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宴の従者・次「金流・花錦」前編
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宴の従者・次「金流・花錦」前編

2021-05-14 19:00

    「………ん?」

    「今、門前で何か聴こえたような…」

    「って、そうじゃない!花錦姉さんが呼んでたんだった!うーん…また私、怒られるのかなぁ…?」



    ………


     

    「お疲れさんやな」


     海恵堂が客人のもてなしのために使う宴会場。金流が向かうと、そこには小豆色の艶やかな髪を流す姉の姿があった。


    彩られるエルダーシスター
    海 花錦/Kai Hananishiki



    「急に呼び出してごめんな?」

    「そりゃあ姉様のお呼びですもの」


    偽られるイミテーションゴールド
    海 金流/Kai Kinryu



     金流の二つ上の姉…花錦は、部屋に入ってきた金流を見るやニッコリと、しかし申し訳なさそうにそう言って手を合わせた。金流は、これが珍しいことでもないように姉に返事をする。

    「それで、何か新しいお仕事ですか?」

     気を取り直して、金流は花錦が呼び出した理由を尋ねる。先程も言った通り、金流にとって姉達からの呼び出しは珍しいことではない。特に、この"海の姉妹"の長女である人物からの呼び出しは、金流に限っては頻繁である。

    「んーや。ちょっと乙姫様から提案があったから、それの為に金流を呼んだんよ」

    「乙姫様ですか………それでその提案って?」

     乙姫…海恵堂がもてなし続ける賓客。海を海足らしめた人物の一人であり、海恵堂の恩人でもある。

     しかし、それはあくまで海恵堂の視点での話であり、海の姉妹から見た乙姫とは、歓迎すべき客人であり、しかし時たま突拍子もない提案をするいたずら好きなお姫様である。

     それもあって、金流の表情には一瞬陰りが見え、花錦へ話を促す言葉がわずかな時間だが出なかったのだ。

    「それがな、海の姉妹のスペルカード試合を見たい言う話なんよ」

    「それは…私たち姉妹同士のスペルカード試合と言うことです…よね」

     疑問を投げ掛けようとした金流は、花錦が眉を潜めた一瞬の反応に気が付き、疑問から納得に言葉を転換した。

    「せやね。そいで乙姫様は私の相手には金流がいいって言うたんよ」

    「つま、り………?」

     花錦の一言一句に、不安感が右肩上がりで募っていく金流。「つまり」と花錦に聞いた金流には、もう次に何が返されるのか大方想像がついている。


    「そう言うことだよ!」


     花錦の背中から聞こえてくる、快活な声。そこに存在するかどうかを疑わせる幾何学模様のドレス。そして、宇宙を封じ込めた様な輝きの双眸、それは紛れもなく、ヤツだった。


    行方を晦ますエンプレス
    観福宮 乙姫/Kanpukugu Otohime



    「乙姫様…」

     花錦も金流も、彼女の登場に膝を着けて頭を下げた。それは、従者としてのルール。歓迎すべき相手には無条件で頭を下げる。例えそれが、無茶を言って自分達をかき乱す相手だとしても。

    「いやぁ、人間相手の戦いっぷりは見せてもらったけど、人魚達同士の合戦って私あんまり見たことなかったからさ。せっかくだから見せてもらおうかなって」

     相変わらず、事も無げにそう言う乙姫。つまり彼女はグラディエーターの観戦者を望んでいると言うことだ。それにより姉妹達がどうなるかなど、考えもせずに………

    なんて非道な姫だこと

    「あぁ心配しないで。別に死闘が見たいんじゃなくて、私はみんなのスペルカードが見たいだけだから。でもただスペルカードを展開するのも味気無いし、それなら姉妹同士で模擬試合的な事をやってもいいかなってね」

