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  • 宴の従者・次「金流・花錦」後編

    2021-05-16 19:00

    「さて、まずは一勝。次も私が完封して2対0で勝つかいなぁ?」

     花錦はそう言いながら、持っていた扇子で付与付与と自分を仰ぐ。金流はそんな余裕綽々の姉にむすっとした表情を見せつつも、どうやって一矢報いてやろうかと冷静に思案していた。

    「前の負けを悔やんでいても仕方ありません。次は次です」

     金流はそう言って立ち上がり、覚悟を決めたかのような表情で花錦を目を合わせる。そして次のカードを懐から取り出して、スペルを発動させた。

    「潔いなぁ、そやったら私もしっかりとお相手せんと、この場を用意してくれた乙姫様に申し訳立ちませんなぁ、じゃあいくで、これが最後のカードや」


    裏符“タテマエメランコリー”

    “八百比流演舞「花錦」破”


    二人のスペルが輝き、金流が周囲に紫色のもやをばらまく、その隙間から、またも金流カラーの金の攻撃、今度は不定の丸ではなく、明瞭な弾丸のような弾、それが先ほど同様奔放に振りまかれ、花錦に近づく。

    「また、表裏一体の攻撃やろか?」

    「それは食らってからのお楽しみです、やぁっ!」

     金流は、鬱蒼とした紫のもやの中で、不自然なほどに陽気に攻撃の手を強めていく。対して花錦はと言うと、先ほどと同じく扇子を持ち、そして虹色の弾幕を発出する。波を成していたさっきとは違い、今度の花錦の攻撃は所謂“線”だった。列を成した虹色の針。そんな物体が直線と反射をもって金流に向かっていく。壁を見つけては反射し、時にはたゆたいながら金流の姿を捉える。

    「おっと…!」

     金流もその攻撃の法則性に気付き、自由に動きながらも花錦の攻撃の流れに気を配っている。

    「このもやもやは何なんやろなぁ?お姉ちゃん気になるんやけどー?」

     軽妙に金流に尋ねる花錦、しかし、それについて金流が答える訳もないし、花錦も答えないだろうと察しは付いている。だからこそ、花錦は、次第に金流を襲う攻撃の手を強めていったのだ。攻撃が苛烈になれば、金流も攻撃の真意を早く出さなければならない。準備の時間など与えてられるわけもないのだ。

    「ふふっ…やっぱり姉さまならそうすると思ってました」

    「さて、そうそう強気でいられる理由もようわからへんけど、どこまで攻撃に耐えられるのかは見ものやね、そろそろ真の力を開放した方がええんちゃうの?」

    「まだだよ、もうちょっと…」

     金流が小さくつぶやくと、花錦は一層攻撃する手を早め、増やしていった。そして、花錦の攻撃は、次第に金流の死角になりうる場所にも飛び始め、金流ものんびりを構えるのをやめた。

    「まだ………もう少し………」

     額にわずかに汗が滲む金流、遠景からもそんな機微を逃さない花錦は、此処で詰めよれば決められると踏んで、一気に攻勢を強めた。金流を目がける23の直線、それらの全ての切っ先が、金流の方を向いた。

    「これで終わりやね」

    「よしっ!!」

     花錦の攻撃は、的になっていた金流に次々と直撃した。





     かのように見えた。

    「ふぅ、視認性が落ちてたから間一髪で何とかなりました」

     金流は地上に降り立ち、先ほどの花錦の攻撃を間一髪で潜り抜けていた。そして、自分が起動したカードをもう一つ取り出して、もう一度スペルを宣言する。

    裏符“ホンネフィリアの濃霧”

     金流がカードを再び起動すると、空間を覆っていたもやが濃くなり、色の紫と相まって周囲が重苦しい空気に包まれていく。舞を踊るようにしていた花錦の目に、金流が映らない程にもやは刻、視界が大きく遮られている。

    「視認性を押さえるスペル?それだけやろか?」

     独白する花錦は、扇子を泳がせて周囲のもやを振り払おうとする。しかし、風にあおられて周りのもやがちょっと晴れるだけで、視界がよくなることはない。そして、晴れないもやとしばらく格闘していた花錦は、もやの向こうに普通ではない気配を感じた。

    「…金流?このもやの奥に弾幕仕掛けて待っとるやろ?」

     もやにまぎれるような色覚の何かが周囲にうろついている。花錦は、金流の性格などを鑑みて、もやのむこうに弾幕を配していると察したのだ。罠のように仕掛けられている何かに、花錦は警戒の糸をぴんと張った。

    「隠すだけの安直な攻撃やったら、私には傷も与えられへんけど、金流の事やからそういう安直難をやりそうにはないなぁ」

     聞こえよがしに声をかける花錦、しかしそれに反応はなかった。花錦は特に口惜しさを感じることもなく、改めて扇子を開き、そしてもやの向こうへ色彩の刃を飛ばして見せた。


    パチン!


