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今回読み比べる2つのビジネス総合誌は、実に対照的。えいやと言い切ってしまうなら、教頭先生のマストバイブル『PRESIDENT』と、島耕作の生き方に憧れる『WEDGE』です。


『PRESIDENT(プレジデント)』(月2回刊)
プレジデント社/定価690円


『WEDGE(ウェッジ)』(月刊)
ウェッジ/定価400円(*2014年5月号から410円)



●教頭という生き様

なにはなくとも『PRESIDENT』の最近の記事見出し、結構ジワジワ来ます。

・実力者を見極め、取り入る会話
・「謝り方」のお手本
・300%負けない処世術
・"リフレクション力"を磨いて5年後の地位確保
・スーパーぶら下がり社員 サバイバル実践講座
・低姿勢で、年下上司を巧みに操縦せよ
・エラくなる男の全技術
・筆跡でわかる「出世する男の法則」

どうですか、この徹底した腰巾着志向と臆面もない出世欲! 「取り入る」「謝り方」「処世術」「地位確保」「ぶら下がり」「低姿勢」「エラくなる」「出世する」など、ほとばしる小物感が最高です。

"PRESIDENT"とは、大統領とか総裁、学長といったトップのポジションを指す言葉ですが、現在トップの人間は「エラく」なったり、「出世する」ことは考えません。つまり雜誌『PRESIDENT』は、トップの人間が読むものではなく、トップに「気に入られる」「取り立ててもらう」ために読むものなのです。マンガやドラマに登場する、校長に取り入ってゴマスリする教頭先生の図が浮かびませんか?(あくまでイメージですので、お叱りはご容赦のほど)

そう考えると、「肩書がエラい人の言葉をありがたく聞く」タイプの記事の多さには納得です。体制に対する反骨精神とか、時代の趨勢に対する問題意識は、誌面からあまり感じられません。校長先生の退屈な朝礼話に、揉み手をしながらにこやかにうなづきまくる教頭キャラ、その人です。権威には取り込まれてナンボ、体制には従ってナンボ!(しつこいようですが、あくまで"マンガやドラマに登場する教頭先生"のイメージです)

教頭と言えば学校の管理面お目付け役ですが、たとえば『PRESIDENT』2014年2月17日号では、大企業300社の肩書別年収を身もフタもなく比較しています(超オモシロい記事です)。ここに、期末テストの順位を実名入りで掲示しちゃう進学校のアレなシステムにデジャヴを感じてしまうのは、私だけでしょうか?

同じ号では、40代非正規社員の惨状を厳しい年収額を示しながら深刻にリポート......しつつ、一方で読者に「俺はまだマシ」的な優越感を与える巧みな二刀流を披露。悪さをしたヤンキーを廊下に立たせて恥を可視化し、「お前らはこうなるなよ」と他の生徒に言い含める(筆者が通っていた学校の)イジワル教頭のやり口ですよ、これ。


●「グローバル」に目をそらす

いっぽうの『WEDGE』に、『PRESIDENT』のような腰巾着志向や出世・保身欲はありません。国際情勢を中心とした、「世界の中のニッポン」視点が中心であり、「部長会で事業部長に気に入られる相槌の打ち方」的な記事は皆無です。これはこれで読みたいですけど。

実は『WEDGE』はJR東海の機関誌でして、書店やキオスクで普通に売ってもいますが、東海道・山陽新幹線のグリーン車内で無料配布されていることでも知られています。つまり、グリーン車を使えるようなエグゼクティブな出張族が想定読者というわけです。それなりのポジションの方でしょうから、外資系の優良企業あたりから、ヘッドハンティングの声がかかっているかもしれません。

ふと目にした『WEDGE』のある号の広告では、ゴルフバッグを携えた島耕作会長が黒塗り高級車の横に立っていました。島耕作と言えば、社内の派閥争いや出世競争からできるだけ距離を置こうとしてきた、聖人のようなサラリーマンですが、『WEDGE』読者の気分もそんなところでしょう。

せせこましい出世競争には目もくれない。くれたくない。会議で上司にゴマをすって取り入ったりしない。したくない。ただひたすらグローバル市場に目を向けて、汗ひとつかかず、スマートにビジネスをすすめる。空調の効いたグリーン車の中で......。

新幹線といえば旅ですが、『WEDGE』読者を旅行者にたとえるなら、彼らは露天風呂で遠くの景色だけを見ていたい人たちです。脱衣所の鏡に映った自分のたるんだ肉体など、絶対に見ようとしません。視線を向けるべき先は国際社会であり、上司の顔色なんてうかがわないぞ、という清廉なマインド。ご立派です。


●自分のウンコを見るのか、見ないのか

しかし実際のところ、会社に戻ればすぐ近くに上司は座っていますし、上司の機嫌をとる必要もあるでしょう。そしてサラリーマンなら誰しも、出世欲や保身欲を持っているはずです。それぞれを「上昇志向」や「安定志向」とキレイに言い換えたところで、ドス黒く汚いものであることに、変わりはありません。

自分の体からひり出したドス黒く汚いウンコをまじまじと見つめるのか(PRESIDENT)、自分には関係ないものとして見ないで流してしまうのか(WEDGE)。2誌の違いはそこにあります。

もっと言うと、校内の便器にこびりついたウンコを教頭が歯を食いしばってこすりおとすのか(PRESIDENT)、新幹線車内トイレのボタンワンプッシュで「ンゴ!」の音とともに一瞬で吸い込ませるのか(WEDGE)......。

ことの本質に近づいてきた感はありますが、さすがに品がなくなってきたので、今回はこの辺で。

(稲田豊史)

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