私の詫び言
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私の詫び言

2014-10-07 00:07
    還るつもりはなかった。汚いのは知っていたから
    救うつもりはなかった。醜いのは知っていたから
    彼女に出会わなかったら、私は滅んだ後に再誕させるほうを選んだ。
    でも、私は彼女に出会った。だから選択した。
    ゆかりのためにー私が愛した人を生かすために、世界を救うと。


    私たちの種族は、この星に生命が生まれた頃から、この星を見守ってきた。
    星も生命。薄いけれども意思があり、死にそうになったら助けてと叫ぶ。
    そうなった時のために、そうならないようにするために、私たちは生まれてきた。
    数千・数万・数億…人が想像できない年月を一族は過ごした。
    その長い年月の中で、星の命が危ない時に、一人、また一人と星に還っていった。
    そして、一番若い私が遺された。一族が生まれたときに、赤子として生まれた私だけが。

    私達一族が、半数になった頃。星には私たちに似た種族が生まれた。
    「人」と自分たちを呼ぶその種族は、私達を神と崇め、その一部の一族が神を祭る者ー私達の世話役を自負していたーとして生きていた。
    私が独りになるころには、神と本当に崇める人は少なく、「ご機嫌を損ねると今の栄華が失われるから一応敬う」という人ばかりになった。
    ー皆が生きていたころは、人は綺麗だった。今の人は汚い。ー
    私は、彼らとの接触を最小限にし、皆が還った星の鼓動を聞きながら眠りについた。
    ー私達一族が魂を本質を見れることすら、人は忘却したー
    隠せてると思ってるその醜さを見るのに、嫌気が差して。


    眠りについて何十年何百年と経った頃、星の叫びを聞いて私は目覚めた。
    星の叫びで状況を理解した私は、逃げ出した。ここに居ると危ないと理解して。世話役の一族の末裔が裏切ったと知って。
    ー人は、世界はここまで腐ったー
    自分たちを見守ってる、守ってるはずの星の命を搾り取り、己の欲に使う。
    生まれたばかりの赤子ですら、その恩恵の内で生きている。その環境で生きていくにつれ、環境に染まり、平然と星の命を搾り取るようになっていた。
    こうなったのは、ごく最近なのは星から聞いた。
    その危険を知って止めようとした同属を殺した、同属殺しがこんな世界をつくったと。
    世話役の末裔は、その同属殺しに賛同して一族を抹殺し、私の身を狙ったと。
    ー審判の時。人。星の怒りか慈悲か。それは貴方達次第ー
    星の叫びが悲鳴に変わった時、私は審判を下す。

    逃げた私は、怒りか慈悲かを選択するために、人を探すことにした。「今の世界を呪ってる」「私を護衛してくれる」その条件に当てはまる人を。
    魂の色が比較的綺麗な情報屋をやっている人から、その条件に合うと思われる「Y/Y」と呼ばれる何でも屋の居場所が聞けた。私はその人の元へ向かった。

    「私が、YYです」「何の御用ですか、お嬢さん」
    その人は、女性であった。男物の服を着、古傷にまみれ、失った身体を補う機械で歪な見た目。人は彼女を男だと思い、男として恐れるだろうと感じた。
    彼女の眼から、世界を呪ってること、私のことを知っていることを私は読み取った。
    けれど、私はそんなことはどうでもよかった。
    ー一見汚れてる。けどそれは殻。その殻で隠せないほど中の魂は輝いてるー
    彼女の魂は、綺麗だった。黒く染まった殻がその色を隠せないくらいに。
    「私を逃がしてほしい」
    私は思わずそういった。この人以外に居ないと思った。
    私は、彼女の魂に魅せられていた。


    彼女との生活は、穏やかだった。
    逃げるといっても、追っ手を差し向けてくるのはごく一部。月に一度居場所を変える程度で済んだ。
    欲に染まった人が、同じ欲に染まった人に殺されているのを知り、嘆息することは多かった。
    腐った魂の持ち主が星に還ると、星を蝕む。それだけで叫びが大きくなっているのに、生きている人々が星の命を搾り取る。
    私は、審判の時は早そうだと、呆れていた。還った皆も、私の判断で動き出す準備万端だった。

