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海恵堂異聞:M.c.s. 九頭竜抄之二
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海恵堂異聞:M.c.s. 九頭竜抄之二

2017-08-18 21:00


    「………」

    「…つくし、ねぇつくしっ!これって!?」

     何十本の鳥居をくぐり抜けたか、もうほとんど覚えてない頃。

     海にいるのに、わざわざ足で石畳の参道を歩いて渡ることになってしばらく経った頃。

     鳥居と参道の終端までやって来て、私は改めて言葉を失いました。


     神社


     それは、その建物を見た人が十中八九そう呼ぶ建物。

     地上でよく見る典型的な神社が、周囲に立つ外灯に照らされて、私達の前に姿を現した。

     そして、真新しい参道と同じ様に、この神社もまた朽ちた様子も老いた様子もない、立て直されたばかり…あるいは常に整備が行き届いていると言わんばかりに、黒く荘厳なシンメトリーの屋根を携えた建物が、美しく佇んでいる。

    「すごい…鳥居や参道は百歩譲って形を保てるとしても、まさか社殿までこんなに完全な形で存在しているなんて………」

     普通に考えたら、海は深く潜るほどに水圧が高くなっていく。何百・何千メートルかも定かではないこの場所なら、地上にあるような作りの建物なんて水圧に押しつぶされて原型をとどめていないはず。それなのに…

    「つくし………これって」

    「神社、ですね。そして多分、ここが目的地なんだと思います」

     天平ちゃんの言葉で自分の目的を思い出して、緊張しながらも私はその神社に足を踏み入れる。すると、

    「…あっ」

    「つくし、どうしたし?」

     参道から神社の敷地に入るや否や、私は強い違和感を感じた。

     水の感覚がしません。

     空気です、神社の中は空気で満たされています。その様子を察した綿津見様が加護の泡を解いて、私は境内に流れる冷たく澄んだ空気で呼吸をしました。

    「天平ちゃん、この神社の敷地の中、水がありません」

    「だし?………わわっ、ホントだし!海じゃないし!」

     私に続いて境内に足を踏み入れた天平ちゃんも、中に流れる冷たい空気に驚きを隠せませんでした。

     そして、ただ呼吸ができるだけではありません。本来かかるべき水圧なども、この境内では無効になっているようです。

    「これは、結界でしょうか」

     そう言いつつ、神社の境内を見回してみる。すると四隅にある背の高い外灯を境目に、水が遮られていることに気が付きました。

     四隅に灯る白熱色の明かりは、ビルの3階~4階程度の高さに支柱一本で設置されていて、神社の周囲の海は、そんな明かりを灯す支柱4本を柱にした直方体の空間を避けるようにして周りに流れていて…例えるなら、この境内全域が透明なガラスケースの中に入っているかのように水が流動しています。


    「結界…それって誰が張って………あっ」

     天平ちゃんが、自分のした質問の意味に気づいてハッとする。そう、こういう不自然な環境を作る結界が張られているという事は、それを張った張本人がいるという事に他なりません。

    「多分、この結界を用意した者こそが、私達が探している"厄介な妖怪"なのでしょう」

     天平ちゃんと目を合わせて、二人で息を呑む。何気なく足を踏み入れていますが、もしもここがその妖怪の住処であるなら、私達はその妖怪のテリトリーに無防備で侵入している事になります。

     そして、迂闊なことは出来ないとその場に立ち尽くしていると、私でも天平ちゃんでもない、何かの声が拝殿の方から聞こえてきた。









    "そのとおりだ、深海の住人達"











    「っ!?」
    「っ!?」

     聞きなれない野太い声が私の耳に入ってきて、すぐさま拝殿に注目する。そして、向こうからカツカツと言う靴音が聞こえてきて、見覚えのない何者かのシルエットが浮かび上がってきた。

    「な、何者ですか!?」

     天平ちゃんと一緒に、警戒しながら向こうのシルエットに呼びかけてみる。すると、聞こえていた靴音が止んで、動いていたシルエットも静止する。

    「っ………」

     ほんの少し息を呑むような音がしたと思ったら、すぐに私達の間を沈黙が覆った。私達も、向こうのシルエットも動く気配はない。そして、十秒以上して、あの野太い声がもう一度耳を打った。

    (おい宿祢、さっさと進まねえか)

    「はっ、はひっ…!?」

     それと同時に、やたらと可愛らしい声が漏れて、シルエットが再び私達に近づいてきた。そして。どこからともなく湧いてきた温かい光で、その人影の正体が露わになった。

     艶やかな中長の黒髪、ハの字になった眉間から覗く灰色の瞳。自信なさげに私達の前に現れたのは、海琴様に近い雰囲気の、少しだけ背の高い女性でした。

    「ど、どうも………初めまして。来て…しまいましたね」

     おどおどと、言葉を選ぶように会話をする女性。視点もこちらに定まっておらず、かなりよそよそしい。見た目には気弱な女の人に見えるんですが………

     私達が身体に感じている"何か"は、そんな生易しいものではありません。

    「つくし…この人っ………!」

    「は、はい…私もさっきから…」

     両足が、そして全身が私達の意思を無視してこの場を離れようとしている。海琴様にも、京雅さんにも感じたことのない強烈なプレッシャーが、私と天平ちゃんを追い返そうとしている。恐怖と言うには余りにも直接的すぎて、この感覚が何なのかさえわかりません。

