今週のお題…………「なぜ○○○○は成功したのか?」(○○○○の部分は執筆者にお任せしてます)
文◎山口日昇(『大武道!』編集長)……………………木曜日担当
全国3千万人の『厳流島』ファンの皆さま、お久しぶりです。
ワタクシ、山口日昇という者です。
あらためて、よろしくお願いいたします。
2月10日から15日までミャンマーのヤンゴンに行ってきました。
初ミャンマーです。
日テレ『バンキシャ!』で特集されたので見た方もいるかもしれませんが、2月12日にミャンマー初のプロレス大会が行われました。
3・25『巌流島』にも出場する田村潔司選手が、約8年半ぶりにプロレスのリングに上がり、Uスタイルを海外未開の地で披露することになったので見に行ってきました。
それと、山田"ザンス"英司編集長イチ押しの土着格闘技・ミャンマーラウェイも現地で観てきました。
ヤンゴンという街で印象に残ったのは、道路環境、つまり車と歩行者の関係性です。
ヤンゴンはバイクが入って来れないので、タイやパキスタンのようにバイクや自転車で溢れているということはないのですが、車の量は多いし渋滞もすごいです。
信号は大きな交差点くらいしかないし、それでも歩行者信号はない。
大きな交差点でさえ渡るのが怖い環境なのに、ましてや、信号がないところを、けたたましくクラクションを鳴らしつつ間断なく走ってくる車の間を縫いながら横断するのは、まさに命懸けといっても大げさではありません。
日本の整備された交通環境に慣れた我々からすると、ホントに危険で信じられない渡り方ですが、地元の人は信号がない通りを、車が目の前に迫ってきている中を、老若男女、ズンズンドンドコス~イスイと積極的に渡って行きます。
それとビックリしたのは、1歳前後の、ようやくヨチヨチ歩きを始めたばかりの赤ちゃんを、車がバンバカ通ってる交差点付近の歩道を、お母さんはヘーキな顔で、リードも何もなしに歩かせている光景でした。
赤ちゃんがちょっとでも車道に踏みこみでもしたら大惨事はまぬがれない紙一重ぶりなので、私などは見ていてヒヤヒヤしてましたが、あの親子にとっては慣れた日常なのでしょう。
そんな光景を見て、私は「あ、これはラウェイだ!」と思いました。
ミャンマー滞在中に観に行ったラウェイの大会は「HEROES vsSAMURAIS」と銘打って行われた、ミャンマーvs日本の対抗戦で、日本人選手2名が参戦していました。
いろいろ話は聞いていましたが、もちろんラウェイを現地で観るのは初めてです。
グローブなし、バンテージのみの拳!
頭突きあり! ヒジあり!
いやぁ、おもしろい! すごい! ラウェイ!
先ほどのヤンゴンの道路横断と同じようなもので、ラウェイは独特の環境と過激さと危険さとリズムと間を持つ、ミャンマーの伝統競技です。
他国の選手は、この環境に慣れてタイミングを掴みきらないと、なかなか勝てないと思います。
地元の選手の練習も見ましたが、なにせ、ワン・ツー・ミドル・ヘッドバット! という感じで、サンドバック相手に頭突きの練習まで、普段からふつうにやってますからね。
そんな特殊な環境のなか、果敢に立ち向かっていった日本人選手2名は、残念ながら両選手とも敗れてしまいました。2名ともMMAをベースにしてる選手らしいので、なおさら、この環境は特殊だったことでしょう。
つまり、ヤンゴンの道路環境もラウェイも、ミャンマーという風土と歴史から成り立っているわけで、そこに慣れない日本人がいきなり入っていっても最初は戸惑うし、逆にいうと、ミャンマーの人々にとっては、先ほどの親子の話じゃないですが、その危険な道路環境や、ラウェイの頭突きありヒジありという過激なルールも、当たり前に慣れ親しんだ環境だということです。
さて、そんなことがわかった間に、世間の話題はSMAPから再びSTAPへ、甘利大臣からベッキー、清原、そして再び野々村さんへと流れていってるようですが、このブロマガも、
「K-1は、なぜ成功したのか?」
「グレイシーは、なぜ衝撃を与えたのか?」
