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5月30日、日本武道館にて「アンジュルム コンサートツアー2016春『九井一体』〜田村芽実卒業スペシャル〜」が行われた。2011年8月にスマイレージのメンバー募集に合格、翌々月に正式メンバーとなった田村芽実の卒業コンサート。別れを惜しんで涙したファンも多かったわけだが、それ以上に、コンサートの完成度の高さは圧倒的。田村芽実が出演する最後のアンジュルムのコンサートで、9人体制のアンジュルムとしての最高の到達点を見せつけたようだ。
アイドルが卒業を決意する理由は様々なものがあるが、田村芽実の卒業は本人のミュージカル女優になるという夢を追いかけるためであり、決してネガティブなものではない。それでもやはり、ファンは悲しむものだ。その悲しさをパフォーマンスで吹き飛ばしたのが、5月30日のアンジュルム日本武道館コンサートだったと言えるだろう。実力派揃いと称されるハロー!プロジェクトの他のコンサートと比較しても出色の完成度であり、後々までに語り継がれることは間違いない。そしてそのコンサートは、明らかに、田村芽実がいたから成し遂げられた偉業だと言える。
そこで本記事では、このコンサートのどこが凄かったのか、そしてそこに田村芽実はどのような影響を与えたかを記してみたい。このコンサートで生まれた全ての感動は、田村芽実がいなければ存在しなかったものである。
(1)ライブとしての「カッコよさ」の追求
オープニング映像から1曲目の『次々続々』への流れがとにかくカッコいい。一切の照れを捨てて「カッコいい」を突き進める様子を見て、客席からは戸惑いながらの歓声があがったほどだ。こんなにカッコよくて良いのか、と誰もが思っていた。オープニング映像が終わり、メンバーが現れるのだが、どこか所在なさげだ。だがここが歌って踊る場所だと気付いた彼女たちがセンターの舞台に立ち、レーザービームとともに舞台がせり上がっていく様はあまりにも感動的である。
そして1曲目の『次々続々』では当然のように田村芽実が歌とダンスでかましてくる。だが他のメンバーもただ黙って見ているわけではない。特に後輩メンバーの室田瑞希の大きな動きでのチャキチャキなダンスには田村芽実イズムを感じる。この日のMCで田村芽実の後継者を名乗り出た室田瑞希のプライドがそこにはある。こういったメンバー間でのライバル心や切磋琢磨はまさにアンジュルムならでは。そしてそれを当たり前の景色にしたのは、田村芽実の歌とダンスのスキルの高さと愚直なまでにそれを極めようとするストイックさであることは間違いないのだ。
アンジュルム『次々続々』(ANGERME[One by One, One after Another])(Promotion Edit)
(2)メンバーが勝ち得た自信の強さ
特にスマイレージとして活動していた時期は辛酸を舐めることも多かった彼女たち。ハロー!プロジェクトコンサート(2014年冬)のケーキに全グループの名前が記載されるはずだったのに存在を忘れられて後から小さく書き足されていたことも記憶に新しい。もちろんこうした事件を笑いに変えることが出来るのがスマイレージでありアンジュルムの特殊性なのだが、少なからず落ち込んだこともあったのではないだろうか。
だがこの日のコンサートでのMC、リーダーの和田彩花はこれまで培ってきたアンジュルムの歴史を踏まえ「自信しかありません」とファンに対して宣言した。ほとんどケンカを売るようにして言い放つリーダーの覚悟。ある時期からの和田彩花の言葉にはこのような神がかった自信というか自負に溢れているが、これは明らかに現在のアンジュルムのパフォーマンスが充実しているという証拠だろう。そしてそこには確実に、田村芽実の存在がある。和田彩花の覚醒において、田村芽実の存在が大きな影響を与えていることは明白な事実だ。
(3)過去と現在をつなぐ物語性
この日のコンサートにおいてメンバーが素晴らしかったというのは勿論だが、演出チームの仕事っぷりが尋常ではなかった。最高のメンバーには最高の卒業コンサートを、というプロの矜持を至るところで感じるものだったが、中でも中盤の『プリーズ ミニスカ ポストウーマン!』の演出は見事の一言。リリース時のミュージックビデオと現在のライブ映像をモニターで交互に出すことで、押し付けがましくない感動を演出することに成功している。