    「ん?」

     途端、花錦は何かがはじけたような音がしたのを聞いた。そして瞬間、その弾けた弾こそが罠であったと悟った。

    「なんや…身体が…重い…?」

     花錦は、自分の身体に何かが纏わりついたような重量感を感じた。しかし、それは物理的な重さではない。倦怠感にも近い、自分の内側から出てくる重さ。そして、花錦が振れるとともに、花錦の周囲のもやがうっすらと晴れて、すでに攻撃の手を整え終わった金流が待ち構えていた。

    「この“ホンネフィリアの濃霧”は、精神に作用するトラップを封じ込めた技。相手が道を切り開こうとしたら、罠が発動して、自分の身体の操作を遅らせるスペルなのです。その効果の強さと時間はその者の裏の顔の深さに比例してますので、姉さまは…かなり重い負荷になってる事でしょう」

     現れた金流が、どこか寂しげにも似た顔でそう説明する。裏の顔の深さという計りようもない単位によって行動を縛られる弾幕、これは何が何でも外れとして引きたくないものだ。

    「え?姉さま何か言いました?」

    「私なんも言うとらんよ。それより金流、これで終わりでええんか?」

     体にかかっているであろう負荷で、肩の高さまで上げていた扇子が少しづつ下がっていく。その中で花錦が告げたその一言。その言葉に金流もハッと我に返り、花錦ん最後の攻勢をかけようとする。

    「そうでした、とにもかくにもこれでアタシの勝利、姉さまには申し訳ありませんけどこれにて私は勝ち、試合は引き分けになります!」

     そして、金流が時運の用意していた金色の一発の弾丸を放つ。これで終わりだな、一勝一敗の引き分け

    「かかった」

     異様な予感、それは金流が目の前で対峙していたものではない、それは、花錦ではない。

    「えっ!?」

    いない、今の金流の前に花錦はいない。今までそこにいたのは何だ?そして花錦はいったいどこにいる?完成っしていたすべてが、今まで弾幕を繰り広げていた花錦の姿を探す、そして、それまで花錦だと思っていたものは、雨に流れる泥水のように消えていき、金流がどうにか放った弾丸は宙を切った。

    「まさか…またアタシっ!」

    「せやで?やっぱり詰めが甘いんよな、金流は」

     金流がその声に気付いて、自分のとなりに居た“本物の”花錦にナイフを一つ放たれるまで、その場にいた誰一人しての花錦がそこにいるという事を理解できなかった。

    「うそ…どうして…?」

     倒れゆく金流は、隣に寄り添っていた花錦に疑問だけを残して、静かに倒れていった。

    「今日の花錦“破”はな、悲恋に沈んだ恋人が生き延びていた相手に自分の幻影を見せて。それに狂った相手をずっと隣で見守り、そして最後にその首に手をかけるんよ…つまり、誰にもあんたの隣の私は見えとらんし、誰もがあんたが相手しとった私を眺めていた言う事やね」

     パタリと倒れる金流に、細々と説明する花錦、そして金流のもやは晴れ、弾幕の全てがフェードアウトするように消えていき、この試合が終了したことを静かに告げた。

    「さて、これで私の勝ちやなあ金流」

    「あ………あぁ………」

     花錦は、寝そべって半泣きにしている金流に徐にまたがると、ニコニコとしてその手をワキワキさせて、馬乗りにして身動きの取れない金流の逃げ道を完全にふさぐ。

    「あ~あ、まだまだ金流にはストーリーを深く理解する力はないみたいだねぇ、もうちょっとだけ金流には負けてもらうしかないなぁ、ねぇ?」

     立ち合いである乙姫がそんな一言をだれともなくかけて、空を切った言葉を合図に、この二人のスペルバトルは終了していった。


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  • 宴の従者・次「金流・花錦」前編

    2021-05-14 19:00

    「………ん?」

    「今、門前で何か聴こえたような…」

    「って、そうじゃない!花錦姉さんが呼んでたんだった!うーん…また私、怒られるのかなぁ…?」



    ………


     