「PRIDEは、なぜ成功したのか?」
と、気がつくと3週分もお題が進んでいました。
今回はその3週分のお題をまとめて書きます。
K-1も、グレイシーも、PRIDEも、私から言わせると、すべて"猪木プロレス"です。
なんでK―1が? なんでグレイシーが? なんでPRIDEが? とお怒りの方もいるかとは思いますが、格闘技とプロレスは違うという話をしているのではなく、概念の話ですのでご了承ください。
"猪木プロレス"の概念の重要な要素としては、以下のことが挙げられます。
●猪木プロレスとは、「"闘い"あるいは"喧嘩"を"見せる"ことである」
●猪木プロレスとは、「お互いのプライドがルールである」
●猪木プロレスとは、「プロレスという枠にとどまらず、余計なことに足を踏み出すことである」
●猪木プロレスとは、「"敵"をつくり上げ、"敵"を光らせる場であり、さらにその"敵"と"物語"を紡いでいくことである」
●猪木プロレスとは、「"スポーツ"としてだけではなく、"武道的""武術的"な精神を表現するものである」
こういった"猪木プロレス"の概念は、残念ながら「プロレスはプロレス」という文化に慣れ親しんだ現在のプロレス界には存在しなくなってしまったといっても過言ではありません。
プロレスでありながら、"来るなら、来い!"という"現代の実戦=ケンカ"をする覚悟を持っていなければできない"猪木プロレス"は、プロレスのフォーマットではなく、やがて格闘技へと移植されていきました。
それがK-1、グレイシー、PRIDEです。
上の"猪木プロレス"の要素のところに、K-1、グレイシー、PRIDEに当て嵌めてみてください。
思いのほかシックリ来ませんか? あ、来ない? まぁ、オメェはそれでいいや!
そして"猪木プロレス"の概念の最後の重要な要素に、
●猪木プロレスとは、「環境をブランド化することである」
というのがあります。
山田"ザンス"英司編集長から、
「林悦道先生が説く"ケンカ術"とは、"環境を武器化"することである」
と教わりましたが、"猪木プロレス"、つまり、K-1、グレイシー、PRIDEは、メディアを使ってムーブメントを巻き起こし、"環境をブランド化"した。つまり"ケンカ術"でいうところの"環境を武器化"し、そこに他ジャンルの選手を引っ張り込んでいったわけです。
力道山はそれまで日本になかったプロレスという環境をつくり上げ木村政彦を引っ張り上げました。
その弟子である猪木さんは、ウィリエム・ルスカやモハメド・アリまでプロレスのリングに引っ張り込みました。
K-1もそれまでにはない立ち技の環境をつくり上げ、極真空手、プロレスラー、横綱、はたまたボブ・サップなどという驚異的なド素人までリングに引っ張り上げました。
グレイシーも、独自のバーリ・トゥードという環境の中に、いろんなジャンルの格闘技を引き込みました。
PRIDEも、角度を変えて、その環境をつくり上げていきました。
つまり、冒頭のミャンマーの話ではありませんが、その環境の中では、環境に慣れた者が強いのは当たり前です。
格闘技界の中で、K-1、グレイシー、PRIDEは"場"として強かったのですから、成功し、衝撃を与えたのは自明の理だったとも言えます。
私は、"猪木プロレス"の概念が息を吹き返してこそ、格闘技界は復興に繋がっていくと思うのですが、テレビというこれまで最大だったメディアとユーザーの関係性が変わり、ネット社会が根づいていく、非常に難しい時代の中で、格闘技が新たな環境をつくりあげ、またそれをブランド化、武器化していくという作業は容易なことではありません。
でも、猪木さんは以前、地球の環境破壊についてこう言ってました。
「ジャングルを守るだけじゃなく、ジャングルをつくりゃあいいじゃねぇか!」
『巌流島』が"ジャングル"をつくれるかどうか、私は非常にワクワクしてます。
やれんのかーっ!
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