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宴の従者・次「つしま・いろは」
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宴の従者・次「つしま・いろは」

2021-05-07 19:00

     海恵堂の大手門を越えて、巨大な宮殿の玄関口とそれを囲む中庭で、海恵堂に従事している人魚の一匹が退屈そうに庭掃除をしていた。

    「はぁ、いろは遅いわね」

     身の丈ほどの竹箒を手にため息をつくのは橙色に身を包んだ人魚。後ろでポニーテールにくくった髪が揺れる彼女は、自分と同じくこの場所の世話をする妹を待っていた。



    「おーーーーーい!」



     そして、そろそろ持っている竹箒を放り投げて文句の一つでも言ってやろうかと踵を返した彼女の耳に、そこら辺から元気をかき集めてきたような声が飛び込んできた。

    「遅いわよいろは。さっき大手門の方へみなもが走って行ってから、随分時間が経ってるっていうのに」

    「いやぁごめんごめん。ちょっと準備に時間がかかっててね」


    よく叱られるオータムガール
    海 いろは/Kai Iroha



    「準備ってどういう事よ?」

     竹箒を片手に彼女…”海 つしま”は妹のいろはに問い質す。


    たまに叱られるフォールンガール
    海 つしま/Kai Tsushima



     竹箒を手に、妹を問いただす彼女は、海の姉妹の7女。海恵堂の玄関回りや中庭の整備を担当している人魚の一匹。

     そしてもう一人、つしまの妹で海の姉妹の8女が、今しがたどこかから帰ってきてつしまに問いただされている方。

     この二人がこの場所の当番を担当しており、そうそう来ることのない侵入者に対して常日頃から警戒をしている…という事になっている。

    「それがね、さっきの招集は姉様からだったんだけど…なんでも海の姉妹でちょっとスペルカードバトルをしてみてくれ…とかなんとかいう話で、だから今さっき自分のスペルを準備してたんだよ」

     今までどこかに行っていた事情を姉であるつしまに話すいろは。しかし、過程が穴だらけのいろはの説明につしまは頭を抱えて返した。

    「まず、どういう経緯でそうなったかを説明しなさいよ。それと自分だけ準備をするなんてずるいと思わなかった?」

    「え~?でも準備は大事だよ。それに、難しい話を私が覚えてると思う~?」

    「一発殴るわよ?」

     飄々とした態度で話すいろはに、つしまは箒を持っていない方の拳を握り込む。しかし、いろははそんなつしまの様子など気にかけず、そのままつしまを誘う。

    「まぁまぁ、お姉ちゃんも準備して、私とスペルカードバトルしようよ!」

     そう言って、いろははつしまの持っていた箒を取り上げてどこかへ放り出す。つしまは唐突ないろはの行動にずっと驚きっぱなしで目を丸くしたままいろはに振り回されている。

    「ちょっ、急にスペルカードバトルだなんて!ていうか、これって本当に姉様の命令なの?なんで………!?」

    「大丈夫、あとでちゃんと姉様に確認取っていいからさ!もし違ってたら怒ってくれてもいいよ!」

     グイグイと、しきりにつしまの身体を揺さぶってスペルカードバトルを催促するいろは。そして、何の前触れもなく話だけを聞かされて色々と気にかかることが増え過ぎたつしまはよくわからないままに、いろはの掴んだ手を振りほどいて、いろはの言うスペルカードバトルの準備を始めた。

    「いやそういう事じゃ…って言うかあんたキャラが………あぁもう、わかったわよ!とにかくやればいいんでしょっ!」

    「やたー!」

     いろはの強引な説得に焦りと怪訝を浮かべつつも準備をするつしま。来ているドレスのポケットから、タロットカード状の札をいくつか取り出して選ぶ。

    「とりあえず、スペルの数は2枚。バトルはすべてのスペルが撃破されたら負け………ってことでいいの?」

     カードを用意し終えて、庭で待機していたいろはにスペルカードバトルのルールを確認するつしま。対するいろははつしまの言葉にニッコリと笑って頷いた。

    「いいよいいよ~♪」

    「………?」

     どこか腑に落ちないという表情のまま、つしまは試合開始を告げる最初のスペルを起動させた。つしまがカードを表返して起動させると、庭中から秋めいた色の落葉が辺りに集まり、それが舞い散り、鋭い自転を伴ってつしまに襲いかかる。