    「お疲れさんやな」


     海恵堂が客人のもてなしのために使う宴会場。金流が向かうと、そこには小豆色の艶やかな髪を流す姉の姿があった。


    彩られるエルダーシスター
    海 花錦/Kai Hananishiki



    「急に呼び出してごめんな?」

    「そりゃあ姉様のお呼びですもの」


    偽られるイミテーションゴールド
    海 金流/Kai Kinryu



     金流の二つ上の姉…花錦は、部屋に入ってきた金流を見るやニッコリと、しかし申し訳なさそうにそう言って手を合わせた。金流は、これが珍しいことでもないように姉に返事をする。

    「それで、何か新しいお仕事ですか?」

     気を取り直して、金流は花錦が呼び出した理由を尋ねる。先程も言った通り、金流にとって姉達からの呼び出しは珍しいことではない。特に、この"海の姉妹"の長女である人物からの呼び出しは、金流に限っては頻繁である。

    「んーや。ちょっと乙姫様から提案があったから、それの為に金流を呼んだんよ」

    「乙姫様ですか………それでその提案って?」

     乙姫…海恵堂がもてなし続ける賓客。海を海足らしめた人物の一人であり、海恵堂の恩人でもある。

     しかし、それはあくまで海恵堂の視点での話であり、海の姉妹から見た乙姫とは、歓迎すべき客人であり、しかし時たま突拍子もない提案をするいたずら好きなお姫様である。

     それもあって、金流の表情には一瞬陰りが見え、花錦へ話を促す言葉がわずかな時間だが出なかったのだ。

    「それがな、海の姉妹のスペルカード試合を見たい言う話なんよ」

    「それは…私たち姉妹同士のスペルカード試合と言うことです…よね」

     疑問を投げ掛けようとした金流は、花錦が眉を潜めた一瞬の反応に気が付き、疑問から納得に言葉を転換した。

    「せやね。そいで乙姫様は私の相手には金流がいいって言うたんよ」

    「つま、り………?」

     花錦の一言一句に、不安感が右肩上がりで募っていく金流。「つまり」と花錦に聞いた金流には、もう次に何が返されるのか大方想像がついている。


    「そう言うことだよ!」


     花錦の背中から聞こえてくる、快活な声。そこに存在するかどうかを疑わせる幾何学模様のドレス。そして、宇宙を封じ込めた様な輝きの双眸、それは紛れもなく、ヤツだった。


    行方を晦ますエンプレス
    観福宮 乙姫/Kanpukugu Otohime



    「乙姫様…」

     花錦も金流も、彼女の登場に膝を着けて頭を下げた。それは、従者としてのルール。歓迎すべき相手には無条件で頭を下げる。例えそれが、無茶を言って自分達をかき乱す相手だとしても。

    「いやぁ、人間相手の戦いっぷりは見せてもらったけど、人魚達同士の合戦って私あんまり見たことなかったからさ。せっかくだから見せてもらおうかなって」

     相変わらず、事も無げにそう言う乙姫。つまり彼女はグラディエーターの観戦者を望んでいると言うことだ。それにより姉妹達がどうなるかなど、考えもせずに………

    なんて非道な姫だこと

    「あぁ心配しないで。別に死闘が見たいんじゃなくて、私はみんなのスペルカードが見たいだけだから。でもただスペルカードを展開するのも味気無いし、それなら姉妹同士で模擬試合的な事をやってもいいかなってね」