2011年12月の中西香菜があの曲を歌い、それと地続きになるようにして、2016年5月30日の中西香菜が同じ曲を歌う。この演出によって過去と現在は物語で結ばれる。そしてこの曲の一つのテーマは歌詞にあるように「物語は続く」なのだ。この演出をこの曲にあてる勘の良さ。あまりにも巧妙で言葉もない。そしてこの演出によって、田村芽実の「一生色褪せることのない1752日」(本人MCより抜粋)は一つの物語となっているのだ。
スマイレージ 『プリーズ ミニスカ ポストウーマン!』 (MV)
(4)日常における愛おしさの確認
感動だけさせていても仕方がない、というのはアンジュルムのみならずハロー!プロジェクトの精神であり、この日の幕間映像で流れたのは「メンバーがバーベキューをする」という完全な素の映像。田村芽実の独占インタビュー的な感動映像をやらないところがまさしくハロー!プロジェクト的ではあるのだが、実際にこのバーベキュー映像を観れば幸せになるから不思議だ。むしろこの、日常における愛おしさの確認作業こそが、ハロー!プロジェクト的でもある。
竹内朱莉が火の通った食材を食べているという、それが愛おしい。この食材はコンサートの予算で落ちるからいっぱい食べて良いんだよ、と思ってしまう。そして田村芽実は他のメンバーに色んなものをあーんして食べさせている。あまりにも愛おしくて泣いてしまいそうになるが、この映像によって田村芽実が本当に良い子なのだということは誰が観ても分かるし、それは重要なことでもある。田村芽実のパフォーマンスはほとんど神がかっているが、それはどこかの天才が成しえたことではなく、一人の普通の女の子がやってのけたことなのだ。だからファンは感動しながら、彼女の偉業を自分たちの生活に持ち帰ることが出来る。田村芽実が頑張ってるんだから、頑張ろう、と。それはアイドルが出来る、そしてアイドルにしか出来ない、極めて有効な個人への影響の与え方ではないだろうか。
(5)後輩へと受け継がれるイズム
この日のコンサートでは、田村芽実が後輩メンバーに物語を継承する場面もある。彼女は先輩や同期はいない、自分と後輩メンバーだけで『シューティング スター』と『天真爛漫』を歌う。このようにして、コンサートという公の場を借りて物語を継承してしまうのが、ハロー!プロジェクトの強さだ。そして後輩メンバーの誰もがその場を貴重に思っているのが分かるから、このシーンも当たり前のように名場面になってしまう。
上國料萌衣はまだ加入半年にも関わらず、パフォーマンスは他のメンバーと比べて一切の遜色がない。相手は百戦錬磨のアンジュルムにも関わらずそれが出来ているということ自体、完全な逸材である。それでも彼女は半年間の田村芽実との活動を大切に思っていて、彼女にとって田村芽実が「1番最初に怒ってくださった先輩」であり「1番優しく声をかけてくれた先輩」(本人のブログから抜粋)だったという事実はずっと変わらない。愛はそのようにして紡がれていく。間違いなくこれからのハロー!プロジェクトを背負って立つ逸材である上國料萌衣の活躍には、田村芽実という先輩の存在が確かにあるのだ。
(6)愛に溢れたセットリストの創出
後輩メンバーへの継承が行われ、次に先輩と同期と一緒に歌うパートになるというのはある意味では当然の流れなのだが、その選曲がふるっている。『抒情組曲「スマイルファンタジー」』というまさかの楽曲。これは2014年10月に開催されたミュージカル内の楽曲である。ハロー!プロジェクトのコンサートにおいては原則として楽曲活動とミュージカル活動は分離されており普通のコンサートでミュージカル楽曲を歌うというケースは極めてレアだが、それを卒業コンサートの大事なところで持って来ている。正直言って、ロフトプラスワンあたりの妄想ファンイベントで上がったらセンス良いなというような選曲なわけだが、それを実際にやってしまう、というか、この曲をやることに必然性を感じてしまうのがハロー!プロジェクトのイズムであり強さでもある。
