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  • ネット社会が生んだ新格闘技「巌流島」。新たな時代はすでに始まっている。

    2016-04-04 12:151
    今週のお題………………………………「3・25巌流島!  私はこう見た!」

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    文◎柴田和則(巌流島・事務局 海外選手ブッキング担当)


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    はじめまして。大武道!編集部長兼、巌流島オフィシャルサイト編集ライター兼、巌流島外国人選手ブッカーという、よくわからない役どころを担う柴田と申します。
     
    3.25巌流島TDC大会では、マーカス・レロ・アウレリオ、ビターリ・クラット、アンドレ・ジダの再来日組と、ジャッキー・ゴーシュ、バラット・カンダレの初来日組のブッキングを担当しました。アフリカ勢のブッカーはご存じボビー・オロゴンさんが、未知の大陸アフリカと巌流島の架け橋となり、大活躍してくれました。
     
    私のほうは直前でクラブマガ戦士のナタネル・パリシが負傷欠場し、急遽ゴーシュをブッキングし直したり、レロとジダのラテン系男子のマイペースさに振り回されたりと苦労もありましたが、みんな無事に来日してくれて、ほっと胸をなでおろしました。特に"異種格闘技"をテーマに掲げる巌流島としては、クラヴマガのゴーシュとシラットのカンダレが来日できないとなると、大会のテーマ自体がぼやけてしまうわけで、実際に来日してホテルに到着してくれるまでは気が休まらない日々でした。
     
    大会当日の控え室は、ジダ、ゴーシュ、カンダレの3選手がひとつの部屋を共有し、レロとビターリは日本人選手たちと一緒に大部屋に入り、ボビーさん率いるアフリカ勢にもう一部屋という配置。
     
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    第一試合に登場したレロは、あのとおりいつでもスマイルなナイスガイ。来日直前になって「巌流島の道着が見つからない。なくしちゃったみたい」と言ってきてこちらを焦らせたり(後で「よく見たらクローゼットにあったよぉ」と連絡が入る)、前日会見後に「僕のiPhoneが見つからないんだけど会場で見なかった?」といって困らせたりと(後で「よく見たらポケットに入ってたよぉ」と連絡が入る……)、どこまでもおおらかなやつなのだが、試合でいざ闘技場に立ったときの集中力はすごい。カポエイラ式の回転蹴りで相手のアゴをとらえ、漫画かよ!という次元の驚愕のKO劇を披露してくれました。太陽の子レロ。あの天性のスター性には、誰もが魅了されてしまいます。
     
    第四試合で渡辺一久選手と対戦したバラット・カンダレ(インド)が、またくせ者でした。事前に動画を見て強そうだということでブッキングしたものの、いざ来日してみると、気弱でオドオドしていて、こちらと目を合わせることもなく、声はまさに蚊が鳴くように小さい。格闘技素人の私が「こいつだったら俺でも勝てるんじゃないか?」と思うほどにとんでもなく弱そうだったんです。加えて、大会直前の公開練習に青帯(空手8級!)をつけて登場し、超不格好な型を披露するものだから、関係者の間で「誰だよ、こんな弱いやつを呼んだのは?」と、ブッキング担当の私が糾弾されそうなまずい空気が漂う中で、当日を迎えたのでした……。
     
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    しかし、この頼りないシラット戦士、闘技場に上がると雰囲気も動きも一変。あの一久選手をめちゃくちゃキレのあるローキックとハイキックで秒殺してしまいました。とどめのハイは「インドの達人は足が伸びるのか!?」と思わせる変則的な軌道の蹴り。試合後、セコンドに「もしかしてわざと弱いふりしてたの?」と聞くと「さぁ、どうだろう。そうかもね」と笑顔でかわされました。まるで武術家の果たし合いの世界。高まる、シラット幻想、そしてインド幻想……。どうにもつかみどころのないカンダレという男。あいつは、ただ者じゃないですよ。
     
