快盗飛天公爵さん のコメント
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今週のお題…………「 なぜK-1は成功したのか? 」
文◎山田英司(『BUDO-RA BOOKS』編集長)……………火曜日担当
K-1というルールを採用し、リングの上で空手家たちがグローブ着用で高額の賞金を奪い合うワンデー・トーナメント。そんな大会が、92年1月12日、綾瀬の東京武道館で開催された。
写真は、93年1月31日に行われた第2回の大会で、私が制作したパンフだが、その扉に書かれたK-1ルールの説明には、「K-1とは、今日考え得るカラテルールの中で、最も制約が少なく、最も打撃の発展を促進させる、グローブを着用することによって初めて可能になった、完全フルコンタクトスタイルの空手ルールをいう」と明記されている。
石井館長のk-1は、93年4月からだが、その1年以上前に、新空手の神村栄一代表は、K-1ルールのトーワ杯カラテジャパントーナメントと言う、空手界に衝撃を与える大会を開催していたのである。
優勝賞金500万円、という大会も空手界初であったが、顔面有りの無差別の大会は世界初であり、空手家以外にも、プロレスラーや、他競技のチャンピオン達も一同に集めて、K-1ルールという統一ルールで他流試合と異種格闘技戦が開催された。
パンフの締めにも、こう堂々と明記してある。「トーワ杯カラテジャパンオープンは、このK-1ルールを日本で最初に本格的に採用した大会であり、あらゆる流派、団体のための交流の場となる、真のオープントーナメントと呼べる大会を目指している。」
実際、この大会は、正道会館の佐竹、金、後川、田上などの人気選手の他、士道館の村上、SBの阿部、藤原組のプロレスラー、北斗旗、日本拳法、テコンドー、徒手格闘技、そして新空手の王者達が一同に揃う、まさに流派を超えてのオープントーナメントとなった。
そんな強豪選手を抑えて、大会を二連覇したのは、正道会館の佐竹。主催者側の本家、新空手は重量級選手の層が薄く、無差別の顔面無しの選手がグローブに慣れると、その試合運びのうまさや、身体能力に全く追いついていけない。大会は、正道会館や士道館など、顔面無しルールからグローブルールに転向した選手が強さを発揮する場となった。軒を貸して母屋を取られた感のある主催者側の新空手であったが、神村代表は、「それでいいんですよ。空手界も、見る側のファンも、顔面ありのK-1ルールに対する嫌悪感がなくなりますから」と、語っていた。
一般ファンには、この発言の意味がわかりづらいかもしれないが、当時の空手界は、素手の顔面無しの空手ルールの全盛時であり、グローブ着用の新空手ルールは、邪道として、毛嫌いされていたのだ。その嫌悪感を払拭させるのが、神村さんの狙いだったのだ。
実際、正道会館はトーワ杯以後、格闘技オリンピック、そしてK-1でグローブルールに挑戦していく。格闘空手として空手界の注目を集めていた大道塾も、トーワ杯の翌年にザ.ウォーズと言うグローブ着用ルールの大会を開催した。まさに、神村さんの狙い通り、空手界は顔面有りこそ、実戦空手、と言う価値感を受け入れ、ファンも支持し始めた。
そう言えば、神村さんはこんな予言もしていた。「K-1ルールと言う言葉は、空手界だけでなく、一般ファン、いや、世界中で知られるようになりますよ。」
まだ、石井館長がK-1を始める前のことだ。このルールのネーミングも神村さんと一緒に考えたものだが、私が色々と出したネーミングは全て却下。神村さんは自分が考えたK-1ルールのネーミングに拘っていた。なんですか、Kって?神村のKですか?と私が不満気に聞くと、KARATE GRADE ONEの頭文字だと言う。私はあまりピンとこなかったが、神村さんは最も実戦的なカラテルールを指すんだ、とこの名前をひどく気にいっていた。
後に石井館長が10万ドル争奪トーナメントをK-1グランプリと銘打ってたのを知り、私は神村さんがこのネーミングに拘っていたのを覚えていたので、両者に私の雑誌で対談してもらい、K-1ルールとK-1グランプリを上手く住み分けしてもらうように気をつかった。
しかし、その時も神村さんはあまり気にしてないようだった。それどころか、「私がやるより、石井館長がやった方がK-1ルールは広がるなあ。館長にあげちゃってもいいんだけどね」などと、のんびりと語っていた。
実際、トーワ杯は、経済上の事情から、4回大会で終了し、逆に石井館長のK-1は、テレビ局も応援し、まさに神村さんの予言通り、一般ファンだけでなく、世界中で知られる格闘技の名前となった。それを実現させた石井館長の手腕や、受け継いだ谷川君の手腕も大変なものだったに違いないが、私はそれを詳しく語る立場にない。
ただ、言えることは、K-1の成功を支えたベースに、トーワ杯があったということだ。空手界のグローブアレルギーを払拭し、逆にグローブルールは実戦的で面白いルール、と格闘技ファンに知らしめたトーワ杯の歴史的役割を無視することはできない。
しかし、やる側とその周辺の価値感の転換が、そのまま一般ファンに浸透するわけではない。
ちょうど基礎科学の研究と、民生用機器のメーカーの関係のようなものだろう。小保方さんの騒ぎがなければ、私など理研はワカメを作っている会社、くらいの認識しかなかった。基礎科学の情報は、一般の人にはわかりにくいが、その分野の発見が、民生会社を通じて、我々の生活に大きな変革を与える。
K-1も、テレビなどの民生用メディアを通じて大成功したわけだが、その分野は谷川君や他の人など、専門家に任せよう。私が興味があるのは、基礎科学のように、常に最新の認識が求められる分野である。格闘技や武術の世界で言えば、新しい理論や認識は、常にやる側から生まれている。その意識変革は日進月歩。常に留まる事がない面白い世界である。それを知ってしまったから、私は未だにその世界から抜け出せずにいるのだ。
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