大鑑巨砲主義からの脱却 (2013/10/28)

 再びの全原発の無計画な停止である。その代替のLNGを世界一高い価格で否応なく買わされている日本に対し、現状で寡占状態にあるLNGの売り手側は、豪州を中心に最近のLNG開発コストの急上昇と、その巨額投資の回収確実性と投資インセンティブ確保のために、石油価格準拠による高価格が今後とも必要であるとして、日本側からの度重なる価格引き下げ要求を突っぱねている。
 なぜ、歴史的に見て変動性が非常に高い石油価格準拠が、巨額投資の回収確実性を担保することになるのか、論理的には全く理解不能であるが、要は1セントでも高く売りつけて巨額利益を上げたい、そのためには石油価格が今後とも高止まりするであろうと踏んでいるからに他ならない。
 近年、確かに新規LNG案件の巨大化は益々進んでおり、今や1件当たり兆円単位である。この巨額さが、新規参入を阻害して寡占化を許し、高値が続く根本原因の一つとなっている。
 太平洋戦争において、旧日本海軍は大艦巨砲による艦隊決戦という、日露戦争以来の基本戦略を最後まで捨て切れず、敗戦要因の1つになったとされている。巨大戦艦に比べると蚊トンボのような航空機を空母によって多数、機動的に運用する戦略は、山本五十六大将の主導で日本海軍が先んじたが、結局米軍側にお株を奪われて敗戦した。戦後、旧大蔵省の某大物主計官をして、「昭和の三大バカ査定」の1つとして、時代遅れの「大鑑巨砲主義」で、戦艦大和の莫大な建造予算を認めたことが挙げられたことは有名な話。 最近までの日本のLNGの購入方法を見ていて感じるのは、どうもこの旧日本海軍の轍(てつ)を踏んでいるように見えることである。
 一方で近年、LNG新規参入を目指す多数の企業が、中小型(年産100~200万トン程度)の浮体液化・出荷プラント(FLNG)による新規案件を多数提案しているが、日本の買い手は、これまで真剣な興味を示してこなかった。中古LNGタンカー改造などによるこの方式ならば、人件費や資機材調達コストが安い既存造船所で工事の大半がなされるため、僻地のガス資源によるLNG案件でも、コストを安く抑えられ、かつ事業者が新規参入組なので、購入条件は大幅に買い手に有利にできるはずである。
 日本の買い手が真剣な興味を示さなかった理由は、技術的に実績のない新しい方式と新規参入者の信頼性に対するリスクを嫌う体質であろう。もう一つ、小型案件からの調達では、調達ロットが小さくて、多数の案件からの調達が不可避となり、非常に煩雑なるからであろう。
 しかし、日本の買い手が率先して、このような小回りの利く、新規LNGビジネスモデルを、最初に1つでも2つでも育て上げれば、それらからの調達価格を低く抑えられるだけでなく、続々とこのような案件が実現してくるようになり、いずれ合計すれば大量な調達が可能になるだろう。また、それが大手既得権者による大型案件の価格条件を切り崩す有力な戦略カードにもなり得るだろう。
 このような、新技術、新規参入者からのLNG調達は、従来型の調達に比べれば当然、質的にはリスクは高いが、そもそも小規模であるので絶対的リスクは大きいものではない。また、過去と違って、LNGのスポット市場が存在するので、これらの案件からの調達が不調になった際にも、事実上買い手側に調達不能リスクはない。
 最早、世界一高いLNGを漫然と購入し続けることは、国民経済的に限界であり、価格の安い米国産LNGの調達戦略等と並んで、このような新機軸を戦略的に試すべき時ではないだろうか?

石井 彰 エネルギー・環境問題研究所代表
1950年生まれ。エネルギー・環境問題研究所代表。上智大卒。日本経済新聞記者を経て、石油公団に入団。ハーバード大学国際問題研究所客員、パリ事務所所長などを歴任し、現在石油天然ガス・金属鉱物資源機構(JOGMEC)上席客員研究員。著書に「エネルギー論争の盲点:天然ガスと分散型が日本を救う」「石油資源の行方」など