声劇台本 【芝浜】現代版
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声劇台本 【芝浜】現代版

2013-06-03 12:42

    




    芝浜現代版 

    作者 : はなみん  原案(台本化提案):秋

    スペシャルサンクス :ウボァー 秋さん うららさん 

    参考文献:中学までに読んでおきたい日本文学③おかしい話
         ~桂三木助 芝浜~ あすなろ書房

    *古典落語「芝浜」を現代版声劇用台本にしてみました*

    *25分程度かかると見ておいた方がよろしいかと* 

    *一言でいうと「人情話」です*

    ♂1:♀1

    勝利(かつとし):♂:大酒飲みの土工(どこう)絵にかいたようなヘタレ
    憎めなくて可愛い 途中から真人間に変身 
             好きな漫画は「はじめの一歩」

    ゆい:♀: 勝利の妻 しっかり者 
         途中から勝利に大ウソをついて三年間だまくらかす。
         好きな漫画は「鬼灯の冷徹(ほおずきのれいてつ)」

    役表

    勝利:

    ゆい:

    注釈:①平安大吟醸(へいあんだいぎんじょう)=希少な日本酒。
      「華やかな香りと繊細な味わい、袋吊りでしぼられたその豊かな風味はまさに絶品」
        だそうな

       ②「畳と女房は…」=「畳と女房は新しい方が良い」 
         という失礼なフレーズがあるそうな
       ③「キップがいい」=気風が良い 男気のあるさわやかな事
         おもに男性の性格を表す時に用いる慣用句

       ④山田錦(やまだにしき)=みなさんおなじみ、白鹿の日本酒。
        「毎日気軽に飲むお酒」…ってタグに…


    第一幕

    ゆい:勝利、ねぇ勝利!

    勝利:ん…うぅん

    ゆい:起きてよ!

    勝利:ふぁ…。ゆいちゃ~ん寝かせてくれよ

    ゆい:何言ってるの、今日こそ仕事に行ってもらいますからね!

    勝利:乱暴だなあ。旦那を起こすならもう少し優しく起こしてよ。何だよもー

    ゆい:何だじゃないわよ。ぐずぐずしてると遅くなっちゃう。そろそろ現場に行かないと…

    勝利:何?現場って

    ゆい:土建の解体現場よ!

    勝利:んー…今日はやめておく

    ゆい:ちょっと、いつまで飲んだくれてたら気が済むの

       昨日あんた言ってたじゃない

      『明日から仕事行くから、今夜は飲めるだけ飲ませてくれ』って

       もう沢山だっていうほど飲んだでしょう?   

       今日仕事に行ってくれないと本当に生活に困るのよ

       貯金はないし、ご飯もろくに作れないの!

    勝利:飯が作れないんなら、おかず作っておけばいいじゃん

    ゆい:おかずも作れないの!

    勝利:おかずが作れないんなら、水を飲んでおけばいいじゃん

    ゆい:魚じゃないんだから、水ばっかり飲んでたって生きていられないわよ!

       いいから日雇いの仕事行ってきて!

    勝利:ゆいちゃーん、考えてもみてよ。半月も仕事サボったんだよ?

       工務店の社長、今頃カンカンだ

        行ったってさ~『クビだーっ!』ってどなられて終わりだよ

    ゆい:しっかりしてよ。そこはさ

       『仕事休んで申し訳ありませんでした。今日からまじめに働きます』って、

       頭の一つでも下げなさいよ

       それとも何?勝利は一生働かないで私に貢がせるつもり!?

    勝利:まったまたー、そんなことあるわけないじゃーん。人をヒモみたいに言わないでよ~

    ゆい:だったら工務店行ってきなさいよ。

       解体を請け負っていたあの屋敷、今日はもう整地だって電話で聞いたわよ

       場所はわかってるでしょ、すぐそこの芝浜(しばはま)よ

    勝利:え~。でもさ、作業服洗いに出してないし

    ゆい:何年土建屋の妻してると思っているの。私が洗っといたわよ

    勝利:ヘルメットなくしちゃったし

    ゆい:一個予備があるから出しといた

    勝利:軍手切れてたし

    ゆい:忘年会のビンゴで、一年分私が当てたじゃない

    勝利:タバコは…

    ゆい:作業着のポケットに入ってる!