    追っ手を殺す時。彼女は私に見られないようにしていた。
    追っ手の末路も、その死体も私に見せたくないとわかった。その気遣いは普通の人だったら、有難かっただろう。
    ーこの世界にあって、彼女は優しさを捨ててないー
    何があったか理解してる私は、彼女の優しさに喜んでいた。
    彼女のことを、可愛いと思うようになったのは多分この頃。
    一度わざと見た時は、感情があまり浮かばない彼女の眼が動揺一色だった。
    死体を見て「選択の結果を受け入れないで、最後の選択は出来ない」と見つめていったら、羨望の色が眼に映った。
    ー自分より強いと思ってる。けど、あなたのほうがよっぽど強いー
    腐った世界の中で、私が魅せられるほど綺麗な魂を持ってる。それがどれだけ凄いことなのか、彼女はわかっていなかった。

    私が彼女をゆかり、彼女が私をIAと呼ぶようになったころ、私はゆかりに何があったのかを聞いた。
    ゆかりの両親は、この星が今どういう状況にあるか知って、それを公表しようとしていた。
    その準備が整い、公表するという時に、殺された。当時、子供だったゆかりは、左目を切り裂かれる程度で済んだらしい。
    気絶して、病院で眼が覚たら、よく見える左目がついていたそう。
    その眼を付けた医者は、自分たちに何かあったらゆかりを頼むと言われていたから、全力を尽くしたと言っていたらしい。
    引き取ってくれた後見人を喪ったときに右脚を、友人を喪ったときに左腕を失くしたときも、義脚義腕を付けてくれたとゆかりは言っていた。
    私が見て、感心するほどのオーバースペックな義眼・義脚・義腕は彼女のお手製なのだと「今だからわかる。あの人は全力で趣味に走った」という言葉と共に言っていた。眼に浮かんでいたのは感謝と呆れだった。
    その医者は、今の世界をどう思ってるのかと聞くと、ゆかりは苦々しい表情を浮かべて「あの人は、嗤ってるだろう。私以上に」と答えた。
    その言葉で私は、滅びようが救われようが、どうでもいいと考える人なんだなと、察した。


    星の叫びが、悲鳴に変わった日。ゆかりと出会って、一年が経つ前日。
    私は世界を救うことを選び、ゆかりに楔を遺すことにした。
    私の一族は、生殖能力はある。やろうと思えば、どんな種族との間にも子をもうけられる。
    けれど、私達の血を引く種族はいない。
    皆は気に入ったものに自分のかけらを埋め込み、同属にしていていた。だから、子はいたけど半分ずつ血を引く子はいなかった。
    私が一族で初めて半分ずつの血を子をなす。その相手がゆかりだということが、私は嬉しかった。
    腐った世界を呪いながら、自分の居ない新しい世界を祝福する。終わりを喜びながら、始まりを確信する。汚い世界に絶望しながら、見れぬ綺麗な世界に期待する。
    最初は、狂気の殻をかぶってなお光り輝く、魂と心をもつゆかりに私は魅せられた。
    共に過ごすうちに、ゆかりのことを知っていくうちに、私は愛するようになっていた。

    「ごめん」といいながら、私はゆかりに楔を遺すために、眠らせた。
    ゆかりは、起きているときは男っぽいのに、寝てる時は女の子っぽい。
    私はこれから、ゆかりをじっくりとねっとりといただく。
    私のことをしっかりとゆかりに刻み付けるために。ゆかりが殻を破って本来の輝きを取り戻せるように。私の後を追わないように。私の逝った後の世界に繋ぎ止めるために。
    ゆかり自身気付いていない、私への恋慕を利用する形にはなるけど、私はゆかりに生きていてほしい。
    まだ、この世界は捨てたものじゃないとゆかりが魅せてくれたから。