    「あなたは、一体………?」

    「あ、そのっ…ご紹介が遅れました。私はその…こんな小心者ですけど九頭竜神です、あの…"九頭 宿祢"と言います………」


    眥裂髪指九頭竜
    九頭 宿祢/Kutou Sukune



    「九頭竜って…九頭竜川の九頭竜ですか!?」

    「えっと…まあ、そうなりますね、はい」

     おそるおそると言った感じで受け答えする宿祢さん。九頭竜と言えば、私の居る地上の町では知らない人のいないほど有名な伝承です。そんな存在が、どうしてこんな華奢な女の子になって………あぁいえ、どうしてこんな深海深くに居るのでしょう…それに、今ここにいる宿祢さんは、さっきから聞こえてきていた野太い男性の声とは明らかに別人です。となると、その声の主は一体どこに………


    (言っとくが、こいつは宿祢であって九頭じゃぁねぇぞ?)


    「えっ!?」

     宿祢さんの諸々に気をとられていると、いきなり件の男性のような声が響いてきた。そして、身体を突き抜ける気配に抵抗しながら宿祢さんの様子を窺っていると


    ぬるり

    ぬるり


     宿祢さんの背後から、私の太腿を超える太さを持った、巨大な蛇…しかもその群れが姿を現した。光を反射しない真黒で無機質な瞳、光を飲み込むような黒々とした身体、人間すら一呑みにできるほどの巨躯に、ゾクリと背筋を寒気が走る。

    (どうだ?人を丸呑みにできるほどの生物は怖いか?あ?)

     いろいろな圧力で立ちすくんでいた私たちに、あの男のような声が聞こえてきた。

    「その声の正体は、あなただったんですね。大蛇さん…この場合は大蛇の皆さんと言うべきでしょうか?」

    (どっちでも構わねぇよ。改めて自己紹介だ。この女の方は神としての"九頭 宿祢"、そしてオレは厄災の竜としての"九頭 宿祢"だ)


    眥裂髪指九頭竜
    九頭 宿祢/Kutou Sukune(Serpent)



    「あの、そんなぞんざいに…叩かないで…」

     宿祢さんの後ろに並ぶ9つの大蛇、その一つが自己紹介と共に手前に居る宿祢さんの頭を蛇の口先でぺしぺしと叩く。

    「つまり、九頭 宿祢と言うのは九頭の大蛇と、それを携える宿祢さんのペア…と言うことですか?」

    (そういう理解で構わねぇよ。オレとしては甚だ不服だがな)

    「うぅ…」

     蛇の口先で頭をぺしぺしされながら苦い顔をしている宿祢さん。宿祢さんだけを見ていては、とても力ある存在とは思えませんが、後ろの巨大な黒大蛇の存在や、今なお私と天平ちゃんが感じている激しいプレッシャーを考えると、その強さを認めざるを得ません。

    (さて、人間よ。オレたちはお前に言っておかなきゃならないことがあるんだ)

    「は、はい?」

     話が一段落して、喋っていた大蛇が改めて私を見てそう言った。静かで不穏な語り口に、私も、呼ばれてないはずの天平ちゃんも緊張が高まる。

    (オレたちは人間を嫌ってここに居る。人間がここに来るのを一番危惧してた。その上で人間であるお前がここに居るという事は………)


















    (………お前は、タダでは帰せないこと、分かるよな?)















     明確な敵意が蛇たちから向けられる。そして宿祢さんも少し困り気な顔のまま一歩前に踏み出す。その一挙手一投足が激しい気迫を纏って私と天平ちゃんを押し返そうとする。

    「うっ………!」

    「ぐ…つ、つくしっ!?」

     九頭 宿祢という二人一体の存在から発せられる明らかな戦闘態勢、宿祢さんも困り顔をしているけれど、強い力を以て私達を追い出そうとしている。

    「ど、どうして人間を嫌っているのです………か?」

     呼吸を邪魔する強風のような圧力に苦しみながらも、九頭さんに問う。

    「知りたきゃ、オレたちを何とかしてみろよ?ここまで来られたって事は、お前も何らかの能力はあるんだろ?」

    「つくしをバカにするなし!お前なんかつくしがすぐに倒してやるしっ!」

     蛇の一頭に人差し指を突き出して鼻息を荒くしてそう言う天平ちゃん、そんな無駄にハードルを上げないでください。そりゃ闘いますけど。

    「う~ん…仕方ありませんね。乙姫様からも調伏させよと指示を頂きましたし。それではっ………!」

     そう言って、神社を背中に立つ九頭竜と宿祢さんに対して、私は大幣を呼び出して戦闘態勢を取った。大幣を呼び出すと、さっきまで宿祢さん達のプレッシャーにすくんでいた足が軽くなりました。そして、私の身体を綿津見様の加護のオーラが包んでいって、この空間を自由に動き回れる

    「あっ…大綿津見の………」

    「へっ、おもしれぇ!神と神の対決ってか?そりゃ最高だな!」

     私の加護の正体をすぐに見抜いた九頭竜と宿祢さん。そして、戦闘に血をたぎらせた九頭竜が宿祢さんの背中で怪しく蠢く。


    "海恵堂の巫女、檍原 つくし………推して参ります!!"

    (いいぜえ?災いの九頭竜"九頭 宿祢"…やってやろうじゃねぇかぁ!)

    「えと、黒龍神の化身"九頭 宿祢"…参ります!」


    「………あっ、海 天平やってやるしっ!!」

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