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アルゼンチンで社会現象化した衝撃作『エル・クラン』は『アクト・オブ・キリング』と似た怖さ? 町山広美&金原瑞人が語る
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アルゼンチンで社会現象化した衝撃作『エル・クラン』は『アクト・オブ・キリング』と似た怖さ? 町山広美&金原瑞人が語る

2016-08-24 19:00

    スペインの鬼才ペドロ・アルモドバルが製作し、第72回ヴェネチア国際映画祭にて最優秀監督賞となる<銀獅子賞>を受賞した映画『エル・クラン』。8月23日、アキバシアター(東京・千代田区)で本作のトークイベントが開催された。


    舞台は軍事独裁政権崩壊後のアルゼンチン。善悪の基準が変わりゆく中、突然無職になってしまった元エリート一家のプッチオ一家は「身代金ビジネス」という衝撃の稼業を始める...。アルゼンチン国内認知度100%の実話を完全映画化したのが本作『エル・クラン』だ。

    トークイベントに参加したのは、数々の児童文学・ヤングアダルト小説の翻訳を手がける金原瑞人、そして「マツコの知らない世界」(TBS)で放送作家を務め、雑誌「InRed」、「美人百花」などにて映画評を執筆する町山広美。それぞれ異業種ながら、本作の魅力に共鳴した二人である。


    実話べースと知らずに本作を観たという金原は「リアリティのない話をこんなにもリアルに作れるのがすごいと思っていました。本編を最後まで観て実話と知り、びっくりしました。犯罪映画だし怖い話のはずなのに、皮一枚も怖くない。でも後から思い出すと怖い」と本作の感触を語る。それは、インドネシアで100万人規模の大量虐殺を行いながら"国民的英雄"として暮らす人間たちを映し出したドキュメンタリー作品『アクト・オブ・キリング』(12)に通ずる感覚だったという。


    町山は「この映画、父さんがすごい目をしている。ルー大柴を少しさっぱりした感じです(笑)」と、プッチオ一家の父であり犯罪を主導したアルキメデスの印象を述べる。「お父さんの目つきは鳥みたいなんですよ。自分の親がああいう目つきになった時期があって。不動産で25億円の借金を抱えて現れた時にああいう目をして現れたんですが、何を言ってもポカンとしていました。あの目が本当に怖かった。きっと、今ある事実を認められないんだろうなと思いましたね。悪いことをしたと思っていないというか、自分のこととして捉えられないんだなと思いました」と自身の経験を重ねて語った。

    さらに町山はアルキメデスについて、「あの人は秘密警察みたいな仕事をしていたけど職を失った人ですよね。職探しのシーンも出てきますが。秘密警察時代にあの父さんは、人を拉致したり拷問したりを、仕事としてやっていた。それで給料をもらっていたから、この犯罪も自分は悪くないと思ってやっていたと思います。クーデターがたくさん起きて国の体制が不安定な中でしたが、体制次第で合法だったわけだから、近所の人を殺したりしても悪いと思っていない。いや、ぼんやり悪いと思っていたかもしれないけど...」と分析した。


    もちろん、父だけでなく子供達も犯罪に加担する。町山は、「家族で食卓を囲み、いいことがあるとキスしてハグして、褒められる」そんな「理想的」ともいえる家族が凶悪犯罪に走った理由を分析する。「集団の中に入って集団だけのルールに従っていくと、何も考えなくなっていくというか。最近、加藤泰監督の映画で新選組をテロリストとして描いた『幕末残酷物語』(64)を観たんですが、外から入ってきた人が中のルールにどんどん洗脳されていく様子が描かれていくんですよね。やがて自分がリンチをするようになる。内部のルールに入れば入るほど安定していく」「集団の中に入ると選択の余地がなくなるというか。完全に洗脳されているミニマムの集団が家族であって、この家族ですね」これに対し、金原は「軍隊もそう」と共感を示しながら「そもそも理想の家族に見えはするけど家族愛ってあるのか?っていう。うっすらと感じるけど、家族愛ってあり得るのか?と思った」と疑問を呈した。


    また、大ヒット映画『人生スイッチ』(14)や、アルキメデス役のギレルモ・フランセーヤが出演する『瞳の奥の秘密』(09)など、個性的な名作を生み出してきたアルゼンチン映画だが、アルゼンチン関連の映画について、金原は「『タンゴ ガルデルの亡命』(85)というピアソラが音楽を担当している映画や『ブエノスアイレス』(97、製作国・香港)は暗いんですよ。『モーターサイクル・ダイアリーズ』(03・製作国、イギリス、アメリカ)は...まあ明るいですね。ちょうど『人生スイッチ』を観たばかりだったし、僕の頭にはアルゼンチン映画が明るいというイメージはないんですよね」と印象を語るが、「『人生スイッチ』は暗い話もありながら、やり直しが効くっていうところがありますね。お父さんもやり直しているし。暗いというか、ふと抜けているところがあるような感じですね」(町山)、「ブラックな中にも明るいところもある感じでしたよね」(金原)とのことだ。


    銀獅子賞をはじめ、第10回アルゼンチンアカデミー賞では最多5部門(撮影・新人男優・美術・衣装・録音)を受賞する快挙を遂げ、本国では、『人生スイッチ』をオープニング動員記録で抜き、300万人という驚異的な動員数で社会現象化した本作。各国の映画祭で賛辞をうけたほか、アメリカの辛口批評家サイトRotten Tomatoesでも90%の満足度となった超話題作だ。映画のとんでもない結末に観た者の開いた口がふさがらないこと間違いなしの衝撃作『エル・クラン』は9月17日(土)より新宿シネマカリテ、YEBISU GARDEN CINEMAほかにて全国公開。

    (C)2014 Capital Intelectual S.A. / MATANZA CINE / EL DESEO



    ■映画『エル・クラン』公式サイト
    el-clan.jp

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