    休憩前ラストとなる試合を締めたのはアンドレ・ジダとビターリ・クラット。ジダは顔が恐くて、マフィアか任侠かというヴィジュアルですが、普段は「ジダ少年」といった雰囲気のこれまた素直なグッドボーイ。独特の色気のある選手なので着流し姿とか似合うだろうなぁと前から思っていたのですが、やはり巌流島道着の和装がよく似合っていました。
     
    一方のビターリは極東ウラジオストク出身の真面目なロシア青年。謙虚で礼儀正しく、わがままを言うこともなく、メールのレスポンスもきちんとしている。日本からほど近い極東地域の人間ゆえかどうか、我々と波長が合うというか、きちんとしていて非常に仕事がしやすい。その点、地球の裏側ブラジルのジダとレロは、メールのやり取りでも返信があったりなかったりで、こちらの気を揉ませる。どこまでも気ままで自由なラテン男子なのです……。
     
    そんなジダとビターリは、二人とも持ち味を出して、ヒリヒリとした緊張感のある実に高度な闘いを見せてくれました。イベントの真ん中を見事にビシッと締めてくれたこのふたり。今後もぜひ巌流島中量級の顔として、イベントを引っぱっていってほしいものです。
     
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    アフリカ勢の試合はグリス・ブドゥ2、ボンギンコシ・マドンセラと大荒れの展開に。特にボンギンコシと星風の試合は、星風のラフファイトにより、乱闘寸前の事態になってしまいました……。
     
    星風戦後のアフリカチームの控え室は、ボンギンコシのセコンドがカメラが回っていないところで「次は俺にあいつ(星風)とやらせてくれ!」とボビーさんにアピールするなど、ガチで殺伐とした雰囲気でした。その場でボビーさんと話し合い、さらなるトラブル回避のためアフリカ勢は閉会式に出ないことに。
     
    谷川さんが言うには"実は一番キレやすい"というボビーさんですが、今回はアフリカチームのリーダーとしての責任を感じてか、冷静に事態の収拾に努めてくれました。それでもその場に居合わせた私に「(星風は)あんなやり方で勝って嬉しいの!?」と目をひんむいて力説する場面もありましたが。
     
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    初来日ながらメインの大役を任されたジャッキー・ゴーシュは、レジェンドである田村潔司選手を相手に怯むことなく、終始、静かな闘志と冷静な戦略家ぶりを発揮して、名勝負を展開。見事、メインマッチを締めくくり、また、クラヴマガ代表としての幻想もしっかりと見せてくれました。本当に100点以上の仕事をしてくれたと思います。
     
    イスラエルでは過去にUWFインターがテレビ放送されていて、大変な人気を博していたといいます。ゴーシュ自身、子供の頃からテレビを通してUインターで活躍する田村選手を見ており、今回の試合は自身にとってヒーローに挑む一戦だったのです。大会前にゴーシュとUインター談義をして盛りあがっていると、田村選手や高田延彦さんはもちろん、山崎一夫さん、さらには中野龍雄さんの名前まで出てきて驚かされました。「中野龍雄といえばスピンキックだよね!」と言われたときには、日本人であるこちらがそうだっけ?と戸惑うくらいでした。
     
    まさかイスラエル人とUインターネタで盛りあがるだなんて想像もしていません。我々の知らないところで世界は繋がっているのだなと、改めて感じさせられました。ちなみに試合中にゴーシュが何度も繰り出したスピンキックが、中野龍雄へのオマージュであったかどうかは定かではありません(笑)。そうだとすればそれも素敵な話だなということで、あえて本人に突っこみはしませんでした。
     
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    こうして終えた「巌流島・公開検証3」はまだまだ課題が山積みながらも、見所の多い大会になったと思います。特にゴーシュとカンダレのこちらの期待の上をいくパフォーマンスには素直に驚かされましたし、日本でも北米でも知られていなくても実はすごい逸材というのが、世界にはまだまだいるんだろうなぁと実感させられました。
     
