「競技かるた」という一風変わった題材を扱った『ちはやふる』は、ビジネス格言の宝庫です。個人スキルの研鑽ノウハウ、チームによる仕事論、気付きや励ましの実例、心の整えかた――そんなヒントが満載の名言で、あなたの部下を鼓舞してみてはいかがでしょうか。
『ちはやふる』はヒロイン綾瀬千早(あやせ・ちはや)が入学した高校でかるた部を設立し、ライバルたちとの熱い戦いを繰り広げる物語です。ただ、千早は天賦の才能を持った大器として描かれますが、他の部員は明らかに千早ほどの才能がありません。また、物語は個人戦よりも5対5の団体戦描写にウエイトが置かれています。「必ずしもベストな人材は集まらない」「チーム単位の業績を重視」。会社のアナロジーとしても読めるのです。
「奏(かなで)は美人ではないけれど、着物の力の借り方を知っている」(大江利恵子/6巻、p85)
奏ちゃんは千早率いる瑞沢高校かるた部の女子部員。かるた取りとしての資質はつとめて普通、容姿も突出していませんが、着物を着ることで自分のかるた能力を飛躍的にアップさせ、かつビジュアルにもうまくゲタを履かせています。自分だけの武器をうまく使えば、スーパー社員でなくても輝ける。それは慰めでも偽善でもありません。ちなみにこの言葉は、奏の母親が発したものでした。部下それぞれの「着物」を、上司のあなたは見つけてあげられていますか?
「負けることに疲れるんじゃない。期待に応えられないことに疲れていくんだ」(瑞沢高校かるた部・西田優征/7巻、p178)
なぜあなたの部下は業績をあげられないのでしょうか。彼の能力が低いからではなく、目標設定が高すぎる可能性はありませんか?
「ユーミンのかるたは、ほかの選手よりすこしだけ丁寧で、すこしだけ正確。その『すこしだけ』を手に入れるのがどれだけ大変か。ここにいる人間ならみんな知ってる」(瑞沢高校かるた部・西田優征/8巻、p40)
人よりメールのレスがちょっとだけ早い。人よりまめにお礼状を書く。クライアントの趣味を把握してその情報摂取に日々つとめる。地味な行為ではありますが、これを人知れず徹底するのは並大抵のことではありませんし、時間はかかっても必ず効果をあげていきます。もしあなたの部下が、この「すこしだけ」を実践していたら、めいっぱい褒めてあげてください。
「師を持たない人間は、だれの師にもなれんのだ」(翠北かるた会・北野/9巻、p24)
誰かに頭を垂れて謙虚に教えを乞おうとしない人間が、管理職として誰かを導けるはずはありません。あなたは大丈夫ですか?
「個人戦は団体戦。団体戦は個人戦だよ」(府中白波会・原田秀雄/10巻、p85)
社員の業績は、その個人だけに帰するものではなく、部全体の評価に直結します。いっぽうで、同じ部の同僚たちが売上ノルマを達成していてくれるからこそ、自分は一か八かの新規開拓に時間をかけられる――なんてこともありますね。
「新しい武器を手に入れるとき、どうしても一時的に結果は悪くなる」(府中白波会・坪口広史/11巻、p120)
大事なのは新しい武器を手に取る勇気のほうです。もし部下が落ち込んでいたら、「君の二刀流をぜひ見たいんだ」と言ってあげましょう。
「気持ちが矢面に立たなくなった瞬間から、力の現状維持さえ難しくなるんだ」(瑞沢高校かるた部・駒野勉/13巻、p8)
リスクを避けて守りに入った役職者ほど、みじめなものはありません。戦わなくなった者から、その腕があわれに錆びついてゆくのです。恐ろしいことですが、多くの企業に一定数必ずいます。
「『これ』と決めた道で知らないほうがいいことなんて一つもないわよ」(富士崎高校かるた部顧問・桜沢翠/17巻、p53)
「なんでそんなに頑張るの?」「このくらいにしておけば?」なんておせっかいを言ってくるのは、他人の足を引っ張りたいだけの糞野郎に決まっているので、無視してください。ただし、あなたの部下にこれを言うなら、部下のたくらみには、昼夜を問わずとことん付き合う覚悟をしましょう。土日含めLINEもSkypeも常に開放でお願いします。
「迷ったら、自分の中に積もっていってほしいのはどっちか、そうやって選んでもいいんじゃないですか...?」(瑞沢高校かるた部・大江奏/18巻、p66)
目先の粗利という満腹感をとるか、そのプロジェクトを遂行したことで強化される会社の骨と筋肉をとるか。部課長たるもの、常に考えているべきです。
知り合いの外資系コンサルティング会社の男性は、『ちはやふる』のお気に入りページに付箋が貼ってあり、ここ一番のプレゼン前日にはそのページを再読して気持ちを高めるそうです。彼はかなり有能なSEで、都内に居住用と投資用のマンションをそれぞれ所有するほどの高給取り。なぜ『ちはやふる』がそんなに好きなのかを聞いたら、「凡人でも正しい努力によって勝つことができると、理屈で教えてくれるから」とのことでした。こりゃ、『ちはやふる』でビジネス書が1冊書けますね。
(稲田豊史)
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