当時はスマイレージからアンジュルムへ移行するまさにその過渡期であり、不安視するファンも多かった。そんな思い出を振り返ってセンチメンタルな気分になりつつも、ここで勝田里奈がいるという重要性だ。当時からずっと勝田里奈は勝田里奈として、田村芽実が言うにはたおやかに、そこにいる。感傷的になりすぎない緩衝材として、勝田里奈の存在はやはり大きい。そしてこの曲を田村芽実の卒業コンサートで聴けたというのは、やはり幸福以外の何物でもないだろう。
(7)名曲を未来へと繋ぐ姿勢
アンジュルムには卒業アンセムと言っていい名曲が二つあり、それは『交差点』と『友よ』という2曲だ。これらは先日卒業した別のメンバーに書かれた曲だが、卒業と別れ、あるいは花道への応援という普遍的なテーマを歌っているためアンセム的な存在となり得ている。実際にこの日のコンサートでこの2曲は歌われ、そして新しい意味をも持つことに成功した。
特に『交差点』は楽曲として静かな聴かせる曲なので、客席で観ていたら鼻をすする音が続出。メンバーの歌声よりも鼻をすする音のほうが大きかったと言っても過言ではない。それでまた、曲だから歌の順番は回ってくるわけで、ここで泣いてしまった相川茉穂を責めるわけにはいかないし、何ならこっちのほうが号泣しているのだから責めるどころではない。それでも田村芽実は、笑顔でメンバーの歌を聴いていた。このとき初めて『交差点』は今後も含めて卒業メンバーを贈る一般的な歌となったのであり、それは未来のアンジュルムへも繋がっていくのだろう。
(8)笑えることが出来るという強さ
この日のコンサートは田村芽実の卒業コンサートだ。誰が卒業するにせよ、卒業コンサートは悲しい。メンバーもファンも涙するのが当たり前だ。だがこの日、観客から爆笑をとった人間がいる。佐々木莉佳子だ。最後のMC、卒業する田村芽実へのメッセージを一人ずつ伝えるのだが、泣き虫なのに意地っ張りな佐々木莉佳子は泣きたくない。それで精一杯我慢するわけだが、その我慢している顔が完全に面白い。あんなに面白い顔で泣くのを我慢する人は、日本じゅう探しても彼女が一番なのではないだろうか。
だが勿論それは他人事ではない。佐々木莉佳子が面白い顔で精一杯泣くのを我慢しているとき、私たちもきっと同じような顔をしているのだろう。それでも、それを笑えることにしてくれたのは、田村芽実でありスマイレージ2期メンバー(通称アメリカ)の仕業だ。人はいつだって笑える。それはとても素晴らしいことだ。このコンサートでも田村芽実は本当に楽しそうに、嬉しそうに、ずっと笑っていた。それぐらいに人は強い。それぐらい強くいることが出来る。田村芽実は、笑うことの素晴らしさを、私たちに教えてくれたのだ。
(9)すぐそばにいる仲間を愛する気持ち
今回のコンサート、舞台で特筆すべきは、センターステージの存在だ。通常のステージとは別にセンターステージが離れ小島のようにして存在している。そのステージは正方形であり、だから9人が輪のようになる場面が多々あり、その演出は素晴らしい効果をもたらしていた。アンジュルムのメンバーが、大好きなメンバーを見ている瞬間が何度も生まれていて、その愛の強さはやはり尋常ではない。愛する人の瞳に、愛する人の姿が映っている、その景色を作り上げたということだけでもこのコンサートは称賛に値するだろう。
この日のコンサートは9人体制のアンジュルムにとっての集大成であった。それは確実に一つの到達点だったし、この9人でやれるコンサートとしてはこれがベストだったはずだ。少なくとも自分はこれ以上のコンサートは想像も出来ないのだから。そしてそのコンサートを、アンジュルムを愛する人々が見届けていた。卒業した福田花音もそこにはいたのだし、彼女もまた新しいアンジュルムを見ていたのだ。福田花音の視線も加えて、9人体制のアンジュルムは最高の形で幕を降ろした。一切の悔いもなく、それをやり切った彼女たちには、尊敬の念しかない。
それでもまた、物語は続く。8人となったアンジュルムと、一人になった田村芽実の物語はここから始まっていくのだ。だがこれほどまでに、一切の恐れも不安もないスタートもそうはないだろう。田村芽実も、どちらも素晴らしい未来を描いていくはずだ。そのようにして、物語は始まる。
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