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4月4日。近畿大学の入学式に姿を見せたつんく♂は、集まった新入生に向かって一つの告白をした。喉頭がんの治療のための、声帯全摘出手術。誰よりも歌を愛し、歌に対して真摯に向き合ってきたつんく♂の「一番大事にしてきた声を捨て、生きる道を選びました」という告白は多くの人々に衝撃を与えた。だが彼は言う。「こんな私だから出来る事。こんな私にしか出来ない事。そんな事を考えながら生きていこうと思います」と。その言葉はこれまでと一切変わることのない、つんく♂イズムを感じさせるものだった。



歌手にとって声を失うということがどれほど大きな決断なのかは推し量るべくもない。だがそれでもつんく♂は前を向く。過去は過去として、今と未来を信じている。それはつんく♂がこれまでも覚悟をもって日常を愛してきたからではないだろうか。いまあるものに感謝をして、いまやるべきことをやる。そうやってきちんと日々を生きてきたからこそ、何が起こってもそれに正しく向き合うことが出来るのではないか。

それはTwitterでのつんく♂のツイートにも表れている。報道によれば声帯の全摘出手術は昨年のモーニング娘。'14のニューヨーク公演直後だったそうだが、それ以前もそれ以降もつんく♂のツイートはひとつも変わりがない。2015年になってもつんく♂はツイートで日常を愛する。日常こそが最も愛すべきものなのだと、つんく♂のツイートは私たちに教えてくれるのだった。

というわけで本日は、2015年になってからのつんく♂による15のツイートにツッコんでいきたい。つんくボーイの神髄はこういった日常にこそあると信じるし、それが永遠に変わらないことを心から願う。

<1月1日>
明けま、おめで!
ことし、よろし!


新年一発目のツイートだけあって、非常に景気が良い。ハロー!プロジェクトにおいては挨拶は非常に重要なものだという教えがあるが、それをしっかりと守っている。そもそも暦が存在するのは地球が回るからであり、暦を大切にするということは地球への感謝に繋がる。暦の挨拶は大切にしよう、と思わせてくれるツイートである。なお本人の補足によれば、この挨拶は「キャリパ風」に書いてみたものだそうだ。


<1月15日>
iPhone新しくしたらLINEのログ全部消えた。


新年早々、大事件である。慌てる様子が目に浮かんでくるようだ。ハロー!プロジェクトのメンバーとのやり取りが消えるというのもさることながら、まことから送られたヘンテコなスタンプが失われてしまったというのも大きいのではないか。まことは一体、どんなスタンプをつんく♂さんに送るのだろう? それを想像しただけで、一日がちょっと楽しくなってしまうのだった。


<1月20日>
くそ〜!ええ天気や。
子供達よ!学校さぼって父ちゃんとお出かけしないか!?って言いたくなるよ。
いけない父ちゃんだ。


「ええ天気」に対して「くそ〜!」という一言目が出てくるというのがつんく♂さんならではだし、このツイートから家族の光景を想像すればちょっとうるっときてしまう。このまま歌詞になってもおかしくない。というかむしろつんく♂さんは、"つんく♂が書きそうな歌詞"をそのまま生きているのであって、そのことに歓びを感じずにはいられない。


<1月26日>
子供ら3人が両親のどっちと寝るか相談?お!取り合いか?
「今日僕1人で寝る」
「でも、お父さんと寝てあげないと1人になるじゃん」「じゃ、私もパパと寝る」「だったらママが1人になるじゃん。かわいそう」うーむ、よく聞いてると大人が一人ぼっちにならぬようバランスをとってくれてるようだ。


やはりつんく♂さんのお子さんだけあって、ものすごく良い子だ。優しさに溢れている。一部報道によればつんく♂さんとお子さんは現在筆談で会話をしているそうで、一番下の3歳になる娘さんはそのためみるみるひらがなが読めるようになっているという。家族って、良いものだ。この週末、親に電話でもしてみようかと思う。


<1月31日>
最近の子供はプラモデルとか作らんのかな?


急に! こういった突然の質問は、つんく♂さんのツイートでしばしば見られる現象である。一体何を見てこの疑問を抱いたのかが興味深い。


<2月5日>
て、こんやは雪積もりそうなの?


