(インタヴュー・構成=清水素子)
――どうしても気になるのが、このタイトルなんですけれど、『ギャクシンセサイザー』とはいったい何なんでしょう?
YU-DAI:あ、知らないですか? 昔、ギャグ・シンセサイザーっていうお笑いコンビがいたんですよ。1980年代の漫才ブームのころに『お笑いスター誕生!!』で10週勝ち抜いて、確かコント赤信号あたりと同じ時期かな? 姉ちゃんと千葉パルコの屋上に観に行ったくらい好きで、コンビ名もすごくカッコいいから気に入ってたんですよね。それを最近ふと思い出して、何かに使えないものか?と思ったときに、濁点を取れば“逆シンセサイザー”、つまり“アナログ”になることに気づいてコレだ!と。で、1曲もできてないうちからタイトルだけ決めてたんです。僕の中では。
TφRU:それを先行シングルの「オール・バイ・マイセルフ」を作ってるときに聞いて、カッコいいなって。僕もそのコンビの名前は知ってたんですよ。
JUNRO:僕は知らなかった。でも、曲作り中にTφRUに「どんな感じ?」って聞いたら「今回はいろんな曲調をやろうと思ってる」って言ってたのは覚えてる。
――今作、かなりバラエティ豊かですもんね。
TφRU:前回、前々回がパンクというか、勢い重視の作品だったんで、そろそろ歌モノを作りたいなと思ってたんです。そんな頃に渋谷O-Westでイベントがあって、俺らのライヴを観た先輩の(夜桜)星丸さんが、「何と言ってもセクアンは哀愁がいい!」って褒めてくれたんですよ。それを聞いて、じゃあ、次のアルバムは哀愁を押し出していこうと、アコギメインで作ったのが、リード曲の「ベリー・ベリー・ストロベリー」で。
YU-DAI:ええ!? じゃ、星丸さんがいなかったら、あの曲はなかったかも?
TφRU:うん。なかったかも。
――ちゃんとパンクな要素もあるし、シンプルな構成やリフレインも多いけれど、歌心を押し出したアルバムではありますよね。
YU-DAI:それが一番セクアンらしいと思うんですよ。TφRUがギターに転向した当初は、「ベリー・ベリー・ストロベリー」みたいな感じだった気がするし。歌詞のドラマを忠実に再現したPVも初めてで、俺、ちょっと感動しちゃったもんな。声を出さずに、あそこまでちゃんと演技してるJUNROが凄い!
JUNRO:自分で観ると、節々で笑っちゃうけどね(笑)。
TφRU:うん。衣装でちょっと笑っちゃう。
YU-DAI:ノースリーブのGジャンって、最初スギちゃんかと思ったよ!
――いや、動きと表情だけで見事に感情描写していて、すごく味のある役者ぶりでしたよ。
TφRU:PV専門の役者とかどう?
YU-DAI:それ、いいな。仕事受ければいいよ。“PV男優”として!
JUNRO:……お金になるといいね。
――なりますよ! 哀愁漂う楽曲にピッタリの「神田川」的な恋愛ドラマが綴られていますが、タイトルはサビの<甘すぎずすっぱすぎぬ>という歌詞から?
YU-DAI:これ、サーティワンのチラシから取ったんです。どこかに可愛くてキャッチーなタイトルないかなぁ?と考えてたときに、チラシ見て“コレだ!”って。だから、ナッツトゥーユーでも良かったんですけど、やっぱ「ベリー・ベリー・ストロベリー」のほうが可愛いじゃないですか。
――確かに(笑)。今回、キャッチーなタイトル多いですよね。「ラムネとダーリン」とか、あの沖縄感満点な楽曲に、よくこんな可愛いタイトルをハメてくるなと。
YU-DAI:いや、僕の中では完全に“沖縄=ジッタリジン”なんですよ。あるじゃないですか? 沖縄っぽいメロディで“ダーリン ラムネを買ってきて~♪”っていう歌。
――ああ。「にちようび」ですね。
YU-DAI:そう。完全にソコから貰いました(笑)。今、ライヴをやってる感じでは、この曲が一番盛り上がってる気がしますね。“エイヤーサーサー!”って掛け声多いし、ただ、Aメロが上手く歌えなくて、所さんっぽくなっちゃったのが唯一の心残り……。
JUNRO:しかも割と速いんで、ベースも弾いてて辛いんですよ!
――ライヴ期待してます(笑)。ところで、ここまで沖縄に振り切った曲を持ってきたのも“いろんな曲調をやりたい”気持ちの表れ?
TφRU:……かもしれない。もう、この曲は半分ギャグですね。
YU-DAI:そういう飛び道具的な意味で一番の目玉になるのは、ラストの「高円寺、なのね…。」でしょうね。こんなド演歌、なかなか普通のバンドではやらない!