    「じゃあ行くわよ!」


    葉符"枯葉千刃"


     スペルバトルが開始して先手を打ったつしまの攻撃。高速回転する落葉がいろはに襲い掛かる。対するいろはは無駄に身軽な身体でそれをかわしながら自分のスペルを一枚取り出す。

    「じゃあ私も行っちゃうよー!」


    橙符"オータムヴァーテクス"


     庭を飛び回る様に泳ぎ、逆さまになることも厭わず、いろはが自分のスペルを起動させる。いろはがスペルを起動させると、周囲の水が巻き上げられて、つしまの枯れ葉の刃やら様々なものを巻き込んで渦を形成する。平面上に完成した渦は、つしまが放つ葉っぱを吸い込んで無力化させていく


    「へへーん、お姉ちゃんの枯れ葉のスペルは、私には通じないよーだ!」

    「まあそうでしょうね」


     いろはの展開した渦が、周囲の枯れ葉や枯れ木を奪い取り、つしまのスペルに使う枯れ葉もすべて取り上げてしまう。そして周囲の枯れ葉が渦に取り込まれて庭の外に散らされて、つしまのスペルは力を失った。

    「最初は一敗か」

    「今度はこっちの番だー!このまま行くよーっ!!」

     勢い付いたいろはが、そのまま自分の水弾でつしまを攻撃する。つしまは水弾を避けながら頭上に巻き上げられた枝葉を眺める。

    「結構本気でやりに来るわね。いろは、こんなに好戦的だっけ…いやとにかく」

     つしまはいろはの普段とは違う雰囲気を怪しみながらも、バトルをどうにかしようと次のスペルをポケットから取り出した。

    「さあさあ、お姉ちゃんももっといっぱい撃ってきていいんだよ。珍しい姉妹同士のスペルカードバトルだからね!」

    「言われなくても………やってやるわよっ!!」


    舞台"水影三千枝葉"


     息巻いて、つしまが次のスペルを放り投げる。そしてすぐさまいろはとつしまを暗い影が包み込んだ。その中にはいろはが生み出した枯れ葉を吸い込む渦も含まれて、バトルをする二人を切り取るようにして包み込んでいった。

    「どうしたの?結界を張っても私の渦は止まらないよ!このまま攻撃して私が勝つ…」

    「あら?あんた、このスペルって見たことなかったかしら?ほら、後ろに気を付けないと」

    「へっ?」

     つしまに促されるまま、いろはが後ろを向くと、暗幕を突き破る様に鋭い枝…枝というにはあまりにも凶器に近いそれが、つしまにその枝先を向けていた。そして、これが危険な事態であると察知したいろはが自分の立ち位置から駆け出す。いろはの動作を双眸に捕らえていたつしまは、産み落とされるように現れる鋭い枝葉を眺めながら手をひらりと仰いで命令を下した。

    「行きなさい」

    「やばっ!」


     つしまのただ一言で、無数の枝葉がいろはに襲いかかる。刺突剣のようなそれが、直進を順守していろはを襲い、常に裏をとられるいろはは、慌てて攻撃の手を緩めてつしまのスペルに対処する。

    「へ、へへっ!避けちゃえば当たらないよ!いくら結界を作ったって…」

    「甘いわよ」

     いろはの言葉を遮ってつしまは再び手をかざす。すると、つしまの避けた先で再び枝葉がいろはを狙い撃つ。三度避けるいろは、そして三度背後を取る様に枝葉…つしまの張った結界の中で、いろはとつしまのいたちごっこが続いていく。