このざっくりとした質問の仕方はどうだ。地域を限定していないので答えようがない。だが、答える必要もないのかもしれない。ああ、つんく♂さんはこんや雪が積もるのかどうかを気にしているんだなあ、と、それだけで何だか心がほっこりとする。言葉や会話とは、そういうものではないだろうか。


<2月17日>
雨やね。
雪に変わるのかな?


めっちゃ雪気にするやん! 少年か! いやしかし、ある意味では少年なのだろう。つんく♂さんは世界を新鮮に、赤ん坊のような視点から見ることがしばしばある。「雪っておもしろいやん!」というワクワク感を改めて思い出させてくれるツイートだ。


<2月22日>
がきの頃は茶碗蒸しに入ってる百合根が甘くて好きじゃなかったけど、大人になると食べれちゃうというかその趣を認めざるを得ないよね。


急に大人か! 「その趣を認めざるを得ない」って大人か! だが、少年と大人のあいだを軽やかに羽ばたくのがつんく♂さんである。茶碗蒸しに入っている百合根のことを普段我々は考えないわけだが、そこに想いを寄せるというつんく♂さんの視点と優しさが、ここにはある。


<3月2日>
iPhone6Sが出るとしたらいつ頃やと思う!?


知らんがな! 仮に知ってたとしてもその機密情報教えへんわ! つんく♂さんがキラキラとした瞳で質問している様子が微笑ましい。純粋な人である。


<3月10日>
寝不足は、どうするの?


いやどうもこうもないがな! 寝るしかないやん! とここまで書いていて気付いたのだが、これはモーニング娘。'14『TIKI BUN』の歌詞の「寝不足は 寝るしかない」にかけているのか。つまり、この問いに対して「寝るしかない!」と答えなければならなかったのだ。失敗した。次にこの質問が来たら、ちゃんと答えよう。


<3月18日>
音楽とか音楽プロデュースってのは、音楽をなめてると絶対にしっぺ返しが来るんよね。


突然本質を突くツイートをぶっこんでくるのもつんく♂さんらしい。普段の日常とこういった真剣な考えがつんく♂さんの中ではおそらく並列のものとしてあるのだろう。深く考えさせられる言葉である。


<3月25日>
歯ブラシ変えるべ。


変えたらええがな!


<3月30日>
毛利小五郎さんって、いつも俯いて話すこと、誰も不思議がらないの?


人によるわ!


<4月1日>
今日Mac調子悪い。雨やから?


そんなことあるかあ! ジョブズに怒られるわ!


と、このようにして、つんく♂さんは自身の日常を愛でる。家族のこと、食事のこと、自分が不思議に思うこと。その全ては愛おしいものとしていつだって目の前にある。人は決して強くはないが、それでも決して弱くはない。私たちはいつでも日々を愛することが出来る。それは何よりも、私たちの心の支えになるだろう。

そして4月4日、近畿大学の入学式の日がやって来る。この日つんく♂は私たちに、自らの声を失ったことを告げた。つんく♂にとっても、私たちにとってもまた、大きな日だ。この日、つんく♂は一つのツイートをする。それは私たちみんなに投げかけられた、大切な言葉であった。

<4月4日>
金龍ラーメンって今いくらなんやろ?
俺らの大学時代は500円やったけど。


お店の人に聞いたらええやん!


<結論>
つんく♂さんの声帯全摘出を受けて、その前向きな言葉やポジティブな姿勢に感銘を受けた人も多いようだ。だが人は、少なくとも多くの人は、生まれながらにして前向きだったりポジティブであるわけではない。つらいこと、悲しいこともある、泣きたくて、寂しいし、いつだって自分は自分の好きな自分ではない。だけどそれでも、前向きであろう、ポジティブであろうとすること、それを目指すこと自体が何よりも大切なことなのだと、つんく♂さんの言葉は教えてくれる。

つんく♂さんはこの病気という経験によって、また新しいつんく♂像を見せてくれるはずだ。変わることなく、変わり続けるのだろう。そしてそれは決して他人事ではない。つんく♂さんの歌は、つんく♂さんの曲は、つんく♂さんの歌詞は、いつでもいつまでも私たちの心の中にある。私たちはこれからもつんく♂さんとともに生きる。歌というのは、そういうものだからだ。

https://youtu.be/PEpEafVpTww


文・相沢直

■参照リンク
つんく♂ twitter
https://twitter.com/tsunkuboy

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