「凍てついた女」第五章 ガネーシャ作
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「凍てついた女」第五章 ガネーシャ作

2018-07-06 10:48




    「凍てついた女」第五章


    「え???ママが捕まった????」


    かもこは、思わず頓狂な声を上げてしまった。

    ガヤガヤした店内の視線がかもこに集まる。

    「あ・・・。申し訳ありません。」
    赤面して一礼したかもこは、闇雲に義人の腕を掴み
    バックヤードに足早に向かった。

    ドアを閉めたとたん、
    「ちょっと、一体どういうことなのよ?」
    まるで叱責するかのように、かもこは義人に言い寄った。

    「やだ、痛いって!放してよ、もう!」
    腕に食い込んだかもこの指を払いのけて、
    怒ったように腕をさする義人。

    洒落たブレスレットが、義人の手首に光っている。

    「あ・・・ごめんなさい・・・。」

    「壊れちゃったらどうすんのよ。おニューなのよ、これ。」
    義人は、目新しいブレスレットを大切そうになぞりながら
    フッとため息をついて、ゆっくり話し始める。

    「あいつよ、ママの彼氏いたじゃない、あの顔とセックスがいいだけのクソ男。」
    「あいつをね、ママが刺しちゃったのよ・・・。」
    しかめっ面の義人が小声で言った。

    口元を押さえて、ハラハラした顔で義人を見つめるかもこ。

    「んま、死にゃしなかったんだけどね。」

    なにげに残念そうにニヤけながら話す義人を少し疑問に思ったが

    かもこは狼狽えた声で
    「でも、また何でそんな・・・。」
    「あの時、シッカリやるからって言ってたのに・・・。」

    「まぁ、いつかはこんな日が来ると思ってたけどね~。」

    小馬鹿にしたように言う義人に少し苛立ちを感じながら
    キッとした眼で義人を見つめる。

    「あっ!ちょっとかもこ、もう戻んなきゃよ。」
    かもこの感情を察したように、売り場に踵を返しながら義人が言った。

    「あ、そうね。また何か解ったら教えてちょうだい・・・。」
    義人の背中を見ながら、声をかけるかもこ。

    一人になったかもこは、まだ少し動揺を隠しきれない。
    「エンドラさん、大丈夫かなぁ・・・。」


    「私もシッカリやるから、あんたもシッカリね~。」


    頭の中に流れてくるエンドラの声を振りほどくように
    かもこは売り場に向かった。

    絵空事のように、なんとか仕事を終えたかもこだったが、
    気が気ではなく何かとミスの多い日だった。

    「かもこちゃん、今日呑みにいかない?」
    更衣室で眉頭の四角い、かもこの同僚が声をかけてきた。

    「あ、ごめんね~。今日はパスしとく。また誘ってね~。」

    同僚は四角い眉頭にシワを寄せながら
    「きゃぁ~残念~。じゃあたしも帰ってココアと遊ぶわ~。」

    「ココアって?」と眉をひそめながらかもこが尋ねた。

    「あたしの飼ってるトイプードルよ。」

    「あら~、うちにもね2匹チワワがいるの。」
    「あ、ごめんね急いでるんだった、したっけね~。」
    あたふたと身支度したかもこは、急ぎ足で更衣室を後にした。

    闇雲にタクシーを捕まえて乗り込むかもこ。

    「お客さん、どちらまで?」
    人の良さそうな運転手が言った。

    「月寒通りまでお願いします。」
    かもこは、どうやら繁華街に向かっているようだ。

    「了解~。」
    人の良さそうな運転手が気前よく答えた。

    ホッと一息ついたかもこの顔に、オレンジ色の夕日が当たっている。
    中堅女優のような憂いのある表情を浮かべて、かもこはゆっくりと眼を閉じた。

    かもこの美しい様子を、バックミラーで覗いた運転手が声をかけてきた。

    「お客さん、前にも乗せたことあるよ~。」

    ギョッとしたかもこが返す。
    「え?あ・・・そうなんですか?」

    「そうそう、お客さんスリムだから、
    もっとふっくらしたら俺のタイプなんだけどな~って思ってたんだよ~。」

    気のいい運転手のウィットに飛んだジョークだったが
    かもこの耳には、スリムという単語だけが残った。

    再び、女優のようにアンニュイな微笑を浮かべて
    「ありがとう・・・。」
    そう微笑みを返した。

    そういえば、運転手の額にある傷に、少し見覚えがある気がした。
    「もう着くよ。二度あることは三度あるといいね。」

    気さくな運転手は、交差点の少し手前で停めた。

    「コーヒーでも飲んでください。」
    女優のかもこは、気前よく一枚の札を手渡して足早に降りた。


    エンドラの店、「nostalgica」の営業中の札を見つめるかもこ。
    なんだかずっと閉店していたように、少し煤けて見える気がした。

    カラ~ン

    「いらっしゃ・・・かもこちゃん!!!」

    かもこを迎えてくれたのは、エンドラではなく従業員のシモンであった。

    「シモン君!ママ大丈夫???」
    答えを急かすようにかもこは訊いた。

    「聞いた~?もうアタシ、ずっと前からこうなる気がしてたのよ~。」
    「なんせほら、店に来ては売上持ってくだけのクソ男だったじゃない。」
    「どうやらママ、あいつがほかの・・・男と寝てるところに出くわしちゃったらしいわ。」

    シモンは、一瞬何かに詰まった顔をした。

    「そんなわけでアタシが代理ママって訳~。あ、座って座って!」
    慌ててお道化たようにかもこを席に送った。

    ゆったりしたソファーに座ったかもこは、
    流れてくるユーミンに耳を傾けながら、目じりをティッシュで押さえている。


    「!!!」
    かこもは、バセドウ病のように目を見開いた。

    それは、一つの思いもよらない予感からである。

    「義人・・・。」


    静かに流れてくる「まちぶせ」の中で、かもこは凍り付いていた。

     ”あの・・・が急に・・・何故・・・綺麗にな・・・”


    ”もうすぐ・・・きっと・・・”

    ”あなたを振り向かせ・・・”


    アンティークのシャンデリアの光が

    義人のブレスレットの様に音を立てて光ったように見えた。



    「凍てついた女」第五章 完


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