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『リリーのすべて』監督インタビュー「トランスジェンダーという言葉すら無かった時代の挑戦」
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『リリーのすべて』監督インタビュー「トランスジェンダーという言葉すら無かった時代の挑戦」

2016-03-23 21:30
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    『英国王のスピーチ』でアカデミー賞を受賞したトム・フーパー監督と、『博士と彼女のセオリー』でアカデミー賞の主演男優賞を受賞したエディ・レッドメインが『レ・ミゼラブル』に続いてタッグを組んだ映画『リリーのすべて』。本作ではアリシア・ヴィキャンデルが見事アカデミー助演女優賞に輝いています。

    『リリーのすべて』は世界で初めて性別適合手術を受けたリリー・エルベの実話を描いた伝記ドラマ。先週末より公開し、多くの人が劇場に訪れています。今回ガジェット通信では、トム・フーパー監督にインタビューを敢行。作品について、監督が暮らすイギリスのジェンダー事情について、色々とお話を伺ってきました。

    【ストーリー】
    1926年、デンマーク。風景画家のアイナー・ヴェイナーは、肖像画家の妻ゲルダと共に公私とも充実した日々を送っていた。そんなある日、ゲルダに頼まれて女性モデルの代役を務めたことをきっかけに、アイナーは自分の内側に潜んでいた女性の存在に気づく。それ以来、“リリー”という名の女性として過ごす時間が増えていったアイナーは、心と身体が一致しない自分に困惑と苦悩を深めていく。一方のゲルダも、夫が夫でなくなっていく事態に戸惑うが、いつしかリリーこそがアイナーの本質なのだと理解するようになる。移住先のパリで問題解決の道を模索するふたり。やがてその前にひとりの婦人科医が現れる。

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    ―本作大変感動し、しばらくはずっと余韻に浸ってしまいました。色々とお伺いしたい事はあるのですが、まず本作の映像美について意識した事、工夫した事を教えていただけますでしょうか?

    トム・フーパー:今まで僕は撮影に35mmを使ってきたので、今回デジタルカメラを使ったのが初めてだったんです。フィルムで育ってきた世代としては、撮っている時のにおいも好きなので、ちょっと寂しいんですけどね。でも、もちろんデジタルが良い事もたくさんありました。「マスタープライムレンズ」という、1/2インチほどの分厚いレンズを使ったのですが、リリーの美しさを写真的な色合いで、柔らかく撮る事が出来ました。

    また、カメラワークに関しては“高さ”も意識しました。レッドメインさんはとても背が高いのですが、アイナーでいる時はカメラで下から撮影する様にして、リリーになってからはカメラで上から撮影しました。そうすると、リリーが下からカメラを見上げる事になり、その事で女性らしさを表現したのです。昔から背の高い女優さんを撮影する時に使っていた技法を利用しました

    ―そういった工夫がされていたなんて驚きです。今すぐもう一度作品を観直したくなりました。そして、この作品はエディ・レッドメインとアリシア・ヴィキャンデルの2人でなければ成し得なかったのでは無いかと思うほど、素晴らしい演技でした。2人のキャスティングについては最初から監督の中で決まっていたのでしょうか?

    トム・フーパー:この作品は2007年から映画化の話があったのですが、その時彼女は17歳なので知りませんでした。エディに関しては、ずっと頭にあって『レ・ミゼラブル』のバリケードのシーンを撮影していた時にプロットを渡して、すぐに気に入ってくれました。アリシアという女優の存在を知ってから、オーディションに来てもらった時、リリーが男性とキスをして妻であるゲルダがリリーを責める、というシーンを演じてもらったのですが、僕はその場で涙が出てしまいました。エディには「もう誰がゲルダをやるかバレバレだね」と言われましたが(笑)。

    ―アリシアは見事アカデミー助演女優賞を受賞しましたね。ゲルダをどの様に描き、どの様に観客に見せたかったのでしょうか。

    トム・フーパー:何よりも強い女性に描きたかった。1920年代生まれの女性であって、アーティストで、作品制作に意欲的で野心があって、それまでの女性像を塗り替えてきた方だと思います。それは、リリーが自分の信念の為に突き進んでいく事と似ているし、彼女の強さがリリーの一番の支えになったのだと。アリシア自身もとても強い女性だと思います。子供の頃からバレエを続けていて芯があるし、この映画の為に英語のアクセントを自主的に完璧にマスターしました。

    ―本作を監督するにあたって、リリーという実在した人物のお話ですし、複雑な事情が関係してくる題材だけに、苦労された事も多かったのでは無いでしょうか。

    トム・フーパー:今回僕は様々なトランスジェンダーの方にお会いしました。そうして色々なお話を聞いていくうちに、リリーがした事の凄さを改めて感じるわけです。彼女はトランスジェンダーという言葉やLGBTという言葉が無かった時代に次々と新しい挑戦をしてきたのですから。リリーがそうした大きな事を出来た理由はやはり、夫婦の愛が強く素晴らしかったからだと思います。そして、2人がアーティストで常識にとらわれず、お互いの本当の部分を見る事が出来るのも大きいと思います。2人に限らずあらゆるアーティストの方々が常に新しい道を切り開いています。このお話から100年近くたった今、やっとこうしたテーマについて話し合える様になったのですから。

    ―理解が得られるまで、相当な時間がかかってきた事に考えさせられますね。監督はイギリスの方ですが、イギリスでのトランスジェンダーやLGBTの取り組み方というのは現状どの様な感じなのでしょうか。

    トム・フーパー:ここ1、2年で大きく変わったと思います。例えば、5歳くらいの子が自分の性別に対して違和感を感じていたとして、そこでその違和感を隠すとうい選択肢は無いんですね。その違和感をそのまま伝えて、自分に素直に生きる事が出来る、今のイギリスでは子供達から変化が始まっていると思います。その子達が大人になった時の世界も楽しみです。

    この作品の中で、リリーはドイツで手術をしますが、当時はドイツでしかそういった医療は発展していなかった。ところが、その後すぐにファシズムが起こり、研究はぐっと遅れてしまいます。それから性的適合手術は1950年代になるまで行われませんでした。人権というのは、政治や社会の変化があって守られる事ですし、逆に奪われてしまう事もあるのだと思います。

    ―本日は貴重なお話をどうもありがとうございました。

    【関連記事】『リリーのすべて』レビュー/ひろゆき
    http://variety.co.jp/archives/6925

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