    勝利:ゆいちゃん、現場は火気厳禁だよ~。カバンの方に入れておいてくれないと

    ゆい:勝利~~

    勝利:わかったよ!行けばいいんでしょう!?目が怖いよ…

    ゆい:嫌な顔しないで行ってきて。

       地下足袋(じかたび)も新しいの出しといたんだから…ね、気持ちいいでしょ?

    勝利:よくない。気持ちいいっていうのは…    

       駆けつけ一杯、生ビール飲んだ時の事を言うんだよ

    ゆい:かーつーとーしー

    勝利:冗談だってば。わかったよ行くよ、行きますよ!

    第二幕

    勝利:ゆいちゃん、ゆいちゃん!大変だ!

    ゆい:勝利!?何で帰って来たのよ。さっき出かけたばっかりじゃない

    勝利:はぁ、はぁ、はぁ…

    ゆい:汗びっしょり。どうしたの?

    勝利:誰もついて来てない?

    ゆい:…いないわよ

    勝利:あぁ~~よかったぁ~

    ゆい:一体どうしたの。あんまりサボり過ぎたから、社長が怒って追いかけてきたの?

    勝利:違うよゆいちゃん。着く時間が早過ぎて、芝浜の現場には人っ子一人いなかったし

    ゆい:知ってるわよ。勝利がごねて遅くなった上に、迷子になる時間を入れておいてあげたの

    勝利:ヒドいよゆいちゃ~ん。あ、それより俺、札束入った缶を拾ったんだよ

    ゆい:…はぁ!?

    勝利:もう建物はほとんど撤去されててね。
       
       

       誰もいなかったし、タバコ吸っちゃえって思って一服してたらさぁ~

       足元の地面に錆びた缶が転がってるから、灰皿代わりにしようと開けてみたんだ

       そしたら札束が見えて、思わず上着に押し込んで持って来ちゃった

    ゆい:持って来ちゃったって…。いくら入ってたのよ。

       えっと…十万円の束が、いーちー、にーいー、さんまる、しいたけ

    勝利:ゆいちゃん…数え方がなにげにレトロ

    ゆい:…100万円!?

    勝利:そんなに入ってたの!?

    ゆい:大金じゃない!どうするの勝利!?

    勝利:どうするも何も、俺が拾ったんだから俺のものだよ。

       これだけあれば当分遊んで暮らせる、解体屋なんてしなくてすむんだ

       ゆいちゃん、うな重の出前とろう、特上二人前、それと…酒!

       えーっと、電話、電話…。(電話をかける)

       あ、三河屋さん?『平安』の大吟醸届けてくれる?

       いっぺん飲んでみたかったんだよ~。え?高すぎやしないかって?いいのいいの!

       すぐに頼むよ?

    ゆい:マニアック…

    勝利:年に数本しか作られない幻の酒だよ?

    酒屋(さかや)の店頭に置いてあってさ、ずっと狙ってたんだ~

    ゆい:どうせ味なんか分かんない癖に

    勝利:あ、三河屋さん来たんじゃない?ちょっと見てきてよ

    ゆい:やけに早いわねぇ。あー、サブちゃんおつかれ~…ひとビン12万!?

       あ、えっと…支払いはいつもの通り月末で。うん、ありがとう

    勝利:ゆいちゃん、湯飲みについで。おっとっと…(飲む)くはぁ~、うまい!

       昼間に飲む酒ってなんでこんなにうまいんだろう

       昨日はね、飲みながら『仕事行くのタルいなぁ~』って思ってたんだ

       そうするといくら飲んでもまずいんだよね。それに比べて、今日のはうまいなあ~

       よーし、これからは遊んで暮らすぞお!酒も飲み放題、幸せ~

       …うーん…もう酔いがまわってきたみたい。ふぁあ~…ぐー…(寝る)

    第三幕

    ゆい:勝利、ねぇ勝利!