    「そ、そうかっ!結界の中だから…どこにいてもっ!!」

    「気付くのが遅過ぎよ。それに…どこにでも撃てるっていう事、もう少し頭をひねって考えてみなさいな?」

    「へっ?」

     つしまがそう言って両手を前に差し伸べると、今までいろはの死角を狙って飛び出していた枝葉が、領域の壁を沿うように現れる。


     上下、左右、前後、全面…


     それは、文句なしの全方位展開。ドームのような結界内の全てがつしまの攻撃範囲となっていろはに向けられる。

    「そう、何処にでも撃てるっていう事は、全方位で攻撃もできるっていう事よ」

    「あわわ…」

    「これで………決着ねっ!!」

     翳して降ろす。つしまのその動作で、全ての範囲の枝葉が一斉にいろはに向かって突進する。速度も決して遅くない、数も少なくない。その無数の刺突剣に、いろはは焦りの色を見せる。

     そして、全てがほぼ同時にいろはに命中して、まるで爆撃でもあったかのような煙が立ち上った。


    「ふぅ、これで一枚目は撃破っと…と言っても、この調子だとそのまま伸びてそうだけど」

     両手を腰につけて、煙が晴れるのを待つつしま。悪戯のお仕置きにしては派手な事をしたのを気にしながらいろはの様子を待つが、次に目に写った光景に、つしまは一筋の汗を流した。



     "誰もいない攻撃跡"が露になったのが、つしまに焦りをもたらしたのだ。



    「な………まずっ!!」

     その事実に、つしまはすぐに自分の立っている場所を離れる。いろはがそこにいないと言うことは、自分のスペルをどうにか掻い潜ったという事。そして迂闊に自分が背後なんて取られては、ここで負けが決まってしまう事。それらが頭より先に身体を弾かせた。

    「さすがに気付くのが早いね、お姉ちゃん」

     つしまが自分の立ち位置から遠のくと同時に、今さっきつしまの立っていた場所からいろはの声がする。そして、つしまはいろはの姿を視認してすぐに驚きの表情を見せた。


    「ってぇ!何であんたはすっぽんぽんで突っ立ってるのよっ!!」


     つしまの視界に入ったいろはは、下着一枚で自信ありげに仁王立ちをしていた。隠すところも隠さず、とにかくどや顔で彼女は立っていた。そして、慌てて叫んだつしまの言葉に不満そうに呟く。

    「えー?だってさっきの枯れ枝が思いっきり服を破いちゃったからさ。それにすっぽんぽんじゃなくてちゃんとパンツは穿いて………」


    「そういう問題じゃないのよっ!!」

     ほぼ一糸纏わぬ姿になったいろは。しかしそれでも微塵も隠すことなくいろはは持っている1枚のカードを放り投げた。

    「とにかくスペルの数は2枚。私がお姉ちゃんのスペルを打ち破れば、これで私の勝ちだよね!いっくよ~~~!!」



    橙符「ハーヴェスト・オブ・ヘイサラバサル」



     いろはが二つ目のスペルを唱えると、今までつしまの結界に取り込まれていた床が温かみのある色に光り始める。そして、今まで何もなかった結界の宙に、淡く白いものが浮き始めた。

    「うわっ、何よこれ、なんかすごい引っ付いてくるっ!?」

     そして、舞い散る雪のようなそれに見入っていたつしまの身体に、その白いもの…綿毛のような物体が次々とくっつき始めた。綿毛は振りほどけば離れ、しかし直ぐに数を増してつしまに張り付く。いつまでたってもそれを引き剥がしきれない。

    「あぁもうっ!とにかくくっついてきて鬱陶しいっ!!し…しかもっ!ふあっ!?ちょっ服の中…ひんっ!…なんかこそ、ばゆい…!」

     身体の異変に気が付いたつしま。体のあちこちについて回り、時には肌に直接くっついてくる綿毛が、まるでくすぐっているような感覚をつしまにもたらす。そんなもじもじしているつしまを見ながら、いろはは満足げに腕を組んで見せた。

    「ふっふっふ。このスペルは直接の威力こそないけれど、この綿毛がくっついて相手をくすぐって集中力を奪うっていう私の究極奥義だよ!」

    「あんたほんと考えることがしょうもなっ…わひっ!?」

     いろはのどうしようもない宣言に呆れ半分で返すつしま、しかし、奇しくもいろはの放った綿毛に完全に動きを制限されている事実に、むずがゆさに耐えながらも眉をしかめるしかなかった。