    「…て、乙姫様が言うてはるんよ。せやから金流、ここは乙姫様の提案に乗ってもらえへん?」

    「………わかりました。そこまで言うのならやりましょう。それに、花錦姉様と手合わせするのは、相当に久しぶりですし」

     その場にいる者たちが全員同意したのを確認して、金流と花錦は宴会場の両端に歩み寄った。そんな二人の立ち位置を確認した乙姫が、右手を掲げて何かをし始めた。

    「さて、それじゃあ宴会場がボロボロになってちゃぁせっかくのお客さんに見せる顔がないよね。なので私が空間を切り取らせてもらうよ」

    「つまり、この範囲では何をしても実際の場所に影響はない言うことでよろしおすか?」

    「にひひ、ご明察」

     花錦の確認に乙姫は子供のように笑って見せる。なるほど。こうして戦闘空間を作り出していたわけか。

     そして、すべての準備が整ったところで、金流と花錦はそれぞれの札を懐から取り出して弾幕勝負を始めた。

    「そういやぁ枚数決めてへんかったけど、何枚にするかえ?」

    「じゃぁ2枚でどうでしょう?」

    「あんた、わかってて言ってるなぁ?」

    「ぎくっ」

     乙姫によって切り取られた空間の中で、二人がスペルの枚数の討議をする。花錦から金流へ枚数の判断は委ねられたようだが、金流の返しに花錦は何かを察したようだ。

    「まぁええわ。それだけハンデをくれてやってなお私に勝てんかったときは…わかっとるよなぁ」

    「ひぃっ!」

     花錦の不穏な言葉を不敵な笑みに、金流の体が急激にこわばる。そして二人はお互いのスぺを提示して、空間の中に戦いの弾幕が展開されていった。


    表符"ポーカーフェイス"

    "八百比流演舞「花錦」序"


     二人が織りなした弾幕が、豪華絢爛な部屋を彩り始める。金流の弾幕は自分のパーソナルカラーにほど近い金色と白。無邪気な軌道で花錦を攻撃しようとしている。一方で花錦は地に足を付けたまま、軽やかなステップで金流の攻撃を回避していく。それと同時に花錦は時折両手に持った巨大なせんすから虹色の担当のようなものを呼び出して、周囲にばらまいていく。それらは規則的な軌道を描いて、弾むように移動している金流に時折肉薄する

    「おおっと!」

    「あらあら、この程度のお遊びでもたもたしとったら、金流も立派な人魚になれまへんなぁ」

     瞑り目の奥から金流の行動を察知した花錦は、煽りも含んだような優しい口調で声をかける。金流は普段の事とでも言いたげに花錦の言葉を話半分に聞き流す。それでもなお部屋中を駆け回り、白と金色の弾幕を散りばめていく。

    「もちろん、ここでどうにかするつもりではいませんから!姉さまが序の舞を使った時点で、アタシを最後に打ち負かそうしていたのは理解していましたし、それを読んで2枚勝負に持って行ったんですから」

    「せやろなぁ、下の姉妹に並んで悪戯好きな金流らしい選択やわぁ」

     お互いの番外を意識した会話の応酬。弾幕勝負は一進一退の攻防が続いている。しかし、一つ気にかかる所もあった。

     金流の弾幕、中でも白色をした弾幕だけは、金色のそれと違い残留し続けている事だ。そして花錦はそんな事象に気付いている様子はなく、自分に今日至らしめる攻撃だけを1ステップでかわし、そして短刀の弾幕を翼でも散らすかのように振りまいていく。

    「金流、このまま屋とじり貧で勝負付きまへんな?そろそろ身体も疲れる頃やろ?」

    「姉さまと一緒にしないでください。これでも動く体力はありますし…それに」

     金流が何か言い淀む、そして変化はすぐに訪れた。


    表符“ファニーフェイス”!


