先週末のNHKニュースによると、日本政府は、年内のプーチン露大統領の来日実現に向けて岸田文雄外相にロシアを訪問させるべく調整に入ったという。理由は簡単で、5月12日にケリー米国務長官が、2年ぶり、ウクライナ危機の後では初めて、訪露してプーチンおよびラブロフ外相と長時間にわたり会談を開いたので、政府内で「日露間の外相往来の障害はなくなった」という判断が立ったためである。

 こういうことは、事態が膠着している時に率先して動いて米国を助けてやるのが同盟国というものだが、日本は属国なので「米国が対露制裁の先頭に立っているのに抜け駆けのようなことは許されない」「米国が動くのなら後に従おう」という情けない発想から抜けられない。

 本欄3月19日付で鳩山由紀夫のクリミア訪問が「国賊」呼ばわりされたことに異を唱えたが、鳩山がそうなら、同じく制裁が解除されてもいないのに訪露するケリーも岸田も国賊ではないのか。

 ケリーはソチでの会談を通じて、第1に「ロシアは国際テロとの戦いの重要なパートナーでありイラン核問題での同盟国である」と言った。北朝鮮の問題も議題となり、つまり米露はグローバルな問題を戦略レベルで語り合う正常な関係に復帰しつつあるということである。

 第2に、ウクライナ東部の情勢に関連して、ケリーは、ポロシェンコ=ウクライナ大統領が企図している「ドネツク空港奪還作戦」を抑止するつもりであることを表明し、ロシアもまた東部の親露派勢力に影響力を行使して、今年2月にメルケル独首相のイニシアティブで達成された「ミンスク停戦合意」の線に沿って事態を収拾するため協力することで合意した。

 第3に、ケリーはさらに「停戦合意が完全に履行されれば米欧は経済制裁を解除する」とも言明した。同合意は、クリミアに対するロシアの支配に触れておらず、ケリーも特にクリミアに言及しなかった。ということは、ロシアがクリミアを放棄することは制裁解除の条件とはならない、つまり、ロシアによるクリミア実効支配は黙認するということである。

 いずれそういうことになると見越したので、鳩山と私は3月に敢えてクリミアの実情を視察して、それを内外に伝えることを試みた。それが国賊行為だったのであれば、しつこく言うが、ケリーはどうして国賊にならないのか。自分の頭で物事を考えられない政府やマスコミの短慮がこの国の先行きを危うくしているのである。▲(日刊ゲンダイ5月21日付から転載)