    ネット社会の現代は何事も可視化されていて、幻想を育みにくい時代です。ただ現代には昭和の時代とはまた性質の違う、現代ならではの幻想があるのではないかと感じています。グローバルなネットワークがあるからこそ、ゴーシュやカンダレを大会前に短期間で発掘できました。また、この2人を紹介してくれたヨーロッパのプロモーターのことは、実は私も谷川も顔さえ知りません。ネットで繋がって、顔を合わせることもなく初仕事をし、シラットやクラヴマガとのホットラインを作ってくれました。そしてご存じのとおり、彼らは本物の逸材でした。すべてがネットで始まり、ネット上で完結しているのです。
     
    カポエイラのレロもファンの方がネットで見つけて、「いい選手がいる」と私たちに提案してくれ、そこから参戦に至っています。そして彼もあのとおりのとんでもない逸材でした。
     
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    また、ジダにはFacebookでメッセージを送り、そこから参戦にこぎつけました。HERO'S時代のコンタクトが残っておらず、連絡が取れないとなったときに、ネット上で彼のFacebookアカウントを見つけ出し、彼とまったく面識のない私がダイレクトメッセージで参戦オファーを出す作戦でいったんです。「いま巌流島というこんなイベントをやっているんだけど出ない?」「おお、いいね!」。これで即決。そこから話を詰めて、契約書のサインまで持っていきました。
     
    SNS時代ならではの仕事のやり方だと思います。現状の日本格闘技界に海外渡航費などをバブル感覚で浪費する余分な体力はありません。ジダの口説きに要したコストはゼロ。それでもちゃんとこちらの熱意を伝えれば、あのとおり最高のコンディションに仕上げてきて、最高のパフォーマンスを見せてくれる。ジダやほかの選手もみんなそうなのですが、巌流島のサムライ的な独自の世界観と演出に満足して帰国してくれたと感じています。
     
    ネット社会だから幻想がないのではなく、ネットワークが世界中に広がっている現代だからこそ見つけられる幻想があるのではないでしょうか。ただ、これだけ魅力的な選手が揃えば、海外のいわゆるメジャー団体が獲得に動くケースも出てくるでしょう。世界戦略として、物量(資本)で圧倒的に優位に立つアメリカを相手に、日本はどう対抗していくべきか。これから主催者、選手、ファン、みんなで知恵を絞って、世界に対峙していければと思っています。
     


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  • 主催者としての反省点はどこにあるのか? 3・25巌流島が残した課題とは?

    2016-04-01 12:004
    今週のお題…………「3・25巌流島! 私はこう見た!」

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    文◎谷川貞治(巌流島プロデューサー)……………金曜日担当


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    皆さん、3・25巌流島に対する大反響、ありがとうございました。プロモーターサイドからすれば、反省の多い大会でしたが、試合内容は大変良かったですし、巌流島が既存の格闘技イベントとは全く違う方向に向かっていることは十分見せつけられたと思います。
     
    そこで今回はあえてイベントサイドの反省点をまず、熱いうちに振り返ってみたいと思います。個人的にはマッチメイクは成功したと思っています。破壊的なKOも見せられたし、クラットvsジダ、田村vsクラブマガのような内容の濃い、感動的な試合も見せられました。アフリカvs モンゴルの遺恨の残った試合も「公開検証」としては、アリだと思っています。また、結果的にカポエラ、カマキリ拳法、シラット、セネガル相撲、大相撲、クラブマガといった他のキックボクシングやMMAではない選手が勝ったことも幻想を掻き立てる意味で成功したといえるでしょう。
     
    しかし、それらの選手をもっとよく見せるための演出、運営は課題がいっぱい残りました。
    今回の演出は小栗旬さんのお兄さんの演出家・小栗了さんに手がけていただいたのですが、入場ゲートを鳥居にしたり、ラウンドガールを巫女、審判に袴を履かせたり、闘技場に太鼓橋をかけたりして、和のテイストを見事に作り出していました。テレビの画面や試合写真を見ると、本当に照明がきれい。格闘技専門外の演出の良さが十分出ていたと思います。
     
