【ケルブレ小説】久我山家の日常・スパーリング!
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【ケルブレ小説】久我山家の日常・スパーリング!

2017-01-08 06:29
    この小説はケルベロスブレイドの二次創作小説となります。
        ――――――――――――――――――――――――――――――――――
    「で、でてこいや~……」
    「違う! 出てこいやァ! だ!」
     新年。
     皆が帰宅し、誰もいなくなったプロレスリングMPWCのリングで、椎名はクーガーの秘密特訓を行っていた。レスラーとしてはまだ未完成な椎名だが、アメリカンプロレスのノリで、久我山姉妹を統括するプロモーター役として、クーガーを引き入れようとしているのだ。
     だが、椎名の指導は行き詰まっていた。
    「ダメだな。それでも、山猫無幻流武闘術伝承者か?」
    「それは今は関係ねぇだろ!」
    「かつて、真剣で斬り合っていた剣士とは思えない、気迫の無さだぞ?」
    「う……」
     プロモーター役というは、得てしてハッタリを聞かせてビッグマウスなマイクパフォーマンスを行うのが仕事である。だが、クーガーはあまりにもマイク慣れしていなかった。胆力は相当にある方だと椎名は踏んでいたのだが、その読みは大きく外れていたのだ。
    「クーガーさん、頑張ってくださいね!」
    「七瀬! 頑張るのは、お前もだぞ!」
     そして、妹の七瀬。椎名の相方としてリングに上がる予定ではあったのだが、あまりにもレスリングに向いていない。基礎体力はかなりあるし、格闘の知識も真面目に勉強したらしく、かなりの物。しかし、性格が柔らかすぎて、イマイチ闘う気迫というものが感じられないのだ。
    「でも、姉さん。ボクはそんな、リング上で闘うなんて……やっぱり、気が進まないです」
    「うぬぬ……」
    「オレだって、マイクなンて出来ねぇよ!」
     七瀬が弱気を見せたら、ここぞとばかりにクーガーも噛み付いてきた。厳しい態度を見せている椎名ではあるが、根は極度のシスコンであるし、受けた恩義は忘れない性格なので、クーガーにもついつい甘くなってしまう。こうやって噛みつかれると、強く言い返せなくなってしまうのだ。
    「うぅむ……そうだな。逆に考えよう」
    「逆に?」
    「ンだよ?」
     七瀬とクーガーが怪訝な顔をする。
    「七瀬にはセコンド業務全般でサポートに回ってもらう、師匠は選手だ」
     七瀬は細やかな配慮が出来るし、機転も利くのでサポート、かつて剣豪として慣らしたクーガーは選手として闘う――それが現状での最適解であると、椎名は結論した。
    「まぁ、その方がボクには向いていると思いますけど」
    「マイクパフォーマンスするよかぁ、戦った方が幾分も気が楽だな」
     クーガーと七瀬も、その采配には異論はないようだ。
    「それでは……七瀬はいいとしても、師匠がどの程度できるか、査定させてもらうがな。師匠の山猫無幻流は剣術だけに終わらない総合武術。格闘もこなせる……ということは私も承知しているが、そのままではプロレスにならんからな。受けること、魅せること。それを成立させなければ、ならん」
    「小難しいなぁ。アレだろ? ばーんとぶつかって、ばーんと派手に技を出しゃあいいんだろ?」
     椎名の心配をよそに、クーガーは大きく腕を振り回しながら、何処か愉しげである。
    「その派手にぶつかり合う体力が、今の師匠にあるとは思えんが……」
    「そりゃ、大丈夫だぜ! こないだからトレーニングしてっからよ。30分ぐらいなら、持つぜ?」
     プロレスの試合は、時間無制限一本勝負を除くのならば、長いものでは60分一本勝負だ。その60分一本勝負の試合でも、だいたい30分未満で決着がつくことが多い。30分間全力で動けるのならば、通常の試合ならばなんとかなるかもしれない公算が大きいのだ。
    「では、早速、私と一戦交えてもらおう。その結果で、今後を考える」
    「おう、イイぜ!」
     こうして三人だけの道場で、クーガーの査定マッチが組まれた。

