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宴の従者・次「清川・黒波」前編
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宴の従者・次「清川・黒波」前編

2021-05-09 19:00

     門外で大きな音がしたと思ったとき、外から聞こえてきた音に、二人は耳をそばだてた。

    「おや、何だか外が騒がしいね」

     海恵堂内部、ここはバックヤード前、関係者以外立ち入り禁止の扉を構える少し暗い部屋で、重力を忘れてスカートがまっ逆さまになるのも厭わない少女が天井から声を発した。そして少女は、忘れていた重力を思い出すかのように地面に落ちて、スタッと降りて楽しそうに呟いた。

    「またいろはとつしまの喧嘩かな?どれどれ、おねーさんがちょっと行って可愛がって………」

    「止めておけ。また冷たい視線を食らうだけだろうに」

    「あ、黒波おかえりー」

     手ぐすねを引いてにやけ顔でそう言う少女に、深く落ち着いた言葉がかけられる。それは、少女の後ろの少女、海恵堂のバックヤードのドアから出てきた少女に対する言葉だった。

    「冷たい視線か。んー……それはそれで私にはご褒美かな?」

    「変態か」


    煙たがられるミドルシスター
    海 清川/Kai Kiyokawa



    不気味がられるガーディアン
    海 黒波/Kai Kuronami



     清川が、まんざらでもない表情で身をよじらせながら言う様子に、黒波は気味の悪いものを見る様な視線を向ける。しかし、一通りの行動を終えた清川は、仮面を外したかのようにスッ…と表情を一掃した。

    「落ち着いたか?」

    「無論よ」
    この清川、気味が悪いな
     そして、先ほどの門外の音など、何もなかったかのように二人の少女門番の仕事に戻る。

     これが海恵堂の重要な場所…バックヤードを守る二人の人魚の日常だ。先ほどから重力や羞恥とかを忘れて気ままに振舞っている少女が、海の十姉妹の六女"海 清川"。そして無機質な門にもたれて、警戒の念を崩さない黒服の少女が、清川の直接の姉であり海の十姉妹の五女"海 黒波"である。大手門のすずりとみなも、そして中庭から玄関までのつしまといろはの二組同様に、この場所もまた、彼女たちが二人一組で守護している場所である。

    「でも、これはもしかして久しぶりの侵入者かな?それはそれで面白そうではあるけれど…」

    「縁起でもないことを言うな。これでまたあの件(くだん)のような者だったらどうする気だ?」

     楽しそうに笑いながら清川は言う。そして諫めるようにして黒波は言う。そんないつも通りといった会話を終えて、一つの静寂を挟んだ後、黒波の方から話を切り出した。

    「そういえば、姉妹同士のスペルバトルを見てみたいと、乙姫様が仰ったそうだ」

    「へぇ、それってさっきの集まりでの話?珍しく黒波が呼ばれたから何かなぁ?とは思っていたけど」

     それは、今まで黒波がこの場所に居なかった理由だ。黒波は少し前まで、このバックヤード前ではない場所に居た。そして、黒波は今までいた場所で気化された話を清川にも伝えた。

    「あぁ。人間の来ることなどまずない、侵入者も望み薄なこの場所で、海の姉妹たちも暇を持て余しているだろうから、どうせなら姉妹同士でスペルバトルの練習をしてみてはどうか?だそうだ」

    「ふぅん、それじゃあさっき外で起きてた爆音は妹たちがバトルしていた音かも知れないんだ。えへへ、それはそれで楽しみですなぁ…どれどれ、おねーちゃんがちょっと様子を…」

     黒波の言葉に、再び手ぐすねを引いて外に出ようとする清川。しかし、そんな清川を、黒波は止めなかった。いや、止めるより先に別の行動をしていたという方が正確だろう。

     そして、黒波の行動を知ってか知らずか、部屋を出ようとした清川が、その足を止めて口を開く。

    「………私の見てないところでなにやってるのかな?黒波?」

    「聞くまでもないだろう、今私は説明をしたはずだ。"乙姫様は姉妹同士のスペルバトルを所望している"とな」

     黒波に一切視線もくれず背中で問い質す清川。そんな清川の質問にいかなる動揺もせずに答える黒波。

     二人を取り巻くこの部屋に、目に見えない歪みのような空気が充満していくのを肌で感じる。そして、文字通りの逡巡の時間を経て、清川は穿いていたスパッツのカードホルダーから、黒波はスカートのポケットから、それぞれのスペルを取り出した。

    「枚数は?」

    「じゃぁ………2枚でっ!!」

    「了解した」

     一言ずつの短い会話で二人のスペルカードバトルは幕を開けた。お互いに1枚目のカードが宙に投げられると、それぞれの元に展開されたスペルが顕現する。


    魚符"深海魚雷ソードフィッシュ"!!


