"切り裂きジャック"と並び称され、20世紀イギリス犯罪史上もっとも有名な犯罪者と言われた双子の兄弟がいる。その名もクレイ兄弟。ロンドンの貧しい家庭に生まれながら、暗黒街のトップにのぼりつめた彼らは、英犯罪史上に名を遺す伝説の犯罪者として知られている。そんな彼らの栄光と破滅を描いた映画『レジェンド 狂気の美学』で、主人公クレイ兄弟(一人二役!)を演じたのは、今最もセクシーな男、トム・ハーディだ。AOLニュースでは、そんなトムの新たな魅力を引き出し、まるで自身もギャングのようなコワモテ(!?)なビジュアルを持つブライアン・ヘルゲランド監督に話を訊いた。


――監督はクレイ兄弟についていろいろとリサーチしてされたかと思いますが、ズバリこの2人の特徴を簡潔に表すとしたら?

特徴を一言で表すとしたら・・・、ロンは揮発性がある。燃え上がるがいつキレるかわからない。予測不能。そしてユーモアがすごくある。レジーは、よくも悪くも計算高いところ。そして物静かな印象で、ロマンチック、かな。


ロンはとても荒々しい性格だが同時にとても陽気な男でもあったんだ。まさにパーティーの盛り上げ役だ。だが時として、全く別の顔を見せる。明るい見かけの下に闇を抱えていたんだ。彼は妄想型統合失調症と診断されていた。つまり彼はいつ爆発してもおかしくない、一種の時限爆弾を抱えていたんだ。


レジーは口数の少ない男だ。彼は犯罪計画のブレーンを担っていたようだ。そしてギャングでありながら実業家のように自らの計画の流れや目標と成り行きに気を配っていた。しかし人をなかなか信頼できず、自分の考えを曲げようとしなかった。ある意味、得体の知れないところがある。それでも彼は人を引きつける男で、クラブ経営にも手腕を発揮した。レジーは芯の強い物静かなタイプの人間だったんだ。


――映画化にあたり、「クレイ兄弟を題材に米国スタイルのギャング映画を作る」というのが一つのポイントだったようですが、米国スタイルとは具体的にどういうことを指すのでしょうか?

この20年ほどの英国のギャング映画というのは、実はあまり好ましくなくて、なんだかキャラクターを見下しているような気がするんだ。よく分からないけど、もしかしたら階級的な目線も入っているのかもしれない。でも僕はこの作品ではそれはやりたくないと思った。むしろもっとアメリカのギャングもの、クライムものに近いものにしたいと思っていたんだ。

つまり、ちゃんと主人公の人間性を描き、主人公がたまたま犯罪に手を染めている人間たちであり、観客たちも彼らの人間性を理解した上でギャングたちの心情に共感する部分もあるような人間性。スクリーンに出てくるギャングたちを、「善人だ」「悪人だ」と裁くことなく、ひとりの人間として見てくれるような作品にしたかったんだ。


――ちなみに監督にとってアメリカ、イギリススタイルを象徴するようなギャング映画とは?

イギリスはガイ・リッチーの『ロック、ストック&トゥー・スモーキング・バレルズ』。アメリカはマーティン・スコセッシの『グッド・フェローズ』だ。



――当初は、一人二役を想定していたわけでなく、レジー役にム・ハーディにオファーしたそうですね。彼を起用しようとした理由は?

レジーを先にキャスティングしてからロンをと考えていたので、トム・ハーディにレジーをオファーした時はロン役は全く考えていなかったんだ。トムがイエスと言ってくれたら、似た人をキャスティングしなければならないからね。もし、カンバーバッジをキャスティングしても、双子には見えないからね。トムが一人で二役をやりたいと言ってくれたのはとても幸運だった。


――観ていても全く違和感のないほど見事な双子の演じ分けをしたトム・ハーディですが、役作りについてどんなことを話し合いましたか?

声音やしゃべりかた、人に対してどういう反応をするのか、そして他のギャングからどの程度尊敬されているのか?といった対外的なことも話したよ。そしてそれぞれの夢、例えばロンは抗争をするような昔ながらのギャングスターになりたかったし、逆にレジーはギャングであることを隠してナイトクラブなどのビジネスを成功させる事を望んでいたんだ。それぞれのキャラクターについても細かく話し合ったよ。


――トム・ハーディが一番苦労していたのはどんなシーンでしたか?

相手役がいなかったことだと思う。良い演技というのは通常相手がいて、お互いの演技がお互いの演技を引き出すといった力学的なことから生まれるものだからね。それが一切なく、共演者と挑戦し合ったり、背中を押し合ったり、お互い助け合ったりというような部分が全くなかったことが、最も大変だったと思うよ。さらに言えばレジーのほうが大変だったと思う。ロンのセリフだけとったものを聞きながらレジーを演じ、そしてレジーの演技の音声を聞きながらロンを演じるというやり方だったんだ。レジーの場合はまだ決まっていない相手の演技を想定して演技をしなければならないかったから、より大変だったと思う。


――レジーの妻・フランシスの存在がこの作品の重要な核になっています。彼女目線でこの物語を作ろうとしたのはなぜですか?

フランシスの視点で語ることで、この物語が純粋な人物の視点で語られることによって、観客が登場人物に心情を重ねて共感を持つ助けになったと思う。クレイ兄弟のやってきたことは許されないかもしれないが、映画を通じて、彼らの人間らしさを描きたかった。

映画の面白さは、作品の主人公たちの人間性に焦点をあてることができるところにある。どんな人物も、ある意味ヒーローとしてスポットを当てることで他にはない見方を提示できるんだ。それが映画作りというものだ。この映画で彼らを赦したり、善良な人間であると示したいのではない。この映画全体から、彼らも人間だということを観客に感じとってもらいたいんだ。





ブライアン・ヘルゲランド監督




『レジェンド 狂気の美学』6月18日(土)よりYEBISU GARDEN CINEMA、新宿シネマカリテほかにて全国順次公開
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■参照リンク
『レジェンド 狂気の美学』公式サイト
http://www.legend-movie.net


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