    にもかかわらず、運営サイドのモタモタが見られたのはなぜか? それはそんな演出家と競技(試合)をつなぐ進行・演出家がいなかったことです。せっかくいい演出をしているのに、競技的な演出ができていない。入場のタイミングも早すぎるし、選手が闘技場に入ったあとの立ち位置もバラバラ。レフェリー、ジャッジ、巫女の立ち振る舞い、兜を渡すタイミング、あるいはMCが選手の名前を間違えるなど、こういうところを現場で指示する人間がいなかったことが一番の反省点です。つまり、イベントの演出家はいたけど、競技の演出家がいなかった。それで、アフリカvsモンゴルの試合など、余計に混乱したと思います。
     
    ああいう試合になった時、レフェリーの平直行さんだけでは止められるものではありません。まず、星風を最低2人の審判で押さえつけ、対戦相手のボンギンコシも暴れないよう、審判一人が前に立たなければなりません。それと同時に競技場の下にいるセコンドが飛び出さないよう、それぞれのコーナーにも最低一人ずつつく必要があります。しかし、この時審判はほとんど動けていませんでした。また、試合が中断となったら、興奮を覚ますためにも、極真の大会のように、選手をまず座らせるべきでしょう。そして、何が起こったか、時間がかかってもいいから審判団で協議し、それをマイクでお客さんに説明する。そういう危機管理ができていませんでした。
     
    さらに言えば、帯がずれていたら、キチンと副審も上がって、ベルトの穴に通させたり、リング下でボディチェックをしていれば、ブドゥ2がファールカップをつけてなかったことも気がついたはずです。前回の海鵬もそうでしたが、相撲取りにファールカップをつける感覚はないので、こういう時に思わぬことが起こるのです。また、渡辺一久の試合で初めて知りましたが、会場には担架もありませんでした。これは主催者として申し訳ない限りです。こういう、格闘技としての競技的な演出ができていれば、いい試合がもっといい試合に見えたし、星風のような試合もあそこまで荒れなかったでしょう。
     
    主催者にも、審判団にしても、もっと反則負けにする腹の据わり方も必要でした。途中、私も何度か席を離れて、対応に追われましたが、本来プロデューサーが試合に関与するのはいいことではありません。K-1時代によくファンに叩かれましたが、私が試合に関与すると、どちらかの選手に肩入れしてたり、試合を作っているように見えて、スポーツには見えないからです。私がすべきことは、そういう問題が起こらないための環境作りまででしょう。
     
    もう一つ、大きな反省点は闘技場下の照明の位置です。前回から始めた雲海に加え、今回から照明を加えて、より幻想的になったのはいいのですが、あれは競技として危なすぎました。具体的にはボンギンコシが足を切り、田村がゴーシュに投げられたあと、頭を強く打って、あわや試合続行不可能となるところでした。喧嘩術の林悦道先生のいう「環境の武器化」という意味では、それも戦術となるところですが、主催者が用意した試合設定で選手が怪我をして試合が終わってしまえば、選手だけではなく、お客さんも怒るでしょう。そこは本当に田村選手に助けられました。さすが、トップを張り続けた選手だけのことはあります。
     
    こうしたことが今回の一番の反省点で、私は試合後すぐに関係者を呼んで、緊急反省会を行いました。PRIDEやDREAMではいつもリング下でジャージ姿の加藤浩之専務が睨みを利かしていたし、K-1では石井館長が常に細心注意を払っていました。そういうポジションの人が巌流島にはいない。どこかにいい人材がいないか?  特に通常の慣れたキックルールやMMAの試合に比べ、何が起こるか分からない異種格闘技戦は、その咄嗟の対応やレフェリングは数倍難しい。そこは早急に考える必要があります。次回の大会は、生まれ変わったほど徹底させたいと思っています。
     