    「…て、乙姫様が言うてはるんよ。せやから金流、ここは乙姫様の提案に乗ってもらえへん?」

    「………わかりました。そこまで言うのならやりましょう。それに、花錦姉様と手合わせするのは、相当に久しぶりですし」

     その場にいる者たちが全員同意したのを確認して、金流と花錦は宴会場の両端に歩み寄った。そんな二人の立ち位置を確認した乙姫が、右手を掲げて何かをし始めた。

    「さて、それじゃあ宴会場がボロボロになってちゃぁせっかくのお客さんに見せる顔がないよね。なので私が空間を切り取らせてもらうよ」

    「つまり、この範囲では何をしても実際の場所に影響はない言うことでよろしおすか?」

    「にひひ、ご明察」

     花錦の確認に乙姫は子供のように笑って見せる。なるほど。こうして戦闘空間を作り出していたわけか。

     そして、すべての準備が整ったところで、金流と花錦はそれぞれの札を懐から取り出して弾幕勝負を始めた。

    「そういやぁ枚数決めてへんかったけど、何枚にするかえ?」

    「じゃぁ2枚でどうでしょう?」

    「あんた、わかってて言ってるなぁ?」

    「ぎくっ」

     乙姫によって切り取られた空間の中で、二人がスペルの枚数の討議をする。花錦から金流へ枚数の判断は委ねられたようだが、金流の返しに花錦は何かを察したようだ。

    「まぁええわ。それだけハンデをくれてやってなお私に勝てんかったときは…わかっとるよなぁ」

    「ひぃっ!」

     花錦の不穏な言葉を不敵な笑みに、金流の体が急激にこわばる。そして二人はお互いのスぺを提示して、空間の中に戦いの弾幕が展開されていった。


    表符"ポーカーフェイス"

    "八百比流演舞「花錦」序"


     二人が織りなした弾幕が、豪華絢爛な部屋を彩り始める。金流の弾幕は自分のパーソナルカラーにほど近い金色と白。無邪気な軌道で花錦を攻撃しようとしている。一方で花錦は地に足を付けたまま、軽やかなステップで金流の攻撃を回避していく。それと同時に花錦は時折両手に持った巨大なせんすから虹色の担当のようなものを呼び出して、周囲にばらまいていく。それらは規則的な軌道を描いて、弾むように移動している金流に時折肉薄する

    「おおっと!」

    「あらあら、この程度のお遊びでもたもたしとったら、金流も立派な人魚になれまへんなぁ」

     瞑り目の奥から金流の行動を察知した花錦は、煽りも含んだような優しい口調で声をかける。金流は普段の事とでも言いたげに花錦の言葉を話半分に聞き流す。それでもなお部屋中を駆け回り、白と金色の弾幕を散りばめていく。

    「もちろん、ここでどうにかするつもりではいませんから!姉さまが序の舞を使った時点で、アタシを最後に打ち負かそうしていたのは理解していましたし、それを読んで2枚勝負に持って行ったんですから」

    「せやろなぁ、下の姉妹に並んで悪戯好きな金流らしい選択やわぁ」

     お互いの番外を意識した会話の応酬。弾幕勝負は一進一退の攻防が続いている。しかし、一つ気にかかる所もあった。

     金流の弾幕、中でも白色をした弾幕だけは、金色のそれと違い残留し続けている事だ。そして花錦はそんな事象に気付いている様子はなく、自分に今日至らしめる攻撃だけを1ステップでかわし、そして短刀の弾幕を翼でも散らすかのように振りまいていく。

    「金流、このまま屋とじり貧で勝負付きまへんな?そろそろ身体も疲れる頃やろ?」

    「姉さまと一緒にしないでください。これでも動く体力はありますし…それに」

     金流が何か言い淀む、そして変化はすぐに訪れた。


    表符“ファニーフェイス”!


     今まで金と白とで構成されていた金流の弾幕、それらが表情を変え、白の弾幕が墨染でもしたかのように黒く変化していった。

    「あら?」

     目を開いて、その色の変化を察知した花錦、そして再び金流の金と黒の弾幕が花錦に襲い掛かる。

    「あら、これは追尾攻撃やねぇ」

     花錦はすぐに攻撃の変化に気が付いた。今まで浮動的に襲い掛かってきていた白の弾幕が色を変え、黒になったことで、明確の花錦を追尾して攻撃をしてきている。

    「そう、姉さまが弾幕を打ち消しにかからないのは知っていたので、ポーカーフェイス弾は好きなだけ増やせた。だからそれを一気にファニーフェイス弾に切り替えて積もり積もった浮き弾は全て姉さまを追尾します!」

     金流の策によって、放っておいた白の弾幕の全てが花錦を直接狙い始める。花錦はそれに気が付き、今まで地上で舞うようにして避けていた立ち回りを変えざるを得ず、金流と同じく重力から解放されるようにして空間を駆け回り始めた。

    「ほんに、そういう所のイタズラは妹たちにも劣らんほど老獪やね。その辺は賞賛もんや」

     宙を駆け回りながら、黒い弾幕の追撃を避けていく花錦、壁に足をついて、黒の弾が花錦を捉える瞬間に間一髪で蹴りだして回避する。壁面にぶつかった黒い弾幕は、役目を終えるようにして消滅していき、次第に黒の弾幕の数は目減りしていく。

