オバマ米大統領の今回のアジア歴訪は「アジア重視の旅」と呼ばれた。第2期オバマ政権の外交政策の基調は「リバランス」、つまり西方での戦争に傾きすぎた米国が再びバランスを取り直して、「ピヴォット・トゥー・アジア」、つまりアジアに軸足を移すことにあり、それを実際に各国を回ってデモンストレーションすることが主な目的とされた。「しかし、アジア重視はいいとして、経済と安保のどちらの面に力を入れるのか、またそれを通じて台頭する中国を抑え込もうとするのか新しい秩序に引き込もうとするのか、メッセージがあいまいだった」と、ある元外交官は指摘する。

確かにそうで、東京ではオバマは、安倍晋三首相の懇願を容れて「尖閣は安保の適用範囲」と明言して、安倍の中国包囲網戦略を応援するかの態度をとりながら、記者会見では「私が強調したのは平和的に解決することの重要性だ。言葉による挑発を避け、日中が協力していけるようにすべきだ。米国は中国と非常に緊密な関係を保っており、中国の平和的台頭を米国も支持している」と述べた。その言葉が本心ならば、安倍の「日米両軍が組んで中国と戦争をするんだ」と言わんばかりの冷戦妄想を煽るようなことは慎むべきではなかったか。また本当に中国の台頭を支持するのなら、最初から中国を除外したTPPで、経済面から中国包囲網を作ろうとするかの政策は改めたらどうなのか。

あるいはマニラでのオバマは、米軍が再びフィリピンに駐留できるようにするための防衛協力強化協定に調印しながら、記者会見では「我々の目標は中国に対抗することではない。中国を封じ込めることでもない。我々の目標は、国際的なルールと規範が尊重されるようにすることであり、それには国際間で論争になっている分野[南沙諸島問題]も含まれるべきだ」と語った。だったら、米軍を同国に再駐留させることよりも、その国際ルール・規範の形成にどのようにして中国を引き込むかの具体策を述べるほうが建設的だったのではないか。

「ま、好意的に見れば、中国に対して対話と圧力のリバランスを試みているのかもしれないが、それならそうとはっきり説明しないと、安倍やその取り巻きたちのように反中国で凝り固まっている愛国派は、オバマが自分たちの強硬路線を支持してくれたと思い込んでしまうでしょう」(元外交官)。オバマのあいまいなメッセージを安倍が自分の都合のいいように解釈することで、アジアが一層、不安定になる危険が強まったと言える。▲

(日刊ゲンダイ4月30日付から転載)


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<高野孟(たかの・はじめ)プロフィール>
1944年東京生まれ。1968年早稲田大学文学部西洋哲学科卒。通信社、広告会社勤務の後、1975年からフリー・ジャーナリストに。同時に内外政経ニュースレター『インサイダー』の創刊に参加。80年に(株)インサイダーを設立し、代表取締役兼編集長に就任。94年に故・島桂次=元NHK会長と共に(株)ウェブキャスターを設立、日本初のインターネットによる日英両文のオンライン週刊誌『東京万華鏡』を創刊。2002年に早稲田大学客員教授に就任。05年にインターネットニュースサイト《ざ・こもんず》を開設。08年に《THE JOURNAL》に改名し、論説主幹に就任。現在は千葉県鴨川市に在住しながら、半農半ジャーナリストとしてとして活動中。