    ざっと今回は主催者としての反省点を書きましたが、他にも1,000件以上のツィート数を見て、なるほどと思うファンの意見はたくさんありました。当日、私はツイッターを見るだけで、3時間以上、かかったものです。これらの意見は必ず、次回大会に生かします。
     
    また、今回の大会で検証すべき問題もたくさん出てきました。
     
    1、巌流島はやっぱりMMAなのか?  MMAとどう差別化していくのか?
     
    2、星風は巌流島にとって是が非か?
     
    3、アフリカ勢に何が足りなかったのか?
     
    4、転落、同体、オープンフィンガーグローブ………巌流島のルールで見直すべきところは?
     
    5、クラブマガやシラット……未知の格闘技をどうやって生かしていくか?
     
    6、武道性とエンターテイメントの融合をどう表現するか?
     
    ざっとあげても、本当にテーマはたくさんあります。見るほどに語りたくなるのが巌流島! そしてファンの手で作るのも巌流島。次回大会は7月中旬から8月頭を予定しています。 皆さんのご意見をお待ちしております。



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  • ドライアイスの海は奈落の底なのか!? 田村潔司の悔し涙が巌流島の肝

    2016-03-31 12:001
    今週のお題…………『徹底検証「3・25巌流島!  私はこう見た!」』
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    文◎田中正志(『週刊ファイト』編集長)…………木曜日担当

     
     絢爛豪華イベントであった。正面入場ゲートの鳥居といい「和」テイストが極彩色な巌流島、既存のプロ格闘技興行とは明らかに異なる世界観は第三回大会をもってショーとしても確立された。勝手に世界標準とかになっているUFCとも明らかに違う円形の闘技場、落ちたらドライアイスの幻想的な海が待っている。K-1とも別物であり、キック試合のようにレフェリーがクリンチだと仕切り直す場面も少ない。1ラウンドに3度突き落とされたら負けというルールは、ある種の実戦の理屈にも合っており、比較的多かった「なんども”同体”との裁定はどうなのか」とか、お客さんが隣の客と論評しながら楽しんでいた。自然にそういう議論が起こって大成功なのである。
     
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     巌流島はまだまだ一般客には浸透していない。TDCホールには明らかに過去の大会は見てないような招待客の方が多かった。そういうお客に大受けだったのは第1試合のブラジル代表、劇画の世界でしか知らないであろうカポエイラを操るマーカス・レロ・アウレリオだ。写真は前回大会で達人を倒した相撲出身の中島大志の顎にかかとを命中させた最後の一撃の瞬間を捉えた絵だが、これは単なる後ろ回し蹴りではない。マットに左手がついており、その力も利用したカポエイラの必殺技メイア ルーア ジ コンパッソ(回転コンパス蹴り)なのだ。劇画の世界が実際に強烈なKOで相手をふっ飛ばしたのだから奇跡的。秒殺勝利のマーカスは巌流島戦士の筆頭に躍り出た。また、会場客というのはまず知識がないお客様が大半だし、ビデオのプレイバックもない。一瞬のことなのでなにが起こったのかわからない客も多いだろう。写真家にせよ経験の長い専門家でないと押さえるのが難しいフィニッシュ場面だ。そこでセコンドと一緒に勝利のカポエイラ演武を披露したのだからプロである。完璧だった。
     第3試合は「蟷螂拳・長拳 VS 柳龍拳の前歯を折った男」の注目カード。記者は仕事繋がりから岩倉豪を知るだけに、確かに昔は達人に勝利したが45歳でむしろ「幻想師範」の域になっていると当ブロマガ連載で懸念を活字にしたが、予想のまんまの展開に。入場からして本人が否定していたハズのプロレスラーとしての登場という趣きで、ほとんど「素晴らしいお仕事でした」と声をかけるしかない。かなり大笑いさせてもらった。一方、今回プッシュされていたカマキリ拳法の瀬戸信介、いわゆる本番で強いというタイプかも。ちゃんと勝利したら写真家向きにカマキリのポーズを作ってくれるしスター性がある。今の格闘技はなんかMMAのランキングがすべてみたいなところがあって、こうした埋もれた人材を見つけてくる点でも巌流島は凄い。お客さんは必ずしも、トップランカー同士の潰しあいに沸くものではないからだ。もう「最強がなんたら」とかの凝り固まった連中は相手にしなくてよい。お客さんが見たいのは「面白い格闘技」なのである。
     