    勝利:ん…うぅん

    ゆい:起きてよ!

    勝利:え、火事!?

    ゆい:火事じゃないわよ、このおっちょこちょいっ。仕事に行く時間よ。

       ぐずぐずしてると現場に着くのが遅くなっちゃう

    勝利:何?現場って

    ゆい:土建の解体現場よ!もうそろそろ働いてくれないと、ご飯も作れやしない

    勝利:飯が作れないなら、おかずを作って…って、あれ?

       前も似たようなやりとりしなかった?

    ゆい:何バカな事言ってるのよ。いいから日雇いの仕事に行って来て

    勝利:昨日の札束があるじゃないか

    ゆい:何よ昨日の札束って

    勝利:いやいやいや。錆びた缶に入ってたでしょ?100万円。

       あれでご飯でもおかずでも買ってくればいいんだよ

    ゆい:錆びた缶?100万円?

    勝利:俺が昨日芝浜で拾ってきたお金だよ!

    ゆい:何言ってんの。あんた昨日芝浜なんか行ってないわよ

    勝利:ゆいちゃんがたたき起こして現場行けって言ったんじゃん!              

       そこで見つけた缶に100万円入ってたの、渡したじゃないか!

    ゆい:もらってないわよそんなの。夢でも見たんじゃない?

    勝利:夢ぇ!?

    ゆい:悲しいわね。貧乏生活長いと、そんな夢見るのかしらね

    勝利:いや、確かに拾ったんだよ

    ゆい:勝利、それ夢よ。そんなお金あるわけないじゃない。

       昨日は酔っぱらって、べろんべろんになってたでしょう

       『明日から仕事行くから、今夜は飲めるだけ飲ませてくれ』なんて言って

       お金無いのに『平安』だか『鎌倉』だか知らないけど、   

       とにかくべらぼうな値段の日本酒注文したり

       色々やらかして、とうとう寝ちゃったんじゃない。

       いつ芝浜なんて行ったのよ

    勝利:昨日の朝、行ったと思ったんだけど…。う~ん、ずいぶんはっきりした夢だなぁ

       え、じゃあなに?あの100万円も夢!?

    ゆい:そうよ。やっとわかったの

    勝利:そんなぁ。で、飲んだり食べたりしたのは現実?

       半月も仕事サボってるのに俺そんなことしたの?

       お金払えないじゃん。どうしよう…

    ゆい:こっちが聞きたいわよ。全く何考えてるの

    勝利:えらい夢みちゃったなあ…ゆいちゃん…一緒に死のうか

    ゆい:ばーか、死んでたまるもんですか。勝利が4・5日工務店で働けば済むことでしょう

    勝利:ほ、ほんとに!?ゆいちゃん!

    ゆい:本当。後はあたしが何とかするから

    勝利:ゆいちゃん…ごめんね。前から禁酒しろって言われてきたのに…

       よし!もうお酒は飲まない。

       これからは一生懸命、解体だって足場組みだってするよ。

       だから、お願いゆいちゃん家計なんとか回してくれる?

       少しの間ツケにしたり、色々気が重いと思うけど…

    ゆい:…いいよ。そこまで言うなら信じてあげる。一緒に頑張ろう?

    勝利:ゆいちゃん…。ありがとう!俺、がんばって仕事するよ!

       …でもなぁ、俺半月くらい現場行ってないよ。どうしよう~

       作業服洗いに出すの忘れてたし

    ゆい:私が洗っておいたわよ

    勝利:ヘルメットなくしちゃったし

    ゆい:一個予備があるから出しといた

    勝利:軍手切れてたし

    ゆい:飲み会のビンゴで当てたじゃない私が。地下足袋(じかたび)は…

    勝利:新しいんでしょ

    ゆい:よく分かってるわね

    勝利:夢でも同じようなこと言ってた気がする…まあいいか。よし、行ってくるよ

    ゆい:現場では禁煙よ

    勝利:分かってるよ

    第四幕

    ゆいM:それから勝利は、人が変わったように解体屋の仕事に精を出した。

        お酒をやめて真面目に働くあの人を、ちょっと見直した

    勝利M:6か月後、ゆいちゃんは子どもを生んだ。

        俺が手の付けられない『のんべえ』だったあの頃、すでに身重(みおも)だったんだ

    ゆい:どうしたの、何か考え事?

