家を建てるときに必ずと言っていいほど参考にするのがハウスメーカーのモデルハウスやモデルルーム。
たいていは明るい営業時間内に内覧し、説明を受けながら好みの家づくりに期待を膨らませるものだ。
そんな中で、「モデルハウスに住んで試してみてください」というメーカーがあるというので記者が実際に「住んで」みた。
やってきたのは群馬県に本拠地を置く斉藤林業。
最初に各社のモデルルームが多数ある高崎展示場で一般的なものを内覧した後で、実際に住んでみる家に行った。
記者の本日の宿となるモデルハウスで、同社の齋藤英之社長に話を聞いてみた。
写真は実際に住めるように家具や食器等が整えられれているダイニングキッチン。
宿泊には500円の宿泊料金が必要だが、住むのに必要なものはたいていそろっている。
今までは電子レンジや湯沸かしに制限されていたキッチンだが、調味料と食材を持ち込めば調理することが可能となる予定だそうだ。
家の中には暖炉が置かれていた。もちろん使用することができる。この暖炉は本体60万円、煙突60万円とのこと。
--特徴を教えてください?
「もともとは、社名からもわかるとおり林業からスタートしました。いろいろな工法を試しましたが、今では日本古来の伝統的な建築様式である在来工法で、いいものを標準仕様とすることで大量に仕入れてコストダウンをはかり、それができないところは自社工場で作ってしまうという考え方でやっています」
写真は暖炉から伸びる煙突。
在来工法とは木造軸組構法のことで、建築様式の一つ。簡単に言うと梁(はり)と柱で家を支える日本では一般的な工法である。
輸入住宅等に用いられる木造枠組壁構法は壁、つまり面で支える方式でツーバイフォー(2×4)工法が知られている。ツーバイフォーは米国由来の工法で、基本となる部材の多くが2インチ×4インチなので、この名が定着した。
写真は2階から見下ろした暖炉。
在来工法は日本の様式なので、主に尺モジュールと呼ばれる尺貫法が用いられる。概ね1818ミリメートルを1間(けん)=6尺として計算するが、1間を2メートル(半間=3尺を1メートル)としたメーターモジュールも存在する。畳は1間×半間(6尺×3尺)が1帖となるが、どのモジュールを使用したかによって1帖の面積は異なることになる。さらに日本国内でも1間を6尺3寸とした京間や、5尺8寸とした江戸間等、様々な寸法の違いがあり、地方によって1帖の面積は異なることを知っておくと良いだろう。
法律的には使用できないが、概念として一般的に用いられる坪数も2帖分を1坪として計算するので、尺貫法がいまだに残っている分野ともいえる。
写真は主寝室。
--なぜモデルハウスに住んでもらうことにしたのですか?
「試食や試乗はあるのに、試住がないのはおかしいと思ったのです。おそらく一生に一度の大きな買い物をするのに全く試せないのは理不尽だと思ったのです。私たちが説明するときは時間の関係からもどうしてもいいことに集中しがちです。しかし、ご家族だけで住んでいただければ使い勝手や不具合、実際にご自身が建てられるときの間取りの参考になります。」
写真は2階バルコニーへつながる廊下兼共用スペース。
「つまり、見ただけでは気が付かないことが住んでみると気が付くのです。それを家づくりに生かしていただければと思っています。建築に携わる方であれば必要ないのかもしれませんが、ほとんどの方がその経験のない方ですので判断基準がないのです。しかし、住んで経験してみれば判断基準ができると思うのです」
共用スペースから見た子供部屋。
なぜ1部屋に2つの扉があるのかというと、将来2人の子供ができた時には、扉を境にしてパーティションで区切ることができるようにしているとのこと。
子供部屋の中央には両方からアクセスできるロフトがあった。記者は両端に2つ設ければいいと思ったのだが、そのあたりは好みに合わせて自由に設計できるだろう。
--最長でどれくらい住んだ人がいましたか?
「制度上は7泊まで可能なのですけど、今までの最長は3泊ですね。季節的には厳しい気候である冬と夏が多い傾向にあります。泊まるとすべてをチェックされますからね。お客様も真剣ですが、私たちも真剣です。(笑)」
子供部屋から見下ろしたダイニングキッチン。
家族で住んでみれば、上から子供がのぞいて「今日のご飯な~に?」とママに聞くのだろう。
夜になった。
家の明かりをすべて点灯して撮影。
インタビューを終えて社長も帰ってしまい、もう関係者は誰もいない。
同社では木材を乾燥させるときに出る煙を冷却してできた「木酢液」をタンクにためて、工場や展示場で無料配布している。
防虫や防臭、土壌改質等が期待できるとのこと。
お風呂に入る。木酢液が置いてあり、自由に入れて入浴することができる。
脱衣所兼洗面所もなかなかしゃれたデザインだ。
楽しみにしていた暖炉。
実はここで事件発生。
この暖炉はダクトで外気を取り入れ、煙突で排煙する方式。空気の流れがものすごいことになるので、あっという間に燃えるはずだったのだが、着火したら煙が部屋の中にどんどん入ってきた。暖かい空気は上に上がるはずなので、煙突に抜ける予定だったのだがおかしい。
ボイラー技士の免許を持つ記者は以前に勉強した知識を頭の中から引っ張り出す。
この家はすべてがペアガラスで断熱材はセルロースファイバーを使っている。どうりで外の音はほとんど聞こえないはずだ。
また、強制換気装置も設置されているようだった。ということは、人間には感じない程度に家の中の気圧が外気圧よりも低いのではないのか。データがある前橋市の当日平均気圧は1028.9ヘクトパスカル。1気圧が概ね1013ヘクトパスカルなので、若干ではあるが気圧は高い。
もしかしたら、あまりにも気密性が高いので、外気圧が高い状態で煙突に煙が上がらないのではないかと推測した。
そこで記者は、窓を全開にしてみた。
すると外気圧と同じになったのか、空気の流れに制限がなくなったのか、ゴーッと音を立てて炎が上に広がった。
暖炉の表面温度は一気に摂氏200度を超えた。
そのまま外気ダクトと煙突を締め切って煙を循環させてその中の残留ガスを再燃焼させる2次燃焼に切り替え、薪2本を残してそのまま床に就いた。
ちなみにエアコンは一切使用していない。
この一件で、この家の気密性が驚くほど高いことが体感ではなく科学的に証明された。
翌朝、寒さで目が覚め…ではなく、目覚まし時計で目覚め暖炉を見るとまだわずかに燃焼していた。暖炉の表面温度は摂氏100度程度だった。
薪は完全燃焼を遂げたようで真っ白い灰以外に何も残っていない。
室内の気温は摂氏23.7度で快適だ。
外に出て温度計をしばらく放置してみた。外気温は摂氏9.5度。寒い。
断熱効果も相当高いことが温度計で証明された。
暖炉を使用したとはいえ、薪数本で一晩エアコンは不要だったことを考慮すると省エネ効果は相当あるのかもしれない。
このように住んでみて初めて分かることを体験できるのは消費者にとってはいいことであるし、メーカーも相当の自信がないとできない取り組みだろう。同社では群馬県から119分以内(119番通報に掛けたらしい)にアフターサービスで到着できる範囲を建築可能エリアと定めている。記者の勝手な印象で恐縮だが、社長に相談すれば条件次第でどこでも建ててくれそうな気はした。
それはともかく、現在計画中の人も、将来施主になるかもしれない人も、実際に住んでみて家づくりの参考にしてみてはいかがだろうか。
※写真はすべて記者撮影
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(執筆者: 古川 智規) ※あなたもガジェット通信で文章を執筆してみませんか