
普段は壁際で椅子に座って待機し、演じる番になったら数本あるマイクの近くに移動し、自分の役を演じる。
初めてその現場を垣間見た記者としては、その緊迫した空気に呑まれっぱなしだった。
中国語名などのネイティブな発音はもちろんのこと、セリフの間やその場面でのニュアンスなど、編集ルームからインカムに向かって注文が飛べば、即座に声色を変化させてしまう。まさにプロの仕事。
何度も同じ場面を撮りなおすこともあれば、すんなりと進む場面もある。こうして何時間も収録をすることを考えると、非常に過酷かつデリケートな現場なのだと感じる。
そして今回!そんなプロの現場に混じって、筆者もアフレコに参加させてもらうという超貴重な体験をさせてもらうことになってしまった。
恐縮・僭越な気持ちを抱きつつも、映画に出演できるというまたとないチャンス。図々しくも混じらせていただいた……。
インカムを付け、緊張しながらマイクの前に立つと、隣の声優さんが「どうぞ」と台本を見せてくださった。(ありがとうございます!)
今回収録させてもらったのは、“捕らわれた人質たちの声”。
「何時間も捕らわれて、要求を口々に言う」という場面だ。スタートすると、周りの声優さんは間髪入れず「のどが渇いた」「腹が減った」「トイレに行かせてくれよ」など、即座に「人質」になる。
お次は“打ちのめされるジャッキーに対するギャラリーの声”。
こちらもそのシーンになるやいなや、「やりすぎだ!」「ひどい!やめて」「おい、やめろよ!」等々、切り替わりとバリエーションが本当にスゴい。
筆者は「邪魔してはいけない」という気持ちと「ちゃんと演じなきゃ」という気持ちのはざまで、ささやかに参加させていただいた次第……。実に貴重な経験だった。
6月6日からスタートする『ポリス・ストーリー/レジェンド』で、自分の声が少しでも入っているのか?!と思うとちょっと楽しみだ。
筆者のことはさておき、吹き替え版に収まっているであろう石丸さんの迫真の演技は、これまでのシリーズと一味違うことは間違いない。ぜひとも公開を楽しみにしたい。
映画『ポリス・ストーリー/レジェンド』劇場予告編
http://youtu.be/ls9dFLvJsaY
【公式サイト】映画『ポリス・ストーリー/レジェンド』 6月6日(金) TOHOシネマズみゆき座ほか全国ロードショー
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