     第4試合の渡辺一久もまた、負けてもなお巌流島戦士の筆頭だ。なんか情報の少ないマレーシア武術ペンチャック・シラットのバラット・カンダレというインド人選手のハイキックで、派手に25秒で失神KOされてしまった。しかし、渡辺一久という格闘家がいかに巌流島に賭けているか、その覚悟が随所に垣間見えた。ミノワマンの参戦とは違って見えたということ。重ねて「勝った負けたはどうでもイイ」、我々が見たいのは面白い試合であり、渡辺一久はお客を惹きつけている。次回もまた魅せてくれるだろう。
     喧嘩術の林悦道・士心館館長が、喧嘩術の7つの型を披露したが、これは会場アナウンスの説明がなく、なんか爺さんが出てきて急に型をやりだしたみたいな雰囲気で、これは主催者側からの紹介MCが欲しいところだった。事実、お客さんはトイレタイムと判断して、真剣に見られてなかった課題も残った。先にこの爺さんがどういう先生で、これからのデモンストレーションがどれだけ凄いことなのか、小さな道場でやるなら本人にマイク持たせるが、巌流島のようなイベントでは司会者なりが解説すべきだった。また、記者は毎回、格闘技イベントは長時間過ぎると苦言を呈しているが、今回のも4時間越えになってしまった。おかしなことに、喧嘩術のあとに「これから休憩」のアナウンスがあり、客席はさっきのがトイレタイムだった合意もあり、「え~」との声がアチコチから聞こえた。グッズを売るから休憩は必要と最初から制約がある場合もわかってはいるが、やはり北米のPPV大会は3時間までという大原則と比べるなら、日本のは長すぎる。演武コーナーなりが休憩も兼ねるという進行で良いと思うし、それをお客に最初に知らせるべきだ。
     
     さて、その休憩明けからが東スポの見出しでは「大混乱!」となる暗黒大陸アフリカ勢のお出まし。セネガル相撲のグリス・ブドゥ2が、モンゴル相撲のバル・ハーン(星風の兄)と激突という、劇画になりそうなお膳立てが好奇心を駆り立てる。ましてセネガル相撲協会からの横やりで弟が代打出場だからリングネームが2という、うさん臭さ満点のボビー・オロゴン前口上だから余計に興味が沸く。忘れてならないのは、今回の大会は舞台演出家が雇われていて、和テイストの舞台美術だけでなく、ガチ甲冑合戦のスペクタクルから始まり、和楽器を使ったHEVENESEの演奏と、想像以上に素晴らしかった。ただ、アフリカ勢の入場に民族楽器の太鼓や歌の生演奏が加わったのは、聞いてない分新鮮だった。もっともアフリカ勢だけ入場から盛り上がったこともあり、バル・ハーンの兄弟揃っての異常な闘争本能に火をつけたようだ。なんだからよくわからない中断でグリス・ブドゥ2が戦意喪失にも見えたが、あとで急所に膝が入ったとかの説明も、たぶんファールカップもせずに打撃ありの試合に挑んでいるようで、困ったことにルールも把握しないまま戦っているのが明らか。「未知の強豪」は幻想が膨らんで良いことだが、ファイターがよくわかってないのだから、お客さんはもっと混乱していた課題が残った。
     試合を支配していたのはバル・ハーンだったが、2Rに3度ドライアイスの海に落としたので、意外にもグリス・ブドゥ2が勝利の結末に。ちなみに前出の「なんども”同体”との裁定はどうなのか」のお客さんの疑問だが、要するに大相撲のように厳格にちょっとでもどっちが先に土俵外に出たかがビデオ検証までされる競技と違い、巌流島では両方が外に落ちたら”同体”との裁定を標準にしているようだ。なるほど、マジに突進力だけで相手もろとも場外に落ちたら、いくら厳密には下になった方が先だとしても、同体にすべきというのは納得だ。しかし、3方向からのジャッジの意見が分かれた場面が結構あり、お客さんが混乱するのも無理はない。
     