    「ぐぬぬ」

     金流も、花錦が自分の弾幕の弱点を理解した事に気付き、次第に顔を歪ませていく。

    「どうやら金流、このスペル、切り替えた後は追尾攻撃の追加ができんようやなぁ?私を倒すのにタイミングを窺ってたようやけど、少し急いだんとちゃうん?」

     花錦の言葉は図星だったようで、金流は金色の弾幕だけを張りめぐらせて、先ほど間dネオ白の攻撃を繰り出すことも、黒の攻撃を追加することもしていない。そして何より、花錦にそれを指摘された直後の金流の表情は、悔しさ以上に複雑な顔をしていたのだ。

    「さて、花錦の舞も、頭もそろそろあったまってきた所やし、この番はそろそろ決着つけよか」

     花錦はそういうと、同じように回避の動きを取りながら、次第に金流との距離を詰め始めた。金流もそれに気づき、奔放ながらも素早い立ち回りで距離を取って花錦を近づかせまいと振る舞う。しかし、金流が動き、花錦が追いかければ追いかけるほど、二人の距離は次第に近づいていく。

    「なんでっ!姉さまから距離を置いてるはずなのにぃっ!」

    「あんた、言い方だけやったらひどいこと言いよるで?」

     それもそのはず、直線的に花錦から距離を置く金流に対して、花錦は最終的な距離が最短になるように立ち回っている。自分が追いかける方向に対して金流が逃げるであろう道を予測して、逃げた先で距離が縮まるように立ち回り、そして気付いたころには、二人の距離は身体一つ分にまで詰められていた。

    「ひぃ~~~!」

    「ほんなら、これだけ詰めれればええやろうね、金流?まずは覚悟やで?」

     花錦はそう言って、金流の背中を捉えた。そしてせんすを華々しく開いたと思ったら、それをパッと閉じる。

    「ひゃっ!」

     その瞬間、花錦を囲むようにして七色の担当が切っ先をこちらに向ける。花錦に向いた切っ先は、1メートルも離れていない金流にも当然向けられており、その刃の並びに、逃げ道など存在しない。

    「あ」

    「悲恋の舞、花錦“序”これにて終幕やね」

     花錦の言葉で七色の刃は花錦と金流、双方身体を貫くように通り過ぎて行った。そして、金流が仕掛けていた黒色の追尾団はフェードアウトするように消え、花錦と金流は二人して地上にゆらりと落ち、倒れた。

    「うぅ…また悲恋に巻き込まれましたぁ…」

    「ふぅ…金流に色恋はまだまだ言う事やなぁ」

    二人してむくりと起き上がってそれぞれの小言を言う。金流のカードはひび割れるようにして消滅し、花錦は自分が起動したカードをそのまま服の中にしまい込んだ。
  • 宴の従者・次「清川・黒波」後編

    2021-05-12 19:00



    ……

    ………


    「まさか、破られるとは………」

     脱力してその場に膝をつく黒波。そんな彼女に、清川がつかつかと歩み寄る。

    「そうだねぇ。まぁ撃破したのは確かなんだけど、私もあのままスペルを出しっぱなしにはできないから、結局一枚目のスペルは私も降ろして、引き分けなんだよね」

     座っていた黒波に、清川は苦笑いを浮かべてそう言った。確かに、清川の最後の攻撃は清川自身も標的になっていた(というより、照準と言う概念が無いように見えたが)。スペルが撃破されるまで続くのであれば、遠からず清川は自分の攻撃で自滅をしていたのだろう。

    「どうしてそんなスペルを作ったんだ」

     試合が落ち着いた空気の中で、改めて呆れたように黒波が質問する。

    「んー………さぁ?」

     あっけらかんとして清川は答える。黒波はそんな彼女を苦々しい表情で見つめていた。そして、清川は続けて黒波を促す。

    「さて、一枚目から結構な試合だったけど、まだバトルは終わってないよ、お姉ちゃん」

     そう、これだけ弾幕の応酬が描かれていながら未だに使用したスペルはお互い一つ。まだスペルバトルは終了していない。そしてそれを確認した黒波は、すぐに立ち上がって衣服の埃を払う。

    「………いいだろう。スペルは2枚、そこは揺るぎ無いという事だな」

     清川の言葉に、何処となく試合を続ける意思が戻ってきたように見える黒波が応える。そして二人は再び距離を取り、自分の次のスペルを展開する。一枚の札から放たれるまばゆい光を浴びながら、二人の側には展開したスペルが具現化されていった。


    駿符"ディープウォーター・ボルト-渦雷-"

    塞符"アチャラ・ナタの威光"


