恐らく「アントマン」ほど、ファンをやきもきさせたマーベル・スタジオの映画はなかったのではないかと思います。というのも、もともとこの「アントマン」はエドガー・ライト監督が撮る、ということで期待されていた作品でもあり、その降板劇がありました。そのガッカリもあって出来栄えを心配していたのですが、、マーベル映画の中でも上位にくる面白さ!(僕の知っている女性は"一番好きかも!"とまで言った!!)傑作です!というわけでネタバレを極力避けたレビューです。
すでにストーリー等はご存知かと思いますが、とにかくツキに見放された男スコット・ラングが主人公。奥さんから離婚され、職もなく、養育費も払えないから愛する娘にも会いづらい、、そういう男です。その男がハンク・ピムという男からスカウトされます。ハンクはスコットに、自分に代わってアントマンとなり、あることをやりとげてほしい、と。
実はこれがアメコミ・ファンにとっては、すごく意外な設定だったのです!というのもアントマンと言えば初代アントマンことハンク・ピムのイメージが強く、まさか2代目アントマンことスコットを主役にもってくるとは!しかし、映画を観ていてこの設定が正しかったことがわかりました。ハンクは科学者ですが"科学者が自ら開発したスーツを着て戦う"だとアイアンマンに似てしまう。また基本ヒーローは独身ですが、主人公に"子持ち"というバックボーンをとりいれたことで、よりこのキャラに親近感を感じてしまうのです(これは「アベンジャーズ:エイジ・オブ・ウルトロン」で、ホークアイが家庭を持っていたシーンを見せることで"僕らの日常生活"と"超人たちの世界"がつながっていることを実感させてくれた効果と似ています)
映画の構造は「アイアンマン」1作目に似ています。どちらも"スーツ"を装着することでヒーローになる。"ダメダメだった男がヒーローになるまで"のプロセスが楽しく描かれ、アイアンマンともう一人のアイアンマンとも言うべきアイアンモンガーのバトルが見せ場だったように、アントマンともう一人のアントマン=イエロージャケットの戦いが見せ場です。
そして「キャプテン・アメリカ:ウィンター・ソルジャー」がポリティカル・サスペンス×ヒーローモノ、「ガーディアンズ・オブ ・ギャラクシー」がスペース・オペラ×ヒーローモノだったのに対し「アントマン」は泥棒×ヒーローモノです。
"小さくなる"というアイデアをうまく利用した見せ場がたくさん用意されています!
感心したのは、「アベンジャーズ:エイジ・オブ・ウルトロン」のクライマックスが、街(小国)が丸ごと宙に浮く、という大スペクタクルな状況下での数VS数の大バトルだったのに対し、「アントマン」は子ども部屋の中で1対1の戦いが最大の見せ場です。
なんというスケール・ダウン、、と思いきや、とんでもない!「アベンジャーズ:エイジ・オブ・ウルトロン」に勝るとも劣らないぐらい、痛快でワクワクさせてくれるのです!!!
僕は前にシリアスな「キャプテン・アメリカ:ウィンター・ソルジャー」の後に明るい「ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー」という180度違う映画を公開して、でもどっちも面白く、しかも両者が同じ世界観の中での出来事だと納得させてしまうマーベルって本当にすごい、と思いましたが、今回も「アベンジャーズ:エイジ・オブ・ウルトロン」の直後にまるで対照的な「アントマン」を封切り、成功させてしまうマーベルの底力に脱帽です。
一つ間違えるとギャグにしかならない、蟻とコミュニケート出来る、という能力もうまく活かされているし、「アベンジャーズ:エイジ・オブ・ウルトロン」で顔見せをしたけれど活躍しなかった、あるヒーローがゲスト出演!彼とアントマンの戦いを見せてくれることによって、アントマンのヒーローとしての実力がわかるように工夫されています。
例によってエンド・クレジットにおまけシーンがありますが、劇中の本当に最後の最後の方で、明らかに"あいつ"について言及しているセリフがあります。"あいつ"とは!?ここ聞き逃さない&字幕で見逃さないようにしてください。(あ、あと日本の有名な飲料が出てくるので!!お見逃しなく)
虫の音が心地よい秋ですが、ぜひアントマンに会いに劇場へ!
(C)Marvel 2015
テキスト/杉山すぴ豊