    「それじゃ、ゴングを鳴らしますよー!」
     リングサイドで、七瀬はゴング片手にリング上を見上げる。そして、カァーン! と高らかにゴングを打ち鳴らした。
     椎名とクーガーが向かい合う。
    「いくぞ!」
    「オう!」
     がっ、とリング中央、がっつりと手四つに組み合う。プロレスでの初手で基本となる、力比べの攻防である。
     最初は椎名がぎりぎりと腕を絞っていく。
    「ぐうう……だけど、負けねぇよ!」
     それに巻き返すクーガー。素の筋力ではクーガーの方が勝っているため、呼吸を合わせて一気にひっくり返す。椎名は少し驚いたような表情をした後、ニヤリ、と笑う。
    「ほう。だがな!」
     クーガーの下腹部に前蹴りを椎名は叩き込んだ。腕が外れ、クーガーの姿勢が下がる。そのクーガー腕を取り、ロープに振る。椎名に振られたクーガーはロープに走っていき、バウンドして戻ってくる
    「ちぇぇいっ!」
     戻ってきたクーガーを前からがっちりと受け止めた椎名は、そのままの勢いでフロントスープレックスに投げた。クーガーは頭からリングに叩きつけられたが、受け身を取ることには成功し、くるりと回転して椎名に向き合う。
    「やるじゃねぇか! 今度はオレの番だな!」
    「いいぞ、掛かってくるがいい!」
     ふたりの間には数歩ほどあった。その間を走り込んだクーガーは、椎名の眼前で転ぶように体を回転させると、踵をフライングニールキックで眉間に叩き込む。椎名はそれを敢えて受けた。眉間に踵がクリーンヒットし、数歩後方にたたらを踏む。しかし、それでクーガーは止まらず、低い体勢からグラウンドキックで椎名の足元を掬うように蹴りつける。椎名はたまらずに転倒する――が、後方に体を回転させて逃し、体勢を立て直して立ち上がる。
    「ほう、味な技を使うではないか」
    「山猫無幻流脚技――旋風!」
     中腰からの構えを崩さず、椎名を見据えたクーガーは不敵に呟いた。一連の流れの技の名前らしい。
    「クーガーさん、凄いですよ!」
     観戦している七瀬が歓声を飛ばす。
    「がっはっは、オレからしてみりゃあ、こンなもんさ!」
    「まだ試合は終わっていないぞ!」
     いつの間にか、ロープに走って反動をつけていた椎名がクーガーに向けて走り込む。
    「なにィッ!?」
    「てあッ!!」
     椎名はランニングエルボースマッシュでクーガーの顎を思い切りカチ上げた。顎を強かに打ち付けられ、クーガーの目が泳ぐ。だが、クーガーもさしたるもので、本能的に椎名の小指を掴んでいた。
    「ゆ、指獲り――!?」
     七瀬の顔に驚きが浮かぶ。小指の関節を完全に極めれば、相手の動きをある程度制御することが出来る。そのまま投げれば、小指ごと相手の腕をへし折る事すら可能なのだ。
     しかし。
    「――師匠も、実戦を離れて久しい。が、耄碌するにはまだ早いのではないか?」
     小指を極められた椎名だったが、小指に力を入れてクーガーを引きつけ、その足元に強烈なローキックを叩き込む。
    「くッ!?」
     体が傾くほどに強烈なローキックを叩き込まれたクーガーは、たまらず小指を離して間合いをとる。
    「極めたはずなのに、なんで外せンだよ!?」
    「剣士に指獲りは感心しないですね」
    「七瀬ちゃん、なンでだよ!?」
     リングサイドでしたり顔の七瀬に、思わずクーガーは訊いてしまった。
    「刀を握る時に一番重要な指は何処ですか?」
    「あ……」
    「気がついたな、師匠?」
     刀を握る時に最も力が入る指、それが小指だ。小指でしっかりと柄を締めないと、太刀筋は安定しないのだ。
    「くっそう椎名、オマエ、ホント毎日ちゃんと鍛錬してるんだなぁ。オレぁ、こんな弟子をもって嬉しい限りだぜ」
     嬉しそうな顔で椎名を見遣るクーガーだったが、すぐに真剣な表情になる。
    「オレもここでいいトコ魅せねぇと、プロレスのリングに上がらせてもらえねぇンだよな。ならいっちょ、張り切らせてもらうぜ!」
     クーガーが動く。
