生きててよかった……! 最近、そう思わせてくれたゲームタイトルのひとつが『GetsuFumaDen Undying Moon(ゲツフウマデン アンダイイングムーン)』だ。よもや『月風魔伝』の新作がプレイできるとは思わなかった。まず最初に、本作を作ってくれた開発スタッフにお礼を言いたい。ありがとう!

34年の時を経て生まれ変わった新作『GetsuFumaDen Undying Moon』

『GetsuFumaDen Undying Moon』は、Nintendo SwitchとSteam向けに2022年配信予定のローグヴァニア2Dアクションゲーム。正式リリースは2022年となっているが、Steamでは5月14日から早期アクセス版がリリースされている。「早期アクセス」というのは、PCゲームにおける手法のひとつで、正式リリース前に未完成の状態でゲームをリリースするという手法のこと。

まだ完成していない状態でプレイヤーに触れてもらい、プレイヤーの意見を反映しつつゲームが制作できる。オンラインゲームのβテストに近いが、βテストの多くが無料なのに対し、「早期アクセス」は基本的に有料。ただ、たいていの場合正式リリース版より早期アクセスの方が安価だったり、限定特典をもらえたりする。

作り手からみると、正式リリース前に開発費を工面しながら完成度を高めることができるというメリットがあり、プレイヤー側から見ても一足早く、しかもお得にプレイできちゃうという双方にメリットを感じられる手法だ。

(画像は『月風魔伝(Steam版)』)

既に書いた通り、本作『GetsuFumaDen Undying Moon』は、『月風魔伝』シリーズの新作タイトル。シリーズとは書いたものの、1987年にファミコン向けに発売された初代『月風魔伝』以降、本作以外の続編はリリースされていない。つまり本作は34年ぶりの新作ということになる。筆者が冒頭、「よもや『月風魔伝』の新作がプレイできるとは思わなかった」と書いたのも34年ぶりという空白の長さが理由だ。正直、リリースが告知された時には自分の目と耳を疑うレベルで驚いた。

(画像は『月風魔伝(Steam版)』)

敵の攻撃パターンを見切って回避するヒリヒリしたアクション

そんな『GetsuFumaDen Undying Moon』だが、その内容は現時点でどのようなものに仕上がっているのか? ストーリーとしては、『月風魔伝』を踏襲している。『月風魔伝』のラスボス「龍骨鬼」が千年ぶりに復活し、地獄の封印が解かれてしまう。この事態解決に乗り出すのが、我らが主人公、月氏一族二十七代目当主・月風魔だ。

ビジュアルは、『月風魔伝』の特徴だった「和」のテイストを、日本画のようなビジュアルを用いることでさらに進化させている。ただ、キャラクターや背景は一見2Dに見えるが、3Dだ。このため、なめらかな動きや、3Dならではの演出などが実現されており、単に日本画風のビジュアルを2Dで再現したというだけではない、それ以上に魅力あるビジュアルが表現されている。

ゲームジャンルについては、「ローグヴァニア2Dアクションゲーム」とある通り、基本はサイドビューの2Dアクション。メイン武器とサブ武器を使ってマップを探索、マップ内のどこかに潜むボスを倒せばステージクリアという内容だ。

ここに「ローグヴァニア」という名が示す通り、キャラクター育成やアイテムハントの要素が関わってくる。マップ内の様々なところにつづらが置かれており、これを調べることでメイン武器やサブ武器を獲得。より強力な武器を獲得しつつ、また育成用アイテムをゲットして主人公を強化しつつ、探索を進めるというわけだ。

主人公のアクションは、メイン武器、サブ武器を使った攻撃の他、二段まで可能なジャンプと、回避アクションといったものが用意されている。メイン武器は刀や槍など、主に近接武器が用意されており、回数無制限で使用できるのが特徴。一方サブ武器は、銃や爆弾のように遠距離武器が用意されており、メイン武器と比較して攻撃力が高い。ただ、一定回数使用するとクールタイムが発生する。

立ち回りの肝となるのが、サブ武器と回避アクション。というのも、本作はザコ敵であっても攻撃力が高い。まったく強化をしていない初期状態の風魔のHP1000に対し、ザコの攻撃によるダメージは平均200~300ほど。4回攻撃を喰らうと死ぬ計算だ。このため、サブ武器で遠くから倒すか、回避アクションでザコの攻撃を的確に避ける必要がある。