    勝利:うん。俺、よく捨てられなかったなぁ…。ゆいちゃん、がんばったね

    ゆい:母は強しって言うでしょう?子供産めば度胸がつくのよ         

    勝利:(小声で)ゆいちゃん、前から強いじゃん…

    ゆい:あぁん!?

    勝利:何でもない!

    ゆい:あら、そ

    勝利:…とにかく子供は可愛い。特に女の子は可愛い

       一姫(いちひめ)~、パパですよ~!

    ゆい:うわー見てられない、鼻の下のばしちゃって。娘にはデレデレなんだから

        二人目がお腹にいるんだからね

    勝利:えええええええ!!??

    ゆい:うろたえるなって。次は男の子だからね、名前は二太郎(にたろう)おめでとうパパ

    勝利:俺は名前つけさせてもらえないのか…ははっ。

       こうなったら、今までみたいにぐうたらできないよなぁ

    ゆい:当たり前でしょ。チャキチャキ働いて教育費稼ぎなさい

    勝利M:俺はがむしゃらに働いた。すると仕事も軌道に乗ってきた

        気づけば俺は、小さいながらも、

        一つの解体会社を切り盛りするようになっていた   

    ゆいM:あれからもう3年か…早いな

    勝利:ただいまあ!ゆいちゃ~ん遅くなってごめんね。忘年会長引いちゃって

       子どもたちは…ありゃ、もう寝てる。ん~寝顔がかわいいなあ!

    ゆい:おかえり。大晦日なのに忙しいわね

    勝利:締日だから、三河屋のサブちゃん集金に来るね

       借金の取り立ても押しかけてくるんだろうなぁ。頭痛い…                             

    ゆい:取り立てなんて、もうどこも来ないわよ

    勝利:どこも来ないってことはないよ

    ゆい:お金は全部返し終わってるの

    勝利:え…うそ。いつの間に?

    ゆい:あたしを誰だと思ってるの。『鬼の会計士ゆい侍』って、女子高では有名だったのよ

       それにあの時…家計はなんとかするって言ったでしょ

    勝利:ゆいちゃん…。俺、色々思うところはあったけど、鬼会計侍と結婚してよかった

    ゆい:微妙な縮め方しないでよ。…だから勝利、年越しはゆっくりしていいのよ

       今まで頑張ったね

    勝利:そうか…。はぁ~気が抜けた。とうとう借金地獄からおさらばか。

       何か世界が明るくなった気がする…

        あれ?本当に明るくなってるよね。あぁ~わかった!畳を取り替えたんだ

    ゆい:当たり。ちょっと早いかなって思ったんだけど、

        今日畳屋さんに来てもらって全部入れ替えたの

    勝利:そうかぁ…、道理で。いい気持ちだなあ。昔から『畳と女房は新し』…ごほん。

        奥さんは古い方ががいいな!

    ゆい:言い直しても、かえって失礼だから

    勝利:あ~よかったなぁ。ここまで長かったぁ~

       一番つらかった時期は、2,3年前だっけ?どうにも支払いができなくてさ

       俺が『ゆいちゃん…心中しようか』って言ったら

    ゆい:『ばーか、死んでたまるもんですか。取り立て業者はあたしが何とかする。
        まかしといて』

    勝利:ゆいちゃんキップがいいんだから

    ゆい:そう言えば、これ以上支払いを引き延ばせない時だっけ

       『あんたがいるから話がややこしくなるのよ。押し入れの中に入ってなさい』って、

        勝利を隠した事あったよね

    勝利:そうそう

       『親戚にお金借りに行ってますから、どうかお引き取りください』

       なんて口から出まかせを言ってさ

       おんぶしてる一姫(いちひめ)は泣いちゃうし、何とも悲壮な空気作り出しちゃって…

       いやぁ~ゆいちゃん役者だねぇ、さすが鬼侍!

