元首相二人が都知事選で残したものは? (2014/02/24)

 都知事選が終わった。ひょっとしたら二人の元首相にしてやられるかとも思ったが選挙戦途中の世論調査が示唆していた結果に落ち着いた。これにはさまざまな分析があるので屋上屋を重ねることになるもしれないが、原子力は必要という立場にたつ以上、この異常事態を自分なりに考えておく必要があると思えた。
 実は細川元首相時代のエネルギー政策がどうであったかはほとんど記憶にない。短期だったせいだろう。逆に小泉時代はさまざまある。しかし、首相マタ―というような大テーマはなかった。少し説明が必要になるが、小泉元首相は極端な話、エネルギー問題には一切の関心がなかったらしいのだ。これはある問題で官邸で小泉元首相に説明した時の状況を当時の資源エネルギー庁幹部から直接聞いた。当時のエネルギー問題は自由化問題のからみもあり、やや迷走気味だったのだが、国民的関心ということでは静かな時代だったのだろう。憶測すれば、エネルギー問題など眼中になかったに違いない。その元幹部曰く、「何度か説明する機会があったのだが、一切聞いてもらったという気がしなかった。一切ですよ。まったくの形式。面倒がなく助かったと思う反面。寂しくも思った」という。情景が思い浮かぶような気がする。小泉首相誕生の際に「とんでもないことになるよ」といった政治部の同僚記者がいたが、あの郵政民営化の一点集中。エネルギー問題などそれこそ100%関心なしだったとして何の不思議もないようだ。
 それがどうしたことか、今回の選挙では、「私はこの厳しい挑戦を支持し、連日力の限りを尽くして応援しています。それは内閣総理大臣として原発を認めてきたことを深く反省し、このまま黙っていてはいけないと痛感するからです」という。言葉は恐ろしい。脱一点主義だ。反省すれば、それでいいのだから簡単だ。状況が変われば、やはり原発は必要だったとなるのだろう。無責任であっていいのだから。細川元首相にしたところで酷い。街頭演説で言葉を失い、「風力」を小泉元首相に教えてもらう始末である。テレビで見たのだが、なんとも。
 二人の元首相が「脱」だか「反」だか知らないが原子力で一致して、劇場劇を見せてくれたわけだが、これでは百年の大計を持っての政策など出てくるはずはない。一時、エネルギー、特に原子力に関しては「ぶれない政策」が叫ばれ、一歩、踏み出したように思えた時もあったのだが、さて今後は。まだまだ危惧は消えない。二人が残したのは無用な混乱だった。元首相がとるべき行動だったろうか。

新井 光雄 ジャーナリスト
元読売新聞・編集委員。 エネルギー問題を専門的に担当。 現在、地球産業文化研究所・理事 日本エネルギー経済研究所・特別研究員、総合資源エネルギー調査会・臨時委員、原子力委員会・専門委員 大正大学非常勤講師(エネルギー論)。 著書に 「エネルギーが危ない」(中央公論新社)など。 東大文卒。栃木県日光市生まれ。