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被爆者に対する男子中学生の暴言(中部大学教授 武田邦彦)
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被爆者に対する男子中学生の暴言(中部大学教授 武田邦彦)

2014-06-18 20:00
    被爆者に対する男子中学生の暴言(中部大学教授 武田邦彦)

    今回は武田邦彦さんのブログ『武田邦彦(中部大学)』からご寄稿いただきました。

    ※この記事は2014年06月07日に書かれたものです。

    ■被爆者に対する男子中学生の暴言(中部大学教授 武田邦彦)
    (この記事に書かれていることに対して、多くの方が反対のご意見であることは承知しております。しかし、意見は異なるということが前提にならないと、真の民主主義まで到達できないと思いますので、あえて記事を掲載します。)

    2014年6月初旬、ある中学校の生徒が修学旅行中の行事で、長崎の被爆経験者の話を聞いているときに「死に損ないのくそじじい」と言ったことが報じられた。後に被爆経験者が学校に抗議を行い、学校側が謝罪したとのことだった。

    私は多くの人のご意見と異なるが、この話は「教育」というのものから離れていると私は思う。この社会には年齢的には、「赤ちゃん、教育中の人、若い人、成人や熟年、老齢者」で、健康的には、「健常人、病気がちの人、入院している人、身体が不自由な人」などで構成されている。

    すべての人が「成人や熟年の健常人」として考えたり、罰したりしてはいけない。その人の状態に応じて、すべての人が社会の構成者であることを忘れてはいけない。先日、このブログで書いた「認知症の夫が轢死したので、91歳の妻に監督不行届の罪で720万円の賠償金の支払いを命じた裁判官」のように、あらぬ方向に行ってしまう。

    といって、「命の大切さ」、「多様性を尊重する」、「絆」などの美しい言葉だけを言う。安倍首相が前の内閣の時に「美しい日本」と行ったが、それは「誠意ある人、痛みのわかる人、美しい国土」などで構成されるはずだ。口先だけの美しさなら日本は良い国ではない。

    男子中学生というのは教育中であり、それが故に「不完全」である。不完全であるが故に、成長中であり、教育中で、仕事にも就くことができない。見かけは大人であり、日本語も話すので、時として「大人」として相対する人もいるけれど、温かい目で成長を見守らなければならない年齢だ。また、性差がでてくるころで、男子は反抗的になり、女子は落ち込む時期でもある。大人になる過程で、心身ともにバランスを欠き、本人も苦しんでいる。

    この話には実は前後があり、騒いでいた生徒たちに先生が「静かにしろ」と注意している。注意されるとますます反抗的になる時期だ。この時期の男子学生は心の中で自分がしていることが「悪いこと」であることは知っていて、それが心のゆがみで止められない時がある。良いことではないので、「ダメだぞ!」と叱ることは必要だが、「正式な抗議→校長の謝罪→新聞やテレビの報道」と進むようなものではない。

    また別の視点から見てみよう。このブログに「ノルマンディー上陸作戦70周年式典」のことを書いた。戦争は悲惨なものであるが、同時に「人類の活動の一つ」であることも歴史的事実として正面からみる勇気が必要である。そしてその一環として広島・長崎の原爆投下がある。

    原爆投下は式典も行っているが、それがただ感情的な活動になっているのは問題であると常々、思っている。特に「過ちは二度と繰り返しません」という主語のない言葉は、また同じ過ちを起こす。つまり、人間は感情も大切だが、同時に理性が求められる。戦争は感情よりむしろ理性で抑制されるものであり、それもまた歴史の示すところでもある。

    戦争直後、人間には様々な強い感情があるが、それが70年もたつと、理性を前面に出せるようになる。日本はなぜ戦争したのか、日本はなぜ負けたのか、アメリカはなぜドイツに原爆を使わずに日本に使ったのか?などを真正面から見て、考え、議論する必要がある。

    そのような時期に「語り部」という人の話を中学生に聞かせる必要があるか、かなり疑問である。中学生だから感情的なことしかわからないというのは偏見であり、中学生こそ、鋭い感性で客観的な歴史的事実を正しく認識することができる。

    せっかく、長崎まで修学旅行に行ったなら、むしろ冷静な歴史的事実を現実の遺跡とともに勉強するべきと私は思う。 それにしても、男子中学生が一言、不満を言ったことが「不適切発言」ということで全国ニュースになるという日本社会は異常だ。

    語り部の人は子供に話をしていたのだから、教育中だ。あるいは教師の資格を持っていないかも知れないが、子供に語りかける以上、教師でなければならない。ということは「自分が侮辱されたから」というのではまったくダメで、「生徒も苦しんでいるんだ」と思い、少しずつでも彼の苦しみを解決し、20歳ぐらいまでには立派な大人になって欲しいと願うことだ。

    男子中学生は戦争の悲惨さも、原爆も、平和が大切なことも、そんなことを口にしてはいけないことも、すべて理解している。しかし、「成長過程」にあるので、自分の心を抑えられないだけだ。そして教育中というのは「注意を受ける」ことはあっても「罰せられる」ことはない。このニュースが全国に流れ、その生徒が「罰を受ける」ことになったのは、語り部の人、学校の人、そしてマスコミの記者などの大人の「罪」である。

    執筆:この記事は武田邦彦さんのブログ『武田邦彦(中部大学)』からご寄稿いただきました。

    寄稿いただいた記事は2014年06月18日時点のものです。

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