    楯符"魔眼とアイギス"


     清川がスペルを自分の前に投げつけると、清川の周りに先鋭的なフォルムの物体が現れた。それは、漁師の銛を先端に備えた魚雷のような物体だ。そして清川は手を払ってその魚雷たちに指令を下す。

    「よーし、そのまま貫けぇっ!!」

     清川の命令に促されるまま、先鋭な魚雷は進撃する。しかし人間の兵器である魚雷とは大きく異なり、それらはカクカクと不規則に曲がりながら黒波に向かっていく。その様子は、有象無象を区別なく狙う、"魔弾"とも言える奇妙な動きだった。

     そして、不規則ながらも確実に魚雷が付け狙う方…黒波はと言うと、スペルが床に置かれた状態で微動だにせず、ただ魚雷たちが向かってくるのを待ち構えていた。そして魚雷たちは、障害物のない標的を相手に、まるで歓喜するかのように、より動きを複雑化させる。黒波はそれでも、一切動かずあるがままに立っている。

    「このまま消し飛べっ!」

     清川の目が黒波を見据え、清川の魚雷は全てが黒波を攻撃する。


    ゴウゥゥゥゥゥゥゥン………………


     素早さとは裏腹な、鈍重な音が響き、黒波がいた場所が煙を噴き上げる。清川は、天井に足をつけて黒波の行く末を見守る。そして、煙が晴れた先を舌なめずりで観察していると、

    「無駄だ。確かに魔弾は外さないだろう。しかし当たった相手が死ぬとは限らない」

     何事もなかったかのような冷静な声が、煙の向こうから聞こえてきた。そしてそこには、一切のダメージを受けていない黒波の姿があった。


     その背中に、女の首を飾り付けた巨大な盾を構えて。


    「その攻撃、此処を通らず」

     黒波はそう宣言して、未だに起動している自分のスペルカードを確認してから清川を見遣る。対する清川はと言うと、その結果を分かっていたかのように腕を組んで口をゆがめた。

    「う~ん…やっぱり私のスペルと黒波のスペルは相性が悪いよね。黒波、実はそれがわかってたから私に勝負を仕掛けたんじゃない?」

    「知らんな。私は乙姫様の提案を遂行したまでだ。どうする?勝てないとわかったなら。スペルを降ろしてもいいんだぞ」

     素知らぬ顔をして黒波は清川を挑発する。そして清川はもう一度魚雷を呼び出して黒波の挑発を蹴り捨てて答える。

    「するわけないじゃない、そんなことっ!!」

     再び呼び出された清川の魚雷。先ほどよりも多くの数で、より複雑に動き回るそれらが黒波を標的にする。それでも、数が増えようと、軌道が複雑になろうと、黒波はその場所から動かない。そして清川の魚雷は先ほどより激しい煙を上げて黒波を襲撃した。

    「やったか!」

    「やってない」

    「フラグ折るのが早いよ」

     清川の、激しさを増した攻撃は、たった一言で阻止されて、三度清川は魚雷を召喚する。絶対に外さない魚雷と、絶対に貫けない守り、それは矛盾と言うにはあまりに方向の違う力であり、世にはそれを矛盾と言わず無意味と言う。清川の攻撃が三度、四度、五度と続けられるが、黒波はそれを意に介すこともなく、有るがままに直撃を受けて、すべての魚雷を受けきる。

    「やはり、その攻撃、此処を通らず」

    「これで、六発目か…」

     清川は、自分が攻撃した回数を小声で呟く。そして、今までのべつ幕なしに撃ってきた魚雷を、ここにきて展開するのを止めた。

    「どうした、弾切れか?」

    「いいや?まだ撃つことは出来るよ。撃つことは、ね」

     含みを持たせた清川の言葉に、黒波は怪訝な表情を浮かべた。確かに清川に疲労の様子はない。もともと活発である清川がこの程度で疲れるわけが無いのだろう。それはつまり、攻撃をしたくない理由が何かあるという事になる。黒波は、清川のそんな様子に直ぐに気付き、今度は自分の手で攻撃を仕掛けた。

    「来ないなら、こちらから行くぞ?」


    パシュゥッ!!