    「へっへっへ………」

     外から人が入る扉を背中に立つ清川。スペルを展開した彼女の姿はそもそもすべてが変化していた。行儀よく並んでいたショートボブが乱雑に跳ねまわり、バチバチと尖る様にして弾けている。そして戦意をたぎらせ続けていた瞳には、激しい光が…あえて表現を統一するならば雷光のような鋭い光が走っていた。

     そんな様変わりした清川の周囲には、まさに雷光を固めて鎚で打ったような長い得物が幾本も立ち並んでいる。先ほどの魚雷に近いが、それは実体を伴わない武器。

     ほとばしる稲妻を尖端としたそれは、かの国に語られる"ヴァジュランダ"と称される槍にほど近かった。

    「前は件さん相手に全然通用しなかったけど、今度はどこまで通用するか試させてもらうよ。自分のお姉ちゃんで、ね」

    「構わないさ。それに今度は後れを取らない。上下左右・四方八方………いかなるものも、私は通さない」

     清川の売り言葉に、黒波が買い言葉を返す。そして清川に同じく自分のスペルに身を委ねた黒波もやはり今までと違う姿をしていた。

     膝を隠せるかどうかだったスカートは足首程まで長くなり、彼女のそれはドレス…いや、和装の法衣とでも言えるものに変化していた。

     少女のような柔い肌には、赤い文様が浮かび上がる。それは不規則で、不気味な揺らめきを有した文様。まるで焔を象ったようなそれが刻み込まれ、少女らしかった黒波の顔は強く迫力
    に満ちた顔になっていった。

     しかし、それらは黒波の変化を示すほんの僅かな部分でしかない。






    円    円



     の中に円が描かれ、その円に隣接して円が書き足されていく。そして、円の集合体は次第に規則性のある姿形を成していく。それは円のフラクタル、円が織りなすシンメトリー、そして完成したのは、無数の円から成る旧時代のパッチワーク"曼荼羅"と呼ばれる存在だった。そして、盾の時よりさらに大きく荘厳な曼荼羅の防御を携えて、炎を顔に携えた黒波は問うた。

    「我、此処を動かず。不動を動かすは、如何なりや?」

     黒波の言葉に、雷光を纏った清川は靴をカツカツと鳴らして笑っていた。

     閃電を飲み込んだ瞳を見開いて、これから倒す予定の相手を見定める清川。お互いの一挙手一投足がこれから起きる戦いのメトロノームになっている。

    「よっしゃ!行くよっ!お姉ちゃんも後ろの陣も…部屋も何もかもすべて貫いてやるッッッ!!」

     そして、言葉が音で聞こえてくるよりもほんの少し早いタイミングで俊足一閃、飾りのない馬鹿らしいほどの一直線で清川は突進する。

    「正面突破は歓迎だ。すべてを塞き止めて完封で勝利して見せよう」

     余裕を見せる黒波。腕を組んで仁王立ちで構える明王のような表情を浮かべた彼女に、清川が衝突する。

    ズンッ!!!

    バチィッッッッッッ!!!

     黒波からは腹の底を震わせる重低音が、清川からは耳をつんざく激しい耳鳴りが同時に聞こえてきて、二人は扉をすぐそばに完全にがち合った。物理的に火花の散る二人の激突、部屋の壁を伝って音と振動が駆け巡る。見ているこっちも心が躍る。

    「まだ終わんないよっ!!」

    「それはこちらも同じだっ!!」

     目と目の鍔迫り合いはしばらく続き、清川が黒波から弾け飛ぶように部屋の上隅に離れる。すかさず清川は自分の携えていた稲妻の槍を黒波に打ち込む。黒波はその槍を左手をかざして遮る。黒波の目の前に小さな曼荼羅が展開され。曼荼羅にぶつかった清川の稲妻の槍は霧のように消えゆく。それでも清川はどこ吹く風、一切表情を変えず…むしろより楽しそうに口の端を持ち上げて、次から次へと槍を召喚する。

