剛力さんとぼくが初めて出会ったのは、もう4年も前のことになる。今でこそショートカットがトレードマークの彼女だが、当時はまだ長い黒髪をなびかせていた。その日に収録したのは、紙パックの紅茶のテレビCM。そのCМで彼女は日本中に素敵な笑顔をふりまき、そしてあっという間にスターへの道を駆け上がって行った。
一方のぼく、相沢直はと言えば、4年前と何も変わっていない。当時と同じく、制作スタッフの末端であるアシスタントディレクター。言ってみれば雑用係みたいなものだ。もちろん剛力さんが、ぼくのことなんて覚えているはずもない。それでも心の中で密かに、彼女との久々の再会を楽しみにしているぼくがいた。
「剛力さん、入られまーす!」
4年ぶりに目にした彼女に、スター然とした雰囲気は一切なかった。その場にいる一人一人の目をしっかり見て、笑顔で丁寧に挨拶をする。こちらが拍子抜けしてしまうほど、彼女は4年前と変わっていなかった。そして、彼女とぼくの目と目が合う。彼女は一瞬、驚いた顔をする。
「相沢さん? 相沢さんですよね!」
剛力さんの素敵な笑顔を、ぼくはそのとき、確かに独り占めしていた。
(※注)
本記事は個人の妄想を勝手に書き連ねたものであり、以下の写真は本文の内容とは一切関係ありません。
リハーサルも終わり、収録現場はざわついている。各所のセッティングが終われば、本番の収録だ。スタッフは忙しく働いているが、演者にとっては手持ち無沙汰な時間である。こんなときに演者の話し相手をするのもアシスタントディレクターの大事な仕事だ。......と、自分に言い訳をして、ぼくは剛力さんと4年ぶりの会話に花を咲かせていた。まあ、いわゆる、役得、ってやつだ。
「相沢さん、全然変わってないから、ビックリしちゃいました」
「変わってない......ですか? そういう剛力さんも、変わってない......ですよね」
ぼくの妙な語尾の言い回しが剛力さんのツボに入ったようで、彼女は声をあげて笑う。
「相沢さん、なんで敬語なんですか! やめてくださいよ。ヘンなの」
「いや、だって、4年ぶりだし。大女優さんにいきなりタメ口なんてきけないって」
「何言ってるんですか。私、4年前のお仕事、相沢さんには本当に感謝してるんですからね?」
「感謝、って......。俺、何もしてないだろ」
「何もしてない、って。またまたー」
剛力さんが、悪戯っぽく笑って、自分のバッグから携帯電話を取り出す。ずいぶん昔の型のガラケーだ。正直、まったく記憶がない。不思議そうにそのガラケーを見つめるぼくのことを、ふてくされたように剛力さんがとがめる。
「ちょっと、相沢さん! 本当に覚えてないんですか!?」
「えっ? ごめん、何だっけ......?」
「もー! ひどい! 私にとっては、すっごく大事なことなのに!」
戸惑うぼくの様子を見て、剛力さんはわざとらしく大きなため息をつく。そしてガラケーを操作して、画面をぼくに見せる。
ようやく思い出した。そこに写っていたのは、4年前のぼくだ。精一杯の変顔をしている。彼女を、剛力さんを、笑わせるために。
「わたし、あの頃、まだお仕事始めたばっかりで。うまく笑えなくて、何度もNG出しちゃって」
「そうそう! 無理に笑おうとすると、怒ったみたいな、困ったみたいな顔になっちゃって。あれはケッサクだったなぁ」
「それで相沢さんが、この変顔の写メ送ってくれて、笑わせてくれたんじゃないですか。今でもこの写真、たまに見返してるんですからね!?」
不思議な気分だった。4年前の自分に、励まされているような、そんな感じ。剛力さんのあの素敵な笑顔に、自分がちょっとでも役に立っていたなんて、こんなに誇らしいことはちょっと他にはないだろう。
でも、ふと気付いて、尋ねてみる。
「あれ? でも、剛力さんさ、4年前から機種変してないの? ずいぶん物持ちが良いんだね」
「いや、ちゃんとスマホも使ってますけど、このケータイだけは乗り換えられなくて。わたしにとって、すごく大事なケータイなので!」
「ふーん。よっぽど好きな機種だったんだ?」
剛力さんが、深くため息をつく。
「はぁ~。相沢さん、本当に天然ですね? 相沢さんの彼女さんとか、大変そう......」
「え? いや、彼女なんていないよ。出会いもないし。恋なんて、もう何年もしてないなぁ」
「へぇ~? そうなんですか。わたしにはいますけどね、好きな人」
剛力さんは、ニヤニヤしている。うっ。ちょっとグサっときた。って、何を淡い期待を抱いてたんだ、俺。平然を装って、会話を続ける。
「あ、そう。それって、どんな人?」
「そうですね......。友達より大事な、何ていうか、戦友みたいな人です。その人が頑張ってるって思うと、わたしも頑張れるんです」
真剣なまなざしで、剛力さんがぼくを見つめている。そうか。よっぽど、そいつのことが好きなんだろう。うらやましいけど、ここは男らしく、
「そっか。その人と、うまく行くと良いな!」
剛力さんは、呆れたような顔で、また深くため息をつく。何だ、それ。何か変なことでも言っちゃったか?
「それでは、本番入りまーす!」
剛力さんは、無言で立ち上がり、カメラの前に向かう。4年前のガラケーをいじりながら。『友達より大事な人』に、メールでも送っているんだろう。
さあ、本番だ。剛力さんの素敵な笑顔を、日本じゅうに届けてやろう。......と、そのとき、ポケットに入れたぼくのケータイが震えた。1件の、新着メール。
件名:(no title)
本文:4年前から、ずっと好きなんですけど!
スタジオの真ん中にいる剛力さんが、ぼくのことを見つめている。怒ったみたいな、困ったみたいな顔をして。4年前、まだうまく笑えなかった彼女が、無理に笑おうとしていた、あのときと同じ表情で。
まだ、ぼくの変顔は、彼女を笑わせることが出来るだろうか? やってみなくちゃ分からない。それに、やらなくちゃいけない。
なぜって、剛力さんを笑顔に出来るのは、ぼくだけなんだから。
(相沢直)
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