    ゆい:なにそのふたつ名

    勝利:上手くごまかして借金取り一掃したんだよね。

       一番最後まで居残ってた三河屋さんも、とうとう帰っちゃってさ

    ゆい:それで勝利に『出てきていいよ』って、合図したのよね

    勝利:あの時はトイレ行きたくてさ、もうだめかと思ったよー

    ゆい:なのに出てきた途端、三河屋さんが引き返してきて

    勝利:押し入れにもどる暇もないし、どうしようかってオロオロしてたらさ、

       ゆいちゃんがそばにあった毛布をとっさにかけてくれたんだっけ

    ゆい:サブちゃんたら

       『奥さん、今年は近年まれにみる大寒波ですね。毛布までふるえていますよ』なーんて

    勝利:春になって、三河屋さんと顔合わせた時は決まりが悪かったなあ!

        今となっては笑い話だけど

    ゆい:…あ、除夜の鐘が鳴り始めた。年が明けるね

    勝利:いいお正月だなぁ。ゆいちゃん、悪いんだけどお茶入れてくれる?身体が冷えちゃった

    ゆい:うん。…はい、どうぞ

    勝利:ありがとう。はぁ~、雪降ってきた。寒いわけだよ

       こんな冷える日は、熱燗(あつかん)をきゅきゅっと一杯…

       飲んでる奴もいるんだろうな

    ゆい:勝利も…たまには飲みたいよね

    勝利:いや、他人の話。もう酒なんていらないよ。

       昔はアレがないと何も始まらないって感じだったけど

       禁酒してみると、全然飲む気にならないんだよね。

       ゆいちゃんの入れてくれる玄米茶の方が、よっぽどおいしいや

    ゆい:…ねえ、勝利さん。折り入って話があるんだけど…

    勝利:何?いきなりかしこまっちゃって…。ああ!もしかして三人目!?

    ゆい:違うわよ!二太郎が生後何か月だと思ってるの!

    勝利:あ…ごめん!

    ゆい:ほんっとにバカなんだから!…じゃなくて、えっと…勝利さん?

    勝利:は…はい!なんでしょうか

    ゆい:あのね、最初に約束してもらいたいんだけど、あたしが話し終わるまで

       泣いたり、暴れたり、ダダこねて床をゴロゴロ転がったりしないでね?

    勝利:子どもじゃないんだから、そんなことしないよ

    ゆい:やりかねないから言ってるんでしょう!?

    勝利:わかりました!何だかわからないけど、わかりました!約束します!

    ゆい:おびえないでよ、情けないわね

    勝利:(小声で)だってゆいちゃん、たまにおっかないんだもん。さすが鬼侍…

    ゆい:何か言った!?

    勝利:お話をどうぞ!

    ゆい:あのね…これ、見覚えある?

    勝利:何その缶?古いなあ。錆びてるじゃないか

       いくら貧乏だからって、子どものオモチャにこれじゃあ可哀そうだよ             

    ゆい:オモチャのはずないでしょう!?

    勝利:わあ、ごめんなさい!

    ゆい:じゃあ…覚えてないの?

    勝利:そんな分別ゴミに見覚えはないよ。

       伊達にこの家のゴミ出し係、一手に引き受けてないんだからね!     

    ゆい:いばるところじゃないわよ

    勝利:はい…

    ゆい:いいから、中を見て

    勝利:あ…お金が入ってる。ゆいちゃんのへそくり?すっげー

       まさかこんな所にお金が入ってるなんて誰も思わないよ

       いやいいんだよ、へそくりぐらい。皆やってることなんだから

    ゆい:いくら入ってる?