     それだけではない。稲妻の槍を召喚しながら、左手を遊ばせて、次の瞬間にはさっき黒波のように、水を纏めた球体を作り出して撃ち出す。

    「もっと…もっともっといっぱい、もっともっと速くっ!」

     振り下ろすように両手を突き出して槍と水弾が部屋を駆け巡る。一つ一つが"攻め"を体現するように鋭くアグレッシブに動く。

     対して黒波は、自分の周りを小さな曼荼羅で取り囲み、曼陀羅の防壁を構築、そして後ろの巨大曼荼羅の周囲にも小さな曼荼羅を配備。

     その間にも襲い掛かってくる清川のあらゆる攻撃。黒波はそれにも一切動じず、自分を目掛けて飛んできた槍は黒波自身を囲む曼荼羅で霧散して、清川の水弾の方は………

    「…お前がそれを撃つのなら、私はそれを全て弾いてやろう!」

     背中の大曼荼羅に付随された小曼荼羅、それらが清川のそれと同じ程度の水弾を展開して射出する。その数はおおよそ互角…いや、おおよそ以上に同数。

     そして清川と黒波の水弾がぶつかり、それは小さく弾けて消える。

     すべてが消えるのを待つこともなく、二人の水弾の数が同じであるかなど考えるのも面倒なほどに、二人は矢継ぎ早に攻撃を繰り出す。

     清川の槍は黒波の盾に、清川の水弾は黒波の水弾に、

     様子を考える暇もなく清川はその場に留まらず部屋の宙を駆け出し始めて、再び水弾を連射する。

     黒波の曼荼羅が清川の攻撃を抑える。清川の槍が黒波を狙い、それが黒波の曼荼羅の盾に吸い込まれる。

    「どうかなお姉ちゃん、まだ耐えられるのかな?」

    「笑止。この程度も抑えきれなくて門番など仰せつかってはいない」

    「いひひっ、それを聞いて安心………したッッッ!!!

     短い会話を交わしたと思えば、清川が再び黒波に肉薄する。再び重低音と耳鳴りが部屋を駆ける。二人の衝突点からは、稲妻の残滓が飛び出して部屋に飛び散る。壁に直撃したそれは木造りの壁をわずかに焦がし、火の粉までもが噴出し始める。

     そして、先ほどより長く続く接近戦に来て、清川に変化が訪れた。

    「………あ、服が…!」

     清川を包んでいた服、動きやすくあった彼女の服が、激しい衝突に耐え切れず破損を始める。

    「でも、服が破れただけっ!まだまだいけるっっ!!」

    「もう少し恥じらいを持ったらどうだ?まぁ別に構わないが、いずれにせよそれでてを緩めるようなことはない」

    「もちろん!」

     清川は、服の所々が損傷していることも厭わず、稲妻の槍と水弾を乱射していく。

    「もっと、もっと速くッ!もっとたくさんッ!!」

     もはや狂気とまで言えるほどの清川の猛攻を、黒波は表情も変えずいなしていく。それは最初のスペルの時とは違う。完全に余裕に満ちた表情だった。

    「さすがにどれだけ攻撃を重ねても、それを凌駕する結界においては無意味だ」

    「だけど、それは無限じゃないっ!!」

     黒波の話など聞く耳も持たず、清川の槍と水弾は一切止む気配がない。そして身体を走る雷光は清川の服を切り、そしてついに肌をも切りつける。

    「お前、このままだと自滅するぞ?」

    「構うものかっ!それでも私はここを通って勝利して見せる!!」

     冷静な黒波の説得も清川は聞かない。そして清川は次第に傷を増やしていく。黒波は痛々しい清川の様子を見ながら口惜しげに唇を噛んだ。そして、終わることのない攻防と減ることのない清川の傷に、黒波は微かに手を緩めた。そして清川は、そんな一連の黒波の行動を見逃しはしなかった。

    「なっ…」

    「どうして」


    「っ!全力でやるんじゃなかったのっ!?なんでっ!?」

     すでに枯れ始めている清川の声。清川の攻勢が黒波に肉薄し始めて、このまま押し切れば清川の攻撃に黒波が押し負けると見える。しかしそれを清川は許しはしなかった。それは自分が望んでいた試合ではないからだ。ともに全力を尽くしてお互いが倒れ伏すほどの試合を見たいのに、手を緩められては………

    「………全力でやるさ。私は"近づいてもらいたかった"だけなのでな」

    「えっ!?」

     清川が黒波に食いつきそうな剣幕で言葉を並べているその時、接近していた二人の空間ではない所が一気に姿を変えた。

     ぼんやりと投影されるように、部屋に生み出されたのは黒波を中心にした球状の結界、その結界は壁際で戦っている二人を覆い、結界の一部は壁を通り抜けてしまっている。その結界の表面には今まで黒波が展開していた曼荼羅がびっしりと描かれている。そしてそれらはまるで時計内部の歯車のように、微速に、しかし整然と動いている。

    「黒波…一体何を」

    「アチャラ・ナタの懐に入った事、後悔させてやろう。覚悟はいいか?