    「うわっと!?そうか、通常弾は撃てるんだ!」

     防御に専念していたの黒波から放たれた突然の水弾に、思考が一気に冷めた清川は、黒波の攻撃を回避しながら自分の水弾を黒波に当てていく。しかしスペルの魚雷でも通らない黒波の盾に、通常の攻撃が通るはずもなく、清川の攻撃は守りを固めた黒波に対して牽制以外の意味を持たなかった。

    「くっ!やっぱり七発目を使わないとっ!」

    「来てみろ。すべて止めてやる」

     水弾を放ちながら、余裕の口調で黒波は清川をけしかける。そして清川は、黒波の水弾をかわしながら、七度目の魚雷を召喚した。数は多い、一度や二度の数に比べれば倍以上…百二も至るかと言う量が展開されている。

    「数の暴力か、いいだろう。その全て、私がせき止めてやろう」

     幾重にも広がった魚雷を目の当たりにして、それでも黒波は表情を変えず、その場から動こうとはしない。ただその場所に立って、ただ相手の攻撃がやってくるのを待っている。そして、そんな黒波を複雑そうな表情で見つめながら、清川は手を振り、

    「これで七発目、どうなっても………知らないからねっ!!」

     自分の展開した7度目の魚雷を撃ち放つ。今までと同じ複雑な軌道、しかし、その軌道は今までとは少し違う。

    「どうした、狙うのもあきらめたか?」

     黒波は不規則な攻撃を眺めて挑発気味にそう言う。それもそのはず、数発の魚雷は、黒波を狙うどころかあらぬ方向に飛散して暴発しているのだ。

    「そうじゃないんだよねぇ」

     黒波の挑発に、少々苦い顔をして答える黒波。そして、乱射された魚雷は黒波に留まらず、室内を所狭しと暴れまわり、爆煙を上げる。しかし、その爆煙に紛れて素っ頓狂な声が聞こえてくる。

    「ぎゃぁっ!」

     それは、術者である清川が、至近距離で魚雷を受けて悶えている声だった。清川の行動に違和感を覚えた黒波は怪訝な表情で問う。

    「おい、これはお前のスペルだろう?どうしてお前が避け続けているんだ?」

    「仕方ないでしょ。そもそもこのスペルは6発までは術者の思い通りに動くけど、7発目は魚雷が行きたい方向に行くんだからひぃっ!

     自分のスペルの説明をしている間も、清川は自分の魚雷を間一髪でかわしながら所狭しと動いている。そんな清川の様子を呆れるように見ていた黒波は頭を抱えて自滅している清川を傍観していた。

    「どうしてそんな無計画なスペルをお前は………」

     清川を諭そうとした黒波。しかし、そんな黒波に何か聞きなれない音がこだました。

     ピシッ………

     それは、何かが軋むような音。門を守る黒波にとって、不自然な音は聞き逃せない異常である。黒波はその音をきいてすぐに視線を走らせて周囲を見回す。しかし、バトルフィールドになっている室内にそんな様子はない。そして、違和感をぬぐい切れない黒波は、一つの嫌な予感を感じて自分の上を見上げた。

     ピシッ………

    「…本気か?」

     自分のスペル。女の首を携えた巨大な盾。自分を守り、何人も通さない盾が、不自然な音を立て始めている。確かに清川の展開した数多魚雷を受け続けているが、本来はその程度では崩すことは出来ない。黒波はそれを理解してこのスペルを放っていた…はずだった。

    「どういう事だ、アイギスがどうして…」

     清川の乱射した魚雷を受け続ける盾に、動揺を隠せない黒波。そしてその様子に気が付いた清川が黒波に告げる。

    「あー、このスペルはね。6発目までは私の思い通りに撃てるんだけど。7発目だけは魚雷自身が狙いをつけるんだよね。しかもそれは対象の急所・致命点・とにかく一番狙われたくない所を狙うひゃぁっ!ってことで、私が知らない弱点をとにかく追いかけるのよ。ほんと、魔弾だよ魔弾」

    「まさか…」

     清川が自身の攻撃を避けながら伝えた説明に、黒波は嫌な予感を募らせた。そして気が付いた時には、黒波の盾は目に見えるほどのヒビを幾つも受けていて、一部一部が崩れ始めていた。

    「よしっ!これで撃破にうあっと!?

    「くっ!」

     盾を破る手ごたえを、自分の攻撃に翻弄されながら感じる清川。破られまいとたかをくくっていた攻撃に、自分の守りが崩されていくことを見届けるしかない黒波。そして、清川の魚雷も数を少なくしたころ、首を飾った盾が音を立て始めた。

    ガ ガ ガ ガ … … … …  …  …

     ゆっくりと崩壊して、瓦礫と化していく黒波の盾。それらは地面に落ちる前に幻影となって消滅し、姿を消していった。しかし、それと同時に無差別に攻撃をしていた魚雷たちもいつの間にか姿を消して、盾がすべて崩壊した後には、一切戦闘の痕跡もない静寂だけが残ってしまった。


    ………

    ……


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