11月12日、東京・テアトル新宿にて、アニメーション映画『この世界の片隅に』公開初日舞台挨拶が行われ、監督・片渕須直、音楽を担当した歌手・コトリンゴ、声優として主演を務めた女優・のんが登壇した。
本作は、こうの史代の同名コミックを原作に、戦時下の広島において、前向きに生活を続ける主人公・すずの日常を描く作品だ。映画化の企画が指導したのは今から約6年前の2010年。その後、2015年3月から始まったクラウドファンディングにより、3000人以上のサポーターから、約4000万円の製作資金を集めた。
片渕監督はまず、「最初は4人くらいで始めたのですが、どんどん応援してくださる方が増えてきて、クラウドファンディングのみなさんが3374人。もちろんスタッフやキャストのみなさんもですが、本当にたくさんの方がみんなで作った映画だと思っています。僕一人の手柄じゃなくて、すごくたくさんの方がこの映画を作ったんだ、ということで、みなさんにご協力いただいて、ありがたいなぁと思います」と感謝の気持ちを表した。
片渕監督の前作『マイマイ新子と千年の魔法』(09)に続いての参加となったコトリンゴは、今回は劇場音楽を含め全ての音楽を担当している。「本当にやらせてくださってありがとうございました。なかなかお礼が言えなくて今言っちゃったんですけど(笑)。自分の人生の中で、一生の宝物になりそうな、本当に素晴らしい作品に音楽を作らせてもらって、すごく幸せです」と喜びを語った。
本作で、アニメ声優初主演となったのん。「お料理のシーンや、生活をすることをすずさんが楽しんでいる姿がすごく印象的で、節約するためにリサーチしたり、着物のリサイクルなど、一生懸命だけどすごく楽しんでいるのが素敵だな、と思いました」と主人公のキャラクターについてコメントし、続けて、「それから、それまで自分自身が生活するっていう才能がなくて、毎日ご飯を食べる(こと)とかが苦手だったんです。毎日三食とか、お洗濯をするとか、才能がなかったんですけど、ご飯を作ったりお洗濯をする楽しさっていうのが、わかってきて、生活をするのが楽しくなりました」と、本作ですずを演じたことによる変化を語った。
片渕監督は、そんなのんの演技について訊ねられると、「作画監督の松原さんが言っていたんですけど、録音したものを聞いて"自分たちの想像力の中の声が何でここに入っているのだろう"と言っていたのです。のんちゃんだけじゃなく、他の役者さんたちもみんなそうだったのですが、僕たちは、普段は絵を描いて仕事をしていて、その時は全然声がない状況ですが、声が入った時に全く、すごい、こんな恵まれた声の入り方はないな、ってみんなで言っていたんです。すごく、本当にすずさんがいるみたいでよかったです」と絶賛した。
本作のお気に入りのシーンについて、のんは、「周作さん(すずの夫)とすずさんが夫婦喧嘩をするシーンがすごく好きです。そこで、最初怒っていたことと全く別のくだらないことまでイライラしてくるすずさんと周作さんの感じが、すごく喧嘩しているんだけど、本当に夫婦になった気がして、すごく好きです」と明かす。
夫婦のシーンは、のんが演じるすずと、声優・細谷佳正演じる周作の息がぴったりだが、実は、アフレコの時期はずれているという。片渕監督曰く「スケジュール的には、多分2ヶ月くらい離れているのですよね。それなのに、すごくみんな会話ができているのがすごいな、と思ったんです。(のんは)周作さんの声を最初に撮ってあるのを聞きながら家で練習していたんですよね」とのことだ。
最後に、初日に駆けつけた観客たちに対し、のんは「みなさん今日はお越しいただきありがとうございます。みなさんがどうお感じになったのかすごく気になるところですが、本当に素晴らしい作品だと思うので、ぜひお友達やご家族にお勧めしていただけたらなと思います」と感謝の気持ちを述べ、片渕監督は、「6年以上かかって作った映画なんですけれど、今日11月12日で、やっと封切りの日を迎えることができました。でも、ここからが始まりで、11月13日も14日も15日もあるし、12月も1月も2月もあります。ずっとここの映画館ということではなくて、全国、いろいろな映画館でやっています。どこにでも宿る愛です。いろいろなところでまだこれから、ずっとみなさんがすずさんと会えるので、どうかよろしくお願いします。もうすずさんは、みなさんのものですので、どんどん、すずさんに会いに映画館に来てください。よろしくお願いします」と締めくくった。
映画『この世界の片隅に』は11月12日(土)テアトル新宿、ユーロスペースほか全国ロードショー
©こうの史代・双葉社/「この世界の片隅に」製作委員会
■映画『この世界の片隅に』公式サイト
konosekai.jp