    勝利:え…何これ。札束!?いーち、にー、さんまの、しっぽ…

    ゆい:勝利、関西出身だっけ?

    勝利:…100万円!?これみんなへそくり!?いつの間に…。女って怖いなぁ…

    ゆい:ねぇ、本当に記憶にないの?その缶と100万円。大ヒント『芝浜』

    勝利:…そういえば。2,3年前、芝浜の現場でお金の入った缶を拾った夢を見たような…

    ゆい:それ、夢じゃないのよ。本当に拾ってきたの

    勝利:うそぉ~!?(泣き出す)…あの時ゆいちゃん、夢だって言ったじゃない!

    ゆい:泣くな!最後まで話を聞きなさい!                           

    勝利:うぅう…。分かったよ、聞くよぅ

    ゆい:このお金を見せてくれた時、あんた言ったでしょ。

      『明日から働かない、朝から晩まで遊んで暮らすんだ』って

       それを聞いて、あぁ弱った事になったと思って、工務店の社長さんに相談したの。

      そしたら社長さんが

      『そんなお金に少しでも手を付けてみろ、あいつは真っ当な生き方が出来なくなるぞ

       金はすぐに警察に届けて、勝利は何とかごまかせ

       あいつは馬鹿だから、酒を飲んで寝ている間に、夢を見たことにすればいい』って…       

    勝利:あのおやじ…

    ゆい:あんたはちょうど寝てたから、これは夢って事でごまかせるな…と         

       そしたら勝利、あきれるくらい簡単に私の話信じたでしょう?

    勝利:ひどいよゆいちゃん

    ゆい:あんたったら人がいいんだから

       あれだけ好きだったお酒すっぱりやめちゃって

    勝利:うぅ…

    ゆい:このお金だって、だいぶ前に落とし主不明で帰ってきたのよ。

       その時勝利にも見せて二人で喜びたかったんだけど

      『いや待て。せっかく心を入れ替えて一生懸命働いてるんだし。

       ここで大金が手に入ったらまたゴクツブシに逆戻りするかもしれない。

       …もう少し後にしよう』ってね

    勝利:そんなに信用ないの俺!?

    ゆい:こんなもの見せて、すねてアル中になったらどうしようもないじゃない。

       私は心を鬼にして今日までだまってたのよ

    勝利:いつも鬼だよ、鬼侍だよ                                        

    ゆい:二人目も生まれたし、そろそろ言う事にしたんだ          

       …あ、もう暴れていいよ

    勝利:(地団駄を踏んで)うわぁああ~!ゆいちゃんのばかあー!

    ゆい:うるさい!

    勝利:!?

    ゆい:…。ごめんなさい。腹立つよね、妻に三年も騙されちゃったんだから…

    勝利:うぅ…。腹は立つ、けど…ちょっとだけ

        …それよりさ、ゆいちゃんは賢いなぁ

        確かにこんなお金があったら、仕事行かないで一日中飲んだくれて、

       すぐに使い果たしちゃったろうな    

       仕事もクビになったかもしれないし…ゆいちゃん、ありがとう

    ゆい:勝利さん…許してくれるの?

    勝利:当たり前だよ

    ゆい:よかったー!これだけが気がかりだったのよ。あんた一度へそ曲げると長いから

    勝利:え

    ゆい:それより、お酒買ってあるの。どう?今日ぐらい

    勝利:平安!?

    ゆい:山田錦(やまだにしき)!

    勝利:なーんだ

    ゆい:なーんだじゃないわよ。調子に乗るな

    勝利:ごめん…                                

    ゆい:お正月なんだし…湯飲みに一杯くらい、いいかなーって思って

    勝利:嬉しいなあ!あぁ~久しぶり。この匂い…たまんないなあ!

       あ…でも…

    ゆい:どうしたの、ぐいっといっちゃいなさいよ

    勝利:やっぱり酒はやめとくよ

    ゆい:なんで。人がせっかく…

    勝利:いや、また夢になると…いけないから


    どどん!

    終わり   


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