80年代を舞台にしたアーケードゲームと青春の物語!『198X』
『198X』は、スウェーデンのHi-Bit Studiosが開発したマルチジャンルゲーム。今回プレイしたのはNintendo Switch版だが、他にSteamでPC版も配信されている。ただし、PC版は2020年2月9日時点では日本語未対応。PC版の日本語対応と、PS4版の配信が今後予定されている。
タイトルに『198X』とある通り、本作の舞台は80年代。思春期の少年がアーケードゲームと出会い、心情を変化させていく様子が描かれている。
この設定を読んで、押切蓮介氏の人気マンガ「ハイスコアガール」を思い出した人も多いだろう。実際、本作はゲーム版「ハイスコアガール」ともいえる作品だ。ゲーム内に複数のゲームが用意されており、プレイヤーは主人公としてこれらのゲームをプレイしていくことになる。
プレイしたことがないけど懐かしい!5本のゲーム内ゲーム
本作で用意されているゲーム内ゲームは5本。いずれもオリジナル作品だが、80年代に流行したゲームを連想させるものになっている。しかも、どれもクオリティが非常に高い!
1本目、『Beating Heart(ビーティングハート)』は、ベルトスクロール型のアクション。主人公を操作してボタン連打で連続攻撃を繰り出し、街のギャング連中を倒していく。80年代のアーケードゲームを知る人なら、これだけでも『ファイナルファイト』を連想するハズ。だが、これだけではない。演出的にも『ファイナルファイト』を連想させるものが散りばめられている。筆者は地下鉄のシーンで思わず「懐かしい……!」とつぶやいてしまった。
2本目、『Out of the Void(アウト・オブ・ザ・ヴォイド)』は、横スクロールシューティングゲーム。連射による通常ショットと貯め撃ちショットを駆使して敵を倒していく。敵を倒すことで出現するアイテムを手に入れると、ショットやレーザー、スピードアップなどのパワーアップが可能だ。こちらは『R-TYPE』を思わせる演出が多い。『R-TYPE』のフォースのような無敵装備が用意されているわけではないが、敵にゴマンダーやドブケラドプスといった『R-TYPE』の敵の面影を感じるのだ。
3本目、『The Runaway(ランナウェイ)』は、スーパーカーで都市を駆け抜けるレースゲーム。このシチュエーションからは、『アウトラン(OUT RUN)』を連想せずにいられない。80年代のレースゲームを再現しているため、ラスタースクロールが再現されていることも特徴。
ラスタースクロールというのは、カンタンに言うと、画像を横にズラす技術のこと。現在のレースゲームは3Dでコースを表現しているが、80年代のゲームではまだ3D技術が導入されていない。なので、カーブを表現するために、ラスタースクロールを使用していた。コースの手前から奥へ、徐々に横方向へズラすことでカーブを表現していたのだ。車を回転させてカーブを抜けるのではなく、カーブ中、コースアウトしなければカーブを乗り切ったことになる。本作でも、自車はカーブで回転することができない。見た目だけでなく、ゲームの作り的な部分まで80年代のゲームを再現しようというこだわりが感じられる。
4本目、『Shadowplay(シャドウプレイ)』は、横スクロールの忍者アクション。刀による攻撃とジャンプを駆使し、敵や障害物を乗り越えていく強制スクロールのゲームだ。ハイ出た、忍者!80年代アーケードゲームといえば忍者ゲーム。そう言っても差し支えがないくらい、忍者ゲームが多かった。『忍 -SHINOBI-』『忍者くん 魔城の冒険』『影の伝説』『最後の忍道』『ニンジャウォーリアーズ』『忍者龍剣伝』……。ただ筆者としては、これらアーケードの忍者ゲームより、ファミコン版の『忍者龍剣伝』を連想した。というのも、本作はビジュアルが非常にスタイリッシュなのだ。80年代アーケードの忍者ゲームって、『忍者龍剣伝』も含めてもう少し泥臭いバイオレンスがあったような気がしないでもない。
ただ、忍者ゲームでは必ずと言っていいほどある竹林のシーンが出てくるなど、忍者ゲームのツボはしっかり押さえている。また、この作品が本作の中で最も難易度が高いと感じた。当時のアーケードの忍者ゲームもまた難易度の高いものが多かったので、プレイして懐かしさをしっかりと感じられた。
ラスト、5本目の『Kill Screen(キルスクリーン)』は、3DダンジョンRPG。3Dダンジョンを探索し、モンスターと戦ってレベルアップ。3匹のドラゴンを退治し、迷路から脱出することを目指す。キリツケ、ビーム、ハックという3種類の攻撃があり、敵によって攻撃を使い分けるのがポイントだ。
日本の80年代アーケードゲームと言えば、アクションかシューティングが大勢を占めていた。なので日本で育った筆者としては5作中本作のみ、若干ながら違和感を覚える。(80年代でワイヤーフレームの3DRPGというと、どうしてもPCゲームをイメージしてしまう……)ただ、本作は『198X』の中でも特殊な位置づけになっているため、あえてRPGというジャンルをチョイスしたのかもしれない。