     今日――否、ここ数年でおそらく初めて真面目に全力を出したクーガーは、恐ろしく疾かった。椎名も一瞬、その動きを追いきれない。あっという間に間合いがゼロになり、椎名をロープに振る。ロープにバウンドしてきた椎名の腕を掴んだクーガーはそのまま、逆一本で椎名を投げ飛ばした。
    「見事です!」
     七瀬も思わず瞠目するほどに、見事な投げだった――だが、クーガーは止まらない。逆さまにマットに叩きつけられようとしていた椎名の頭部目掛けて、強烈なローキックを叩き込んだのだ。
    「クーガーさん、その技は! 陸奥圓――」
    「山猫夢幻流投打技――春雷!」
     とある格闘漫画に出てきた技の形そのままだったので、真似したのかと思いきや、これはクーガーの修めている山猫夢幻流にも同型の技があったらしい。技の名前も似ているが、偶然にすぎない――ということにしておいて欲しい。
     投げられ、受け身が取れない状況から頭への一撃――通常ならば、失神KOでもおかしくはないほどの業(わざ)である。だが、10秒経たずに、椎名は立ち上がった。
    「相手が倒れたら、即座にフォール。それが基本だぞ?」
    「な、なンでそんなあっさり立てるンだよッ!?」
    「ここはリングの上だ。レスラーは、リングの上では通常以上の力を発揮できるのだ」
    「マジか……」
     一瞬、クーガーの気が沈む。尻尾が垂れたことからも、それは明らかだった。
     その瞬間を、椎名は逃さなかった。先程のクーガーもかくやというほどの身のこなしでクーガーの背後に回り込む。そして、腕を胴に回してクラッチ。
    「なっ!?」
    「プロレスの、プロレスらしい技で沈んでもらうぞ――ったぁぁぁ!!」
     クーガーを掴み、そのまま真後ろに反り返る、椎名。見事な弧のブリッジを描いて、クーガーの頭をマットに叩きつける――お手本のようなジャーマンスープレックスホールドだった。
    「ワンッ、トゥー、スリィー! 姉さんの勝ちですね!」
     リングサイドから、此方も意外な素早さでマットに上がった七瀬がマットを3回叩いた。
     このスパーリングの決着である。
    「きゅー……」
    「む、いかん。七瀬、コールドスプレーとアイシングを頼む」
    「はい、姉さん」
     クーガーは完全に目を回していた。重篤ではなさそうだが、やはりキレイにジャーマンが入ったダメージは大きい。
    「椎名、オレぁダメか……?」
     椎名に首を冷やされながら、クーガーは弱々しい口調で尋ねた。
    「なんだ、師匠。らしくないぞ――合格だ。初めてのスパーでこれだけできれば、上出来だ。プロレスの練習はもちろん続けてもらうが、山猫無幻流を上手く活かしたファイトスタイルを確立すれば、なかなか個性的なレスラーになれると思うぞ」
     その言葉に安心したのか、クーガーは大きく息を吐いた。
    「よかったですね、クーガーさん」
    「よかったですね――ではないぞ、七瀬! やはり、お前にもそのうちにリングに上ってもらうからな。覚悟しておくように」
    「ええぇ、姉さん、本気ですか……」
     椎名はやる気に燃えていた。クーガーもやる気になっていた。七瀬は一見やる気なさげに見えるが――実のところ、ふたりの闘いを観て、燃えるものは心にあったりする。
    「久我山家は全員野球ならぬ全員プロレスで頑張るぞ!」
    「オゥ!」
    「はい!」
     なんだかんだで、今年は熱い年になりそうな予感を、三人はそれぞれ感じていた。

     6分28秒 ○久我山椎名(ジャーマンスープレックホールド)クーガー・カレルレン●
       ――――――――――――――――――――――――――――――――――
    プロレス部でいろいろと動かすことを前提の3人でしたので、プロレスっぽい小説を書いてみました。格闘描写がもう少し上手くなれば見せ場を作れるのですが…僕の乏しい格闘技知識と文章力ではまだ不足ですねー。これからも、精進します、はい。今回は、ここまで。
                               echo    2017/01/08 6:25
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