ローグヴァニアなら「強い武器を発見したり、風魔を育成したりすることで難易度が低下するんじゃないの?」と思うかもしれない。しかし、現時点のバランスは育成よりもプレイヤースキルの比重が高い。確かに育成要素はあるのだが、周回を何度も重ねてようやく1段階強化するために必要な素材が集まるというバランス。なので、「育成重視で進める」という戦略はあまり現実的ではない。

一方、アクションゲームとしての設計が上手いため、プレイ回数を重ねることでプレイヤースキルは確実に伸びていく。敵キャラクター毎に攻撃パターンが明確なので、何度か戦っていると「どのタイミングで回避すべきか?」が自然と習得できる。なので、月風魔より先にプレイヤーが強化されていくといった印象だ。

人によっては育成よりもアクションを重視した本作のバランスを「難しい」と感じるかもしれない。なので、もしかすると正式リリース時は若干育成しやすいバランスになるかもしれない。ただ、筆者的にはこのバランスを「おもしろい」と感じている。敵のパターンを掴み、タイミングを覚えることで乗り越えられるようになっていく……プレイヤースキルがアップしていく感覚が純粋に心地いい。現時点でも十分、「ローグヴァニア2Dアクションゲーム」として面白い作品だと思う。

特別な一作だった『月風魔伝』

『GetsuFumaDen Undying Moon』は、「ローグヴァニア2Dアクションゲーム」として面白いと書いた。これは間違いない事実だ。だが、本作は単なる「ローグヴァニア2Dアクションゲーム」ではない。あの『月風魔伝』の新作なのだ。なので、「『月風魔伝』としてどうか?」という点からも評価しなくてはならない。ちなみに、自分がすっごく面倒くさいことを言っている自覚はある。だがしかし! 筆者にとって『月風魔伝』とはそれくらい特別な一作なのだ。

(画像は『月風魔伝(Steam版)』)

『月風魔伝』が何故特別な一作なのか? それを語るには、『源平討魔伝』という別タイトルに触れなければならない。『月風魔伝』はコナミからリリースされたアクションRPGだが、『源平討魔伝』はナムコからリリースされたアクションゲーム。リリースした会社もゲームジャンルも別だ。しかし、当時のゲームキッズにとっては、この2作は分かちがたい作品のハズ。

(画像は『源平討魔伝(PCエンジン版/PCエンジンミニより)』)

当時は今のようにインターネットがあったわけではないので、世の中全般でどう思われていたかは知らない。けど、筆者の周り……小学校のクラスメイトや、ゲームセンターで顔を合わせる人の中で、『源平討魔伝』は非常に特別な扱いをされていた。『源平討魔伝』は『月風魔伝』の前年、1986年にアーケードゲームとしてリリースされたアクションゲームで、鎌倉時代が舞台。地獄から復活した平景清が、平家の恨みを晴らすべく、仇敵・源頼朝を討つため壇ノ浦から鎌倉へ向かうというゲームだ。

(画像は『源平討魔伝(PCエンジン版/PCエンジンミニより)』)

この『源平討魔伝』の何が特徴的だったかというと、1つのゲームに3つのモードが存在する点。ひとつめのモードは横モード。刀攻撃で敵を倒しつつ、足場から足場へジャンプで進む、一般的なサイドビューアクションのモードだ。ふたつめのモードは平面モード。視点がトップビューに代わってジャンプの重要性が減り、上下左右の移動と攻撃が重要というモードだ。

そして最後がBIGモード。その名の通りキャラクターが大きく描かれ、ボスとの迫力満点のバトルが楽しめる。ビジュアル面だけでなく、振り下ろしや、突きなど刀による攻撃パターンが多彩になり、アクション性そのものが大きく変化することも特徴だ。

(画像は『源平討魔伝(PCエンジン版/PCエンジンミニより)』)

『源平討魔伝』は世界観もさることながら、ゲーム性の異なる3つのモードを1つの作品として融合させているという点でもユニークだった。だからこそ、筆者の周囲では、明らかに他のゲームと違う、稀有な作品と見なされていた。その上で、当時のファミコンキッズたち「これ、ファミコンで遊べるようにならないかな」と期待していた……そんな中、1987年に登場したのが『月風魔伝』なのだ。

(画像は『源平討魔伝(PCエンジン版/PCエンジンミニより)』)

