軒並み1ケタ視聴率が並ぶ夏クールの連ドラのなかで、唯一毎回10%以上、平均14%台で独走するのが『花咲舞が黙ってない』(日本テレビ系)。
人気を呼んだ作品の第2シリーズで、杏の演じる銀行員・花咲舞が毎回、支店を回って問題や不正を正していく。『水戸黄門』の世直し旅と同じ構図の勧善懲悪ストーリーで、印籠よろしく「お言葉を返すようですが」の決め台詞から悪い支店長などをとっちめるのが痛快で、スカッとする(切ない回もあるが)。
花咲舞が向き合った問題にはセクハラやパワハラもあるが、ハラスメントを正面からテーマに据えたのが『エイジハラスメント』(テレビ朝日系)。武井咲が演じる一流商社の新人OL・吉井英美里が"さまざまなハラスメントを打ち砕く"とされていて、こちらにも「テメェ、五寸釘ぶちこむぞ!」とつぶやく決め台詞がある。しかし、そこから出るタンカは花咲舞ほどスッキリしない。
まず、言動が明らかに"正義"な花咲と違い、英美里には完全な共感がしにくい。入社4ヵ月の新人でありながら「私にもっと仕事させてくれませんか。もっとできます」と、直属の課長を飛び越えて部長に訴えたり、課長に「お茶くみも大事な仕事だから」と命じられて「だったら課長がやってください!」と反抗したり。会社のなかでそれは違うだろう・・・と思ってしまう。
「五寸釘ぶちこむぞ!」の後に共感できる言葉が来るというより、ただキレる感じ。劇中であっさり反論されることもある。さらに、落ち込んだ英美里が街を歩いていて、たまたま出くわした他部署の繊維二課長・保科晶彦(小泉孝太郎)と即ベッドイン、なんて展開もあった。英美里と同じ若いOL層の視聴者も、ここは引いたようだ。
英美里の上司の総務課長・大沢百合子(稲森いずみ)のほうも、実は保科とつき合っていて、英美里との関係に気づき彼女の仕事を取り上げるという、ハラスメント以前の子どもじみた報復に出たり。自分だって夫と娘がいるのに・・・とツッコミたくなる。保科は保科で別の若い女性にも手を出していて。
結局、『エイジハラスメント』は『花咲舞が黙ってない』のような勧善懲悪の物語ではなかった。登場人物の誰が善、誰が悪と単純でないのは良いとして、「それぞれの気持ちがわかる」というより「どいつもこいつも」という印象。誰にも感情移入できない。だから「五寸釘ぶちこむぞ!」も響かない。
原作・脚本は10年ぶりに連ドラを手掛けた内館牧子氏。90年代から『想い出にかわるまで』『クリスマスイブ』『都合のいい女』など多くのヒットを生んだ大御所で、ドロドロ展開はお手のもの。『エイジハラスメント』もそうした部分を楽しむ視聴者はいる。だが、視聴率は一度も2ケタに達してない。8話まで平均8.8%で、それでも今クールでは良いほうだが、『花咲舞が黙ってない』との"決め台詞対決"では大きく水を開けられた。今の時代、ストレートでわかりやすいドラマのほうが受けは良いようだ。
文・斉藤貴志
https://youtu.be/YlwBvBYIOQg
https://youtu.be/uiFNsrn4Iz4
■参照リンク
・『花咲舞が黙ってない』公式サイト(毎週水曜夜22時より放送~)
http://www.ntv.co.jp/hanasakimai/
・『エイジハラスメント』公式サイト(毎週木曜夜21時より放送)
http://www.tv-asahi.co.jp/age/
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