にとひな小話
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にとひな小話

2015-07-24 18:50
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 にとりの発明した「携帯式妖力遮断結界発生装置」が里で大人気だという。何でもスイッチを入れるだけで微弱な結界を展開でき、力の弱い妖怪ならば即座に追い払うことが可能だとか。発売後三月を経ても衰えぬ売れ行きで、一部では表彰ものだとの声もあるらしいけれど(文々。新聞より)、にとりは大勢に褒められたりする場には関心がないらしい。ただただ、人間の役に立てたということを、素直に喜んでいた。
「子供や老人は、遠出するのも命がけだからねえ。ああいう人たちの役に立てたんなら嬉しいな」
 人間の役に立つことは、以前からにとりの目標とするところであった。商売上手だけれど、プライベートでは人見知りしがちで、初対面の人間と対峙するとなかなか上手く話せない。それでもにとりは人間が好きなのだ。丁度、ネコアレルギーを持ちながら、猫が好きでたまらない人のようなものかもしれない。
「にとりの発明で、人間たちもどんどん暮らしやすくなるわね。私の仕事も少なくなるかも」
「おや、少し発明のペースを落とさなきゃいけないかな」
「私は閑職でも構わないのだけど?」
 あはは、と二人で笑う。にとりと違って、私は人々の厄を引き受けないことには、信仰を保てず、ひいては神格を保てない。皮肉だけれど、人々の不幸こそが、私を存在させてくれる糧なのである。それでいて、私もやはり、人間が好きなのだ。
「やっぱり、好きな相手の為に仕事したいよね」
 人間を救う発明、と言えば聞こえはいいけれど。にとりのやったことは、言ってしまえば弱小妖怪の餌を奪ったということだ。餌不足で死んでしまう妖怪は居ないけれど、間違いなく生きづらくはなるだろう。妖怪達から白い目で見られることも、簡単に予想できた。河童という種族には、そういうところがある。良いアイデア・良い発明であれば、それがもたらす影響には頓着せず、遮二無二作り上げてしまう。その結果後悔を背負うこともざらだ。外の世界の、とある天才科学者の如く。
「『好き』の為だったら、幾らでも頑張れちゃうもん」
「にとりはスイッチ入ると、徹夜しても応えないものね」
「えっへん」
「一応心配してるのよ」
「……ゴメンナサイ」
 それを作ることはどうしても必要なの、と問うた時、にとりはただ頷いた。それが余りにもいつも通りの表情だったから、私はそれ以上追及する気もなくなってしまった。人間の子どもが妖怪に食べられて死んだ、という出来事は、日常茶飯事すぎて新聞にも載らない。けれどにとりはそのことにずっと心を痛めつづけ、ついにその現状を変えてしまおうと決意したのだ。
――道具は、遠慮せず使うのがいいんだ。性質を目一杯に活かして、どんどんすり減らして、使い潰すのがいい。道具として生まれた以上、そのように使われることは覚悟しているはずだし、誇りに思ってもいるはずだから。私らとしても、変に同情しないで、道具は道具としてのみ扱うのが、礼儀だと思う。――
 それはそのまま、「労働者」と言い換えても成り立つだろう。世界の歯車の一つとして仕事をし、最中にすり減って、壊れてしまったとしても本望だと。
「好きな相手のために……か。本当にね。……きっと、皆そうなのね」
 厄神として生まれたことを悔いはしない。ただ、悩み多き仕事ではあった。好きな相手に疎まれているという自覚は、日々著しく私の気力を奪ったし、時に直接的な罵倒も受けた。私の定められた道を、にとりは哀れんだりしなかった。ただ、仕事を全うするということの大変さについて、技師の仕事と同じ分だけの理解を示してくれた。私にはそれで十分だった。私達は必要以上に救済されたいわけではない。世界の一部品として生きていくために必要なだけの気力を補填できれば、それでやっていけるのだ。大勢に褒められる必要を感じないのは、にとりだけではない。
「ねえ雛、この後予定在る?」
「いいえ。明日まで何もないわ」
「それじゃ、ちょっと付き合ってくれるかな。新しく作りたい機械の構想があるんだけど」
「私程度の知識で付き合える話なら、喜んで」
「さんきゅっ」
 にとりにとって、わたしは使いやすい道具で在れているかしら。もしそうなら、それは最大級の賛辞だ。道具として扱うということは、彼女にとっては、他の何よりも大切にし、寿命の尽きるまで添い遂げるということなのだから。
 山の妖怪達が組織化されて久しく、システムの存在感は日に日に増してきている。組織としての在り方を鮮明にするほど、個としての在り方から離れていくのは、妖怪も人間も同じかもしれない。妖怪の山はいつか、一つの完全なる機械になるのかもしれないと、何となく感じた。私達が個で在れる時間は、そう長くないのかもしれないと、そんなふうに思った。もしもそれが事実であるならば……せめて私が私の姿を保っている間だけでも、私の仕事を全うできますようにと願う。人々の厄を少しでも多く引き受けてあげられますように。そしてそれと同じくらい、にとりにとっての最上の道具であれますように、と。


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何かで見た“機械仕掛けの独り言が際限なくこだまする世界”を思い出して
なんだか空恐ろしい思いがしました・・・。
それはそうと「えっへん」→「ゴメンナサイ」がすごい可愛い。
50ヶ月前
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幻想郷の人間は食べられにくくなった
それは幻想郷の妖怪の餌の不足を招くものであり、その埋め合わせはどう行われるのか?
無論”輸入”である。
50ヶ月前
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