     黒波が、見たこともない不敵な笑みを浮かべて清川を見やる。しかし、清川にはそれを考える余裕など与えられはしなかった。清川が表情を変えて何か行動をするより早く、黒波の行動は起こされたのだ。

     黒波を覆うように展開していた曼荼羅の歯車結界。それらは何らかのタイミングで一気に黒波へと収束を始めた。その収束の速さは目で見た情報を身体に送るまでと同じレベル、実際に身体が動くまでより早く、黒波の歯車結界は収束したのだ。そんな僅か0コンマ数秒の出来事の直後、室内には戦いがあったことを語る粉塵だけが残り、二人が展開していた弾幕の数々とそれによる轟音は一切に沈黙に置き換わった。

    「………」

     咽るほどの土煙の中で、未だ壁際に立っていた黒波は、真っすぐ自分の正面を見据えている。向かい合っていた清川の姿はない。

    「………驚いたな」

     黒波が一言呟く。

     そして直ぐにドサッ!!と言う音が響いて、黒波が向けていた視線の先に大きな何かが落ちてきた。

    「うぅ………」


     土煙もようやく収まり、黒波が視線を向けた先に何が落ちているのかが視認できるようになる。そこには、ボロボロになった清川が大の字になって伸びているのだ。

    「まさか、あの陣を抜け出すことが出来たとは」

    「も、もう少しで死ぬところだった………あれって?」

    「アチャラ・ナタの呼吸………一息吹で相手を封じ込めて圧殺するという特殊な陣だ。しかし、相手が私に肉薄していなければ使えないし、これは最終防衛ラインだ。これが起動すれば………おっと」

     能力の説明途中で、黒波の手元にスペルカードが舞い戻ってくる。それは、今まで見てきた曼荼羅と同じデザインが描かれたカード。そしてそれが手元にあるという事は、スペルは解除されたという事だ。

    「…スペルは自動的に終了になる。つまり、私は勝負の都合上負けとなるわけだ」

     落ち着きながらも、ため息を一つ零す黒波。そんな彼女の説明を聞いて、清川はボロボロの身体をいたわるようにして立ち上がり、清川の側までゆっくりと歩み寄る。

    「もしかして、私の勝ち?」

     痛む所を押さえながら、清川は黒波に目の前までやってきて問いかける。黒波はそんな彼女に不満げながらも宣言する。

    「スペルを掻い潜って生きている以上、撃破したも同義。お前の勝ちだよ清川」

    「へへっ…初めてかもね、お姉ちゃんに勝ったのは………でも」

     黒波の宣言を聞いてニカっと笑った清川だが、その後すぐに表情が残念そうに変わった。

    「私もスペルが解除されちゃってるんだよね。しかもこれはスペルの能力とかじゃなくて単純に維持が出来なくなっちゃったから」

    「つまり、そもそもお互いのスペルが終了していて引き分け………そしてスペル解除の経緯から見れば、純粋に撃破された私の負けって事」


     そう、私は見ていた。清川が黒波の展開した結界の収束に対して、ほぼ脊髄反射的に身を一歩引いて脱出を図った。そしてその際に自分が身にまとっていた雷光や攻撃の魔法陣などが、陣の収束に引き剥がされるように失われ、ようやく陣を抜け出した清川は、今の様な何も装備していない元々の姿に戻っていたのだ。

    「だから、結局私はお姉ちゃんに勝てていなかった。そもそも、ここまで暴走してやっと肉薄できているんだから、勝ちなんて遠い話だよね」

     寂しい笑顔を黒波に向ける清川。そして、そんな彼女の様子を眺めていた黒波は、相変わらずの無表情で守るべき扉の前に立つ。

    「…気に病む必要はない。そもそもこの試合がおかしいだけだ。なぜ乙姫様がそんな事を言い出したのか、私も気がかりではあるのだから」

    「乙姫様…か、御母様も不思議な人だけど、乙姫様はもっと不思議な人だよね」

    「まぁ、客人の無用な詮索はこれくらいにしておこう。今はお前も休んでおけ。この様子だと、今日も退屈な日のはずだからな」

    「そうかー、じゃあちょっと休んでから、勝負後の妹たちのあられもない姿でも拝みに行こうかなー♪」

    「変態か」

    「あれ…ところでお姉ちゃん」

    「なんだ?」

    「いつの間に他のお姉ちゃん達が来たの?バックヤードのドアが開いてるけど…」

    「そんなはず………」