     今まで金と白とで構成されていた金流の弾幕、それらが表情を変え、白の弾幕が墨染でもしたかのように黒く変化していった。

    「あら?」

     目を開いて、その色の変化を察知した花錦、そして再び金流の金と黒の弾幕が花錦に襲い掛かる。

    「あら、これは追尾攻撃やねぇ」

     花錦はすぐに攻撃の変化に気が付いた。今まで浮動的に襲い掛かってきていた白の弾幕が色を変え、黒になったことで、明確の花錦を追尾して攻撃をしてきている。

    「そう、姉さまが弾幕を打ち消しにかからないのは知っていたので、ポーカーフェイス弾は好きなだけ増やせた。だからそれを一気にファニーフェイス弾に切り替えて積もり積もった浮き弾は全て姉さまを追尾します!」

     金流の策によって、放っておいた白の弾幕の全てが花錦を直接狙い始める。花錦はそれに気が付き、今まで地上で舞うようにして避けていた立ち回りを変えざるを得ず、金流と同じく重力から解放されるようにして空間を駆け回り始めた。

    「ほんに、そういう所のイタズラは妹たちにも劣らんほど老獪やね。その辺は賞賛もんや」

     宙を駆け回りながら、黒い弾幕の追撃を避けていく花錦、壁に足をついて、黒の弾が花錦を捉える瞬間に間一髪で蹴りだして回避する。壁面にぶつかった黒い弾幕は、役目を終えるようにして消滅していき、次第に黒の弾幕の数は目減りしていく。

    「ぐぬぬ」

     金流も、花錦が自分の弾幕の弱点を理解した事に気付き、次第に顔を歪ませていく。

    「どうやら金流、このスペル、切り替えた後は追尾攻撃の追加ができんようやなぁ?私を倒すのにタイミングを窺ってたようやけど、少し急いだんとちゃうん?」

     花錦の言葉は図星だったようで、金流は金色の弾幕だけを張りめぐらせて、先ほど間dネオ白の攻撃を繰り出すことも、黒の攻撃を追加することもしていない。そして何より、花錦にそれを指摘された直後の金流の表情は、悔しさ以上に複雑な顔をしていたのだ。

    「さて、花錦の舞も、頭もそろそろあったまってきた所やし、この番はそろそろ決着つけよか」

     花錦はそういうと、同じように回避の動きを取りながら、次第に金流との距離を詰め始めた。金流もそれに気づき、奔放ながらも素早い立ち回りで距離を取って花錦を近づかせまいと振る舞う。しかし、金流が動き、花錦が追いかければ追いかけるほど、二人の距離は次第に近づいていく。

    「なんでっ!姉さまから距離を置いてるはずなのにぃっ!」

    「あんた、言い方だけやったらひどいこと言いよるで?」

     それもそのはず、直線的に花錦から距離を置く金流に対して、花錦は最終的な距離が最短になるように立ち回っている。自分が追いかける方向に対して金流が逃げるであろう道を予測して、逃げた先で距離が縮まるように立ち回り、そして気付いたころには、二人の距離は身体一つ分にまで詰められていた。

    「ひぃ~~~!」

    「ほんなら、これだけ詰めれればええやろうね、金流?まずは覚悟やで?」

     花錦はそう言って、金流の背中を捉えた。そしてせんすを華々しく開いたと思ったら、それをパッと閉じる。

    「ひゃっ!」

     その瞬間、花錦を囲むようにして七色の担当が切っ先をこちらに向ける。花錦に向いた切っ先は、1メートルも離れていない金流にも当然向けられており、その刃の並びに、逃げ道など存在しない。

    「あ」

    「悲恋の舞、花錦“序”これにて終幕やね」

     花錦の言葉で七色の刃は花錦と金流、双方身体を貫くように通り過ぎて行った。そして、金流が仕掛けていた黒色の追尾団はフェードアウトするように消え、花錦と金流は二人して地上にゆらりと落ち、倒れた。

    「うぅ…また悲恋に巻き込まれましたぁ…」

    「ふぅ…金流に色恋はまだまだ言う事やなぁ」

    二人してむくりと起き上がってそれぞれの小言を言う。金流のカードはひび割れるようにして消滅し、花錦は自分が起動したカードをそのまま服の中にしまい込んだ。
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