TφRU:最初に「ベリー・ベリー・ストロベリー」を作って、あと数曲そういう哀愁系の曲が欲しいなぁと思ったんですけど、なんかメンドくさくなっちゃって(笑)。もっと深いところまでグッ!といって、演歌1曲あれば他に哀愁系は必要ないんじゃないかと。
YU-DAI:なるほど。哀愁を1曲に詰め込んだんだね。
――完全カラオケ仕様のPVもイメージピッタリですが、何と言っても素晴らしいのがYU-DAIさんのヴォーカルで。もう、本物の演歌歌手かと思いましたよ。
YU‐DAI:まぁ、毎年8月の誕生日イベントで、常に演歌歌ってましたから(笑)。で、いつもは他人の曲をカラオケで歌うんですけど、今年は一足先にコレを歌ったんですよ。そしたら、お客さんも“誰の曲なの?”って唖然としてて、「実はオリジナルです」って言ったら、すごく驚いてましたね。やっぱり。
――しかし、演歌でアルバムが締め括られるって……いいんですか?
TφRU:いや、あまりに他の曲と世界が違うんで、頭かケツしかなかったんですよ。
YU-DAI:でも、頭に来ると止めちゃう人もいるかもしれない。激しいアルバムだろうと期待して買ってきて、いきなりアレが始まったら、さすがにガッカリ感デカいですからね。
JUNRO:逆に、外国人とかは、すごく食いつくかも(笑)。
――それで1曲目にはパンクで勢い満点の「サイザーロケンロー」を持ってきたんですね。ところで“サイザー”って……何?
YU-DAI:シンセサイザーの“サイザー”ですよ。僕が好きなのは“シンセ”じゃなくて“サイザー”の部分なんです。
――つまり、シンセではなくアナログ=バンドサウンドが好きだと。
YU-DAI:いや、音楽どうこうじゃなく、単なる響きの問題です! いつの間にか“シンセ”と略すのが普通になって、“サイザー”の部分を言わない人が増えたじゃないですか。“シンセサイザー”っていう言葉がカッコいいのに、なんで“シンセ”ってカッコ悪い言い方しちゃうんだ? 俺は“サイザー”を忘れてねぇぜ!と、そういう歌なんです。
――な、なるほど。じゃあ、最後の<俺だけはお前の味方だ大丈夫>という応援歌的な文言も、まさか……。
YU-DAI:僕は“サイザー”に対して言ってます。でも、もちろん聴く人に向けてのメッセージだと捉えてもらっても大丈夫ですよ。
TφRU:僕個人としても、すごく好きな曲ですね。今回、全体的にあまり考えないで作ったから、曲作りもレコーディングもすごく楽だったんですよ。エフェクターにしても、以前はリスナー受けを考えて、ディレイ等の残響系を取り入れていたのが、今回はアンプ直でほとんど使ってない。「殺したいほど愛してる」とかも、若い子には受けなさそうな曲だなぁと思いつつ、そのまま入れちゃいました。こういう曲調、好きなんですよ。
――セッション感の強い曲ですよね。ちなみにJUNROさんは、どのへんの曲がお好き?
JUNRO:「スリクやめようぜ!」はベースが忙しい曲なんで演奏は大変なんですけど、聴いたとき単純に“カッコいいなぁ”と思いましたね。あと、6曲目の「適応シタイナー」も好き。スカっぽい軽快な感じが楽しい。
――5曲目の「オール・バイ・マイセルフ」からの流れで言うと、両方ともパンクな曲調は共通しているのに、歌詞の方向性は正反対ですよね。片や周囲と馴染めない人々への温かいメッセージソング、かたや“誰も信じられない、金がすべて”と言い切るピカレスク曲。
YU-DAI:でも<信じるは金ただひとつ>って、みんなそうだと思うんですよね。
JUNRO:大サビの<金にこの身を捧ぐ>とか、酒飲みながら聴いてても“カッケー!”って泣けますね!
――そこ!? てっきり「高円寺、なのね…。」あたりが来るかと思ってたのに!
TφRU:そういう女心を歌ったような曲はJUNROさん、あんまり好きじゃないんですよ。もっと泥臭い、金とか酒とかじゃないと。
YU-DAI:「ベリー・ベリー・ストロベリー」とか、飛ばしてるでしょ? 主人公の気持ちとか何もわからないままPV出ちゃってる!
JUNRO:それ近い。撮影のとき、小道具のノートに書いてある歌詞を見て、監督さんに「この詞って誰の曲ですか?」って聞いたら、「ええ!? この曲の歌詞だよ!」って驚かれた。
YU-DAI:歌詞、知らなかったのかよ!?
――なんと(笑)。女心といえば、高速バスで恋人に会いに行く心情を歌った「高速バス2」(通常盤ボーナストラック)も妙にリアリティあるんですけど、もしや実体験だったり?