『月風魔伝』は『源平討魔伝』と異なる作品だ。先に書いた通り、メーカーもジャンルも異なっている。その上、ゲーム性もストーリーも違う。しかし、「和をベースとした世界観」「巨大なキャラクター」、そして「異なるモードが混在する構成」といった要素から、近い空気感を持っている……そう、『月風魔伝』もまた「異なるモードが混在する構成」の作品だったのだ。

(画像は『月風魔伝(Steam版)』)

アクションRPGとして作られた『月風魔伝』は、見下ろし型のマップ移動モード、サイドビューのアクション、そして3Dダンジョンという異なるモードを持った作品だった。このため、実際の開発者の意図はどうあれ、少なくとも筆者の周囲では、『源平討魔伝』系のフォロワー作品として『月風魔伝』を受け止める人間が多かったように思う。つまり、特別な作品の系統として受け止められたわけだ。

(画像は『月風魔伝(Steam版)』)

その後、32年の間に様々なゲーム発売されたものの、『源平討魔伝』『月風魔伝』に連なるようなフォロワー的作品は見たことがない。もちろん、「和」のテイストで魔物と戦うという世界観の作品というのはリリースされている。ただ、その上で「異なるモードが混在する構成」までカバーした作品というのは、筆者の不勉強もあるのだろうが、記憶にない。

MSX向けにリリースされた『妖魔降臨』は、『源平討魔伝』をBIGモードのみにしたような作品だったし、そもそも『源平討魔伝』の続編である『源平討魔伝 巻ノ弐』すら、モードをBIGモードのみに絞っていた。だからこそ逆に『源平討魔伝』や『月風魔伝』の個性が際立つのだと思う。

今回、そんな中での『月風魔伝』の完全新作にして続編だったので、筆者としては『GetsuFumaDen Undying Moon』にこの、「異なるモードが混在する構成」を、ちょっと残してほしかった思いがある。一部のボス戦や一部のボーナスステージでで3D視点になるとかでもいい。そうすることで、『月風魔伝』の魂が継承されるように思うのだ。

失われた34年を取り戻すなら早期アクセス版を購入すべし!

ちなみに『月風魔伝』=「異なるモードが混在する構成」というこだわりは、筆者の個人的なこだわりであることは自覚している。だからこそ筆者は自分が面倒くさいことを言っている自覚があるのだけど、それも「早期アクセス版」なら許されることだろう。先に紹介した通り、「早期アクセス版」はプレイしたユーザーから感想や意見を募るために行われる。

感想や意見が必ず採用されるわけではなく、開発側にも予算や日程、技術的制約といった都合があるし、意見によっては一見いいものに見えても実は全体のバランスを崩してしまうかもしれない。なので当然ながら、最終的にどの感想や意見を採用するかはクリエイターの判断に委ねることになる。ただ、その前の「感想・意見を示す」ことに関しては、プレイヤーに権利がある。なので、筆者もこのこだわりも発言する権利はあると言えるだろう。

ちなみに、本作に関する意見は、Steamコミュニティ公式TwitterアカウントおよびDiscordサーバーを通じて開発スタッフに伝えることができる。開発スタッフ側は寄せられた意見の中から実現可能なものをピックアップし、実装までの過程をロードマップにして発信するそうだ。

こうした仕組みもある以上、『GetsuFumaDen Undying Moon』に関しては、「感想・意見を示す」ことが「作品を楽しむ」ことに繋がるのではないかと思う。もちろん、筆者も自分の意見を伝えようと思っている。なんといっても、新作が出るのは34年ぶり。

この期間、作品によっては20作以上の新作がリリースされていて、新作ごとに新機能や新キャラが追加されてきた。そして新作リリースの都度、プレイヤー達は「もっとこうしてほしい」「ああしてほしい」といた感想・意見を示してきたわけだ。なので、本作の「早期アクセス」期間は、この失われた34年を埋める期間と言っていいだろう。なので、感想や意見を伝えること=ファンとして『GetsuFumaDen Undying Moon』を楽しむことと言えるんじゃないかと思う。

だからこそ、『月風魔伝』ファンは「早期アクセス」の時点で『GetsuFumaDen Undying Moon』を買った方がいい。ちなみに、『GetsuFumaDen Undying Moon』は早期アクセス版であっても、正式リリース版であっても、本体価格は変わらない。ただ、早期アクセス版を購入すると、「デジタルアートブック」「オリジナルminiサウンドトラック」「ファミコン版月風魔伝」が付いてくる。筆者も買った(もちろん、自腹で)。2022年の正式リリースを楽しみに待ちながら「早期アクセス」を味わい尽くす予定だ。

文/田中一広

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