国会議事堂

●「岩盤規制」で搾取されているのは誰か?

最近の新聞報道で「岩盤規制」という言葉がときどき出てきます。

「岩盤規制」とは、言葉どおり、岩盤のように堅く、これまで10年、20年にもわたって、「こんな規制はおかしい」と指摘されてきたにもかかわらず、びくともしなかった規制のことです。

例えば、農業、医療、労働、教育、エネルギーなどの分野に、こうした「岩盤」がごろごろと転がっています。

 こうした話をすると、「農業や医療など、自分とは縁のない分野の話ですね」という反応をする人が少なくありません。

 実は、これは大きな間違いです。

 例えば、農業の分野の「岩盤規制」の典型例として、株式会社が農地を所有して事業参入することは許されない、というものがあります。

 この規制があることで困る人は誰でしょうか?

 まず思い浮かぶのは、「農業に参入したがっている民間企業」かもしれませんが、それだけではありません。

 こうした参入規制によって、効率的な農業経営が制約され、非効率な農家を守るために生産調整などの価格維持政策が講じられ、結果として、消費者が無用に高い農産品を買わされることになっているからです。

つまり、損をしているのは、農産品を買っている消費者たちみんなです。

 こうした参入規制は、農業以外の分野でもよく見られます。

 参入規制があると、外から強力な競争相手が入ってきませんから、内側にいる事業者にとっては、居心地のよい環境です。

 しかし、競争がないということは、価格が高く設定されたり、商品・サービスの質が低下することにつながります。

 これが、規制によって生まれる既得権構造です。つまり、「既得権者の利益vs消費者の利益」という構図です。

 こうした既得権者と消費者の人数を比べれば、既得権者はごく一握り、一方で消費者は無数です。

 ところが、しばしば、ごくごく少数派のはずの既得権者の利益が優先され、既得権を守る規制が維持され続けるという事態が生じます。これが「岩盤規制」です。

 なぜ、こうしたことが起きるのかというと、政策決定プロセスが、ごく少数派の既得権者が優先されやすい構造だからです。

 まず、政治家を選ぶプロセスです。例えば農業、医療などを思い浮かべれば明らかなように、既得権にはそれぞれ強力な団体があります。国会議員や地方議員などの選挙では、こうした団体が集票マシーンとして機能します。この結果、社会全体では「既得権者:消費者」は「ごく少数:圧倒的多数」のはずなのに、国会や地方議会では構成が逆転してしまうのです。

 次に、政策決定プロセスで、議会と並んで大事な役割を果たすのが役所です。役所は、既得権者と消費者のどちらの味方をするかというと、これもまた既得権者です。なぜかというと、役所は縦割り組織になっていて、それぞれの事業分野を所管する省や局がおかれています。それぞれの省や局は、所管業種の利益のために仕事をする構造になっているのです。

 ついでにいえば、マスコミはしばしば役所の味方をします。マスコミにとって役所は重要な情報源で、役所の意向・利益に反する報道ばかりしていると、大事な情報をもらえなくなってしまうからです。この結果、新聞やテレビでは、こうした既得権構造がきちんと報じられないことがよくあります。

 こうして、「既得権者の利益vs消費者の利益」の対立が生じた際には、政治、役所、マスコミがそろって既得権者の味方をします。消費者は、そもそもマスコミできちんと報じれなれないので、問題がよく分からないままに損をし続ける…、これが、「岩盤規制」の裏側の搾取構造です。

 搾取構造を打ち破るには、まず、搾取されている人たちが、「自分たちは搾取されている」と認識しなければなりません。

 「岩盤規制なんて、自分には関係ない話」と考えず、まず問題を理解することが必要なのです。

(株式会社政策工房代表取締役 原 英史)

●関連書籍
 『日本人を縛りつける役所の掟 岩盤規制を打ち破れ』(7月1日刊行)では、21分野の岩盤規制をとりあげ、それぞれの規制の裏側を解説しています。
http://www.amazon.co.jp/dp/4093897492

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