5本のゲームを貫く主人公の心情
こうしたゲーム紹介を読んで、本作を『ニンテンドークラシックミニ ファミリーコンピュータ』や『NEOGEO mini』のような、懐かしのゲーム集と思った人もいるだろう。確かにその考えは、5本のゲームをプレイするという意味では正解だ。しかし、好きなゲームを自由に選んでプレイするようなものをイメージしているならば、ちょっと違っている。先に書いた通り、本作は思春期の少年がアーケードゲームと出会い、心情を変化させていく作品。つまり、本作でゲームをプレイするのは、プレイヤーではなく、少年なのだ。
もちろん、そうはいっても現実にゲームの操作をするのはプレイヤー自身。しかし、どのゲームをプレイするのかは主人公の少年が選ぶ。もっと言えば、どこまでゲームをプレイするのかもストーリーに依存している。5本のゲームは、ストーリーを語る上での演出に過ぎないのだ。なので、それぞれ本格的にプレイできるわけではない。プレイできるのは、さわりの部分。
つまり本作は、作中で登場するゲームを体感できるインタラクティブムービーといえる。『ハイスコアガール』をインタラクティブムービー化したら本作になるのでは……という印象だ。ただし、『ハイスコアガール』が80年代ゲームキッズにとって、大きく美化された優しい世界観なのに対し、本作の世界観はとてもシビアだ。
あなたが80年代に青春を過ごしたゲームキッズなら、自分の過去を思い返してみてほしい。あの時代、ゲームは今以上に市民権がなかった。ゲームセンターは不良の溜まり場。学校から禁止されていて、今のようにデートでカップルが訪れる場所ではなかった。ゲームに夢中というだけで、オタクとして気持ち悪がられることもあった。そもそもオタクという呼称だって、今ほどカジュアルなものではなかったのだ。そんな時代だから、当時のゲームキッズは多かれ少なかれ、心にナイーブなものを抱えていたように思う。本作の主人公も、そんな一人だ。
本作の主人公の家庭は壊れかかっており、そこに主人公の居場所はない。学校生活はどうかというと、友達が思春期を経て大人になろうとしている。人にレッテルを貼って付き合う仲間を選別する。誰とでも仲良くした時期は終わりというわけだ。一方、主人公もまた、子どものころの感性を失いつつある。以前は純粋に楽しいと感じていたことが、つまらなく思えてしまう。だから、いたたまれず街へと繰り出しても、おもしろくない。家にも、学校にも、街にも居場所がない。そんな主人公の心をときめかせてくれたのが……ゲームセンター。ナイーブな展開がプレイヤーの心を揺さぶってくる。
本作をプレイして、筆者はまるで自分が少年時代にタイムスリップしたかのように感じた。80年代という特定の時代じゃない。少年時代。自分が少年だった時代。あのころの自分は、とにかくクリエイター的なものに憧れて、PCのツクール系ソフトでRPGを作りつつも、同時に様々なゲームを遊ぶことに没入していた。当時の自分が持っていたのは、遊ぶことに逃げているんじゃないかという不安や怖さ。一方でもちろん、ゲームが魅せてくれる未来や楽しさに希望も抱いていた。人を楽しませるための技術について、今よりも純粋に、そして貪欲に吸収できていたように思う。
筆者は現在40代なので、自分のやっていることについて、あまり不安や怖さはない。それはいいことのようにも思える。けれども、単に感性が鈍化しただけなのかもしれない。だとしたら、それはきっとこの20年の間に何かを得たのではなく、失ったのだということ。でも、本作をプレイして、少年のころに感じていた不安や怖さが若干、蘇ったように思う。そしてそれは少し、心が痛い。タイムカプセルを掘り起こした時って、きっとこんな気持ちになるなんじゃないだろうか。
ちなみに本作は、今後Hi-Bit Studiosが予定している作品へと続く序章的な位置づけとされている。プレイ時間も短く、筆者は1時間30分程度でクリアすることができた。上手な人ならもっと早くクリアすることも可能だろう。なので、本作で物語が完結するわけじゃない。しかし、本作だけで充分感情を刺激してくれる作品に仕上がっており、プレイする価値は十分ある。思春期の心情を扱っているため、思春期を通り過ぎた後の人なら誰でも楽しめる。しかし、最も楽しめるのはやはり、80年代をゲームキッズとして過ごした人だと思う。80年代のあなたが持っていた……しかし今は失くしてしまったものを、本作は再び取り戻してくれるだろう。
198X公式サイト:
https://198x.jp/ [リンク]
(執筆者: ガジェット通信ゲーム班)
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