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マミぬえ小話
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マミぬえ小話

2015-07-11 18:51
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 入り乱れる噂と迷信の裏で、真に憂うべき事態が進行していることに気付いた者は、妖怪達の中でもごく少数であった。以前の騒動の発端が愛らしい面霊気であったことも手伝い、どうせこの度の異変も大した問題にはなるまいと皆が思っている。実際そうあってくれたほうが動きやすい。仮に一刻を争う状況であったとしても、頭数が増えて良いことはない。足手まといが少ない方が、どれほど解決を得やすいか知れない。だが、感じ取った者も僅かに居た。その一人が封獣ぬえであった。
「何か隠してる?」
 疑問文で訊かれたが、確信している目だ。誤魔化しても意味は無いだろう。ぬえの直感は恐ろしく鋭い。論理には強くない分、言いくるめるのも困難だ。
「想い人のようじゃのう。儂がお主に隠してることなぞ、幾らもあるがの」
「そういうのじゃなくてさ」
「解っておるよ」
 肘を枕に寝転がった姿勢から、むくりと起き上がる。居住まいを正すというほどでもないが、真面目な話をするならば、こっちのほうが気分が出る。ぬえにも座布団を勧めたが、断られた。膝立ちで聞くつもりらしい。
「……結界が、ちっと危ういかもしれんの。まぁ、お遊びの範疇じゃろうが」
 ぬえの体が俄に硬直する。付け足した言葉には、却って疑いの目を向けられた。ぬえは誰かの元に長く居た経験が少ない。少しでも自分を理解してくれる相手を見つけたら、そこに依存してしまうであろうことは予測できていた。これまでの彼女ならば、このような出来事にそうそう不安を感じたりはすまい。自分一人、のらりくらりと生き延びることなら、彼女くらいの妖怪には容易いことだった。
「命蓮寺は?」
「寺自体は残るかもしれんがの」
 構成員はいざ知らず。ぬえもそこは読み取ったようだ。顔色を変えることはなかったが、呼吸はやや早くなっている。ある程度は覚悟していたが、半信半疑の上、杞憂であって欲しいという願いが強かった、というところだろうか。そこまでの大事にはならないと踏んでいるからこそ、現状動いている連中もまた、秘密裏に、等と悠長なことを言っていられるのだろうが。それを伝えたところで、不安が払拭できるとも思えない。暗闇の只中で必要なのは、情報ではない。覚悟である。
「マミゾウは、」
 一瞬言い淀んで、なんでもない、と頭を振った。よく止めたと思う。少し見直した。
 その先に続く言葉は、大体予想できる。マミゾウは不安じゃないのか、だ。かつてのぬえなら、何の遠慮もなくぶつけてきただろう言葉。私に遠慮して言わなかったのではない。その言葉が無価値であると解っているからだ。私に同意されたところで、現状の不安は消せないと。そして何より、「誰かが動くことによって、己も動く決意が固まる」ということの無様さを恥じたのだろう。
 外の世界では、日に日に同族達の居場所がなくなっていく。狸という意味でも、妖怪という意味でもだ。それに関して、私には特に異存はない。寂しいこととは当然思うが、力在るものが残っていくのは世の習いだ。幻想郷にやってきて、未だにこれほどの同族が残っていることは、大変喜ばしかった。だが、その為に幻想郷を守りたいと思えるかどうかは別の話である。どこに行って、何を得ても、結局失われるのだ。力を持つ者として生きようと思うのならば、その覚悟は必ず必要になる。手を伸ばして救えると解っているものを、だからといって片っ端から救うわけにも行かないのだ。この感覚は、強者同士であれば語らずとも通じる類のものである。
「……一時の感情かもしれないから、断言はしないけど」
 ぬえは慎重に語る。そこにある種の厳かさを感じるのは、不安定な彼女が必死で答えを導き出そうとしているが故だろう。
「私は、ここを守りたいと思う。もし、必要なら、言って」
 伏せていた目を、最後の一言で上げた。私と数秒目を合わせて、怖じることもない。良い出会いがあったのだな、と思えた。
 もう暫くは、この場所に居てもいいかもしれない。或いは、私に出来る程度の事ならば、守る手助けをしてやってもいいかもしれない。そう思った。人間であれ妖怪であれ、自分で自分の居場所を選ぶことこそが、一人前の証である。長い時間を要したが、漸くぬえも一人前だ。私をここに呼び寄せた時のように、甘えた声で私を頼ることはもうないのだと考えると、幾分寂しいような気もした。



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深秘録舞台裏イイですね。
妖怪の、妖怪としての心情描写がステキ。
人間と違う部分も、人間と同じような部分も素晴らしいと思います。
70ヶ月前
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「誰かが動くことによって、己も動く決意が固まる」ことは悪い事でもないと思う。何をきっかけにしろ、自分でアクションを起こせるならそれに越したことはない。まあ、決意を固めただけで結局何もしなかったら駄目だけどw
70ヶ月前
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