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     問題の第7試合が大相撲から追い出された星風と、アフリカ最強部族ズールー族という触れ込みのボンギンコシ・マドンセラのカード。星風が喧嘩屋というのはよくわかったが、場外に突進で突き落として、さらに殴ったりしたのはいただけない。まして一発入れてしまったならまだしも、2発目も出そうとしてたから悪質だ。記者は、あれで試合が反則で終了にするかとも思ったが減点2点目の扱い、巌流島は続けさせていた。その反則場面、そもそも星風の突進でドライアイスに隠れた機材が破壊されていたが、そういう観点からも突進だけで場外に押し出した場合は”同体”にする方針には納得する。実際機材に当たって危険だからで、この試合の結末は機材に当たってボンギンコシが足を切った(客席側からは見えない)とかで止血の処置で中断、しかしもう戦意喪失なのは明らかで、最後はセコンドからタオルが投げられての星風の勝利。まして、正面側からだと見えなくてわからなかったのだが、ボンギンコシは噛みつきの反則と、お互いが泥試合をやってしまった。アフリカ勢セコンドの興奮ぶり含めて、「大混乱」と書かれてしまった次第である。未知の強豪発掘は新・格闘技のセールスポイントでもあるが、南アフリカはプロレスもやっている地域だ。ボンギンコシがどういう経路から候補リストに入ったのかは知らないが、やはりプロの試合を経験している選手に限った方が良いと思えた。どうもモンゴル人にアフリカ人も、興奮してしまう人種とのネガティブ印象だけ残したのは不味い。
     
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     メインイベントは前回の両国国技館大会に続き田村潔司。寝技が30秒許され、寝技での打撃に加えて関節技・締め技が認められた特別ルールというのを、田村様ルールだと揶揄する声も聴いたが、記者は問題ないと考える。メインの重責は田村でないと背負えないものだ。また、ルールが必ずしも田村に有利とも限らない。なにしろ相手ジャッキー・ゴーシュはイスラエルの護身術クラヴマガの教官という情報しかない。2週間前に対戦相手が変わった発表があり嫌な予感がしていたが、先のプロ経験があるのかどうかの条件でいくなら、この人はMMA試合もやっているタイプであり、クラヴマガ代表というのはイベント向きの強調された肩書なのかも。明らかに護身術だけでなく、ボクシングなども習得しているジャッキーの拳が田村を打ち抜き、鼻血も出て赤いパンツの頑固者は苦戦に。第2ラウンドが終わって解説席の谷川貞治がジャッジの採点を見て回り、打撃でジャッキーがポイント取れてることを確認していたのがおかしかった。
     判定3-0でクラヴマガの教官の手が上がったが、田村の表情だけで十分にメインイベンターの銭が取れた。残り30秒辺りから、怒涛のキック連発は意地と感情がお客さんに伝わったと思う。あれがプロなのだ。まして泥試合があったあとだけに、田村潔司のダントツの輝きがイチバン心に残った。間違いなく巌流島戦士であった。

    週刊ファイト3月31日号冬木薫詐欺/新日愛知大阪/リアルジャパン/飯伏幸太-大怪獣モノ/UFC/YOKKAO
     





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