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海恵堂異聞:M.c.s. 海探抄之十
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海恵堂異聞:M.c.s. 海探抄之十

2017-08-05 19:00









    「いやぁぁぁぁぁっっっ!!」










     甲高い天平ちゃんの狂声が辺りに響き渡った。その声に、周囲の祭りが活気を失い、いつしか賑やかだった祭りは末日の終わりのような閑散とした雰囲気に包まれている。いや、今まで縦横に動き回っていた妖精達の姿自体も見当たらない。

    「やぁーっ!やだーっ!?あ、ぁぁ……」

    「て、天平ちゃん………?」

     京雅さんの腕の中でもがくように暴れまわり、何かを恐れて逃げようとする天平ちゃん。

    「こいつはまだまだ、自分を脅かす脅威に弱い。あっしらの姉妹に、そんな愚妹はお呼びではありんせん」

    「やぁぁっ………や~~…」

     京雅さんの腕の中でもがき、焦点の定まらない目で涙を貯めることなく零している天平ちゃん。私は、そんな天平ちゃんの見るに耐えない姿に、たまらず声を荒げた。

    「き、京雅さん!天平ちゃんに何をしたんですか!?」

    「ん~?それは"檍原の現人神"たるあんたさんなら見極められるんではありやせんかね?」

     京雅さんに言われて、私は中津綿津見神に問いかける。すぐに綿津見様はそれが恐怖を植え付ける催眠のようなものであると答えてくれた。

    「催眠…どうしてそんな…」

    「おや本当に見破られやしたか。さすが神の力でありやす、ほんなら何処まで見破れるか天平を実験台に遊んで………」

     京雅さんが楽しげに話す提案に、私は自分の中で"もう一度"何かが弾けた。



    「…京雅さん」

    「ん?なんでやすか?」

    「直ぐに天平ちゃんの催眠を解いてください」

    「なぜ?」

    「どうしてでも、です」

    「ほほん、清清しい暴論でありやすな。で、断ると言ったらば?」





    「人間に仇為す妖怪と言う事にして、今すぐこの場で退治します」





     そう言って、私はこの一連の事件で使い慣れてきた大幣を呼び出して、京雅さんに突きつけた。

     この京雅さんは、危険だ。能力の詳細は知れませんが、少なくとも相手に恐怖を植え付ける力、それを気ままに使う精神…そして、ここまで付いてきた天平ちゃんに対して…自分の妹に対して"実験体"などと言える軽薄さ、少なくとも、今までの姉妹の中で一番看過してはいけない人だと直感で感じました。

    「大海を知らない蛙のような正義感…その正義、あっしは嫌いではありやせん。ですが、今はまだあっしら姉妹の話…それでもあんたさんは口を挟むと言うことでありやすか?」

    「無論です。何がとは言えませんが、京雅さんは許しちゃいけない気がします」

    「はっ!いいでやんすねぇ、その行き先の分からない正義!何をもってあっしに挑んできているのかおおよそ察しはついていやすが…まぁ色々考えるのは止めやしょう」

     そう言ってニカッと笑う京雅さん。不遜なその笑みは怪しく見えて、背筋を緊張が走る感じが治まらない。

     そして、一触即発の空気が漂う場所で、天平ちゃんの恐れ震えるか細い声が耳を打った。

    「つくしー…どこー………?」

    「おっと」

     京雅さんの腕を離れた天平ちゃんが手探りで私を呼んで探す。どうやら、私が何処にいるのか視認できないようで、両手を其処此処に渡して暗闇を探すように私に近づく。

    「天平ちゃん、私はここですよ」

    「つくし…つくしぃ………ひぐっ」

     天平ちゃんの手を取り、天平ちゃんは私を知覚すると掴んだ手を手繰るようにして私に張り付いてくる。天平ちゃんの目は私を見てはいない。多分、その目はまだ何かの催眠を受けているらしい。そんな天平ちゃんの様子を見ながら、京雅さんはおもむろに立ち上がって長い白髪を掻いて呟く。

    「はぁ…あっしら姉妹でもあの方でもなく、あんたさんの事を呼ぶとは…あんたさんはずいぶんと好かれたもんでやすね」

     感慨深げに京雅さんが口にする。そして続いて京雅さんは言葉を並べる。



    「これなら、あんたさんを"ここの新たな巫女にする"計画はうまくいきそうでやんすね」



    「新たな…巫女………?」

     京雅さんの言葉に、今までの出来事の記憶がパズルのように組みあがっていく感覚が脳裏に浮かび上がってきた。

     腕試し、六人の姉妹、勝った人間を通す、私の出自を知っていて、巫女………

    「ま、積もる話はあっしとの一戦のあとにしやしょう。どうせあんたさんはあっしを許していやせんのでしょう?」

     京雅さんの言葉に、考え事をしていた思考を現実に揺り戻した。そう、今は符号よりも目先の事…現実の海に住まう人魚の妖怪の姉妹、その人間への脅威…いえ、それ以上に、姉妹である天平ちゃんをおもちゃにして笑っていられる狂人的な海の長女…

    「…えぇ、そうですね。とても気になる単語も出てきましたし、そこらを全て引っくるめて勝ってから解決します」

     気を取り直して、私は自分の頬を叩いて気合いを入れ直す。大丈夫、まだ落ち着いてます。綿津見様が私を案じて一声かけてくださいましたが、私は大丈夫です。ちょっと本気になるだけですから。

    「よし決まった!春慶!」

    「はいよー」

    「さっき集めそびれた妖精も全員集めて観客をかき集めやし!何なら回廊の奴らにも声を掛けやんせ」

    「ふふっ、楽しくなりそうね。合点承知よ!」

     京雅さんと春慶さんが小気味よいコール&レスポンスをすると、春慶さんはまたも着ていた上衣を部屋の天井に放り上げた、そして、私がそれに目を奪われている間に、縁日会場だった周囲がいつの間にか開けた場所になっていた。広く取られた競技場のようなその場所には鳥居が一つと灯篭が一対、その周囲はスタジアムの観客のような大勢の妖精がひしめいていた。

    「こ、こんなに妖精が!?」

    「あんたさんは見極められなかったようでありんすが、春慶の力は波を起こすことでやんす。観客の盛り上がりも、所謂ビッグウェーブ…あいつの能力の一端なんでやんすよ」

    「それほどでもー」

     それを聞いて、私は春慶さんとの戦闘を思い出した。なるほど、春慶さんが私に能力を使用しなかったのは、観客を集めて対戦を盛り上げる事に能力を割り振っていたからと言うことですか。それなら、あの試合も納得が……

     …いきませんね。それを私に向けて引き出さなかったのは私の未熟ですから。






    「さぁ!観客は揃った。あんたさんがあっしを討つ理由も充分すぎるくらいある。そしてあんたさんには戦う力がある。あっしには姉としての責任がある!」





     京雅さんの大立ち回り、その言葉に私も触発されて、どこか熱に浮かされるようにその口上に口を合わせた。これが、この騒動の終着点だと、無意識に感じて。




    「その全て、私が全部解決して、私は海上異変と天平ちゃんと、そして事の真相の全てを頂いて帰りましょう!不肖、檍原…いえ















    綿津見の現人神"檍原 つくし"………

    海の長姉"海 京雅"………

























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