    クスクスクス。逝くにはいい思い出になった。ゆかりって、攻められると弱い。とても可愛いかった。
    一夜の記憶が蘇るのは、私が逝った後。ゆかりが話してくれたあの人も呼んである。
    ゆかりが寝ている間に、以前聞いた電話番号に電話をかけて事情を話した。
    ケラケラ嗤いながら「面白そうだな」言っていた彼女に、ゆかりと違った輝きを感じた。
    「私の娘は、この人に魅せられる。」そう予感した。
    一回り以上も年下の少女に迫られたらこの人はどうなるんだろうと思い、その場に居合わせられないことが少し残念になる。

    私との子がお腹にいるとは知らずに、私の選択を知らずに、少し嬉しそうな表情を浮かべてゆかりが起きてきた。
    記憶が蘇って、そのあまり感情の浮かばない顔を崩壊させて、彼女に嗤われてしまえばいいと思う。一年過ごしたのに、結局笑顔一つ見せてくれなかった恨みなのだから、それくらいの悪戯してもいいでしょう?
    その固い表情筋が崩壊するのを弄れないのが、本当に残念。


    丘の上、私はゆかりに振り返って言う
    「ゆかり。あなたは、世界が汚いと言った」
    そのとおり、世界は汚い。腐ってしまっていた
    「確かに、世界は汚かった」
    星の声が聞こえる私は、それがよくわかっていた。
    「滅びたあと、再誕させる。最初はそのつもりだった」
    あまりに汚れきった人の魂にあきれ果てていたから
    「ゆかりに依頼したとき、私は世界を救う価値がないと思ってた」
    星を害する生命にかける情けなんて、私達にはない
    「今も、世界には価値をあまり感じない」
    ほとんどの人は汚れきっているから
    「ゆかり、私は貴女に感謝している」
    貴女に出会わなかったら、私は星の怒りを下すつもりだった
    「私を守ってくれたこと、滅びを望みながら私の意志を尊重してくれたこと…いっぱい」
    その魂と心が私を魅せた。この人を生かすためなら還ってもいいと
    「貴女は、自分ごと破滅することの望んでるのを知ってる」
    ゆかりは世界も自分も嫌いだから
    「だから、ごめんね。ゆかり、私はこの世界を救うよ」
    貴女の願いを知ったうえで、私はあなたに楔を遺す
    「私はゆかりに生きていてほしい。私との子供を育ててほしい」
    その子が初めて生まれる新しい一族。次代の星守。
    「私の最期を見ていて、ゆかり。私の愛した人」
    皆の力を借りて、私は空に飛び上がる。
    ゆかりが呆然と私を見ているのを感じながら、私は力を解放する。
    空に溶けるように、私を形作っていたものは薄くなっていくのを感じる。
    ー人よ。これは慈悲ー
    汚れきった魂は、この力によって分解され、星に還る。
    輪廻に還ることもなく、星の糧となる。
    死後に、己が奪った星の命を、己で補う。本来なら問答無用で分解されてたのだから、優しいものだと思う。
    極一部の人は、多分私たちの居るところに来る。ゆかりも彼女も私の娘も。
    ゆかりにあったら、殴られるだろうなと思う。いろいろ酷いことをした自覚はあるから。
    でも、私はゆかりに染められた。本人にとっては不本意だろうけれども、その責任はとってほしい。

    さて、呆然としてるゆかりに言葉を残そう。
    「さようなら」ーまた星の中でー




    ーふふ、ゆかりはあまり変わらないねー
    ーそこが可愛いところなんだけれどもー
    ーごめんね。命はかけてないんだー
    ー私が溶けた空が綺麗…か。泣いてくれるのねー
    ーまだ気付いてない。いつ気付くかなー
    ー言いたいことがたくさんある…ね。ふふふー
    ーゆかりと私の子供可愛いなあー
    ークスクスクス、彼女は気付いてないか、いつ気付かされるかなー

    まってるよー星の中で、皆といっしょに
    私は見えてないけれど、声には気付いたみたい。
    気のせいじゃないんだけどねーゆかりは私が逝ったと思ってるみたいだし、仕方ないかな。


    私は、ゆかり達の一生を空から見守る。こっちにゆかりが来たら、知らないはずのことで弄って可愛がるのを楽しみにしながら。











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