    「さぁ!この状態で私の全力の攻撃、避けられるか………なっ!!」

     そう言って、綿毛が舞う空間のなかで、いろはは水弾をばらまいていく。動きの鈍っているつしまを狙う弾幕、放射状に広げられる攻撃、ほぼフルパワーで展開されるいろはの攻撃に、つしまは避けることしか出来ない。もちろん、つしまの結界もいまだ健在で展開すれば勝負にはなるが、どうやら綿毛が想像以上に集中を邪魔しているようで、回避しながらのつしまの攻撃…結界からの攻撃は、途中で打ち消されてしまい、呼び出された枝葉は出た先から朽ちていく。

    「さぁ!これが終われば私の勝ちだよ!もう降参しちゃってもいいよ?」

    「ひうっ!!そ……それは………ないっ!!」


     いろはのこれ見よがしの挑発に、つしまは再度気合を入れて一喝する。そして、手を水平に切って改めて結界を発動させる。

    「ひぃっ………で、でも綿毛があるうちは集中力が………」

    「それなら、もう見切ったわっ!!」

     つしまはそう言って、その場で綿毛を振りほど行くように、激しく一回転。そして同時に、つしまの周りにじぶんで展開した枯木の剣がめまぐるしく飛び交う。

     すると、今までつしまに張り付いていた綿毛がどこかへ消えていき、つしまの身体から綿毛たちが引きはがされた。

    「な、なんでっ!」


     一瞬過ぎる、余りに唐突な出来事に、いろははつい声を上げた。対するつしまは、自分の身体のギリギリに常時自分の攻撃を巡らせながら、いろはのもとへ歩み寄っていく。

    「この綿毛、ケセランパサランのような生物じゃなくて、単にくっつける物に手当り次第くっ付く性質みたいだから、結界で弾幕を呼び出してそれには肩代わりさせたってわけ。お陰でようやく身体が楽になったわよ」

     綿毛の被害を逃れたつしまは、両手を広げて事も無げにいろはに近寄る。そして、いろはが随時呼び出している新たな綿毛も、つしまに張り付く前につしまの放つ仕様に吸着されて消滅している。

    「さて、それじゃあ決着と行きましょうか。あんたのスペルは看破されて、私は自由に動く事ができる…姉に喧嘩を売った覚悟はできてるわよね、いろは?」

    「で、でもお姉ちゃんはスペルを使いきってる…つまり、私に攻撃する手段はない!」

    「やっぱりあんたはアホね。誰がいつスペルで止めを指すって言ったのよ?」

    「………あっ」

     いろはが、これが弾幕試合で、スペルカードだけの勝負では無いと気が付いてうっかり声を零すと、つしまは直ぐにいろはに駆け寄っていく。僅かに反応が遅れたいろはは、一直線に向かって来るつしまを迎撃しようと自分の水の弾幕を用意しようとする…が、


    …ガシッ!


     いろはの腕は、先につしまに捕まえられ、いろはの攻撃は止められる。そして、冷や汗全開で目線を合わせると、いろはの目の前には清々しい笑顔を浮かべたつしまが立っていた。

    「あ、あはは……」


    「さていろは?これは正々堂々とした勝負の結果よ。だから何されても文句はないわよね?


    ………ね?」


     つしまの優しい言葉掛けと共に、いろはとつしまがそれぞれ展開していたスペルも消滅して、海恵堂の庭にはいろはの断末魔が響いた。


    「ふぎゃああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっっっっっっ!!!!」


    「おね、お姉ちゃん!!さ、さすがにパンツは!パンツ取っちゃったらホントにはだかだからっ!!」

    「うるさい!はしたない格好で動きまわった罰よ!!それとも、痛いのと恥ずかしいのとどっちがいいかしら!?」

    「ど、どっちかって言うと恥ずかし……いやいや!どっち嫌だからぁぁぁぁぁぁぁ!!」

     こうして、海恵堂の庭先で繰り広げられたスペルバトルは幕を閉じた。いつも通りの玄関口の静寂と、ヒラヒラと海を漂う秋模様の薄布だけを残して………


    ………
    ふむ、これは好都合か?
    ……



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