いちふと小話
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いちふと小話

2015-07-22 18:50
  • 3

 人の噂も七十五日。オカルトボールの異変も、早くも忘れられつつある。七つのボールを集めた私だが、結局願いは叶わなかった。それなりに落胆もしたが、どこかでそれに気付いていたのかもしれないとも思う。私が個人的に願うことは、大抵違う形で成果が出てしまうのだ。今回の成果は、神子様が私の集めたオカルトボールに依って何かを掴んだようであったこと。そして、あれ以来こうして時々一輪と会うようになったことだ。一輪は面白い奴である。汚れることを厭わないのに、おかしなところで潔癖で、力任せの生き方なのに、おかしなところで繊細だ。
「何考えてたの?」
「ん?まあ、色々との」
「オカルトボールのことでしょ」
「ふん……」
 したり顔で指摘してくる。命蓮寺でもこういう顔をしているのか、それとも隠れてやっているのだろうか。不飲酒戒を破る僧であるから、裏であれこれの息抜きをしていても不思議ではない。それにしても、こやつが真面目な僧のように扱われている命蓮寺も妙な集団ではある。彼女らの道徳観念も、やはり我々とは大分異なっているのだろう。妖怪の為の寺である以上、当然とも言える。
「それなりに苦労もしたのじゃ。願いは叶わぬと言われて、簡単に諦めが付くものでもあるまい。お主とてそうじゃろう」
「まあねぇ……」
 一輪は深刻ぶったため息をつく。なんでも仏の世界を垣間見て、その余りの熱量と光量に中てられたという。酷く遠くに感じた、と語っていた。願いが叶わないのも辛いものだが、いざ叶ってみると想像していたものと違った、というのも、なかなかやり切れないものであろう。
「考えさせられたよね。救いってなんだろ……っていうか、私が願ってきたものって、結局何だったんだろう、って」
 願いが叶う、と言われた時、即座に自分の願いを唱えることの出来る者は稀だろう。長く生きれば生きるほど、自らの願いの強さに心を壊される経験も多い筈だ。長い時間をかけて塞いできた願いを、唐突に呼び覚ませと言われても無理な話である。誰もが幸福や救済を待ち望んでいるが、果たしてそれが「自分にとっての何なのか」ということを明確に答えられる者がいるだろうか。或いは、幸福の定義を未熟な自分が規定すること自体が烏滸がましいという理屈でもって、結論とするのかもしれない。だが、私はそういった「委ねよ」の思想がどうしても納得行かなかった。
 不老不死を信じているかと問われると、私は答えに窮する。私は道教に惹かれているが、その最終理念を達し得るか否かということは、私にとってはあまり関心のないことなのだ。人として生まれたことの限界を、或いは人の持ちうる知恵と技術の限界を、容易に見極めて諦めてしまうことなく、徹底して肉体と精神における研鑽を積み、世界に組み込まれた理を読み解き、やがて生物としての上位に至ろうという、その貪欲さに、私はとにかく惹かれたのである。己の幸福の在処を見いだせないまま、正体も知れない何者かに委ねてしまうくらいなら、私は私を導いてくれる方の為にこの身を尽くそうと思った。命を捨てることさえ惜しくはなかった。神子様の在り方に憧れた時、私は既に命を捨てていたのだから。
「仏の教えに飽いたかい」
「勧誘かしら?謹んでお断りします」
「いやそういう訳ではないが……志は固いようじゃの」
「御仏に不足はない。私が未熟なだけだからね。それに、寺には聖様がいる」
「そうじゃな」
 私も一輪も、その居場所を決定づけたのは、意志ではなくて憧れなのだ。だからこそ私達は、信じるものを違えていながら、互いに引き合うのかもしれない。もしも違う場所で出会えていたら……等とは思わない。私にも一輪にも、今の居場所が全てである。それに、このような形の縁でも、十分に通じるべき部分は通じていると思うのだ。
「聖様に聞かれたら、怒られちゃうかもしれないけど」
「ん」
「お互い、頑張ろう」
 私と一輪は拳を軽く合わせた。次いで入道とも拳を合わせたが、大きさが違いすぎ、箪笥を叩いているような絵面になってしまって、三人で笑った。かつて神子様が利用するためだけに取り入れた仏教も、今や一大勢力となり、多くの者の居場所となっている。次から次へと乱れ飛ぶ荒唐無稽のオカルトも、信じる者にとっては世界の全てだ。浮足立つ精神を留めうるのは、確かな信仰のみ。神子様を信じる心だけが、今もって私をこの地面に留めているのだ。……途方も無い心持ちになり、私は空を見上げる。あたかもそこに大山の存するかの如く、紺碧の中に白磁の入道雲が聳えていた。数刻の後に跡形もなく消え去るなどとはとても信じられないような、堂々たる夏の化身の雄姿であった。


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何かに憧れ、信じ、目指す。
届く届かないは関係なく、幸福なことだと思います。

そして雲山と布都が拳合わせるとこ想像したらすごい和んだw
50ヶ月前
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入道雲のもくもくと、諸行無常の愉しさよ。
しかしイイ組み合わせですねぃ。
向いてる方向は違えども似た者2人なのかもしれませんね。
50ヶ月前
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ふたりを繋ぐのは友情ではなく共感と言ったところでしょうか

自分も「願いを叶えてやるから言ってみろ」と言われて、とっさに言えないだろうなぁ
50ヶ月前
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